想い
男と女の過去を断片的だが見た俺達は何も言えずに二人を凝視している。玩具だった女は人間のような笑顔を咲かせていて、男を見ている。首を傾げたり笑顔を見せたり声を発したりしている女はもう元具ではなかった。一人の人間……召喚者として男の傍らに寄り添っている。、右手にはこの世界のおかげで見えている絆の証である約束結んだ魔法陣が光輝いている。
「アンナ……」
男は静かに……だが、はっきりとした声で呟いた。今まで元具だった女に言うことがなかった本当の名前。自身で玩具に変えておりながらも好き勝手、自由自在に操ることが出来ることに嫌気が差し、これは自分が知っている彼女ではないと、操り人形に変えた男の声に喜びを覚えるような笑顔になり、包むように抱きしめた。
「何も怒ってないよ……大丈夫。全部見てたから……どれだけ私のことを大事に想っていてくれたか……自分の何もかもを捨ててまで私を愛してくれていたことも全部見てたから……」
柔らかな日差しが差し込むような声に男は何も言わず、ただ再会をした喜びを込めて抱きしめた。壊れるほど強く……もう、絶対に離さないといわんばかりに強く、強く抱きしめる。
守る者は初めから決まっていた。自分の命など全て彼女と共にあるためにあるのだと自覚していた。彼女の笑顔を見るためならば全てを捨てるという覚悟もしていた。そして、明確に守る者が居ることを再度自覚した。自分は一体誰のためにこの人生を……彼女を操り人形として戦わせてきていいのだろうか、という自答自問を繰り返した。心は何度でも同じ答えを答える。初めから……彼女とであった時から何も変っていないと。
全てを捨てる覚悟までして見たかった彼女の笑顔を見れるまで……それを守り抜くまでと何度も答える。人間だった自分には何も出来なかった……ただ。彼女が苦しんでいる時に手を繋ぐことしか出来なかった男は今、人間から召喚者に覚醒している。昔守れなかった……玩具として操っていた彼女……いや、アンナを守る力がある。出来なかった過去から、現代である今は一番守りたかった笑顔……唯一無二の存在を守ることが出来るのだ。
二人の抱擁をただ見守ることしか出来なかった俺と白雪。感動や同情からではなく、二人からとてつもない力の流れを感じるとこが出来るから隙だらけであっても接近することが出来ないのだ。無鉄砲に接近すると殺される可能性だって存在する。〝死〟とはつまり叶えたい願いが叶えなれないとうことで、そんな未来など考えたくない。ただ、見ているのは自分が望んだ世界……みんなが笑顔で居れる世界。そんな世界で喜びを分かち合いながら白雪と共に笑顔になる未来。
それが、叶えられなくなるので無闇に接近はしない。相手の様子や出方を見て行動しても遅くはないはずだ。何かあってからでは遅いのだ。慎重に行動しなければ命取りになる召喚者の戦い。これから激戦するであろう戦争で、こういう危険を察知してからの行動は何よりも大切になっていくだろう。
抱擁を終え、笑顔で頷きあった二人は俺達を見つめ、そっと手を繋いだ。想いが強く反映されるこの世界で、二人が結んだ約束が強く光り輝いているのは世界が互いを想い合う気持ちを認めているからだ。互いに大切に想い、互いに全て捨てれる覚悟もしていると、だから見えないはずの約束(
エンゲージ)の魔法陣が見え、光り輝いているのだ。
強く、強く握られた手を力を抜き優しく握り、そしてキスをする。互いの想いを伝えるには短すぎるキス。だが、二人には十分過ぎる時間だった。笑顔で見つめ合い、再び俺達の方を向くと、二人の足元に巨大な魔法陣が浮かんでいた。それは再び想いが通じたために起きた、この世界限定の高み。想いが反映されるからこそ使える二つ目の扉が今、開く。
「「全てを守れる箱庭よ。汝は何を守り、何を捨てる」」
二人の声が重なり紡ぐ詠唱は二人を高みに導く光。俺達二人には脅威でしかない力だが、手を繋ぎ、全てを捨てる二人には守る者を守れるための光に満ちた力だろう。想いが強くなり、さらに手ごわくなる二人を普通の状態では倒すことが出来ない。ただでさえ、〝小鳥の箱庭〟は魔力の概念を斬ることが出来る〝魔女狩り〟でも斬ることが出来なかった箱庭。高みに上ったらもう手の出しようがない。
