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一手

 倒れそうになっている俺の隣に寄り添うように来た白雪は全身無傷だった。下に居た男も弱い訳ではないはずだったのだが、苦戦した様子は一切感じられず、息一つ切らしていない。二人で苦戦して倒した〝小鳥の箱庭〟よりも強い男は白雪に勝てなかったのだろう。傷一つ体に付いていないのは単純に白雪が男より強かったから。


 近くに来て初めて知ったが、今白雪から発している魔力は下で別れた時とは違う。どういう変化があり、魔力が増えているのかは戦いを見ていない俺には理解出来ないことだが、何かあったのだけは確実だろう。でなければこんなに早く最上階まで上ってこられるはずが無い。


「大丈夫なの?」


 心配そうな顔で見つめる白雪。全身血だらけ状態で斬られた跡もある俺を誰がどう見ても大丈夫などは思えないだろう。もし、白雪がこんな状態なら真っ先に逃げて安全な所まで連れて行くのだが、関係ない。


「大丈夫だ」


 笑顔で答える俺に悲しげな顔を向けてくる白雪。俺はそんな白雪の顔を見たくないので、そっと頭を撫でて正面を見つめる。そこには俺をこんな状態にした張本人である英雄ジークフリードが警戒しているのがわかる。前回対峙した時より明らかに変化が出ている白雪を警戒するのは当然のことだが、今の白雪でも英雄ジークフリードには遠く及ばない。一人では勝てないだろうが、俺達は約束エンゲージを結んだパートナーだ。二人で一つの存在である俺達は一人で戦う理由などなく、常に二人だ。


 一人では勝てない敵でも二人なら勝てる。まだ短い付き合いではあるが、俺は白雪を全面的に信頼している。白雪も俺のことを信頼していてくれたら嬉しいが、気持ちなどは理解出来ない。だが、こうして来てくれたということはパートナーとしては見られているということなので、そこは素直に嬉しい。


「バカ!大丈夫な訳ないでしょ!?全身傷だらけじゃない!」


 事実、先ほどまで〝裁きの剣〟で斬られたり、雷鳴に襲われたり、殴られたりなど色々されていたため、体は動いて良い状態ではない。だが、白雪が隣に居るだけで感じていた痛みはなくなり、体が急激に軽くなる。今まで立つことすら難しかった足は震えが止まり、普通に立つことさえできるようになっていた。振るった剣が素手で止められるほど弱っていた俺は白雪という存在で力が出てくる。


 これはまるで、〝小鳥の箱庭〟と戦った時にも感じた力。魔力が反映される世界で、白雪が死んでほしくないと強く想った時に沸いてきた力その物のようにすら感じる。自分の欲望と誰かを想う想いでは決定的に違うと知ったあの時と同じ状態だ。


「大丈夫だって。今は痛くないし動ける。お前が傍に居れば力が沸いてくる」


 少し頬を赤くした白雪はそっぽ向いて正面に居る英雄ジークフリードに視線を向ける。白雪は様子を探るように凝視すると、すぐに視線を戻して俺に向けた。相手は俺達二人より強い英雄ジークフリードで、前回とは桁違いに強い。これが本気を出した状態なのだと直ぐに気が付いたから白雪は視線を戻したのだろう。


「こうして対峙しているだけで感じわ。とてつもなく強いわね……」


「ああ。強い」


 俺は英雄ジークフリードと戦って殺されかけた。初めから強いなど理解していたが、本気を出したら予想以上に強く、まるで手が出なかった。途中からは回避どころか反撃も出来ずにただ、殴られて斬られてしていただけだ。戦っているというよりサンドバッグになっていただけだ。


 二人して正面を向くと剣を構えて魔力を放出させると同時に周囲に雷鳴が迸る。蜘蛛の糸のように絡み合って逃げ場のない雷鳴に白雪は相殺するために自身も雷を放出させてみたが、偽物と本物では全く質が違う。レプリカの剣と刀では切れ味が違うように相殺など全く出来ずに、そのまま雷は飲み込まれてしまい俺達は二手に分かれる。


