合流
駆ける、駆け上がる。今までに感じたことのない速度で塔を駆ける。様々な気持ちが入り混じった心だけど、確実に明確なことが一つだけ存在し、今の心はそれ以外に浮かんでこない状態まで陥っている。
召喚者として戦うようになってから一度も感じたことがない気持ち。想いは体を軽くして速度が上昇させ、今までに感じたことがない風を切れている達成感と衰えることがない体に残った熱。まるで永遠に消えることがない聖火のように燃えている熱は、上に上がるたびに激しく燃え上がり、一つの気持ちに収束させる。
それは本来誰もが感じる感情や想いで、今までに感じたことがない方が異常な……しかし、そんな暇なく、常に召喚者として命を賭けて戦っていたために、恐怖心と復讐以外を考える余裕がなかった少女。
そんな少女が感じた想い。今まで一度も経験したことがなく、誰からも教えて貰っていない……誰から教えて得るものではない確かな気持ちは強い熱を放つ花火のように大きく開き輝いている。開いては散って開いては散っていく花火の光とは違い、ずっと胸に残り続ける熱い想いは少女は経験したことがない故に戸惑ってもいたが、嫌な感情など一切関与しない気持ち。誰かを想うなど母親だけで充分だった少女は乗せて駆ける。
とてつもない魔力を感じながらさらに速度が加速する。そこに居るのだとわかるとさらに燃える熱はやがて全てを燃や尽くす炎のように激しさに変る。もちろん少女はそんな感情など何か理解していないが、それでも笑顔になるほど楽しい感情だと理解している。
後もう少し。後もう少し。その感情に燃える炎の影響でさらに速度が加速し、そして、二人の魔力が確かに感じられるほどの距離……最上階の一つ下に居る少女はそこで立ち止った。下の階よりも一回り大きな空間には何もないが、そこには何かがあると感じていた。見えないし触れないし、声を掛けることも出来ないが、何かが居るのだ……いや、正確にはあると表現した方がいいだろう。
少女はそれに攻撃を試みようとて一度だけ武器を召喚し、何かある空間目掛けて全力で振った。熱が燃えているのにも関わらず、触れることも出来ないし見ることも出来ない。声など物にかけても帰ってくる訳ではない。けどそこにあるのだという理解だけは完全に消えることも無く、今の残り続けている。巨大な物としてあり続けている……。
今はまだ干渉できないということを理解した少女は直ぐに諦め深呼吸をする。この上には強力な密度の魔力が漂っており、何やら異様空気を感じる少女は胸に手を当てて、熱を確認する。が、確認するまでもなく今の胸に残り続けている熱は確実な物で、確かに大きく鼓動している熱は下の階に居る少女には止められず、駆けて来た少女はゆっくりと歩き出す。上に彼が無事で居ることを信じて。
少女……白雪は男を倒してから直ぐに海人と合流するために上に駆け出した。理由はわからない……いや、理由は明確にわかっている。約束を結んだ海人が一人では絶対に勝つことが出来ない英雄と戦っているという事実だけで、白雪は海人の下に駆けつけて一緒に戦うことが最優先だろう。想いを……母親を蘇らせるためには海人は絶対に必要な存在で、失う訳には行かない存在。だが、それ以外の感情も理解してる白雪はゆっくり歩いていたはずなのに再び駆け出していた。
胸に宿る練る熱……それが一体どういう意味を持つのか経験したことのない白雪には理解出来ないが、気持ちが、頭が、体が、心が、そう叫んでいるのだ。無性に海人に会いたいと。海人と一緒に英雄と戦いたいと効率や利益など無視した感情はもはや母親を蘇らせるだけに必要な存在ではなく、いつのまにかそれ以上になって来ていることに白雪は気付かないが、白雪の全ては理解しているし、知っていた。
今までより少し長い階段。だけど召喚者にしては一瞬の短い階段を上り終えた白雪は、無事にしている海人の姿が見たく、上に駆け上ると……そこには鮮血が飛び散っていた。空間を真っ赤に染めた血はいたるところに存在し、そして、空間の中心に立っている海人から出ているものだと直ぐに理解出来た。
