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英雄

 白雪がローネの過去を見ている時、ローネも同じように過去を思い出していた。最悪の父親のせいで掴みかけていた幸せな生活を壊され、そして母親はそのことに絶望してこの世を去ったことを。


「どうして今になってこんな記憶を思い出すんだろ……」


 もうかなり昔の話だ。今は父親だってこの世には存在しない。ローネ達が父親を無惨に殺してしまったからだ。もちろんそのことは全く後悔などしていないローネ。ゴキブリを殺して罪悪感を覚えないのと同じことだ。


「きっとこのせいだわ……」


 魔術閉鎖空間イージスの中で三人が意識を失っている。もしろん、ローネの〝風読み〟としての力で可能性という夢を見ているためだ。ローネはそんな三人を悲しそうに見つめる。


「そうよ……あんな生活したから……」


 ローネは三人に混じって学校生活というものを初めて経験した。どのようなものかは理解していたのだが、学校に通う年には召喚者まほうつかいとして覚醒していたためにそのようなもの興味もなかった。ただ、強くなうことだけを考えて行動してきた。


 だが、普通なら誰もが送る平和な時間を初体験したローネは、今までの出来事を鮮明に思い出すことが出来る。決して長い時間ではなかったが、ローネは普通の……召喚者まほうつかいなどになっていなければ一生の思い出になったはずの短い時間。楽しかったなどといった感情はない。だが、羨ましいという感情だけは隠しきれない。


「きっとそのせいよ……」


 確信めいたものはないが、それ以外考えられない。ローネが壊してしまった三人との日常は楽しくはなかったが、それは昔から望んでいた平和で幸せな日常があったのだから。


「それに……」


 先ほどから過去を見られているような感覚があるローネ。そんな能力がある召喚者など魔術閉鎖空間の中には存在しないはずなのだが、どうしてか理解は出来ないが見られているという確信だけはあった。


「全く、人の忘れたい過去を覗き見する奴はどこの誰なのかしら?」


 自分は可能性という幸せな夢を見せているので、相手には強く言えないが、決して誰かに覗き見されて嬉しいような記憶ではない。きっと、誰もが封じ込めていたい悲しい記憶。それは召喚者とて人間とて代わらずに存在するものだ。


「まぁ、そんなの関係ないか……」


 ローネは他人に何をされてもどうでもいいと考えている。ただ、役に立てればいいのだ。そのためならば何だって躊躇なくやってみせると心に決めている。それがローネの思い。


 楽しくは無い、けど幸せな生活をするためには必要だったのだ。


「あ……感覚が消えていく……」


 誰かに覗き見されていたような感覚は潮のようにゆっくりと引いていく。そして、完全になくなり、昔に起こった辛い思い出を頭の隅で完全に消化しようと思った時、覗き見されていたことなど気にならないほどの異変がローネを襲う。


「そんな……」


 ローネは見せていた可能性という幸せな夢が、崩壊する。それも、先ほど海人が気が付いた時とは違い、三人同時に世界が崩壊するのだ。


「どうして……」


 魔力を込めて夢を改ざんしようとする。しかし、夢の崩壊は全く止まらない。そんなことは今までになかったローネに成すすべはなく、そうして世界は完全に崩壊してしまった。






*********







 幸せな夢を見ていた海人。それは凜奈と恋人同士になり、幸せな生活を送るといった何気ない日常を描いた夢だった。海人何度も違和感を感じながらも凜奈の笑顔に誤魔化されていた。そして、誤魔化されると嘘のようにその記憶が消える改ぜんを受けていた。


そして海人は部屋に居た。


 隣には凜奈が座っている。俺達は学園に終わりに、二人しか居ない部屋で恋人との時間を過ごしていた。外では幼馴染として接していうが、凜奈が満足しないので毎日部屋で恋人との時間を取っている。


 俺達は幸せだった。昔から近くに居た幼馴染と恋人同士になることができて。外見はもちろんのこと、性格も良く、お互いにいい所も悪いところ、癖ですら知り尽くしている俺達は幼馴染の時から距離が近すぎた。けど、恋人になることでさらに距離が近くなった。幼馴染では出来なかったことがたくさんできるようになり、通じ合えるようになった。


「海人……」


 潤んだ瞳。近くに居るため凜奈の甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「凜奈……」


 二人は近づき、何回したかわかないキスをしようとした……が、そこで世界が崩壊し始めた。そして気が付いてしまう。この世界はローネが見せている夢で、先ほどから体験していた幸せは全てもらったものだと。


