片割れ
同時に攻撃したが、〝魔女狩り〟でも斬れない〝小鳥の箱庭〟がそんな簡単に破れるはずもなく簡単に防がれてしまう。黄色に光り輝く〝小鳥の箱庭〟には傷ひとつ所か、埃ひとつさえ付いていないだろう。しかし、女が男の背後に居る間は絶対に攻撃が届くことはないので、ひたすら破れるのを信じて攻撃をするしかない。
飛んでくるクナイを回避しながら接近する。クナイを回避することはそれほど難しくないが、その後からはどうすることも出来ない状況が続く。攻撃しても防がれそして距離を取る。たまに背後に回りこもうとするが、一番手薄になる背後を簡単に取らしてくれる相手でもなく。直ぐに俺達の行動を先読みして背後には回らせてくれない。
現段階では均等を保っているように見えるが、長期戦になれば俺達が不利になるのは見えている。〝小鳥の箱庭〟を壊すために少なからず魔力を込めて攻撃しているので、時期に魔力切れに陥る可能性がある。俺達と男の魔力総量は段違いなので長期戦になればなるほど、俺達に壊すことが出来なくなってくるのだ。
操っている女だけがクナイなど投げるために動き、男は俺達の攻撃のタイミングを図り、〝小鳥の箱庭〟を発生させる。俺達には破ることの出来ない箱庭と長距離で武器を投げてくる女。〝小鳥の箱庭〟という名前はこの戦略が名前の由来になっているのだろう。
本来、〝小鳥の箱庭〟は攻撃を防ぐことが出来ても、相手を殺したり傷つけたりする殺傷能力は皆無だ。だから、守りを固めてもう一人の味方は長距離攻撃をしてくる。この戦略をするために生まれたのが〝小鳥の箱庭〟という訳だ。二人で戦う専用となっているのだ。なので、本来ならもう一人召喚者が居なければ男は相手を傷つけることが出来ないなまくらになってしまう。斬れない剣ほど無力なものはないだろう。
だが、それを補うために女を玩具として操り、自分が居てほしいもう一人の召喚者として自由に操ることが出来る。いくら召喚者とは言え、別の固体どうしである召喚者では心を通わすことが出来ない。なので、どこかで意見の食う違いや戦略の食う違いなどが出てしまう可能性があるのだ。この男はそれを排除して自分の戦略で戦えるという訳だ。
約束は相手が結んでいるなどわからないが、現具として操っているところを見るに、約束は結んでいないだろう。いや、結ぶ必要がない。絆で結ばれる行為をしていれば操る必要性など皆無に等しいからだ。
飛んでくるクナイを回避すると同時に真横で爆発が起こった。爆風で飛ばされるが、さほど大きな爆発ではなかったので怪我などしなかった。刺された足が痛むが、動けないほどではない。普通の状態なら爆風すら回避することが出来たのだが、怪我はないので問題はない。
たぶんだが、周囲にある機械のせいで大きな爆発を起すことが出来ないのだろう。周囲を巻き込むほどの爆発ならこの世界を創っている機会ごと破壊してしまう恐れがあるためだ。どうして機械にこだわるかは理解出来ていないが、この世界は男の有利な世界であるためという推測でいる。
爆風で飛ばされた場所から瞬時に立ち上がり、男に一直線に向かう。白雪は俺と逆側から攻めて挟み撃ちにする。剣に魔力を込めて男に振るうが、簡単に止められてしまうが、俺の狙いはそこではなく、白雪の行動だった。
この場で圧倒的速度を持っている白雪は時間差で男に襲い掛かる。〝小鳥の箱庭〟が俺の方を向いているということは今、白雪が居る方面は全くの無防備ということになる。鎌に魔力を込めて迸る雷鳴。雷を纏わせながら鎌を振るうが、男は後ろに飛び攻撃を回避する。作戦が失敗したと思い込んで笑みを浮かべる男の顔が突如歪む。
「っ……!」
男は自分が回避することで必死になったため女を操るのを忘れていた。そこに白雪が雷を操り、鎌の直撃はしていないが、雷が女を襲いかかり、神経が繋がっているため、女が受けた痛みはそのまま男に流れたためだ。
今まで攻撃してきて男が〝小鳥の箱庭〟を発動している時は女は行動をしていなかった。箱庭で動きが止まった一瞬に女で攻撃をすれば直撃する確立は極めて高くなるのにも関わらず、それに気が付いていながらも行動させてなかったのは単純で、同時に神経を使うことが出来ないため、同時に操ることが出来ないからだ。片一方を発動や動かしている時はもう片方は発動や動くことが出来ないのだ。
着地した男は未だに痛みで顔を歪ませているが、動きが止まった今がチャンスだった。〝小鳥の箱庭〟を使っていない時にも関わらず、女を操らないのは痛みによって出来ないのだろうと考えたからだ。
同時に地面を蹴り、男に接近した俺と白雪は魔力を込めて武器を振るう。魔力を凝縮する流れは実戦では使うことが出来ないので、単純で雑な魔力だが、直撃すれば傷を負わせるとこが可能だ。
