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風読み

ローネが狂気の笑みを受けべた。


 そして、瞬間で世界は変化する。まるで時間を越えたみたいに。


 目の前が光輝く。眩しくて何も見えない先に一つの可能性が見えたような気がした、それはきっとありえない可能性ではなく、もしかしたらありえたかも知れない可能性の数々。それが、光の中で過ぎていく。


 気が付くと一つの可能性が大きくなり、そして俺は意識を失った。






********






俺は朝、目を覚ました。いや、厳密には目を覚まさせてもらった。可愛くて大切な幼馴染に。そして今は幼馴染であると同時に将来を誓いあった恋人同士と言う関係だ。


 そんな朝弱い俺をおこしてくれたのは亜麻色の髪をした小柄な女の子。ウィン・ローネと言う名前の大切な幼馴染だった。外国人のような名前だが、ローネは海外で生まれて日本で育った。幼稚園の時に知り合って、家が近所ということから俺達は急速に仲良くなり、中学三年の卒業式に告白されて付き合うことになった。


「海人、朝だよ?起きないと遅刻するよ?それとも……起きないとキスするよ?」


 その言葉に俺は勢い良く体を起して、ベットから出た。慌てている俺の様子を見ながらローネは楽しそうに笑っている。ローネを可愛らしい笑顔をみて俺も自然と頬が緩んだ。


「おはよう、海人」


「ああ。おはようローネ」


 朝一の挨拶をした俺達は笑顔で微笑みあった。小さい頃から近くにいたローネは恋人として付き合っていくようになるとますます可愛くなっていた。俺なんかにはもったいないほどに可愛く素直だった。


「少しだけ待ってくれ。今から朝食を作るから」


「はーい」


 俺の幼馴染は勉強も出来、スポーツなども出来るが料理などといった家事全般が全滅だ。なので俺が毎日三食を作るしかないのだ。


 ローネはダンボール机に座りテレビを見ている。そして俺は愛用の花柄のエプロンをつけると違和感が襲う。


(あれ……俺ってこうして台所に立ったことってあるっけ?)


 毎朝、ローネのために台所で料理を作っている俺は妙な感覚を覚えた。俺は料理など全然出来なくて、いつも皿を運んだり、皿を洗ったりばかりをしていて、料理するのはもっと違う奴で、俺は今ローネが座っている場所に居るはずだという強い感覚。


 しかし、俺が料理をしなければ一体誰が料理をしてるんだ?ローネに作らせたりなどしたら食材がもったいない。部屋がいくらあってもたりない。それぐらいへたくそなローネが料理など出来る訳がない。


(まぁ、気のせいだろう……)


変な感覚を振り切り、俺はいつも通りに料理を始める。出来上がるとお皿に盛り付けて机の上に置いた。


「遅い!お腹すいた!!」


 机の上に置いた瞬間、持っていた箸で食べようとするローネにチョップを食らわした。


「俺の準備が出来るまでは待て」


 頭を撫でながら言うと気持ち良さそうに目を細めたローネ。少し蕩けた顔が妙に可愛く、ずっと見ていたいほどだった。


「むぅ。撫ですぎだよ!髪がぐしゃぐしゃになっちゃう!」


 撫でている手から逃れるように体を逸らすローネ。毎日時間を掛けてセットしている髪は、先ほどの面影はなく、寝起きのようになっていた。


「だったら我慢して待ってろ」


 俺はエプロンを脱いで、お椀にご飯を盛り付けて座布団に座った。ローネとは正面で向き合うように座る。ご飯を食べているローネをばっちり観察出来るので、なかなかいい位置だ。


「もう食べていい?」


「ああ。いいぞ」


 満面の笑顔になったローネは両手を胸の前で揃えて言った。


「いただきます!」


 その声にあわせて俺も「いただきます」と口にした。がっついて食べるローネを見ながら食べる朝食はとてもおいしかった。俺達は今、幸せな毎日を送っている。


 食べ終わると洗面台で歯磨きやぐちゃぐちゃになった髪をセットしたローネは、少しの時間だが、テレビのニュースを見ている。ローネが自分からニュースを見ることは珍しいので俺も驚いている。


「ねぇ、海人?ここって近所じゃない?」


 テレビに映っているのは森の奥にある廃墟になった工場だった。だが、俺が知っている工場とは違い、何か大きな災害があったかのように粉々に粉砕している。周囲も良く見れば凍っている所や真っ二つになっている所。炎が燃え上がったかのようなほど燃えて灰になっている場所など、これが本当に昨日の夜にあったことなのかと疑いたくなる。


「何があったんだろうね?」


「それは、あれだ……召ーー」


 俺は今おかしなことを口にしそうになった。そんなアニメのような話がある訳がない。ここは現実で想像の世界なのではないのだから。


(けど、引っかかる。馬鹿らしいことなのにそれが全く否定できないのだ。何か間違っていると体が言っている……)