 左右から攻撃するという古典的な戦いかただが、二人居るということを有効に使わなくては勿体無い。わざわざ二人で正面から攻撃するのはただの馬鹿で普通は左右から攻撃するのが常識だろう。その方が相手に掛かる負担も増えるからだ。


 雷鳴が放出されている範囲から何とか出た俺達は左右から挟みこむように攻撃をするが、回避される。まるで、止まった物を避けるように華麗な動きで回避され、そのまま〝裁きの剣〟から放出される雷鳴に襲われ、傷を負うが、傷がひどい俺は気にせずにそのまま剣を振るい仕掛けるが、まるでそこに居なかったかのように姿を消す。


「っ!」


 自分より速度が速い英雄ジークフリードの動きに驚きのあまり目を見開いた白雪は、完全に姿を見失って周囲を見渡そうとすると同時に周囲に雷を放出させて右に飛んだ。元居た場所には剣を振りかぶった英雄ジークフリードが現われるが、右に避けていた白雪には当たらずに、放出した雷が襲いかかるが、魔力を使っている白雪とは違い、本物の雷を扱うことが出来る英雄ジークフリードとでは絶対的に違う。


 直撃を受けても傷一つ付かない様子の英雄ジークフリードは剣を俺に向かって振るった。見えない斬撃が襲い掛かり、回避した瞬間に、俺は再び地面に叩きつけられ、雷鳴が襲い襲い掛かり、皮膚が焦げる匂いと共に全身に痛みが走るが、バックステップで距離を取り、着地すると同時に英雄(ジークフリ

ード)の背後に回っていた白雪が、流れを使い鎌に魔力を集中させて振るうが、剣で簡単に止められてしまい、そのまま腹を殴られて壁に叩きつけられる。


「白雪!」


 地面を強く蹴り、正面から襲いかかるが、左に体を逸らすことで回避されてしまい、〝裁きの剣〟に雷鳴を纏わせて振るうと、肩から鮮血が飛び散り、振ったと同時に放出される雷鳴でさらに傷が増え、体から力が抜ける感覚を覚えるが、何とか奮い立たせて踏ん張り、踏み込むようにして懐に入り込み剣を振るう。


 だが、それも回避されてしまい手首を捕まれて正面に投げ飛ばされ壁を蹴り、突進する。壁に叩きつけられた白雪も背後から雷鳴を放出させながら突進しるが、雷鳴が放出される。気にしないで剣を振るう俺に合わせるように雷鳴に襲われて顔を歪めながら鎌を振るう。だが、何度繰り返しても回避だれて飛ばされるだけで状況は全く進展しない。


 増えていくのは俺達の体の傷だけで、英雄ジークフリードは一切傷を負っていない。直接攻撃を当てることが出来たのは振るった剣を素手で止められた時だけで、直撃どころか直撃しそうになったことすらもない。


「さすがに強いわね……手も足も出ないわ」


 白雪にやどる熱は消えた訳ではない。海人が傍に居ることによって体は熱を持って、下で戦った男の時よりも熱く、強い熱を持っているにも関わらず、攻撃は当たらずに、動きは勘で避ける以外出来ない。何をしても英雄ジークフリードの方が魔力が多く、そして白雪よりも速度が速い。実戦経験では白雪も負けていないが、それでも英雄ジークフリードの方が長く、深く経験を積んでいるため、全て予想されてしまうため攻撃が当たらない。


 逆に海人や白雪の速度は遅く、魔力も少ない。その上実戦経験でも負けており、攻撃や動きは予想されるが、英雄ジークフリードからの攻撃は回避出来るかどうかも怪しい。攻撃自体は何の工夫もなく、単純なものだがそれ故に攻略方法が見当たらない。単純な動きでもそれが今までの実戦で磨きかけて来た物であるからこそ、何も出来ない状態なのだ。


