打倒
体育祭が終わり、片付けが終了すると俺の部屋に三人集まった。
英雄のことについて話合うためだ。凜奈は戦争に参加していないので、関係ないのだが、本人の強い希望によって英雄のことについて話合いに参加することになった。
体育祭優勝で気分が上がっているクラスメイトとは別で、物凄く暗い雰囲気だった。
「私、お茶を入れてくるね……」
しばらく無言で座っていたのだが、この雰囲気に耐え切れなくなったのか、凜奈がお茶を入れに行く。凜奈が入れるお茶はおしいので、普段なら嬉しいが、今日はそんな気分ではなかったのだが、何も言わない。
今日ここに集まったのは話合いをするためであって、沈黙することではない。きっちり状況を把握してこれからどうするべきなのかを考えなくてはならない。
だが、そんな意思とは別に口は開かない。数分経過して、凜奈がお茶を入れてきた瞬間、サクとローは口を開く。
『何落ち込んでいる、相棒。召喚者の世界なら良くある話だ。それよりも、これからどうやって英雄を倒すかを考えるべきだと思うのだが、相棒はどう思う?』
「その通りだと思うが……」
短いながら友達として仲良くやってきたローネに襲われたことや、俺達三人以外、ローネという女の子の存在を知らないこと。後、今の自分達ではどうやっても勝てない相手……世界という枷から人々を解き放つと言った英雄の存在。
それはとても心に重く圧し掛かっていた。
『うむ。お前達の覚悟はそんなものだったのか?互いに願いを叶えると約束を結んで、厄介と言われる魔女を倒したではないか。その時の気持ちを思い出して、英雄をどうするべきか、考えるのだ』
ローの言葉に反応した白雪。そうだ、俺達は命すらも掛けて自分の願いを叶えると願い、そうして約束を結んで戦うことを決意したではないか。自分は召喚者として強いなど自惚れなどなく、魔女より強い召喚者が居ることなど理解していたはずだ。
こんな所で、沈んだり、諦めたりするほど軽い願いではない。今はどうするべきかを考えることが最優先だ。
沈んでいた目に活力が戻るのを感じた。ローネと戦ったことだって後悔など全くしていない。自分の願いを叶えるためならば何だってするという強い気持ちを持っていたのだ。友達だった頃とは違い、今は完全な敵。気にすることではない。
「そうだな。俺達は勝たなくてはいけない」
「ええ。私は夢の中で誓った。絶対に勝ち抜くと。こんな所で足踏みしている余裕なんて初めからなかった。少しでもいいから前に進むためにも今は話合いが大切ね」
「ああ。その通りだ」
簡単に叶えられる願いではないことは十分知っている。アニメなどの主人公も強敵を踏み台にして強くなっていくものだ。俺達が主人公などといったことは言わないが、この考え方は決して間違ってはいないはずだ。強さの均等している好敵手が居ることによって高みに目指せるというものだ。
「けど、考えたところで、私達が英雄に勝てるという訳ではないわ。どんなに思いが強くても、どうにもならないことだあってあるわ」
「そうだね。私は勝てる気がしなかった……違う次元に居るよう存在だと思った」
深刻そうに呟いた凜奈。確かに英雄との実力差は明らかだった。どれだけ強い思いを持っていても限界がある。それに俺達の思いより英雄の思いの方が強かった場合はどうしようもない。
『だけど相棒。そういうのってやっぱり燃えるだろ?』
その言葉に俺達三人は目を見開く。
『確かに……相棒もわかっていると思うから言うけど、今の相棒達では英雄には絶対に勝てない。想いがどうとかっていうレベルの話では解決できないほどの実力差がある。これはどうしようもない事実だ。俺から見たら英雄は先代の〝魔女狩り〟や〝三日月雷鎌〟のコンビよりは弱いが、その二人でも簡単に倒せるレベルの敵ではないと思っている。苦戦して倒せる敵だ。ローはどう思う?』
『うむ。サクと同じ感想だ。英雄には今は絶対勝てない。普通に戦えば勝ち目はほぼないだろう。それどころか、今の二人では次に戦う時は〝風読み〟にすら勝てるか怪しい』
先ほど倒したローネ……〝風読み〟にすら勝てないというロー。冗談で言っているなどという可能性はなく、本当にそう思っているだろう。そして、ローが言ってることは間違いなく事実であることも理解出来る。
『そうだな。〝風読み〟は第二次開放の扉を開きかけていた。それを英雄ほどの召喚者が不意にするわけがないだろう。今度会う時は相棒達にぶつけても大丈夫なようにしてくるだろう。それも短時間で』
英雄はサクとローによれば優勝した先代すらも苦戦すると言っている。そして俺達は先代には遠く及ばない。その事実だけを淡々と説明されている気分だったが、言っていることは何一つ嘘がない真実。事実なのだ。俺達が弱いということは。
「だけど、諦める訳にはいかない。勝てるか勝てないかなんて関係ない。絶対に英雄に勝つんだ」
「そうね。実力差はかなり空いているし、相手には自分達のことが筒抜け。だけど、英雄のことは何一つ知らない。どんな能力を使うとかすらわからない。ただ、知っているのは魔力を使わないで、私以上の威力を出せるということだけ。絶望的もいい所だけど、それでも尚諦めるわけには行かないわ。何だってする」
俺達は約束で繋がっているため互いの思いを感じることが出来た。そして、同時に視線を動かしてアイコンタクトした。抱えている思いは変化などしてない。
『うむ。それでこそだ。先代だって初めから強かった訳ではない。努力をしたのだ。だったら同じことをするしかない』
『そうだな。相棒達は実力では先代より弱いけど、才能で言えば遥かに上だ。いずれ先代を超えるだろう』
『うむ。けど、今はその時ではない。出来る限りやるしかないだろう。近いうちにもう一度戦うことになるだろうから』
「ああ」
「そうね」
やることは決まった。勝てないと決め付けるのではなく、勝つんだ。負けるという選択肢は初めから存在しない。俺達が抱えている思いはそれほどまでに強いのだ。母親を生き返らせて幸せな生活を送りたい白雪と、ヒーローのようにみんなを笑顔にしたいという願いを抱えている俺。決して普通では叶わない願いなのだから、限りなく高い壁だが、乗り越えるしかない。
「すごいね二人共……」
凜奈が小さく呟いた。それは不意に呟いた声で、凜奈本人が自分の言った言葉に驚いている。
「私も、絶対に手伝うから。二人の願いを叶えるために!」
多少無理をしているように見えたが、あえてそれは言わないで置いた。なぜだか理解出来ないが、凜奈の心の傷に触れそうな気がしたからだ。
「それじゃ、打倒英雄ということで頑張ろう」
「うん!!」
「そうね」
俺達三人は英雄を倒すと心に近い、解散した。
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