決戦
町全体が振動するほどの大きな揺れが起き、さらに濃密に魔力が流れ出す。現実の世界なので一般人が見慣れない塔が出来ていることに驚愕し、揺れを地震と勘違いして声を上げる。しかし、揺れが起きる前に確かに俺達は魔術蒼石が輝いたのを見た。その瞬間に魔力が流れ出したのだ。
世界中の召喚者が気付くであろうほどの強大な魔力の奔流。召喚者では決して制御出来ない魔力は間違いなく、魔術蒼石に秘められた魔力で、それが世界に流れ出しているのだろう。この異常事態は間違いなく英雄派の二人である英雄とローネが引き起こしたものだろう。夢の中でローネが接触してきたことが裏づけすることが出来る。
世界という枷から人々を解放するのが目的である二人だが、それは本来は出来ないことだ。戦争において勝者として魔術蒼石を十三個集めることによって起こる大魔術でしか成し得ない願い。だが、世界という枷からというのは人々を世界から解放などしなくても、世界そのものを破壊してしまえば目的達成となってしまう。
召喚者単体の魔力ではどう頑張っても世界を破壊するには至らない。出来るのなら今頃世界など破壊破壊されて召喚者独裁の世界になっているだろう。だが、それは召喚者が持っている魔力では出来ないということで、つまり、十三個集めると全てを超越する大魔術が完成して、死者蘇生まで可能にしてしまう魔術を支える魔術蒼石には単体でも召喚者には考えられないほどの魔力があるはずだ。
状況から見るに考えられることは一つ。サクやローが言っていた古代の兵器とは魔力を吸収して外に吐き出すものということだ。町全体を揺るがす振動は魔力を吸収した時に出る余波見たいな物で、地震が起きるたびに世界の終わりが近づいているということだ。それを防ぐためには塔に登り、頂上に居るであろう英雄とローネを倒す以外にないという事実だけだ。
魔術蒼石単体にどれだけの魔力が詰まっているかなど知らないが、相手が英雄であれば急ぐ必要がある。実力は明確に上だと理解している敵を倒すのに時間も掛かるだろうし、塔の中に他の召喚者……あるいは罠など張っている可能性を考えるとかなり急ぐとこになるだろう。世界がなくなってしまうということだけはなんとしてと止めなくてはならない。さもなくば全てを失ってしまうからだ。叶えたい願いも、守りたいと想っている人も。
魔術閉鎖空間を張っていないため、町には人間がたくさん存在している。この時間なら通勤や学校に通うために様々な年代の人達が居るだろう。そして、その全ての人達が空を見上げて塔を目にすにすると驚愕するだろう。一体何がどうなっているかなど、一般人には理解出来るものではなく、不思議に思いながらも普通の生活に戻ろうとするであろう。塔が世界を破壊する物だとも知らずに。
ゆっくり準備などしている余裕もないので、窓から飛び降りようとすると、足音が響く。足音は真っ直ぐ俺の部屋に向かってきているので、異変に気が付いた凜奈だろう。勢いよく扉を開けると、予想通り凜奈の姿が見えた。
「一体どうなっているの!?」
未だに状況を飲み込めていない凜奈は焦ったように聞いてくるので、先ほど自分なりにまとめた話をし、今すぐ塔に向かわなくてはいけないことに気が付いた凜奈は急かすように窓から飛び降りた。周囲には異常事態のためか、生徒は居らず窓から飛び降りた姿は見られていないが、塔に向かうということは少なからず一般人の目に召喚者という存在を晒すことになる。
魔術閉鎖空間を展開することが出来ればいいのだが、濃密な魔力が空気中に流れてい居るため、直ぐに壊れてしまうらしい。もし、展開するとなれば空気中に漂う魔力以上の魔力を使って展開することになるらしく、召喚者にそれほどの魔力の持ち主は存在しないため、展開することは不可能とななっているのだ。
世界が破壊してしまうかもしれない状況で周囲の視線がどうこうなど考えている余裕などないので、俺達は人の目には映らない速度で移動して塔に向かうことにした。塔は見た目でけでかなり高いと想像出来る。召喚者である俺達もさすがに雲の上にある頂上までなど飛ぶことは不可能なので、壁をよじ登っていく作戦に出ようとした。外側なら中より危険が少ないためだったが、英雄もそれぐらいの考えなど当たり前のように考えているので、上れないようになっていた。