止まった動きが動き出すまで約一秒ほど……人間などからしたらほんの刹那だとしても召喚者である俺達……この場で誰よりも速度が速い白雪にしたら長すぎる時間止まった男は〝小鳥の箱庭〟を使うとするが無駄だった。すでに使える隙間などなく、既に鎌が首を捉えていた。男も敗北を感じ、目を瞑った瞬間に鎌が首すれすれで止まった。
「なっ!」
完全に取ったと思っていた白雪が予想外の光景に驚きの声を上げた。鎌は男の首寸前で止まったのではなく、男以外に止められていたのだ。人形のように操られている女が失った手を復活させ、鎌を防いでいたのだ。
「一体どういうことだ?」
今までの男の動きを見ているに同時には使えないはずだった。まさか、それが既に勘違いで相手が張った罠に無警戒で踏み込んでしまったのか……いや、その線はまずないはずだ。男は諦めた様子で目を瞑るのを確かにこの目で見た。あれは、演技などではなく、心の底から命に終わりを感じた者がするいうな目をしていた。演技なら文句も出ないほどの出来だ。
なにより男がしている顔がそのことを決定づけている。閉じていた目を開けると何が起こっているか理解出来ないような顔に変わり、生き延びたことよりもなぜ、女がここに居るのかという理由を模索しているように見える。普通なら自分で操ることによって動く女を動かして九死に一生を終えたというならばそのような顔はしないはずだ。絶対に安堵の顔を浮べるはずだ。
一旦距離を取るため後ろに下がった白雪は二人を凝視する。俺も目線を逸らさずにしながら周囲を見渡すが、至って変化はない。この空間は男が創った空間なので何か特別な力が発動した可能性を考えたのだが、周囲の様子や機械を見るにその線は薄そうだ。ただ、単純に〝小鳥の箱庭〟を使うフリをして女を移動させたというこなのだろうか。何が起こったか理解は出来ないが、その理由は今はどうでもいい。今は目の前に居る男に集中するべきなので頭の隅から追いやる。
今まで機械のように動いていた女はそれが嘘のように滑らかな動きで男の真横に立つ。まるで、男と一緒歩んでいる人間のような錯覚をうける。女も元は人間だったのだろうが、今は男の玩具として機能している。今までそんな風に見えていたのに突如人間のように見えたことに違和感を抱きながら視線を外さず凝視する。
男は俺達など興味ないように女を凝視している。今なら二人同時に行けば確実に倒せるのだが、俺達の脚は動かない。いや、正確には今行っても先ほどのように止められてしまう光景しか浮かばない。理由などわからないが、俺達は感じる。召喚者としても勘がそう言っているのだ。全細胞に伝わるように大声で。
機械のようで玩具にされていた女は今まで無表情だったが、急に男に笑いかけ、そして一斉に驚愕する。俺達より女のことを何倍も知っているはずの男さえもありえないという顔に変化する。
「大丈夫。私に任せて……」
笑顔を浮かべながら言葉を発したのだ。今まで一言も発することがなかった……言葉を発することなど出来ないかのように黙っていた女が、大人びた綺麗な声を発したのだ。それも、隣に居る男を愛している……愛しいと感じているような声で。
「っ!」
男の表情は今にも泣きそうな顔をしている。女が言葉を発したことが嬉しくて泣いているようで、頬に涙を流しながら愛しい者を見るような目で女を見ていると……急に二人の右手に魔法陣んが浮かぶ。それは俺と白雪が結んだ絆と同じ、約束。一瞬驚きの顔に変わりながらも、女の笑顔を見ると直ぐに受け入れる様子に変った男はそっと女の手を握る。そして、周囲にも変化が訪れる。
機械が巨大な音を立て始めると、あたり一帯が白く雪のように染まる。まるで、男と女の今の心境を表したかような……この時、俺と白雪は同時に顔を見合わせてこの世界のことを理解した。そして俺達に不利に創られているのではなく、平等に創られているといいう事実にも気が付き、手を繋ぎながら笑い合っている二人に武器を構える。
「白雪!」
「海人!」
同時に叫び、同時に地面を蹴って二人に接近し魔力を込めて振るうが、男達は〝小鳥の箱庭〟を使わずに女が素手で止める。それも無理して止めたなどではなく、簡単に……俺達の攻撃など男の手を煩わせるほどでもないと言いたげに。
女に投げ飛ばされると世界は白く染まる。この空間は強い想いに反応するように創られた空間。想いの強さがそのまま空間では力に変るのだ。そして今、二人の間には厚い信頼と、絆。そして互いを想いあっていた頃の記憶と思い出で、強い想いを生み出している。その片割れが空間に流れ出すほどに強い想いが二人の間には存在している。
俺達はその映像の片割れを見る。これは二人がまだ普通だった頃の他人からしたらどうでもいいような……けど、二人からしたら本当に特別だった頃の思い出。
