始まり
英雄が振るった剣を勘だけで横に転げるように回避する。前回対峙した時は殺すつもりはなかった英雄だが、今回は自分の作戦の成功、失敗が掛かっている局面で手を抜いたりするはずがないという勘だけで、今回は殺しに来ると予想を立てて回避したのだ。回避距離も二次被害にあわないことを考えて余計に転がる。
振るった剣の軌道に存在した物は全て切断されて、撒き散らすように放出している雷鳴はくもの糸のように複雑に放出されており、あの範囲に居たら間違いなく逃げられることは出来なかっただろう。獲物を待つ糸に絡みつくようにそのまま死んでいた可能性が非常に高い。それに、英雄の雷は白雪と違い魔力を使っていないため、〝魔女狩り〟でも切り裂くことは出来ないのだ。なので、注意深く行くことが必須なのだが、うまくいくかどうかは別だ。
立ち上がった俺は接近するために地面を強く蹴り、距離を縮めて剣を振るったのだが、笑いながら剣で止められてしまい距離を取ろうとすると、雷鳴が放出した。〝裁きの剣〟と呼ばれる本物の雷を扱うことが出来る剣で俺とは違い桁違いな魔力。俺が普通に戦って勝てる敵ではなく、罠に罠を仕掛けてさらにもう一つの罠で仕留めるなどとしないと勝てないだろう。いや、それでも勝てるかどうか怪しい。
放出された雷鳴は俺を飲み込むように襲い掛かってくるが、着地と共に雷が届いていて居ない部分まで腰を低くして再び剣を振るうが、またしても止められてしまう。実に簡単に全力で振るった剣を止められてしまう。〝小鳥の箱庭〟と戦った時も同じように何度も何度も止められてしまったが、今回はそんな程度の問題ではない。魔力を使わずに雑だが、流れを使っている俺の剣を普通に止めてしまうのだ。
単純な強度で言えば、〝小鳥の箱庭〟など比でもなく、普通に振るうだけならばまず通らないだろう。流れが完璧に決まっても通る見込みななく、もちろん隙などは決してない。どこに攻撃しようと確実に止められてしまうという映像が浮かび上げって来るように隙がない。相手と自分の実力差が見えているが故にわかることだ。鋼鉄の体を持つ奴と喧嘩をしているような気分で、どこに振るえばいいのかわからない状態なのだ。
だが、英雄の場合は俺とは逆だ。召喚者になりたてで、まだ実戦などほとんど経験したことがない俺は隙だらけで、相手からすれば動くただの的だろう。攻撃は回避する以外に方法は存在せず、隙だらけで狙える場所は山ほどある。その上、魔力の量が桁違いに高いとなるともはや別次元の強さだ。倒す方法なんて初めからないように浮かび上げってこない。
全力を出していない故に何とか回避できている攻撃を避けることだけでもかなり苦労している俺は、なんとか反撃するために色々試しているのだが、出来ないことが非常に多く、出来たとしても簡単に止められてしまう。魔力を込めているのにまるで重さなど感じないように笑いながら止める英雄(ジークフリ
ード)と、一つひとつに膨大な集中力を使う俺は笑いななど浮べる余裕はなく、早くも額に汗を流しながら必死で回避する。
英雄の攻撃は一撃の威力が高い。前回対峙した時も一瞬で背後の学園と、地面もの断裂させるほどの威力を持ち合わせているのだ。それに魔力を込められたらどうなるかなど想像が付かない。それどころか想像などしたくないほどの大惨事が起きるだろう。絶対に回避出来る可能性などない状態で、一撃で死ぬ威力を持った攻撃というのは恐怖でしかない。
体に直撃などすれば一瞬で体が分裂させることが出来るだろう。さらに、もし運よく剣で防ぐことが出来たとしても、その一撃で壊滅状態に近くなってしまう。直接受けていないのに切断になる可能性も否めない。なので、回避するという選択肢しか選べない俺は直撃だけは絶対に避けつつ、反撃を入れていかなくてはならない。
防がれてしまうが、反撃をしなくなるとそれこそ終わりだ。英雄の一方的が始まり、すぐに殺されてしまうだろう。自分のペースを造らなくても一瞬でもいいので相手のペースを乱すことを第一に考えなくてはならない。長期戦になればなるほど不利になるが、今殺されるよりは何倍もその方がいい。
元々勝てる見込みが皆無な戦い。普通に戦えば万分の一以下で負ける戦いをひっくり返すには偶然という奇跡に近い現象や事態に陥らなければ絶対に勝つことは不可能な状態。だが、死んでしまえば偶然も奇跡の何一つとして起きてはくれない。状況を先延ばしにしなければ万分の一以下の確立が、なくなってしまうのだ。だから今は耐えるしかない。パートナーが来るのを待つほか無いのだ。
〝裁きの剣〟から放出される雷鳴が襲い掛かると同時に英雄の姿が完全に視界から消えた。白雪より早い動きに襲い掛かる雷鳴を回避するために俺は後ろに下がる。だが、飛ぶように下がるのではなく、走りながら周囲の様子を確認して下がる。飛ぶと一瞬だけでも空中に浮いてしまう時間が存在するため、危険だ。白雪より早い英雄はその一瞬を逃すとは思えない。例え隙だらけだとしても決定的な隙は見せては絶対にならない。召喚者にとって一瞬は命取りになる。
蜘蛛の巣のうに入り組んだ雷鳴を回避することなど不可能に近いで、俺は近くに存在している鉄を手に持ち、俺とは別の反対方向に投げた。すると、襲い掛かってきていた雷鳴は鉄に集中し、何とか逃れるが……英雄は既に懐に居た。
浮べていた笑顔は完全に消え去り、全身から震えるように殺気が流れ出ている。構えた剣には雷が纏い、完全に俺の体をとられている。体制を低くして懐に入ってきたため首を狙っているわけではないのが、幸いだがそれでも英雄相手に負傷した状態で戦えるなど、そんな自惚れな気持ちなど微塵も無い。