「中から上に行くしかないか……」
塔の中は英雄の領域だ。古代の兵器といえど、この作戦を実行するために様々な手を加えたりなどしたはずだ。どんな罠などを仕掛けてあるかなど全く想像がつかないため、細心の警戒を払って上ってく必要がある。下手をすれば死んでしまう可能性だって存在するのだから、人間が走るほどの速さで移動するしかないだろう。
誰にも見られずに塔の周囲まで来たが、そこには大勢の人だかりが出来ていた。昨日まで存在していなかった巨大建造物が急に出現したのだから平和な日
々を送っている日本人としては暇つぶし程度なのかもしれないが、これが非日常だということを自覚してほしい。普通なら突然出現した塔など危険だということは理解しているはずだ。しかし、平和ボケしている本人達は自分は絶対に大丈夫だと勘違いしているのだろう。
「どうするの?中に入るのは絶対に人に見られるけど……こんな状況だから気にしてる場合ではないけど」
凜奈の言う通り、状況が状況なだけに気にしている余裕などない。ただでさえ、英雄と決着をつけなくてはいけないという事実だけでも精神的に余裕など存在しない。ここは普通に見られても気にしないで入るのが賢明だろう。
何らかの魔法を使って人々の注意を惹き付けてその隙に中に入るということも出来るのだが、余分な魔力など使っている余裕はない。英雄を倒す方法など存在しないかのように今の俺達には勝てる見込みがない。そもそも対等に戦える要素など存在しないのだ。人が急に強くなったり、賢くなったりしないように召喚者も積み重ねが大切で、数週間で英雄と対等に戦えるようになどならない。偶然が重ならない限り、勝つことなど不可能……奇跡を信じる他ない状況なのだ。
俺達が悩むこと三十秒ほけ経過すると、町外れで爆発が起こった。あまり建物がない場所での爆発は塔に意識が行っていた人々の注意を塔から逸らすことになり、その隙に塔の扉を開けて中に侵入した。
中は見た目より広かった。外見からおよそ二倍ほどの大きさがあり、不思議な感じだった。エレベーターのような便利な物はなく、内装も外装と同じ黒い壁をしており、明かりもなく暗い。よくありがちな螺旋階段のようになっている訳ではなく、見た感じ普通の階段のように見える。それに塔の中には魔力の反応が感じられない。それは周囲には罠を張っていないということになり、より警戒が強くなる。
自分達の目標が叶えられる瞬間を邪魔するであろう俺達の存在は一度対峙した英雄なら容易に理解出来たはずだ。なのに、魔力的な罠を張っていないということは、俺の〝魔女狩り〟を気にしているか、魔力を使わない原始的な罠を張っているのか……あるいは、罠など張る必要がないかのどれかになる。もし、前者ならばまだいいが、後者になると慎重に進むことになるだろう。
先日戦った〝小鳥の箱庭〟も英雄派の一人だったが、俺達は英雄派が何人いるか知らない。今のところ英雄とローネだけで、もしかしたら他の召喚者も居るかもしれない。もし、それが、英雄クラスだとすれば勝ち目はなく、ただ、世界は破壊されて俺達の負けということになる。後者の通り、罠を張る必要がないということはつまり、頂上までたどり着けると思われていないということだ。他の召喚者の存在も気にしていた方がいいだろう。
「まぁ、進みしかないだろうな。それ以外の選択肢など初めから存在しない」
危険があろうとすることは一つだ。俺達三人はそのために毎日流れを掴む練習をしたりして今、この塔の中に居るのだ。自分達で選んだ選択なのだから後悔などしないし、そうするしかないのだから仕方ない。
「そうね……それに私達には魔術蒼石が必要。先延ばしにするより、ここで倒せた方が後々後悔しなくて済むわ」
「私は二人を手伝うって言ったから……それにまだ生きていたいから止める。まだ、死ぬ訳には行かない」
二人の瞳からは強い想いが映っている。止めるべき理由は一致している。ならば、後戻りなどせすに先に進むしかないだろう。俺達がやらなきゃ、誰がやる!的な感じで行く。
俺達は階段を駆け上がる。魔力的な罠はないししろ、原始的な罠をあるかもしれないが、召喚者である俺達は普通の罠など直撃しても大して傷を負うことはない。だが、同じ召喚者である二人もそれを理解しているため、どんな罠を張っているか警戒して進むに越したことはないだろ。全力ではなく、一般的な高校生のようなゆっくりな速度で階段を上がる。
