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箱庭

「〝三日月雷鎌ライトニングムーン〟のいう言う通り俺は〝小鳥の箱庭〟だ。そして、機械で操っているということも事実。さすが、先代が優勝しただけはあるな……まぁ目の前に居るのは大したことないが……」


 僅かに目を鋭くさせた白雪だが、相手の挑発だとわかっているので乗らない。それに男が言っていることは全て事実なので、何も言い返せないということもあるだろう。男は英雄ジークフリードには遠く及ばないが、それでも俺達より強いということは簡単に理解できた。うまく説明は出来ないが、召喚者としての勘がそう訴えている。


「まぁいいわ。そんなの関係ない」


 そう言って鎌を召喚し、構えると雷鳴が迸る。腰を低くしていつでも戦える準備をした白雪だが、男はそんな光景は見えていないように余裕の表情をしている。先代のことを知っているのならば、わずか十メートルほどしかない距離を白雪がどれほどの早さで動くのかなど知っているはずだ。油断していれば魔法を展開する前に首をはねられる距離なのにまるで警戒などしていない。


 男の様子に警戒を覚えた白雪は鋭く見つめたまま動こうとしない。笑顔の男は薄気味悪いが、横に居る操られている女はさらに薄気味悪い。表情は死んでいるような感じで、リアルなマネキンのように感じるほどだ。しかし、肌の様子など見るにこれは間違いなく俺らと変らない人だった。けして作られた人形などではない。


 俺は女の観察するように見ているが、それすらも反応がない。白雪は女を機械で玩具のように操っていると言っていた。男もそのことを否定せずに笑いながら肯定していた。しかし、女の見る限りそのような機械など全く見当たらない。この世界を作りだした機械は凄まじく巨大なのに、人体を自由に操る機械などさらに巨大なはずなのに全く見当たらないのだ。


「まぁ……そんなに焦るなよ。まずは自己紹介からだ」


 笑顔のまま両手を広げる姿は男の魔法の名前である小鳥のようだった。そして、目の前にお姫様が居るような感じでかしずき、顔を上げて口を開いた。まるで騎士を思い浮かべる。一つひとつの動作が優雅で本当に目の前にお姫様が居るように感じるが、その行動は完全に俺達に勝てるという自信から出ている余裕の表れだろう。


 勝てるかどうかわからない実力が均等した相手に余裕など見せる訳がないからだ。均等した実力は一瞬の隙や油断で決着がついてしまうため、絶対に見せない。だが、それを見せているということは勝てるという自信の表れ。隙を見せて、奇襲を仕掛けても余裕で対応出来るという自信からなる行動なのだろう。


「俺は英雄ジークフリードと同じ英雄派の一人である〝小鳥の箱庭〟だ。魔術蒼石マテリアルブルーを回収しにきた。だから殺されたくなければ素直に渡せば見逃してやる」


 またもや余裕の発言。英雄派は世界という枷から人々を解放しようとする集団。なぜ、そんなことをするのか理解出来ないが、個人の大切な願いや物などは個人を表すものになる。価値観が違う個人では考え方は思うことや、心の底から願っていることも全て違う。似ていてもそれと全く同じであるなどは絶対にないものだ。


 英雄派という集団は世界から人々を解放させるという目的のために様々な犠牲をも気にしないだろう。いや、厳密に言えば気にならない方が正しいような気がする。なぜなら、世界から人々を解放させるという願いを叶えられるのなら世界のことなどどうでいいはずだろう。全人類をこの世界から消すというのに周囲のことなど気になる方が可笑しい。こいつらに常識なの通用しないのだ。


 ならば、俺達がすることは一つだ。母親を生き返らせたいという願いを持って居る白雪と、みんなを幸せにしたいという願いを持っている俺が、人々が居ない世界など認めるはずがないだろう。俺達の願いは周囲に人が居てこそ叶えられる願いなのだから。