「どうしたの?海人。何か難しい顔してるけど」


「いや、なんでもない。きっと勘違いだ」


 そう、勘違いだ。俺達の世界にはそんな存在は居ないし、居たとしても俺達にはまるで関係ない。このまま二人で普通の生活をして幸せな人生にするのだから。


「そう?それならいいけど……まさかエッチなこと考えてた?」


「今はそんなこと考えてない!」


「今はってことは、考えてる時もあるんだね?エッチ……」


 どうやら墓穴を掘ったらしい。俺だって男なのでエロいことなどは色々考えていることもある。でも、決して他の人で考えている訳でもなく、ちゃんとロ

ーネで考えているので別に問題はないはずだ。それに今更それぐらいで気にするような仲ではない。


「ま、別にいいけどねー。海人がエッチなんて知ってたし……それより、そろそろ学園へ行こうよ。少し早いけど、ゆっくり歩きながら行けばちょうどいい時間になるよ」


「ああ。そうだな」


 寮から学園までは五分ほどだが、ゆっくり話しながら歩けばちょうどいい時間になるだろう。手を繋いだりしながら。


 俺達は学園に行く準備をしてから、鞄を持って部屋を出る。寮の廊下をゆっくり歩き、寮を出てからも二人で会話をしながら時間を掛けて学園まで行く。俺は本当に幸せだった。ローネと繋いだ手が柔らかく、暖かい。俺の心も温かい。


 学園に到着するとダンボールを抱えた少女が居た。名前は知らないが、制服から見るに一個下の一年生だろう。身長が小さな女の子が大きなダンボールを抱えながら危なっかしく歩いている。時々、他の生徒にあたりそうになりながら。


「どうしたの?早く行こうよ!」


「あ、ああ……」


 手を引いて歩き出すローネに引きずられるよな感じで教室に着いた。クラスメイト達はいつも通り挨拶をしてくれて昨日と何もかわらない俺の日常そのものだった。だが、先ほど見た女の子に違和感を感じた。


(俺って……こんなにひどいやつだっけ?)


 女の子を見た時、俺はなぜだか知らないが、手伝わなくてはならないと感じた。隣に彼女のローネが居るにも関わらず、他の女の子を優先しようとしたのだ。


 だが、前にもこんなことがあったが、許してくれたはずだ。ダンボールを抱えた女の子を二人で居るのにも関わらず、優先させたことが。


 瞬間、見知らぬ光景が流れ出す。ダンボールを抱えた女の子とその横に居る黒髪の幼馴染。幼馴染に鞄を渡して他の女の子を優先させたにも関わらず、少し嬉しそうにしていたローネとは別の女の子の姿。知らない子のはずなのに妙に懐かしい。


「っ!……海人!」


「っ!」


 大きな声と共に少しだけ肩を叩かれたことに気付き、振り返るとローネが心配そうな顔をしていた。


「ど、どうしたんだ?」


「海人こそどうしたの?扉の前で立ってると邪魔になるよ?」


 俺はローネの言葉で初めて自分が先ほどから一歩も動いてないことに気が付いた。何か考え事……いや、懐かしい気持ちになっていたはずだが、それがそうしてだが、全く思い出せない。


 まぁ、思い出せないことならそれほど大したことはないだろう。


「ああ。ごめん」


 教室に入り、鞄を横に掛けて席に座った。俺の席は一番後ろから二番目の位置。絶好の場所だ。


 同じく、ローネも自席に座る。ローネの席は……。


「ローネの席って、前じゃなかったけ?」


 後ろの席に座ろうとするローネにそんなことを口にした。なぜかは理解出来ないが、そうではないかと確信があったからだ。


「私の席は後ろだよ?昨日だって後ろに座ってたでしょ?」


 昨日のことを思い出してみると、確かにローネは後ろの席に座っていた。授業中に手紙など送ってきたり、背中を突っついたりと色々ちょっかいを掛けていた記憶がある。


「そうだった……ごめん」


「いいけど……本当に大丈夫?」


「ああ。たぶん、まだ寝ぼけているんだろう」


 目は完璧に覚めていたが、こんな間違いをするということは自分が気付かないだけで、実際は寝ぼけているのだろう。そう納得させた所でHR開始のチャイムが鳴ると同時に先生が教室に入ってきた。


 相変わらず白い白衣を着ている水瀬先生は出席確認をし終わると、楽しげに笑い口を開いた。


「今まで黙っていたが、今日このクラスに転校生がやってくる。可愛い女の子だ」


 その言葉に男子達がザワザワし始める。このクラスで一番可愛いローネは俺の彼女なのでみんな手を出せないなど言っていたので、女の子に飢えているからだ。


「静かにしろ。それでは入れ」


 教室の扉が開くとみんな言葉を失った。ザワザワしていた男子達もどんな子かな?とか会話をしていた女子も入ってきた女の子の可愛さに言葉を失ったのだ。もちろん俺も例外ではなく、言葉を失った。だが、可愛いからという理由ではなく、もっと違うことでだ。


