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思惑

そこは暗闇だった。別に外が夜な訳ではなく、ただ単純に部屋の中が暗いのだ。


 そんな暗闇の中で四人の姿が見える。漂うのは人間とは思えないほどの存在感。たった四人しか居ないのにそこはは何千、何万といった人が居るように感じてしまう。もちろん、その四人は召喚者まほうつかいだ。


 二人は魔女狩り達を圧倒した英雄派のリーダー、英雄ジークフリードと〝風読み〟の能力を持つローネ。そして、他の二人は仮面をつけていて顔は見えないが、男女に見える。右手には二人は約束エンゲージを結んだ証である魔法陣が薄く見える。


 暗い空間、そんな場所でローネの声が響き渡る。


「すいません……お兄様……」


 ローネは魔女狩り達に接近してそして敗れた。それも自分から申し出て敗れたのだ。ローネはただ、贖罪の色を見せるしかなかった。そしてどんな罰でも受けるつもりだった。たとえ殺されても、それがお兄様から与えられる罰ならば祝福だと感じている。


 しかし、英雄ジークフリードは特に気に留めた様子はなく、何について謝られているのか理解に苦しんでいた。


「一体何について言っている」


 玉座のような椅子に座っている英雄ジークフリードは、土下座のように地面に顔をつけているローネを優しい顔で見下ろしている。愛しい女を見ているような目で実の妹を見ている。


「私が魔女狩りたちに負けたことです……」


 ただ事実だけを述べる。そしてそれは許されることではない。負けたという事実は召喚者の中では死に値する。もし、英雄ジークフリードが居なければ間違いなく死んでいたか、魔女と同じように死ななくても〝風読み〟の能力は失っていた。


 その事実を知っている英雄ジークフリードだが、それすらも気にしていない様子だ。しかし、他の二人居る召喚者は納得しているはずもない。ただ、身内で愛しい妹だから許しているだけの事実。同じグループに属しているだけの二人が、英雄ジークフリードが許した事実と、ローネが負けたという事実は同じだった。


「別に気にはしていない。だからそんなに謝るな……」


 そう言いながら立ち上がる英雄ジークフリードはローネの前に行き、顎を引き寄せてキスをする。情熱的は二人のキス。周囲と二人を完全に遮断する二人。男女で居る召喚者も目を逸らした。


キスが終わると頬を紅くして、息も荒くなってるローネの頭をそっと優しく撫でる英雄ジークフリードは笑みを浮べている。


「お兄様……」


 キスで誤魔化されようと考えたローネだったが、英雄ジークフリードの信頼を裏切ってしまったことに対しての罪悪感がぬぐえないのか、そっと視線を下に向けた。


「だから気にしないでいいって」


 だが、もう一度顎に手を添えて、キスをする。


「っ、ぁ…っぅ」


 舌を絡めるようにキスをする兄。そんな様子を見ないようにしていた男女。しかし、どれだけ見なくても音は聞こえてくる。それが、我慢ならなかったのか、初めて口を開く。


「いい加減にしてください!」


 口を開いたのは男の方だった。女の方は何事もないように男の隣になっているだけ、呼吸すらしていないように見えて生きているのかも怪しい状態だ。


 繋がっていた口から唾液の橋が架かり、それを見ていたローネはとてつもなく、体を求めてほしくなった。英雄ジークフリードの愛に少しでも触れていたと思っていた。


「どうしたんだ?そんな声を上げて……お前もすればいいじゃないか?そこに居る人形と」


 英雄ジークフリードの言葉に男が殺気を放った。禍々しい殺気でローネよりは明らかに強いが、それでも英雄ジークフリードには遠く及ばない。勝てる見込みなどゼロに等しかった。


「これは……彼女は人形などではない!!!」


 男は傍らに居る女の肩をそっと抱いて引き寄せた。女は顔色操られているかのように引き寄せられて、顔色を一つとして変えない。英雄が言っているように人形のようだった。


「それは失礼。それで、何か言いたげだな?」


 何か雰囲気を感じ取ったのだろう。その言葉を口にした英雄ジークフリードは楽しげに笑みを浮かべている。


「私は認めません!」


「何をだ?」


「ローネが魔女狩りたちに負けたのは事実、下手をすれば死んでいた可能性があった」


「ああ。そうだな。それで?」


 男の言葉は英雄ジークフリードには丸で響かない。そもそも、言葉を口にしているだけで、本来は会話などしようと考えていない。ただ、想いが一緒だったから一緒に居るだけの存在に、妹以上の感情を向けるなどありえないが。


「私は、魔女狩り達から魔術蒼石マテリアルブルーを回収してきます。いいですか?」


 それは、ローネが討ちそびれたから代わりに殺してくるという選択。あの二人は今は簡単に殺せると思われているほどに弱いのだ。


「好きにすればいい。俺には関係ない。だが……油断はするな。下手をすれば殺されるぞ」


「……一体何の冗談ですか?」


 男は海人と白雪にま敗北するなど一変たりとも思っていない。だが、そんな男より遥かに強い英雄ジークフリードが警戒しろと言ってくる。その意味が全く理解出来ないで居た。その気になれば一瞬で殺すことが出来る二人を警戒しろと。


「今はまだ弱いが、あれはいずれ化ける。俺など足元にも及ばないほどに強くなる」


 その言葉にローネと男は同時に目を見開いた。ローネは自分のお兄様が他人をここまで褒めるのを始めて聞いた。それも、ローネが知る限り最強の召喚者であるお兄様が、一瞬で殺せる対象に向かって口にしたのだから、驚いて当たり前だ。


「俺はそこまで強くない。ローネは世界を知らないだけだ。俺なんて、世界最強と言われている召喚者、〝零世界〟に比べたら蟻のような物だ」


 ローネの心を読んだかのように口を開いた英雄ジークフリード。顔の表情からは事実を言っているようにしか見えない。


「いえ、お兄様が最強です。それに比べる対象が可笑しいです。あんな〝零世界〟になんて勝てる訳がないです。召喚者などといったカテゴリーに当てはめるのは可笑しいです」


「それもそうだな。彼を恐れていて名前を聞くだけでも錯乱する奴が居るほどの怪物。俺と比べるほうが可笑しいか……。まぁ、忠告だけはした。ローネのようにお前が死に掛けても助けにはいない」


「その必要はない」


 それだけ言うと男女は風のように姿を消した。


 再び沈黙が訪れる空間でローネが口を開いた。


「よかったのですか?行かせて」


「いいさ。どうせ魔術蒼石マテリアルブルーは一つあれば俺達二人の願いは叶えることが出来る」


「え?」


 ローネは聞き返してしまった。魔術蒼石マテリアルブルーとは十三個を集めて初めて全てを超越した願いを叶える大魔術が完成させることが出来る。一個だけでいいなど聞いたことがなかった。


「気にするな。準備は進んでる」


 そして、英雄ジークフリードたちは動き始める。







読んでくださってありがとうございます!!まだ、〝英雄〟は続きます!!

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