「海人……」
そもそも、実力は圧倒的に上で、その上召喚者に成り立てである海人に英雄とまともに戦えるなどありえない。確立に0は存在しないが、ほぼ絶無に等しい。白雪とて理解していたはずなのに淡い希望を抱いてしまった。本来、英雄と一人で対峙していて生きていることが奇跡に近い海人は、白雪の存在に気が付き、そっと笑みを浮べた。全く疑うことのない信頼に満ちた笑みを。それを見た白雪は再び熱が宿る。
過ぎたことは仕方ない。召喚者とて時を戻すことが出来る者は一人しか存在しない。規格外な故に強すぎるそいつと他の召喚者を同じカテゴリーに当てはめるのは間違で、時を戻すようなマネは出来ない。なので、今はやるとこは一つだった。
「海人!!」
想いが望むその瞬間は近く、強い物で白雪は駆け出した。海人と共に英雄を倒すために。
*********
鮮血が飛び散った空間と共に激痛が俺を襲う。膝から倒せそうになるのを必死で我慢して襲い掛かる雷鳴から逃れるために移動して、痛みに動きが鈍ったために今まであたることの無かった雷鳴までも、直撃する。が、それでも尚、倒れることなく英雄の姿を視線に納めて、見失わないようにしている。
一体何をされたのかまるで理解出来なかった。ただ、気が付いたら全身に痛みが走り、周囲には鮮血が飛び散っていた。腹に何かで斬ったような線が入っているため、〝裁きの剣〟で斬られたことには間違いないのだが、剣を振る動きや、それらしい行動は一切していないにも関わらず、直接斬ったかのように綺麗に線が入っている。
英雄は元々、白雪よりさらに速度が速く目では負えないほどだ。普通に見ていてば動いた瞬間の動きなどで、何とか回避出来るはずなのだ。実際に今まで攻撃が直撃しなかったのはそれをしていたからだ。だが、そんなことなど意味が無かったかのような攻撃だった。雷鳴が放出された所まではしっかり記憶しているのだが、それから何があったのか理解出来ない。
どこでいつ何をされたのはまるで理解出来ない。斬られたのだって自分の体を見ての判断で、実は殴ったのかもしれない。剣を振るう姿も動く姿も見てないので可能性としては捨てきれないのだ。だが、英雄は先ほどと同じ場所に立っているため、接近して拳で攻撃したとは考えにくいだろう。だが、もしの接近して攻撃されたのであれば俺に戦える相手ではない。
俺の目には動いていないように見えたのだ。それは速度があまりにも速すぎるために動いていないように見える相手と戦うなど誰でも不可能で、未来予知などといった馬鹿げたことが出来たとしても攻撃を回避することは不可能だ。人間が自分の場所に雷が落ちると理解出来ていても回避できずに直撃するのと同じで、圧倒的に違う速度では未来予知など意味がないのだ。
静かにだが、人を殺せそうなほどの殺気込めて俺を見続ける英雄は動かない。だが、俺は警戒をして目に魔力を込めて今度は動きを見逃さないように瞬き一つせずに殺気を込めて睨み返す。
痛みと殺気で嫌な汗が額や背中から流れてきているのを感じるが、拭いたりぬぐったりという行動が取れない。そんなことすれば僅か一秒未満でも目を逸らして意識がそれたら英雄は再び動き、そして俺は斬られるだろう。先ほどのは傷があまり深くないので鮮血が飛び散り、痛みがあるだけだが、もし立てなくなったりなどしたらそれこそ終わりだ。速度が速い相手に脚が使えなくなったらそれは死を意味することになる。
特に長距離攻撃には全く向かない〝魔女狩り〟なのだから脚が使えなくなると攻撃すら出来ないし、相手の攻撃を回避することも不可能。遊ばれて敵が自分の死を握っている状態など想像したくない。
なので、視界を広くして凝視していると、刹那、英雄の姿が消えた瞬間に飛びように回避する。空間を半分以上飛ぶように回避した俺は顔を上げようとした瞬間に吹き飛ばされた。斬られたであろう傷が入っている場所に激痛が走り、そのまま背後にあった壁に激突してしまうが、直ぐに立ち上がり剣を構えたが、再び鮮血が飛び散る。