この場面は一番最初の正念場で、ここで直撃を食らうようならば英雄を倒せるほどの偶然と奇跡などこず、最終的に殺されてしまう運命なのだろう。だが、ここで回避出来ればまだ可能性は消えた訳ではないということだ。奇跡は訪れる可能性が少しだけ上昇するという訳だ。
だが、結局のところ殺されずにするには一つの方法しかない。白雪より速度は速い時点で後ろや他の場所に移動するという選択肢は消される。移動に時間が掛かるのもあるが、単純に相手の方が早く動けるのを理解していながらも速度にもっていくのは馬鹿のすることだということだ。それを隙にするという選択肢もない訳ではないが、決定打に掛ける俺にはそんなこと出来ない。
結果的に剣を受け止める以外の方法などないのだ。何も行動しないというのは一番論外な行動で、自分で死ぬ自殺のようなものだ。生身で、しかも無防備などという状況になった時点で死は確定だろう。避けることもできないので一つ、防ぐしかない。直撃するよりは何倍も威力が殺せるが、それでも無傷にはならない。いかに英雄の威力を殺せるかという一つに今後の結果が大きく変ってくる。
振りかぶる剣にあわせて俺は体重を移動させる。一番威力を殺せるやり方で待ち構え、英雄が振るった剣が〝魔女狩り〟に触れた瞬間に一気に後ろに体重を移動させる。自身に掛かる威力はかなり軽減されたはずだが、それでも元から威力が高いので、紙のように体が吹き飛ばされて、壁に激突する。
全身に鈍い痛みが走るが、大きな外傷は存在しない。骨も無事で何とか正念場を潜りぬけたと安心した瞬間、俺は転がるようにして右に移動して、痛みが走る体を無理やり動かし体勢を立て直す。俺が居た場所には英雄が雷を放出させながら居た。もし場所を移動していなかったら確実に死んでいたほどの魔力と雷鳴を放出させている英雄は睨むようにこちらを見る。
先ほどとは比べ物にならない魔力を放出させている英雄は存在感も殺気も先ほどから桁違いになっており。俺はまるで別次元だ。これがサクとローが先代も苦戦するといった英雄であり、戦いはこれから始まるという訳だ。先ほどまでのはただの準備運動に過ぎなかったであろう英雄に驚きを覚えながら俺は気を引き締める。
ここからは本当に一瞬の判断が命取りになる勝負。一秒などとても長くなるほどの時間間隔で、白雪より速度が速い英雄は間違いなく、それ以上の動きをしてくるであろう。そうなれば俺は一方的に攻められることになる可能性が高い。いや、間違いなく攻められるのでどう立ち回っていくかで、瞬時に殺されるか、戦えるかが決まるだろう。
刹那、巨大な振動が塔を襲う。魔術蒼石にどれほどの魔力が込められているのかなど俺には理解出来ないが、後、一度の揺れで世界が下劇的に変化すると容易に想像できる。塔の中に漂っている魔力が先ほどの倍以上あるため、何か起きるというのは確実だろう。
「ローネは負けたか……まぁ、死んでいないから別にいいが。やはり無理やり開いた扉では本物の想いには勝てないという訳か……」
言葉から察するにローネは敗北したらしい。ということはローネと戦っていた凜奈が勝者ということになる。一度は夢の世界に飲み込まれた凜奈だったので、心配していたのだが野暮だったようだ。あれから練習を積み重ねてきた凜奈のことは一番俺が理解していたはずなのに、心配していた気持ちが少し罪悪感に変る。
第二次開放という高みへ上る扉を開いたローネを努力だけで超えたということだろう。いや、初めて白雪と戦った時も、想像以上に強かったといっていた。あれは凜奈の想いが力を与えており、本来なら出せないほどの実力は発揮したということだ。第二次開放を使えるとしても、やはり純粋な想いには勝てないということだろう。
それよりも俺は白雪のことが気になる。約束を結んだ証である魔法陣が消えていないため死んでは居ないということだが、あの男はローネや〝小鳥の箱庭〟よりも魔力量が多く、強い。対峙した時は二人掛りでも勝てるかどうかわからないと感じたほどだ。そんな敵を一人で戦っている白雪のことが心配だ。
信頼しているし白雪なら勝てると信じているが、心配になるのは仕方ない。それは絆で繋がったパートナーであるがために、今一番心が近い存在だから気になっているのだ。白雪がもし負けたりしたら俺の戦争もここで終了になる。今から戻ることは不可能なので、どうなっているかはわからないが、傷を負わずに無傷で居てくれることを祈る。
「視線は俺の方を見ているのに心は見ていない」
英雄のいう通り、俺は視線だけは見ているが、心は下で戦っているであろう二人のことを考えていて、全然集中出来ていない。俺の目の前に居る敵が一番強く、自力では勝つことは不可能な敵が前に居るのに集中出来ていないのだ。挙句、それを敵本人に指摘されるとは何と言う皮肉なことだろうか。
「わかってる。これからは殺しあいだ」
剣を構え、英雄を睨むようにして対峙する。相手との実力差は圧倒的で、本当なら挑むべきではない相手だが、願いを叶えるためには絶対に超えなければならない壁。いつか越えるのなら今ここで超える。
英雄は雷を放出させる。蜘蛛の糸のように複雑に絡みあった雷鳴を見つめて、突破口を見つけようとすると……。
「え?」
俺の上げた間抜けな声と共に、周囲に鮮血が飛び散る。
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