同時に魔法陣を展開した俺達は、想いを込める。自分の胸にある叶えたい願いは、自分にとってもっとも望む世界で、何よりも誰よりも大切な物だ。ヒーロー染みた願いは馬鹿にされることが多々あるが、それでもなお焦がれた強い想い。みんなが笑顔で過ごせる世界……それは俺にとって大切な想いだった。
同時に白雪も想いを込めていた。自分を大事に大事に育ててくれた母親を……今は生きていないが、この戦争に優勝して母親を死者蘇生して今度は幸せに暮らすという通常では叶えることが出来ない願い。白雪にとって母親は全てで、何よりも誰よりも大切な人で、自分なんかが危険にあって再び暮らすことが出来るのなら何でもする。それは白雪にとってもっとも大切な物だった。
だが、想いを込めてのなお、反映する世界はこの想いを認めない。二人の約束は輝いているのに俺達には何の変化もない。だが、二人は高みの扉を開ける。
「我の鎖を解き放ち、汝は時を待つ。雷鳴になりし者、我の力よ解放したまえ」
「我は魔女を狩る者。万物の魔力を総じて切り裂き、道を創る」
俺達の足元に展開された魔法陣が淡い色を発しながら回転する。だが、〝小鳥の箱庭〟ほどの光はなく、弱いがそれでも対等に戦い続けるにはこれを使うしかなかった。
「第二次開放!開放!!」
三人同時に唱えると共に同時に動き出す。先ほどとは比にならないほど速度が上昇した白雪は瞬間的に間を詰めて、鎌を振るうが、まるで予想していたかのように後ろに回避されて、女が投げるクナイを回避し、再び間合いに入り、今度は鎌に魔力を送り、雷を放出させながら振るう。軌道は迷わず一撃で殺すことが出来る首を狙っている。それが原因なのか、見えないはずの鎌を簡単に回避されてしまう。
一旦距離を開けるために後ろに飛ぶと同時に女が動き出す。先ほどとは違い〝小鳥の箱庭〟に隠れているのではなく、接近してくるようだった。クナイを両手に持ち、攻撃を仕掛けるが、速度では圧倒的に早い白雪は地面に着地すると同時に姿を消す。そして次見えた時に男の直ぐ前で、鎌を振っているところだった。
軌道は読めれやすい首ではなく動きを止めるための足を狙った攻撃。これは別に鎌が直撃しなくても纏っている雷鳴が当たればいいだけの一撃。動きが鈍くなれば白雪の速度はさらに有効になる。この場を圧倒的な速度で制することが出来るからだ。
全力で鎌を振るった白雪は確かな自信があった。直撃したまではいかないが、それでも相手は傷を負ったはずだと。〝小鳥の箱庭〟を使う反応もなかった。
実際は使えなかったのだろうが、そこは重要ではない。第二次開放で身体能力などは上昇するが、魔法の発動速度が速くなることはめったにない。先ほどの戦いで大体発動速度を割り出していた白雪はそれを速度で制して攻撃したのだ。傷を負ったに違いない……だが、そんな甘い相手ではなかった。
男は回避するどころかその場に佇んでいた。直撃したならば下半身など消滅しているはずなのに笑みを浮けべて余裕の表情をしている。外傷もなく、白雪の鎌は直撃したのに全く無傷だと想われたが、実際は単純で……。
「なっ……」
白雪が狙った場所に居たのは片手で鎌を止めているアンナの姿だった。完全に威力は相殺しきれていなかったのか、服は破れたりなどしているが、それ以外の変化はない。アンナは白雪にも気付かれないほどの速度で移動し、雷を纏った鎌をほぼ無傷で防いだのだ。
「そんな攻撃、〝小鳥の箱庭〟使う価値もない……私の素手で十分よ」
挑発的な笑みを浮べてそういうアンナは鎌を離し、男と共に距離を取ろう舌した所で、右に回避した。今まで白雪が目立っていたおかげで俺が背後から回っているということに気が付くのが少し遅れたために手で止めずに回避したのだろう。俺の〝魔女狩り〟は魔力の概念を斬る剣だ。それが、未熟とは言え第二次開放を使っている今の状況は相手にとって危険なのだ。
〝小鳥の箱庭〟のように斬れない可能性があるかもしれないが、この場で確かめる余裕などない。万が一に斬ることが出来ればその時点で大きな隙を見せることになる。それも、速度が速い白雪が居る状況ではかなり大きな隙が。隙のせいで死ぬ可能性がある戦いで一瞬の隙でも作るのは危険だ。
それにアンナはある可能性を危惧しているようにも見えた。今、死んだはずのアンナが行動していられるのは、男が造った機械で玩具として操られていた頃の機械が存在するからで、もしその機械に魔力が多少もで使われていたら壊れてしまう可能性があるからだ。直接魔力を斬らないと力を発揮しない〝魔女狩り〟だが、万が一の可能性で機械に接触するとアンナという人格は完璧に消滅してしまうだろう。