最初に斬られ時と少しズラしたように綺麗な線が入る。そこから大量の鮮血が流れ出し激痛が襲い掛かってくるが、尚脚を止めることが出来ない俺は相手を惑わす動き……左右に移動しながら英雄に接近した。
一方的に攻撃されているだけでは勝負には勝てない。相手が自爆することなどまず考慮には居れずに、自分の実力で英雄を斬ることしか勝利の道は存在しない。勝ちは向こうからやってくる物ではなく自分から取りに行くものなのだが、それでも想いとは裏腹に接近した俺は再び激痛に見舞われ、壁まで飛ばされる。
先ほどもそうだったが、鮮血が出ない時はたぶん殴られているのだと推測する。そして、出ている時は〝裁きの剣〟で斬られているのだろう。何をされてもまるで動きが見えないので、推論でしかないがたぶん的を得ているだろう。
「冗談だろ……」
初めて対峙した時から強いのは理解していたし覚悟もしていた。いつか、戦うことになっても勝てる見込みは絶無だということも理解していた。故、その絶無を少しでも上げるために足掻いて強くなろうと頑張ったのだが、それでも尚足りない。いや、足りなさ過ぎて話しにならない。俺らとは召喚者として生きている次元が違う。勝てる兆しがどうとか以前に姿さへ見えないのだ。どうにもすることが出来ない。
今まで戦ってきた相手は姿が見えないほど早いなど奴など存在しなかった。唯一、〝小鳥の箱庭〟と戦った時に隣に居たアンナは白雪と同等かそれ以上の速度を持っていたが、それでも何とか目で追えたし気配で回避することも可能だったが、今回は姿が見えないだけではなく、相手が早すぎて来ると理解出来てもほとんど動けないまま吹き飛ばされたりする。
そんな敵とどうやって戦えばいいのかなど、実戦経験が少ない俺には理解など出来ずに、何度も挑むという選択しか存在しない。それと深く考えては穴にはまっていくだけで、精神的にもやられてしまう故、単純に考えることが一番だ。
何度斬られても殴られて鮮血が飛ぼうと戦うしかない。俺達はそのこと選んでこの戦争に参加しているのだ。優勝して願いを叶えるという想いを掲げて命を掛けて戦っているのだ。
「弱いな〝魔女狩り〟……先代はこんな弱い奴に負けたのか。先代があまりに弱かったのか、昔の〝魔女狩り〟達があまりに強かったのか……今の〝魔女狩り〟を見ていると前者の方が信憑性が高いが、戦争に優勝したという実績があるのだから後者なのだろが……にわかに信じがたい」
英雄が言うことは全て事実だ。俺は先代に比べるとあまりに弱すぎる。サクやローも言っていたが、先代なら苦戦はするが勝てるらしい。だが、俺は苦戦どころか簡単に殺されるし、まるで歯が立たない。同じ召喚者という存在なのに初めから居る舞台が違うかのような実力の差が存在ている。それは数年で埋まるほどの小さな差ではないはずだ。
覚醒してからまだ一年も経過していない俺には……いや、関係ない。単純に俺が弱いだけでいつ覚醒したかなど言い訳以外なにもない。覚醒したてども強い奴は存在するはずだ。俺が弱いだけできっとどこかに居るはず。
「まぁ、別にいいが……」
刹那、再び姿を消した英雄の動きを目で捉えることが出来ずに吹き飛ばされる。腹に激痛が走り、背後に存在する壁に激突すると思った瞬間、地面に叩きつけられ、蹴り飛ばされる。
ゴミのように地面を転がりながら壁にぶつかり動きを止めた俺は立ち上がる。痛みに体が震える中、叶えたい願いを叶えるという想いによって意識が繋ぎとめられる。ここで意識が無くなってしまったら自分が望んだ世界は絶対にやってこない。という強い想いを持って英雄を睨むようにして動きだした。
鈍い痛みで体があまり動かないが、それを必死に動かして接近するが、放出した雷鳴に襲われる。〝裁きの剣〟から放出される雷神トールが使用していたのと同じ雷を出せる英雄の雷鳴は魔力を一切使っていない。故、魔力の概念を斬ることが出来る〝魔女狩り〟では斬ることは不可能なのだが、そんなこと理解していながら蜘蛛の糸のような雷鳴に突撃する。
