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決着

 約束エンゲージを結んだ証の魔法陣が光り輝き、白雪が無意識に地面に雷を流した時、凜奈とローネは決着が決まり、二人揃って広い空間に向かい合わせで座っていた。敵と認識したとはえい、殺すことがどうしても出来ない凜奈にローネは呆れながらも自身の敗北を自覚していた。今の凜奈と戦っても勝てないということを意識的に自覚していたのだ。


 敵同士だった二人は今は敵意を感じさせないほど落ち着いており、まるでクラスメイトの時に戻ったのを感じさせる空気だった。だが、二人が戦ったという事実は消えず、空気がそうであれ、もう二人はクラスメイトという関係には二度と戻れない。白雪にはローネの魔法の本体が見えていないため、海人のように破壊することが出来ないのだ。


 なので、敗者になったローネだが、召喚者として力を失って居らず、消費した魔力以外は初めと何一つ変っていない。変化があれるとしたら、ローネの心が凜奈と戦う意味を見失ったことと、勝てると信じていた想いが、今は勝てないと諦めている所だ。


 夢の中で想いのぶつかり合いなので、外傷も無く、戦おうと思えば戦える状態の二人なのだが、そんな空気は微塵も感じられない。今の尚、この塔にはローネの〝風読み〟としての力である夢が展開されているため、冷静に考えればローネ自身の想いでは凜奈を夢に誘い込むことが不可能であるときが気が付いたから何もしないのだ。


 静かな空気が流れる二人の頭上には強大な魔力を感じられる。今までに三回揺れが発生したことにより、魔術蒼石マテリアルブルーの中に蓄積されている膨大な魔力のほとんどが吸収されている。後、一度の揺れが発生すれば英雄派の勝利ということで、ローネが強く望んだ世界の最後がこの目で見られるが、この塔に広がる夢の管理者だからわかることがあるのだ。


 自分の中で絶対的な存在であった英雄ジークフリードが負けてしまうという感覚。一種の勘に近いものだが、夢の管理者のローネはほぼ確実だと見ている。


 普通ならば確実に勝てないような実力差が存在する英雄ジークフリードと〝魔女狩り〟との間を埋めていたのは間違いなく、ローネがこの塔に広げている夢のせいだった。英雄派はこの展開は可能性があるということは十分に把握していたが、この塔……魔術を外に出すことが出来る〝古代の兵器〟はローネの夢が無ければ現実の世界に出現させることは極めて難しかった。


 英雄ジークフリード自身が用意したのはこの塔の元である機械だけで、それ以外のほとんどがローネの夢……世界を破壊するという強い想いにより出現させていた幻に過ぎなかった。だが、例え幻だとしても魔術蒼石マテリアルブルーから魔力を吸収するという役割は果たしているので、計画とすれば順調過ぎるほどだ。


 出現させるために魔力を微量ながら使っているという事実がローネを敗北に導いたかもしれないという選択は浮かんだのだが、本人がそれをきっぱりと否定している。そんなことは関係なく、ただ敗北しただけということに。


「ねぇ……ローネちゃん」


 今まで黙っていた凜奈が向かい合ったまま口を開いた。二人とも顔を合わせるつもりはなく、振り向かないが、凜奈もそんなつもりはなく、単純に話しがしたいと感じているだけだだった。なぜなら凜奈は知っているから。ここで話しをしないと二度と話をすることが出来ないということに。


 英雄ジークフリードと海人の勝負が決まる時には互いのどちらかが死んでしまうという事実に。この世界の命運を掛けた戦いで、両方とも生きた状態で決着が付くなんていう可能性は絶無に近いという事実に。凜奈個人としては絶対に海人に勝ってほしいのだが、英雄ジークフリードが負けてしまうとローネは確実に自殺をするだろう。


 二人は互いに辛い過去を持つ兄弟だ。生まれてきてから今までずっと同じ道を歩んできた二人なのだから片一方が死んでしまえば、もう片一方も死んでしまう可能性が高いのだ。英雄ジークフリード場合はどうかなど凜奈は知りもしないが、ローネは確実に自殺してしまう。それほどにローネにとって英雄ジークフリードという存在は大きいのだ。


「心配しないでも大丈夫よ。凜奈が大好きな海人は勝つわ。夢に強い想いが流れてきているから……それは、人間を世界という枷から解放するなんていう想いでは絶対勝てない大切な想い……今の海人は自覚しているかどうかわからないけど、そういう系統の想いを強く願っている。だから、絶対に勝つわ。あなた達の勝ちよ」