「答えはわかってるだろ?」


 殺気をこめるように目を鋭くさせて問い返した。そもそも白雪と出会い、約束エンゲージを結んで魔女と戦い勝利した時点でこの男も俺達が答える回答など理解しているのだ。ならばなぜ聞いたのか……それは言うまでもなくただの気まぐれ。様式美に聞いたに違いない。


 この男も英雄ジークフリードと同じ英雄派だとすればこの世界になんらかの恨みを抱えているに違いない。そして恨みというのは決して簡単になくなるものでもなく、許せるものでもない。他人にとってはそうかもしれないが、本人にとってはとてつもなく大切なもの。召喚者になり、この戦争に参加するということはそういう願いを持った者が多い。


 目の前に居る男も同じで、決して人に理解して貰えなくても、それが自分でした判断……選択なら迷ったりは絶対にしない。


「当たり前だ……俺も召喚者だからな」


 その言葉の瞬間、玩具のように操られている女が突如、男の横から消えて目の前に接近していた。手には忍者が使うクナイのような物を握っており、構えると動く速度にあわせて投げてきた。首元を目掛けて飛んでくるのを右に回避して男に接近した。今出せる全力で駆けて〝魔女狩り〟を振るうが……やはり男が使う〝小鳥の箱庭〟に止められてしまう。


 同時に鎌に雷を纏わせて男の背後を取った白雪が全力で鎌を振るう。だが、右手で俺の剣を止めながら左で鎌を防ぐ男の背後から女が姿を現す。女は雷を纏わせている白雪にクナイを投げるが、周囲に迸る雷でクナイを防ぐ。


 クナイは地面に落ちる瞬間に爆発をした。あらかじめ小さな起爆装置のそうな物が仕掛けられていたのだろうが、白雪には直撃しない。爆発する間にも僅かな時間があるため、バックステップで回避するとその場にクナイの蓮撃。


 爆発しないクナイを警戒しながらも俺は男から離れるために少し後ろに下がり、瞬間的に力を込めて地面を蹴り男に接近する。なぜ魔力の概念を斬る〝魔女狩り〟で切れないとか気になるが、その程度慌てることではない。そういうことも英雄ジークフリードと出合った時から覚悟していたからだ。〝魔女狩り〟は魔力を斬ることが出来るが、練度が違う魔力は切れないと。


 だが、〝小鳥の箱庭〟は魔力であるが、物理防御なので、力で壊すことも出来る。なので、踏み込んで男に接近したのだが、近づく前に女が鋭く尖った刀を所持しながら目の前に現れ、首を目掛けて振るってくる。それを剣で防ぎ、女本体を狙うが、操っているためか空中を飛ぶように移動して華麗に回避されるが、回避した瞬間に僅かにあった隙を白雪が逃さす、一瞬で距離を詰めて鎌を振るったが、鎌を女には届かずに、いつの間にか移動していた男のバリアで防がれる。


 雷の出力を上げて力を込めるが、バリアは壊れる様子もない。むしろ、うっすら笑みを浮べている男の様子を見るに壊すところか、余裕があるようにしか見えない。現段階で男の〝小鳥の箱庭〟を壊す手段は存在しないのでから、男の余裕も納得できるが、なぜかそれだけではないような気がしてならない。白雪も同じ考えに至ったのか、周囲を見渡すが男と女以外に何もない。ただ、周りに巨大な機械と小さな機械が大量にあるだけ……いや、俺達はそもそも相手が創り出した世界で戦っているのだ。それは魔術閉鎖空間イージスにとは別の空間で、中に入れる人を選べる空間。


 入れる人を選べるなどといった細かいことが出来るのであれば、もっとこの空間には隠している何かがあっても決して可笑しくはない。むしろ、男に有利な空間になっているとそう考えた方が妥当だろう。わざわざ自分が創り出す空間を自由に出来るのに相手と平等にする奴などいない。たとえ相手の方が自分より弱いとわかっていながらも、もしかしたらという可能性を考慮すれば自分が有利するはずだ。それが男の笑みとなって余裕を見せているのだろうか。