一階から二階ヘ。二階から三階と上っていくこと十階まで到達したが、未だに罠などは存在していない。それどころか、階段を上っているはずなのに同じ空間ばかりなので上っている感覚があまりない。全ての階は暗い空間が広がっている以外は特に何もない空間になっている。初めは警戒して進んでいたが、十階まで全て警戒などしていたら間に合わなくなる可能性が発生するので、今は少し速度を上げて上っている。だが、神経を集中させて罠がないかの確認は走りながらもしている。
十階も同じ空間だったので、少しだけ様子を見て階段を上がろうとすると、地面が揺れる感覚はした。部屋の外でも感じた魔術蒼石から魔力を吸収して、空気中に出す余波だろう。これでまた一歩、世界が破壊される可能性が増えたのだ。
「のんびり向かっている場合じゃないな……」
「そうね。もう少し速度を上げて昇りましょ。けど、警戒だけは絶対に怠らないようにして」
警戒しながらも階段を駆け上がることさらに十階。二階まで上ってきたが、ここで今までより広い空間が現れ、中心に一人の召喚者がこちらを見て、来るのを待っていたかのように立っていた。
「全く……罠も張ってないのにどうして来るのが遅いわけ?」
立っていたのは元クラスメイトだったローネだった。〝風読み〟という夢を見せる魔法を使う厄介な相手だ。英雄と同じく頂上で待っていると思っていたが、ここに居るということはつまり、戦うということだろう。夢の中で接触した時も感じたが、今のローネは前のように簡単に勝てるような敵ではない。第二次開放も使えるようになり、夢の扱いもうまくなったローネは心を読むことが出来るほどだ。それに、時間はあまりなく、三人で戦うとこが出来ない。だけか、一人を残して二人は頂上を目指すしかないのだ。
俺達三人は同時に視線を交わした。白雪も凜奈も誰か一人残らないといけない事実に気が付いているからだ。それに、前回対峙した時より、ローネが強くなっているということも。一人で勝てるかどうかわからないから決まるのに時間が掛かると思っていたが、あっさりと決まる。
「私が残る。二人は先に行って」
凜奈がローネの前に立ちふさがった。凜奈は前回、ローネの夢に完全に飲まれていたので、一人で戦わせるのは心配だが、事実一人残らないといけないのは仕方ないことだ。決まるのに時間を掛けるのなら自分から残ると口にした凜奈に残って貰ことにする。それに、ローネが強くなったのは事実だが、この数週間で凜奈も流れを掴む練習などして、確実に力をつけている。俺達はその努力を一番近くで見てきたのだ。俺達が信じないで誰が凜奈が勝つことを信じるのだ。
「ああ。頼む。絶対に勝って追いつけよ」
「うん!任せて!」
俺と白雪は階段を上り、凜奈は残った。互いに無傷では住まい戦いになるだろが、凜奈が勝つことを信じて上の階に辿りつくと、何かに包まれる感覚を覚えた。魔術閉鎖空間とは違う感覚……確実にローネの〝風読み〟としての魔法である夢の世界に入ったのだろう。事実、それは下の階では戦いが始まっているということだ。
戻りたい衝動を抑えながら英雄が居るであろう頂上に向かうために階段を上る。もう、罠のことなど気にせずに全力で誓い速度で駆け上がる。体力の温存など考えているが、時間がないのでそれも気にしないことに変更する。それが原因で世界が破壊されたとなれば笑い話にすらない最悪の事態に陥る。
駆け上がり、五分ほど経過すると、召喚者の気配を感じ、立ち止まる俺達。そこに居る召喚者から感じる魔力は〝小鳥の箱庭〟や〝風読み〟であるローネよりも圧倒的で、二人掛りでも勝てる可能性が低い敵だった。
身長はあまり高くないが、男の浮べている笑顔には狂気を感じる。戦いを……召喚者を殺すことに快感を覚えて居そうなそんな顔に、背筋に悪寒が走るが、対峙する。再び登場する英雄派の召喚者は英雄には及ばないとは故、俺達には重い相手だった。しかし、ゆっくりしている暇がない俺達はまた一人残らないといけない状態だ。