 絶対的存在である英雄ジークフリードの敗北を認めている様子のローネはただ事実を言っているだけと言わんばかり無表情だった。敗北ということはこの世界を破壊出来ないということで、ローネにとっては最悪の展開に違いないのに、淡々としているローネの気持ちを全く予想することが出来ない凜奈はただ言葉を聴いていた。


大切な者を失ったことがない凜奈と今、絶対的存在だった兄を失おうとしている者。失いそうな経験があっても実際失うのとでは話が違う。凜奈は海人の敗北など絶対に認められないが、ローネは失おうとしているのに何も感じていないように感じる。自分より大切な存在を失おうという意味など、全く想像出来ない凜奈だが事実、一つだけ理解出来る部分もある。


 それは、何事にも耐え難い痛みが心に走り、精神的に可笑しくなってしまいそうなほどの悲しみが一緒に襲い掛かってくるということただ一つだ。自分だったら泣き叫んでいる状態なのに……と考える凜奈。普通ならだれしもがそんな感じになってしまう。


「そんなことないわ・・・…もしかすると私より凜奈の方が悲しい想いをする可能性があるわ……」


「……一体どういうこと?」


 事実、凜奈が大切な存在である二人は願いを賭けた戦争に参加しているため、命を落とす可能性など理解している。もし、片一方でも死んでしまえば悲しむだろうが、やはり人というのは平等に見ない生き物で、凜奈は自分が嫌になりながらこう思ってしまうのだ。


 白雪が生き残るよりは海人に生き残ってほしい。どちからが死ぬといのならば海人より白雪に死んでほしいという最悪な考え方。だが、人ならば……気持ちがあるならば誰もが考える思考。


 ニュースなどで死人が出ても可愛そうだという思考には行くのに、悲しいという考えには至らないように、他人が死のうと本人には関係ないのだ。出合ったことも無ければ話したこともない人が百人死ぬより、仲の良かった友達が一人死んだ方が悲しい気持ちになるように、命の価値は本人によって全く異なるのだ。


「だからこそ、凜奈は悲しいことになるかもしれない」


 僅かに残る夢から凜奈の心を読んだローネは静かに言う。ほとんどの召喚者が知らない本当の意味を……。


「凜奈は約束エンゲージって一体何か知ってる?」


 もちろん知っていた。それは大切な二人が結んだ絆なのだから。戦争を勝ち抜くために絆を結ぶ儀式。それを結んだ者は二人で一人の存在になるように心も体も結ばれるパートナーになるための儀式。そんなこと、ほとんどの召喚者なら知っている知識。知らない召喚者など存在しないであろう。


「そう、約束エンゲージは一つになる儀式……それは死ぬ時も同じなのよ」


「……一体何を言ってるの?」


 凜奈には理解出来なかった……いや、したくなかった。なぜならそれは今まで知っていた約束エンゲージというものの本質から外れるような気持ちになるから……後、ローネが言ってた言葉の意味が理解出来たからだ。私より凜奈のほうが悲しい気持ちになるかもしれないという言葉の意味を。


約束エンゲージは全てを一つにするの。絆もそうだけど、それは死ぬ時も同じ……片一方が死ぬともう一人も道連れで死ぬ。約束っていうのは死の契約なのよ」


 約束エンゲージというこのは願いを叶える戦争において絆を結び、一つになるための儀式だ。儀式をするということは選らばれた白雪以外にもう一人願いを叶えられるという利点以外に、一人死んだからもう一人も死ぬという害も存在したのだ。


「凜奈は両方失う可能性はあるの……」


 それは凜奈にとっては考えられない状態だった。生まれた時から両親が居て、そして今は大切な幼馴染に友達が居る凜奈は誰かを失った経験など無く、想像出来なかった。大切な人が回りに居る凜奈はいつも誰かに守られていて、自分からは手を差し伸べることすら出来ないのだ。いつも裏に居て自分は守られてばかりの凜奈に大切な人を両方失う覚悟など到底出来ない。


「まぁ、もしもの話よ?戦争の勝者になれば……」


 不意にローネの体が左右に揺れ、そして倒れてしまった。呼吸は荒く、喉に何か詰まったよう見え、深呼吸をしなければ肺に空気が入られないように見えた。そこで凜奈は何が起きたのか察した。海人が勝利したということに。