 女は両手からクナイと出し、逆手にとって持つ。時代劇などに出てくるクナイの持ち方をした女は正面から接近してくる。俺は回避するのではなく、受け止めようと剣で構えると、後一歩という距離で直角にまがるように方向転換をしはじめた。予想外の行動に俺は一瞬止まってしまったが、それでも白雪は男を警戒しながら女も警戒していたため、女の動きが変化しても驚くことなく耐用した。


 接近する女が雷が襲うが、いつの間にか移動していた男がやはりバリアで防ぐ。そしてバリアの中から襲い掛かるクナイの連撃を回避しながら進む白雪に女の足元に魔法陣が浮かぶ。だが、一瞬で消えてしまい何をしようとしたかわからずに周囲を見渡した俺……そして、足首を誰かに捕まれるような感覚に襲われ、足元を見るとそこには手が存在した。


「なんだこれは……」


 足首を掴む手からは魔術的な魔力は感じないので普通の手だ。だが、妙に白くて先ほどから見覚えのある手だったので、女を見ると左手首から上が存在せず、一瞬浮かんだ魔法陣はこのためだというのに気が付いた……が、その時には既に遅かった。


 残った右手も地面から生えてきて、その手にはクナイが握られていた。そのことに気が付いた時には既に遅く、俺は右足にクナイを刺され、そこから肉を裂くように刺さったクナイを上に上げていく。


 痛みによって捕まれている足を無理やり離させようとしたが、手に捕まれている体には様々な魔法陣が浮かびあがっていた。普段見るような丸い魔法陣や三角に近い魔法陣など、形は様々で何がどの魔法陣に起ころうとしているのかまるでわからなかった。ただ、俺の頭がこれまでないほどに警戒の鐘を鳴らしている。それこそ英雄ジークフリードと対面した時以上の警戒が……。


「海人!手を斬って!!」


 突如大声を上げた白雪の声で反射的に捕まれている手に剣を振るった。逃がさないように捕まれているため自分の足も同時に斬れてしまいそうだったが、頭が鳴らす警戒の鐘も最高潮に達していたので何も気にせずに斬った。


 白い手から飛び散るように鮮血の薔薇が咲き、骨を切る感覚を手に覚えながら剣を振り切った。少し柔らかい肉を斬る感覚に、硬い骨を斬る感覚が同時に襲い、吐き気がする中で足に浮かぶ様々な形の魔法陣は姿を消した。そして、〝小鳥の箱舟〟が操っている女の右手首が切断されているところを見るに、俺は人の体を切り裂いたのだ。


 女は右手首が切断されて血が大量に出ているにも関わらず、痛みで顔を歪ませたり、声を上げることもなく、まるで切断された痛みがないように見える。この女は人間などではなく今は完璧に玩具にされているということだろう。だが、一切感情を出さずに居る女とは違い、男の方は自分が傷つけられたように顔を歪ませて痛みに耐えているようだった。そう、女が切断された右手と同じ場所を押させている男は、感覚が繋がっているようだった。


 ここで俺は男がどうして玩具である女を〝小鳥の箱庭〟で守っていたのかという理由が解けた。答えは至極簡単で、玩具のように自由に操れる代わりに玩具に本来皆無である感覚神経を男が全て一人で持っているのだろう。簡単に言えば、女が傷つけられた痛みは全て女ではなく、操っている男に流れていくということだ。二人は機械という神経で繋がっているのだ。


 〝小鳥の箱庭〟は確かに硬く、魔力の概念を斬る〝魔女狩り〟でも斬ることは出来ない。単純な魔力の練度の違いで、俺の〝魔女狩り〟では男の魔法を斬ることは出来ないのだ。それは、何事でも同じで上に居る者には大概何も効かない。魔力の質量が違うのだから斬ることが出来ないのだ。