手を繋ぎ想いを確かめる二人は互いを見つめ合い、笑顔になる。戦っている最中なのにこのようなことをするのは想いが反映する世界に居るからだろう。もし、想いが反映しなければ今上っている高みの扉である第二次開放は使えなくなるからだ。もし、使えなくなってしまうとその時点で二人は敗北するだろう。第二次開放と対等に戦うのであれば、同じ舞台にあがるしかないのだ。
雷と纏わせながら消える動きで接近し、鎌を振るがやはり通らない。完全には相殺されないが、それでも決定打は与えられない。雷と放出させたりなどしたが、それは〝小鳥の箱庭〟に防がれる。〝魔女狩り〟を振るうと止めもせずにただ回避するだけ、相手は接近してきてクナイを喉に刺してきたり、投げたりなどしてくる。全く動きがない戦いは数分続き、だが、数分で均等が壊れ始める。
だんだん白雪の動きに慣れてきた二人から攻められることが多くなった。剣を振るい、鎌を振るうがそれでもかすることさえしない状況で、相手の攻めが長いの悪い状況だった。だが、打開策もなく、流されるように鎌を振るい、剣を振るうが、止められ回避されが繰り返される。
定期的に手を繋いで想いを確かめる二人は依然として約束を結んだ証である魔法陣は光り輝き、強い力を放っている。反映された想いは強い力を与え続け、除々に白雪の動きが鈍くなっていく。
「どうしました?先ほどから動きが見えていますよ!!」
飛んでくるクナイを回避し、地面に突き刺さる連撃。刺さっているクナイは既に百本近く数になっている。それだけの数を回避している白雪もすごいが、それだけの数のクナイと正確に白雪を追い込んでいるアンナの方がうわてだった。
正面から俺が接近したらアンナの餌食になるにで、周り込むようにして剣を振るっている俺は、密かにある作戦を考えていた。地面に刺さっているクナイは間違いなく、爆発するものだ。白雪もそれが理解出来ているからこそ動きが除々に制限されていく。爆発の威力自体はあまり脅威ではなく、爆発と同時に発生しる煙は脅威になるのだ。白雪と同等の速度で動くことが出来るアンナに一瞬でも視界を潰されたら危険だからだ。アンナも煙の影響を受けるが、記号のように刺さっていくクナイは自分が影響ないように考えられているようにも見える。
「白雪!」
背後から叫び、僅かに視線を向けた白雪に合図を送る……フリをする。実際は合図など送ってもいないし、白雪とて何をする気なのか理解はしていないはずだ。だが、相手からすればそれは別のように見える。
アイコンタクトをした瞬間を見せるためにワザと名前を大声で呼んだ俺は、アンナが白雪から気が逸れる一瞬を狙っている。俺などうまく回避していれば問題ない相手より、一瞬で距離をゼロにしてくる白雪の方が脅威になる。だが、先ほどのアイコンタクトによって注意は白雪から俺に移る。いや、警戒のため一瞬だけ視線は逸れる瞬間がくるはずだ。そこを狙う。
背後から回っていた俺は突如立ち止まった。何をするでもなく立ち止まり、剣を構えた瞬間、アンナの視線が白雪からはずれ、僅かな時間が出来る。それは瞬間に相応しい時間だったが、戦況を大きく変えることになる。
視線が外れたことを誰よりも早く確認した白雪は、最大の速度で加速をして男に接近する。その間、アンナと男が立っている場所と周囲の環境を目に焼き付けるため凝視する。
視線を瞬間だけ逸らしたアンナは再び視線を戻すと白雪が居ないことに気が付き、咄嗟にクナイに込められた起爆を発動させ、周囲に轟音と大量の煙が舞った瞬間に俺は目に焼き付けた位置を思い出しながら動き出した。
鎌を振るう白雪は煙で何も見えないが、男が居た場所ではない所に鎌を振りかぶった。男を狙った一撃ではなく、周囲にある煙を払うための一撃により、俺達が居た場所……四人の姿が一振りで見えるようになる。
そして、アンナは白雪が無造作に放出した雷に感電し、その場で膝を付き、そして男は何が起こったか理解出来ない様子で戸惑って居て、俺はアンナと男の視界から完全に姿を消して、そして背後から一突き。
「っ!ぅぁ……!」
男の背後から殺さないように腹を一刺しした。
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