雷鳴に向かって突撃し、剣を振るうが〝魔女狩り〟では斬ることが出来ないため、全身に雷鳴が襲いかかり、激痛と共に皮膚は焼けるよう音と匂いが周囲に初めて、激痛が走るが、正面から雷鳴を抜けて、英雄の懐まで来て剣を振るうが、意味はなかった。
「そんな力で振るっても意味があると思ったか?」
英雄は振るった剣を〝裁きの剣〟で止めることもせずに右手で止めている。手には魔力も込めていないところを見るに素手で止めたということになる。
本来なら勝てないと絶望するところなのだが……俺は満面の笑みを浮べて言った。
「ああ。意味はあったさ……初めてお前の体に剣が触れた……」
俺だって理解している。英雄は俺の振るった剣を素手で止めたのはほとんど力の入らない俺の剣など〝裁きの剣〟で止めるまでもないという余裕の表れなのだと。慈悲でも実力でもなく単純に余裕だから素手で止めたという事実。しかし、俺にとってそれは初めて振るった剣が体に触れた瞬間だった。
絶望などは初めて対峙した時に既に終えた過程。絶望を乗り越えて白雪と凜奈、そして俺で頑張って練習したり色々してここに立っているのだ。勝てないことなど初めから理解していた。一人では無理だということも理解していたのだ。そう、一人では無理だということを。
だが、もう直ぐ一人ではなくなるという勘がする。絆で結ばれたパートナーがもうする来てくれるという勘。そんな勘は実戦で戦っている状態の今、考えることではないのだが、それでも考えてしまう。パートナー……白雪が来たら局面が変化するかもしれないというただの希望観測。だが、妙な確信があったのだ。絶対にそうなると。
白雪がもう直ぐ来るのだから絶望などしている暇はない。少し前に絶望する過程を終えた俺には既に関係ない。乗り越えて頑張った数週間があるから今俺は英雄と一人で戦って生き残っているのだ。
一人ではこれが限界でも二人になれば変化するかもしれない。俺はそれでも生きていればいいのだ。だから、何度でも立ち上がり、決して願いを叶えるという想いと、もう一つ気が付きそうな想いを込めて立ち上がる。約束を結んだパートナーとして高すぎる壁を二人で倒して前に進むために。
「確かに初めて触れた。だが、そんな軽い剣、いくら触れても傷一つ付かない」
全身に痛みが走り、血が止まらない。先ほど雷鳴の中を無理あり進んだことにより皮膚がやけており、全然体に力が入らない。先ほど英雄に向けて振るった剣は今の最大だった。それを素手で防がれてしまったというのに何も感じない。絶望など感じないし、負ける、勝てないという想いにも陥らない。なぜなら理由は簡単で……。
俺はそっと右側を視線を向けた。そこに居たのは全く無傷の白雪の姿で、全身傷だらけの姿を見て目を見開いている様子だった。それも無理はないだろうが、一人ではこれが限界だった。生き残っただけでも褒めてほしいものだと思いながら胸の奥には確かな熱が生まれる。
無事でよかったという気持ちも存在するのだが、それよりもっと大切な気持ち。約束を結び、絆が生まれた俺達だが、それ以上に大切だと思っている存在の白雪と再び会えたことに歓喜を覚えていた。そして、今まで全身に力が入らなかったにも関わらず、白雪の姿を見ると力がどこからか沸いて出てくる。
なぜだから理解出来ないが、今は別にいい。俺達は英雄を倒すだけだ。二人でも厳しい戦いになるだろうが、二人なら絶対に乗り越えることが出来る。そして、ここで英雄という強者を倒しておけば今後の自信にも繋がる。
俺は驚いて目を見開いている白雪にそっと微笑みかけた。無事でよかったという想いと出会えて嬉しいという想いを込めて笑顔を向けたのだ。ここからは二人で戦えるという歓喜も込めて。それと疑うこともない信頼を込めて。
「海人!!」
白雪が名前を呼ぶと同時に姿を消し、俺の横に寄り添った。
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