 世界は淡い光に包まれ、そして気が付くと魔術閉鎖空間に寝ていた。


 俺は立ち上がり、ローネを見た。なぜだかわからないが、ローネはひどく驚いた顔をしていた。俺が目覚めたことでなく、白雪や凜奈も夢から目覚めている事実に。


「どうなっているの?」


 ローネがそう言葉を発した。だが、俺と凜奈は首を傾げるだけだった。


 しかし、白雪は何も反応がない。だが、空気だけは戦う前より遥かに重い。何かを抱えているような雰囲気を感じる。絶対に白雪は何かを知っているのだと悟った。


「どうして私の世界が……」


 ローネの夢は単純に破壊された訳ではない。根本的に、土台から破壊されたのだ。そしてそうなると、一度見せた者に夢を見せるのは困難なものとなる。


「私が壊したから……根本的にね」


「そんな、一体どうやって!私の能力なのにどうして!」


「あなたの記憶に干渉したから、そして知った。この世界がどうやって造られたか。どうしてあなたは私達に幸せな夢しか見せないのか……」


 白雪の言葉に黙ってしまったローネ。俺と凜奈は一体何を言っているのか理解も出来ないが、二人には理解出来るようだ。


「あたは、昔辛い思いをした……家族がいながら」


 その言葉にローネの顔が歪む。思い出したくなかったことを思い出したかのような顔に。


「さっき、見られている感覚があったのは、白雪だったのね……本当にすごいですわ」


「すごいのはあなたの方よ。良く、あんな体験して生きていたわね?尊敬するわ」


「……何がいいたいの?」


「言葉通りよ。本当に尊敬しているのよ」


 ローネの空気がだんだん変っていくのを感じる。殺気が強く鋭く尖っていく。


「あなたはつらい思いをした。かわいそう。そのせいで見せる夢は幸せな夢になる。辛い出来事なんて自分に関係なくても見るのが辛いから」


白雪が何を言っているのかはたぶん、ローネ以外わからないだろう。白雪はローネの夢の世界に居たことによって、その世界の本質に触れたのだろう

。だから、みんな夢から出られた。


「だけど、その幸せな夢すらも辛い。見ていられない。けど、見ずに入られない。逃げているから」


 ローネの殺気が刃物のように鋭くなる。俺と凜奈はだんだん警戒を強めるが、尚、白雪は無防備なまま話す。ローネを追い詰めるように。


「幸せな夢に逃げた。何もせずに父親を殺し、母親が死んだことも父親のせいにする。自分達は被害者ずらで」


「だ……ま、れ」


「だから何も変えようとせずに、両親が居ただけで幸せだということに気付かなかった!自分達が諦めたから何も変えられずに、ただ、逃げ場を作るために父親を殺し!あなた達は一人だけ味方だった母親さへ殺した!!」


「黙れ!!!!!!」


 今まで聞いたことが無い叫び声と共にローネの足元に魔法陣が浮かび上がる。そして、その姿を見ていた海人、白雪、凜奈は同時に察した。ローネが一つ高みに上ろうとしていると。


「あ、お前に私達の何がわかる!!!!!」


 白雪がローネの夢で見た光景は本当のように見せた夢だった。父親に様々なことをされたという事実はまぐれも無い真実だったが、どうして母親が死んだのかという最も大事な部分に嘘が混ぜられていたのだった。


 母親は幸せを掴みかけていた所を再び父親に邪魔をされたから、我慢しきれずに死ぬように見せていたが、あれこそが嘘だった。


 母親はその時、ローネの傍には居なかった。一人で二人の子供を育てなければならなかったのだ。そんな仕事を休んでいる暇などそうそうなかった。ただ、事実としては、ローネ達は父親にひどいことをされた。離婚した後、たまたま出合ったことによって。


 そこで召喚者として覚醒した二人。そして父親の連れと父親を殺し、そして何度も泣き叫んで助けを呼んだ。何度も母親の名前を呼んで助けてと叫んだのに助けてくれなかった。そんな母親を……唯一二人の味方だった母親を殺した本人がローネだった。


 二人のために一生懸命働いていた母親を一時の怒りのみで殺してしまった。ローネは後悔した。人間として普通に生きている時からいつも味方だった母親を殺してしまったのだから無理はない。そして、失ってさらに気が付く。どれだけ母親という存在をつらい現実の逃げ場にしていたのか。


「だからあなたの〝風読み〟としての能力は幸せな夢しか見れないようになった。本来は悪夢を見せる能力なのに!あなたは、自分が出来なかった幸せを他人に見せて逃げ場にしているだけ!!」


 足元に広がる魔法陣。高速に回転して淡い光を放っている。だが、なかなかローネは詠唱を唱えない。


「どういうことだ……?」


 俺はローネを凝視していた。顔を歪がせて全身から血が出ている。俺が第二次開放セカンドアクセスを使った時はすんなり使うことが出来たのに。今のローネのように痛みなどまるで感じなかった。だた、そうなるようにとしか感じなかった。


「当たり前よ。まだ、第二次開放セカンドアクセスが使えるような実力じゃないわ。私達に勝つために無理やり開こうとしているのと、より強い夢に逃げようとしているだけ。このまま自爆するわ」