 英雄ジークフリードは今まで海人や白雪よりも強い召喚者と渡りあってそして勝利してきたのだ。そして、その渡り合って来て本人が一番良い方法で戦っているのだから単純な動きでも攻略できないのだ。


 そんなことなど容易に理解出来ている俺達だが、攻略法方が見当たらない。二人で戦った時と一人で戦った時の映像が頭の中に浮かび上がり、隣に白雪が居るので諦めている訳ではないのが、何をしてもどこに剣を振るっても全て止められ、回避される光景が浮かび上がってくる。だが、英雄(ジークフリード

)からの攻撃は目に映らないので予想も何も関係ない。ただ、勘を信じて回避するだけか、攻撃を貰いかの二択に等しい。


 だが、その二択はあまりにも前者の方がメリットが大きいため、血を見る覚悟で勘で回避することを選ぶ。たまに、速度が速すぎて反応出来ない物は出来るだけ最小限にしながら戦うという戦法を取りたいのだが、魔術蒼石マテリアルブルーから吸収されている魔力が世界に放出されるまで時間はさほど多くないので、長期戦は出来ない。


 短期戦に持ち込みたいのだが、振るってもあたらない状態ではそれは難しい。しかし、長期戦も無しとならば俺達はほとんど詰んでいるにも等しい状態なのだが、なぜか負ける気がしないのは不思議な感覚だ。どこに攻撃しても防がれたり回避されたりする光景が浮かぶのに二人で戦えば負ける気がまるでしないのだ。


「海人。今更だけどあの剣って〝裁きの剣〟よね?」


 いつの間にか隣に居た白雪は、正面に居る英雄ジークフリードから視線を逸らさないで聞いて来た。白雪は十年前から召喚者をやっているためか、武器にはかなり詳しい。使っている姿や同じ雷なのに相殺出来なかったという事実から導き出したんだろう。


「ああ。〝裁きの剣〟で生み出す雷鳴は本物の雷だから魔力の概念を斬ることが出来る〝魔女狩り〟でも斬れない」


 魔力を斬ることが出来るためか魔力の反応に敏感な俺が、英雄ジークフリードの雷鳴には魔力反応が感じられない。白雪が放出する雷からはしっかり魔力が感じられるので、つまりは斬れないということだ。召喚者に有効な〝魔女狩り〟でも魔力を斬ることが出来なければ意味が無い。仮に英雄ジークフリードが放つ魔力に剣が触れられたとしても、斬れるかどうかはわからない。


 〝小鳥の箱庭〟と戦っている時も魔力で造った障壁を斬ることが出来なかった。今なら斬ることが可能だが、俺らとは比べ物にならないほどの濃密な魔力を持つ相手である英雄ジークフリードの魔力を斬ることが出来るかは実際にやって見ない事には何も言えない。


「でも、反発しあうことは出来ると思うわ」


「反発?」


 一度、雷鳴に向かって剣を振るってみたがそんなことは出来なかった。何も起こらずにそもまま雷鳴に皮膚を焼かれ、全身に痛みが走るだけだったのだが、白雪が言うのだから何かあるに違いない。


「〝魔女狩り〟は本来魔力を斬る剣だけど、普通なら斬ることが出来ないものを斬る剣でもあるのよ。だから流れを使えば斬ることが出来なくても反発すると思うわ」


 今までは回避するしか出来なかった雷鳴が流れを使用した〝魔女狩り〟で斬ると反発しあうということは、斬ることが出来なくても、雷鳴の動きを止めることが出来るといことだろう。英雄ジークフリードは確かに早く、目には映らない速度だが、雷鳴などを放出する速度は白雪と大して変化がない。なので、動きを捉えるよりも反発させて隙を作る方が有効という訳だ。


「わかった、ひとまずためしてみ……」


 凝視していた英雄ジークフリードが姿を消すと同時に俺達は左右に動いた。二人近くに居るのは二人共やられてしまう可能性が存在するため、危険なので離れたのと同時に、消えた瞬間に動き始めないと完全に捉えられてしまうからだ。