******
その日、女は死んだ。突然の病気による発作で死に至った。女は一人の男と付き合って、将来の約束をしていたのだ。もし、病気が完治したら二人一緒になろうというどこにでもある約束。だけど、そこには幸せは溢れていた。好きなもの同時が一緒になるということは互いの想いが本物とい意味になる。女もそれを疑わなかった故、悩むことなど一切せずに二つ返事で答えた。
「いいよ」と。それは短くて本当に良かったのかと想わざる終えなかったが、女の顔を見るとすぐにそんな考えなど吹き飛んだ。女は頬を赤らめて満面の笑みで笑っていたのだ。まるで向日葵が咲き誇っているかのような優しく、愛おしい笑みで。
「ありがとう……絶対に幸せにする」
女に言うとの同時に自分の心にも誓う決意として、その言葉を実行すると決めた。彼女は病気だったため、あまり外出など出来なくて、家事もロクに出来なかったが、男はその全てを一人でやることにした。辛く覚えることはたくさんあったが、一日もそれを怠ることなどなかった。理由は簡単で、女が浮べる笑顔を見えるためならば何でもする。何でも捨てるという覚悟を既に決めていたからだ。
女を幸せにすると誓った約束は女が生きている間確実に守られていた。女の看病をしながら家事もする。出かけることなどあまり出来ない女と一緒に居るためには家に居るしかない。そのため家の中での想いでしか存在しないが、それでも男は心の底から幸せだと感じていた。人それぞれ価値観などの違いがあるため、その生活が楽しいか、楽しくないかなど個人的なので関係ない。男の友達は心の中で、こいつは間違っているなどと想っていたが、男は好きな女に尽くすことが間違っているなどといった考えは全く持っていなかった。
毎日男だけに見せる向日葵のような笑顔。それを見るためらなら何だってするという覚悟。自分の将来を全てこの女に捧げると誓った男の覚悟。それは誰にも止めるとこなど出来ない。故、周りから友達は減ったが、それでも女と共にあり続けた。
人という文字は支えあって出来ているなどという言葉があるが、よく見れば片一方が寄りかかっているだけだ。それは女と男の関係に似ていて、女が男に寄りかかり、男がそれを支える。決して倒れないように。強い覚悟があったのだ。この女を守る人生にすると。
だから女の失った男はただ絶望と空白しかなかった。生きる目的としていた女は死に、今まで支えてくれた向日葵のような笑顔は見せてくれなくなり、全ての覚悟を失った。当然、自分の全てをかけるという覚悟をしていたため、男の背後には何一つとして残らない。振り合えれば家族から見放され、友人も誰一人存在しない。それほど、周囲と干渉するのをやめ、女一筋の人生を歩んだ男の末路は絶望と空白だった。
そしてそれを埋めるにはこうするしかなかった。女を蘇らせるということ以外男には知らなかった。人間である男には無理だったが、それでも努力と時間を重ねひとつの機械を作る。それはお金に換えようと思えば何億……いや、下手をすれば何百億というお金になる機械で、他者を操る機械だった。それも自分が望んだ通りに出来るという人類発の機械。
しかし、お金など興味はなかった。男には女と歩む人生しか見えてなく、女に機械をつけて、動き始める時間。止まっていた男の覚悟が動き出したかのように想われたが、女は顔だけそっくりでまるで操り人形のようになっていた。笑うこともなく、話すこともない。いつも無表情で命令しないと動かない玩具になってしまった。
そのことに絶望した男はある日召喚者になる。召喚者は死に直面することによって覚醒することが多いが、男は女の存在に死を感じていたのだ。自分が全てを捨ててまで守りたかった日常はもう帰って来ないという現実。それはひどく死を感じさせた。
そして、召喚者になったとこによって戦争のことを知る。願を叶える戦争で、絶対に無可能なことさえも叶えてくれる何もかも超越した大魔術が魔術蒼石に選べれた召喚者は十三個集めると願いが叶うということに。
切実に願った。再び女と歩む人生が来るために選べれることを。召喚者として腕を磨くことも忘れずに。そして男は再び絶望した。戦争に参加する資格はなく願いを叶えられない。世界に絶望し、神を恨み自分を恨んだ男はある話を聞く。
世界という枷から人々を解放させようとしている英雄と名乗っている男の存在を。そいつを従えさせて女を生き返らせようとさせるがうまくいかなかった。
勝てない。英雄という男は圧倒的に強かった。自分など子供のようにあしらわれて、遊ばれている理解していながらも全く手も足もでなかった。本気を出せば……いや、出さなくても男は瞬殺されるほどの実力の持ち主。勝てるはずなどなかったのだ。
無様に負け、全てに絶望している中で男に英雄は声を掛けた。
「この世界は悲しいことしかない。こんな世界から人々を……俺達を救済する」
そして男は決める。この男についていくと。自分も救済してもらうために……。
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