 ローネは兄弟で約束エンゲージを結んでいた。そして、先ほど聞いた話しが事実であれば、英雄ジークフリードが死ぬとローネも道連れで死んでしまうというだ。


「凜奈……あなた達の勝ちよ……」


 荒かった呼吸は静かになり、そしてローネの心臓は停止した。








*********







 無意識に電流を流したためにそれに気が付かない二人は対峙ていていた。微かに残った夢を感じ、約束エンゲージを結んだ魔法陣は反映された想いにより光り輝いており、強い力を放っている。


 〝魔女狩り〟としての勘が微かに残る夢を感じ取ったので、俺は今どのような状況なのかは理解出来ているが、英雄ジークフリードは夢を感じ取れて居ないのでこの状況が飲み込めないのなので接近して来ないのだろう。


 だが、数々の実戦を積んできた勘なのか危険なことだけは理解しているように見える。でも、まだ足りない。英雄ジークフリードを倒すには想いが反映されても足りないのだ。それほどに実力差が開いているのだ。


「これ以上はまずいな……終わりにしよう」


 〝裁きの剣〟を構えると同時に雷鳴を放出させた英雄ジークフリードより先に正面から突撃した俺は白雪が言っていた通りに流れを操り、剣に練度に高い魔力を流し、雷鳴を切ろうとするフリをした。


 なぜなら、これが白雪の考えだからだ。なぜ、相手に聞こえるように反発しあうと口にしたのは単純で、次にそれをするかもしれないという意識をさせるためであり、本当にするのならば聞こえないようにする。


 ほんの僅か……まさに一秒未満に等しい時間だが、俺に接近してくる雷鳴を躊躇させた。些細な一瞬、普通の人ならば気付かないような葛藤。だが、召喚者に一瞬の迷い、葛藤は隙に変る。


 迷ったことにより、一瞬だけ動きが遅くなった英雄ジークフリードの懐に入った。右手には光輝く魔法陣から強い力が流れてくる。反映された想いは力に代わり、傷だらけの体でも動かすことができる。


 懐に入り込んだ俺は剣に魔力を込める。その瞬間、英雄ジークフリードの脚がわずかに動き、回避されると思われたと同時に、足元に強い雷が放出された。それは良く知っている魔力の波長で、倒れる瞬間に無意識に流したために誰にも気付かれなかった雷。


 約束エンゲージを結んだ俺でさへ気が付かなかった白雪がしていた最大の一手。普通ならば傷も負わないほどの威力に過ぎない雷……だが、流れ使って練度を高くしていることと、無意識にされたことにより一瞬だけ脚が止まった。


 その絶対見落としてはいけない隙に俺は強く魔力こめた剣を首に向かって振るう。今まで、魔法の本体を破壊して人間に戻してきたが、英雄ジークフリード相手にそんなことしている時間など皆無だった。だだ、勝つためには殺すという選択肢以外なかった。


 迷っている暇など皆無で、戦争に参加する時に決めていたのだ。願いを叶えるためなら何でもすると。召喚者同士の戦いがそのようなものであるということは少ない実戦の中で理解出来ていた。


 初めから殺さずに戦争の勝者になることなど不可能だと理解出来ていた。


 振るった剣は綺麗な軌道を描いて英雄ジークフリードの首に吸い込めれていく。互いに動き出してから約二秒という召喚者には長すぎる時間の中で、俺は勝利を悟った。これで終わりだと……殺す代わりに俺達が生き残るということに……。


 振るった剣は俺が狙った通り首に向かっていく。英雄ジークフリードの首が斬れるほんの前、一秒未満という時間の中で、自分が殺されるという状況なのに楽しそうな笑みを浮けべて居た。


 それが、英雄ジークフリードの最後だった。振りかぶった剣は首を斬り去り、鮮血が飛び散るちと同時に首が飛ぶ。だが、まだ戦いは終わってなどいない。


 俺はそのまま巨大な機械まで駆け出した。魔術蒼石マテリアルブルーから魔力を取り出している機械を破壊しないと本当の勝利にはならない。もし、英雄ジークフリードを倒した……殺したこと油断していたら世界が破壊されてしまうかもしれないからだ。


 巨大な機械まで駆け寄ると同時に俺は流れで魔力の練度を上げて、全力で剣を振るったが……機械は壊れるどころか一瞬で消えてしまった。まるで初めからそこに無いように消えてしまったのだ。