 元居た場所には雷鳴は放出されており、後、一瞬でも遅れていたら直撃していただあろう早さ。だが、本人の速度はそれより遥か上を行く。左右に回避した時には既に行動は読まれていたらしく、白雪の肩から鮮血が飛び散ると同時に、蹴り飛ばされて壁に叩きつけられてそこに雷鳴が襲いかかり、皮膚が焼ける匂いと共に鮮血が飛び散る。


 だが、既に英雄ジークフリードの姿は完全に消えており、白雪も顔を歪めながら直ぐに立ち上がり、一歩踏み出した直後に、横に吹き飛ばされ、〝裁きの剣〟に雷鳴を纏わせたまま白雪の腹を切り裂いた。


 周囲に大量の鮮血が飛び散り、倒れるよう前屈みになる白雪だが、倒れることさえ許されずに蹴り飛ばされて、なんとか地面に着地する。刺された瞬間、意識を失ったように見えたが、蹴られたことによって失いかけた意識が戻ったのだろうが、腹からは俺以上に鮮血が流れて、顔も青くなっている。


 ここに来た時には無傷だったのであまり深く考えなかったが、白雪は下で一度戦っているのだ。無傷で、自分は疲れなど感じていないように思えて、体というのは自覚がなくても疲労するものだ。


 白雪は自分が疲労しているという自覚はなかったのだろう。無傷で何かに支えられていた白雪には普段出来ていた管理が出来なくなっていて、代わりに魔力などが増えたのだろう。そんあ白雪は今にも意識を失いそうに朦朧としているが、何とか立て居る。


 

 召喚者として白雪の方が強いとはいえ、女の子であると同時に下での戦闘で疲労している状態ではかなりきついだろう。だが、そんなこと理解していながらも何も出来ない。


 最短距離で接近して剣を振るうが、全て回避されてる。俺と白雪の会話が聞こえていたため、雷鳴を放出してくることはないのだが、元々、そんなものに頼る必要がない英雄ジークフリードは全力で振るう剣を回避しながら除々に殺すように体に傷をつけていく。俺も全身傷だらけで限界が近い中で戦っているため、良い状態ではない。


 だが、そんな状態でも戦う以外の選択肢を選べない俺は吹き飛ばされたりなどされても、白雪に注意が行かないように必死にすがりつき、攻撃をする中で背後に居る白雪を見た瞬間、世界がスローモーションのように変化する。


 傷だらけで尚、瞳には戦うこと、勝利することを諦めていない白雪を見た瞬間に世界が変化する。そして俺はここに来て初めて気が付く。ローネが負けたという事実によって消えたと思っていた夢が微かながら存在するという事実。そして、夢というのは強い想いに反応するもので、〝小鳥の箱庭〟が造った世界よりもさらに反映される世界が存在しているという重大事実が。


 微かな夢だが、反映力が大きい夢なので想いは影響する。そして、英雄ジークフリードの背後に居る白雪がゆっくりと倒れる姿が目に浮かんだ瞬間に約束エンゲージを結んだ証である魔法陣が、白雪という想いによって光輝く。


 魔力に敏感な俺だからこそ気が付けるローネの夢が微かに存在しているということは、約束エンゲージを結んだ仲であり、兄弟でもある英雄ジークフリードですらも気付かない。


 そさらにここでもう一つ、予想不可能なことが起きる。それはまさに願っていた奇跡の偶然。無意識に行った行動だからこそ、最後の一手に変ることが出来る偶然。白雪は倒れる瞬間に無意識に地面に雷を流し込んだ。無意識だからこそ英雄ジークフリードにも、魔力に敏感である海人にも気付かない奇跡の一手。


 流れを使い魔力を凝縮させた雷を流し込んだ白雪は意識を失い倒れる。そして対峙する海人の手には夢で反映された想いが反応して魔法陣が光り輝いている海人。まさに偶然という奇跡が舞い降りてくる。


 白雪が地面に流した雷はこの勝負に大きな影響をもたらす一手になる。


 







読んで下さってありがとうございます!

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