 白雪はただつまらなさように言った。ローネのことを完全に敵として認識している様子だった。


 ローネの全身から血が噴出す。無理やり開いた扉はもうとまらない。白雪が言った通り、ただ自爆するだけだった……刹那。


「もういい……後は俺の出番だ……」


 魔術閉鎖空間内に声が響いた。それはどこから聞こえたかもわからない声だった。ただ、まるで頭の中に勝手に入ってくるようだと、俺は感じた。そして、声と共に魔術閉鎖空間内に一人の召喚者が入りこんだことを。


 そして、声がした瞬間、暴走していたローネが止まり、その横には黒髪の黒いマントをつけた男が立っていた。その男はただ、楽しそうに笑みを浮べているだけだった。


 だが、海人達は感じていた。その者から感じる絶対的な力の差を。今の自分達が三人で束で掛かろうが、絶対に勝てないことを感じていた。


『こいつ……』


『うむ……これは……』


 俺と白雪の魔法から声が聞こえた。ローとサクも感じたようだ。正面に居る男の力を。今のまま戦っても数秒で殺されるという事実を。


「よくも妹に手を出したな……といいたいところだが、お前達のおかげでローネは第二次開放セカンドアクセス発動のきっかけを得た。だから今回は殺すつもりはないが……それでも掛かってくるというのなら殺さない程度に相手はするが……」


 この男は俺達より遥か上に居る。傍で対峙しているだけでわかる。魔力の総量が違うなどというレベルではなく、初期ステータスで裏ボスに挑むより遥かに勝率が低い戦いになる。


「お前は一体誰だ?」


 今は勝てる可能性がゼロに等しいが、いずれ戦うことになるという直感が言っている。そして、俺達がほしい魔術蒼石マテリアルブルーを持っているという確証を。


「俺か?うーん……しいていえば、英雄派のリーダーの英雄ジークフリードといって置こう。世界という枷から人々を救済するためにこの戦争に参加している。悲しい世界から開放するために……」


 そして男は楽しそうに笑う。こいつは俺達を敵とは思っていない。なぜなら殺ろうとすればいつでも、一瞬で出来るためだ。そんなのを敵と認識などしていなくても当たり前だ。


 事実、俺達は英雄ジークフリードには勝てない。けど……。


「海人……」


 白雪が視線を送ってくる。そう、絶対に勝てない。だが、魔術蒼石マテリアルブルーを持っている相手ならば仕方ない。


 俺達は武器を構える。そして、英雄には最善の注意を払いながら、ローネを狙うことにする。今は手にこだわっている暇ではない。こちらは一瞬で殺される可能性があるのだから。


「力ためしかい?いいだろう……」


 そっと柄から剣を抜く英雄。そして最後まで抜ききる前に背後にあった学園や、周囲にあった建物、そして地面までもが全て断裂する。魔力を使わないで、ただ純粋な力だけで全てを斬ったのだ。


 俺達は何が起こったのか理解出来なかった。そして口を開けたまま全く動けなかった。そして、少しすると地面がずれ始め、地震のように大きな揺れを感じながら足場が無くなる。


「嘘……でしょ?……」


 凜奈が恐怖が混じったような声で呟いた。しかし、それは嘘ではなく、ただ単純に、三人と英雄の力を差を示しただけだった。


 断裂した地面に悠々と立っている英雄は何事もなかったかのように嫌な笑みを浮べていた。


「絶対に勝てないよ、今の君達じゃ。魔力を使わないでも十秒あれば殺せる。だから、これ以上攻撃しないでほしい。でないと、手加減しても殺してしまう可能性があるから」


 英雄の言葉に誰も言い返せなかった。なぜらな誰もがそのことに気が付いているからだ。絶対に勝てないと。


 俺や白雪に凜奈は戦意が完全にそがれた。そして、自分の願いを叶えるためには、果てしなく高い壁を越えなくてはならない事実を知った。


「ふっ。まぁ、仕方ないよ。でも、俺は楽しみにしているから」


 そう言い終わると嫌な笑みを浮べて姿を消した。それと同時に魔術閉鎖空間が解け、体育祭、結果発表という現実に戻っていた。


「二位は……」


 校長がゆっくり読み上げる。だが、俺は全く声が耳に入ってこなかった。それどころかどうでもよくなっていた。ただ、英雄の圧倒的な強さを感じたことによって恐怖している。現実に帰ってきた今でも、忘れることが出来ないほどの魔力と、実力の差。


 俺達が何をしようと勝てないと思い知らされた相手。


「三年生です!そして一位は二年生です!!」


 俺達の学年が優勝になったとたん、大きな拍手とやった!!という大きな声が響くが、俺達は英雄と名乗った男のことで頭が一杯だった。




読んでくださってありがとうごいます!!

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