「これは……」


 だが、消えてしまっても空気中に漂う魔術蒼石から吸収した魔力が漂っているため、機械は破壊されていないはずだ。英雄ジークフリードは万が一にも自分が負ける考慮をして、幻の機械を見せることでここにあるという意識付けをしたのだ。


英雄ジークフリードとの勝敗は重要だったが、あれは勝利条件ではない。世界が破壊されないことが俺達の勝利条件で、それ以外は全て敗北になる。戦いに勝利しても機械を破壊しなければ意味がない。


 焦る気持ちを隠しきれずに周囲を見渡しが、それらしい機械は存在せず、俺達の鮮血などしか残っていない。首と導体が切り離されている英雄ジークフリードは既に死んでいるため、機械がどこに存在するか聞きだすことは不可能だ。


 周囲を見渡していると、塔に振動が起きる。今までより巨大な振動と共に感じたことのない魔力が流れ出る。塔自体に巨大な魔力が漂っていたが、それなど比にならないほどの魔力が塔全体だけではなく世界に流れ出る。


 気を失っていた白雪も魔力に反応して、ゆっくりと立ち上がった。傷だらけの体だが、それはお互い様なので触れないが、白雪も英雄ジークフリードが倒れているのを見て状況を察したようで、目に力が戻る。


「機械は破壊したの?」


「いや、この空間にあった機械はたぶん幻だ。壊す前に消えたから……」


 こうして会話をしている途中にも揺れはさらに大きくなる。魔力が塔を中心に膨れ上がっている。これが限界を迎えると何が起こかなど容易に想像できるため、気がはやるが、白雪は至って冷静そうに考え事をしていた。


 世界が破壊されるまで時間はほとんどないが、今の俺に機械がどこにあるとか、この危険な状況を回避する方法など存在せす、今考えている白雪任せにな

っている。もし、何か良い考えがなければそのまま終わりだ。


「わかったわ!機械がある場所!!」


 白雪は痛むであろう体を動かし、下の階に降りていく。もう打つ手がない俺は信頼している白雪の後を追い、下の階に向かう。だが、俺の記憶では下の階は頂上の空間より狭く、何もなかったように思えた。


 下の空間に着くと、見渡すか限り何もない空間だったが、白雪は何かを探すように周囲を見渡し、そして前に進み始める。壁際まで歩くと、手を掲げて鎌を召喚して雷を放出させながら振るった。


 俺には何もないように見えるが……振るった直後火花が飛び散り、何かが破壊される音が響く。そして、見えたのは英雄ジークフリードと戦った頂上の空間に存在した機械と同じ物が姿を現した。


 鎌を振るったことにより機械が破壊されて揺れが止まり、周囲に漂っていた魔力はだんだん少なくなっていく。そこで俺は勝利を確信したのだ。これで、世界は破壊されずにこれからも続く。まだ、願いを叶える戦争は続くのだ。


 不意に暗い空間が明るくなったので、上を見上げると魔術蒼石マテリアルブルーが俺達に会いに着たように落ちて来た。それは先ほどまで強大な魔力を吸われていた物で今は元に戻っている。願いを叶えるためには必要不可欠な物で、これで俺達の手元には三つ揃ったということになる。


 落ちて来た魔術蒼石マテリアルブルーを受け取った白雪は笑顔を俺に向けてきた。それは眩しく、輝いた笑みだったが、今回の戦いで疲れは出たのかゆっくりと意識を失う白雪を支えた。


 今回、一番頑張ったのは間違いなく白雪だ。下に居た男を倒し、英雄ジークフリードを倒す時の無意識の雷など、ほとんど白雪なのだ。傷だかけになりながら戦った白雪のためにも、朦朧とする意識の中の俺は頬を叩いた。


 ここで俺が意識を失ったら塔の外に出ることができなくなってしまうためだ。俺はおんぶするように白雪を背中で背負い、下に歩き始めた。なんとか勝てた戦いだったが、俺達は白雪に頼りっぱなしだ。今度からは俺が白雪を守れるようになりたいと……。


 いや、絶対に守ると心に決めた。


 

 読んでくださってありがとうございます!!今回で〝英雄〟編は終わりです!!

少し、違う話を挟んだ後にまた違う話しをやっていきます!!これからもよろしくお願いします!!*次の更新は少し遅くなりそうです。すいません……

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