 しかし、男だって俺達と同じく召喚者でも人間と同じく痛みには弱い。〝小鳥の箱庭〟を壊せなくても痛みというものは蓄積すると少なからず精神に異常をきたす事が出来る。そして精神が異常になると自分で当たり前に出来ていたことが難しくなるのだ。魔法だって同じで、強い想いによって支えられているのにその想いが痛みで潰れてしまえば〝小鳥の箱庭〟を破ることが出来る。


 だが、それには大きな穴が存在する。〝小鳥の箱庭〟に守られ続ければ意味がないという大きな穴……弱点が存在するだ。痛みなどが精神的に作用することなそ男も理解出来ているに決まっている。そうなれば、男がやることは一つで、先ほどのように女を前で戦わせないようにし、クナイなどで長距離攻撃などされると一番厄介な戦略になる。


「ここからが正念場ね……」


 予想通り男の後ろに行き、長距離攻撃にまわるつもりだろう。痛みで押さえていた右手は既に収まったのか、出合った突如と同じように余裕そうな顔で佇んでいる。唯一違うことと言えば男が俺達を見る目が怒り……いや、恨みや殺気のような物を感じるようになっていた。


 初めはそのような感情はまるで感じられなかったが、痛みを受けたことで感情が表に出てきたのだろうか。それとも、ワザと表に出して俺達の反応を窺っているのだろうか……いや、答えは前者で後者はありえない。俺達が強い想いをもって戦っていることなど男だって承知しているはずだ。いまさら反応を窺っても意味などないはずだ。そうなれば前者の方が正しいだろう。


こちらを睨むように凝視している男と女から殺気が消える。そして存在すらも消える……ように思うほど一瞬にして存在感が消えた。目に二人の姿は映っているのにそれがまるで夢と幻を見ているような感覚。自分で見ている目が信じられないほど一瞬にして存在感を消す。まるで獲物を狩るときのチーターのように静かで存在感がない。


 機械出来ている空間で戦っている俺達は無理に目の前の男と戦わずとも機械を壊せばこの世界が終焉を向かえ、部屋に戻ることになるだろう。ならば、無理に箱庭に閉じこもるつもりの二人と戦わずに、狙いを悟られないように戦いつつ一瞬の隙。を突いて機械を壊したほうがいいのではないだろうか。この男は魔術蒼石マテリアルブルーは持ってないだろう。


 英雄派と一緒居るということは英雄ジークフリードが一番上に居るのだろう。そして、間違いなく魔術蒼石を持っているに決まっている。自身より圧倒的に格下の奴に大事な石を渡すなのどいった行動は取らないはずだ。いつでも殺せるから泳がせておくという最悪のケースも考えるが、少なからずこの男が持っている確率は低い。


 ならば戦わずに不戦勝で……。


「なんていい訳ないよな」


「ええ。その通りよ」


 英雄派という英雄ジークフリードが張っている集団であるのだから、この男は使い道があると判断されたのであろう。実戦で使えるほどの流れも出来ないし、英雄ジークフリードを本番にするのはあまりにも無謀過ぎる。下手をするとやる前に殺されている可能性が高い敵なのだから、少しでも経験を積みたい。


 目の前に居る男は俺達より格上なのだからここで戦わないなどもったいない。これからもっと強力な敵と戦うのに勝てないからだ。実戦で使うものは実戦で感じ取った方が絶対いい。もし、勝てないかもしれないとしても、ここで負けるようならば戦争で優勝することなど夢のまた夢。小学生の時にヒーローになりたちと言っていた時のように。


 頭を働かせながら絶対に男から目を離さずに居ると、後ろにいる女が僅かに動くのが見えた。動きは本当に僅かで、注意してみていなければ間違いなく築かなかったであろうミクロの動き。だが、それを合図に俺と白雪は同時に動きだす。


 女は先ほどとは違い四本のクナイを同時に投げてきた。一つひとつのクナイの動きは速度を増しており、さらに鋭く首筋を狙ってきている。走りながらクナイを回避して、俺と白雪は同時に男を攻撃した。



















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