この男と英雄を一人づつで戦わなくてはいけない状態は非常に厳しい。二人で勝てる可能性が低いのにさらに一人減って戦わなくてはならないのだから。だが、残るしか選択はない。ここで、二人で戦っていては時間が足りなくなってしまうからだ。
「私が行くわ。海人は英雄は任せたわよ」
武器を召喚して構える白雪。俺達の中で一番強い白雪が上に行き、俺が残るのが本来なら正しいのだろうが、白雪は俺に行けという。これは単純に自分が戦うのが嫌な訳ではなく、俺を信頼して言ってくているのだろう。
「白雪、絶対に追いつけよ。お前が居ないとなんか寂しいから……」
それだけを言うと俺は階段を駆け上がる。勘だが、英雄が居る頂上まではもう直ぐ着くような気がする。それは決戦の時が近いということで、体が緊張で硬くなる。俺の勝敗で世界がどうなるかが決まるのだ。緊張しない方が可笑しい。けど、もう選択肢は勝つ以外しか存在しないのだ。世界には英雄より強い召喚者などたくさん居るらしい。そして、戦争に参加している中にも必ず存在しているだろう。俺達は英雄を踏み台にしていく。
願いを叶えるためには強者に勝ってくしかないのだ。自分より圧倒的に強いから負けたなどで言い訳は聞かず、負ければそこで終わりなのだ。他の召喚者は俺のように馬鹿ではない。魔法の本体など破壊せずにそのまま命をとってくる。それも圧倒的力で。そういう連中相手に勝ち進んでいかなくてはいけない戦いの中だ。それに、今まで戦ってきた召喚者だって俺達より実力は上だった。だが、何とか勝利することが出来たのだ。奇跡など信じたくはないが、もしかしたら勝てるかもしれない。希望は捨てるには早すぎるだろう。
上に上がって行くに連れて圧倒的な魔力を持つ一人の召喚者の気配を感じるようになった。駆け上がる階段の速度をさらに上げて一直線に英雄が居る上がる。勝てるかどうかと言う不安は確かに抱えているが、舞台に上がる。
階段を上りきるとそこは今まで一番広い空間だった。暗く広い空間の奥には魔術蒼石から魔力を吸収しているであろう古代の兵器の本体が存在している。その前に黒いマントをつけた一人の召喚者が、こちらを見て笑みを受かべる。子供が楽しみなおもちゃが届いたような笑みを浮べる英雄に殺気を込めて見据える。
同じ舞台に上がったから感じる肌を刺すような魔力に圧倒的な存在感。その場に数百人の人間が居るように感じるほどだ。
「遅かったね。けど、まだ半分ほどしか作業は進んでないから時間はたくさんある。存分に殺り合えるね」
英雄から凄まじいほどの魔力と殺気が放たれる。前回対峙した時よりも明確に感じることが出来る〝死〟は俺の全身の毛穴から恐怖のあまり大量の汗が噴出すが、吹くことさえ出来ない。前回は早すぎる速度に剣で斬られたこと以外理解できなかった攻撃。英雄がワザと外したから生きているだけで、本来なら首と胴体が斬れていたはずだ。
今回は本気で来るだろう。そして前回のように情けで殺さないようになどしない。殺せると思ったら殺しにくるだろう。そのため、汗を拭くために一瞬だけ視線を逸らすことも出来ないのだ。逸らせば待ち受けているのは死ぬといことだけだからだ。
「自己紹介をしようか……俺は英雄派のリーダー……英雄だ。この世界は今日で終わりだ」
言い終わると足元に魔法陣が浮かび上がり、武器が召喚される。前回と同様で鞘に入れられている剣がそっと抜かれる。白銀に輝くその剣見ているだけで
物凄い武器だとわかるほど存在感を発している。
そして、英雄の周囲に白雪と同様で雷鳴が迸る……いや、白雪と同じなどではない。雷鳴の量もすだが、英雄が放出している雷鳴は白雪と根本的に別だ。白雪の雷は魔力を感じることが出来るが、英雄の雷鳴は全く魔力を感じることが出来ない。つまり、それは俺の〝魔女狩り〟では斬ることが出来ないという訳だ。
「この剣は〝裁きの剣〟だ。雷神トールが使用していたと言われている神話クラスの武器……〝三日月雷鎌〟と違い、本物の雷を扱うことが出来る剣だ。雷神トールと同じ雷を自由に使うことが出来る剣……」
周囲に雷鳴が放出させている。青白い雷鳴は音を立てながら踊るように放出されている。凄まじい魔力が英雄から流れ出て、それに比例するように雷鳴も強く放出され……。
英雄は剣を振った。
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