 教室に入ってきたのは腰まで伸びた黒髪を持っている子だった。綺麗な髪は歩くたびになびき、その存在感を発揮している。瞳は大きく海のような蒼い色をしていた。


「急に静かになったな……まぁ、これだけ可愛い子なら無理はないか……」


「そんなことないですよ」


 女の子は声も透き通っていた。静かな教室ではさらに響き、俺達の耳に入る。この声も聞いたことがある。それもずっと昔から傍で聞いていたことがあるはずの声だった。


「仕方ない……自己紹介をしろ」


「はい……」


 女の子は少し緊張した様子で教卓の前に立ち、大きく深呼吸をした。そして、口を開こうとした瞬間、俺が口を開いた。


「凜奈……」


「え?」


 凜奈は突然名前を呼ばれたことに驚いたようだった。水瀬先生もクラスメイトも俺を見ている。


「どうして私の名前を……?」


「知っているの決まってるだろ?」


 その言葉に世界が薄く光出す。凜奈はさらに驚いた顔をしていた。そりゃそうか、この世界では俺と出会ってなかったんだから、初対面の人にそんなことを言われたら驚くに決まっている。


「夏目凜奈……どうして俺は思い出せなかったんだ?」


 いつも傍に居たのはローネではなく凜奈だった。小さい頃から仲良く遊んでいたのもローネではなく凜奈。それを自覚すると本格的に世界は崩壊を始めて

、薄く光っていた光は太陽のように眩しくなっていく。周囲にいたクラスメイトは完全に姿を消していた。


 そう、ここはローネが見せていた世界。ここは俺の過ごす現実ではない。


「夏目凜奈……俺の幼馴染だ!」


 目の前が真っ白になり、世界が完全に崩壊する。そして俺が生きる現実に帰る。願いを叶えるために。






********







 目を覚ますと俺は魔術閉鎖空間イージスの中に居た。どうやらローネの世界から抜け出して現実に帰ってきたようだ。


「やっぱり相性の問題かしら?起きるのが早すぎるわ。一日は持つと思ったのにまさか一時間も見せられないなんて……けど、私が倒すべき敵は一人になったわけだけど」


 その言葉通り、白雪と凜奈は地面に倒れて眠っている。呼吸はしているようなので死んではいないようだ。


「俺達に一体何をしたんだ?」


「海人だって気が着ついているでしょ?あれは夢よ」


「それがローネの能力なのか?」


「ええ、そうよ。可能性を導き出して夢を見せることが出来るのよ」


 可能性……俺と凜奈が出会わずにローネと幼馴染になり、そして恋人になる可能性。俺が見ていた夢はそういう夢だったのだろう。


『相棒、あいつは〝風読み〟だ。相棒にはそれほど効果はないが、ほかの連中はそうはいかない』


「さすが、魔女狩りね?それほど有名ではない〝風読み〟も知ってるだなんて」


『知ってるさ。先代と共に戦っていたからな』


「なるほどね……」


ローネは納得したように呟いた。ローネの先代もこの願いを叶える戦争に参加していたわけだ。


「そんなことはどうでもいい。ローネの望みは一体何だ?」


「そんなこと言わないでもわかるでしょ?元から持っている奴と魔女から取った魔術蒼石マテリアルブルーを奪うためにきたのよ。あなた達を殺してね」


 ローネは明確な殺気を込める。しかし、それは魔女や白雪ほどではない。つまりそういうことだ。


「あきらめろ……普通に戦ってもローネでは勝てない」


 ローネはそういう可能性を見せることは出来ても戦闘向きではない。第二次開放セカンドアクセスまで使える俺とは正面からぶつかっても勝てない。それに〝風読み〟の能力は俺の魔女狩りと相性が悪い。魔力を使って可能性を見せるので魔力を狩ることが出来る俺とは相性が悪いのだ。


「そんなのわからないじゃない?例えば、私が持っている矢で白雪や凜奈を討てば、海人が動く前に殺すことが出来るわ。無防備に寝ている二人なら簡単にね」


 確かに普通の召喚者ならそうだろう。寝ている相手を殺すことなど実に簡単で、動かない的を至近距離から攻撃するだけなのだから。しかし、俺は一つの確証を持って言う。


「それも無理だ。なぜならローネはそうしなかったからだ」


 可能性を見せられている俺達はこうして生きている。もし、殺すことが出来るのなら俺達はとっくに死んでいて、今頃魔術蒼石はローネの手に渡っているはずだからだ。


「そうよ。出来ないわ。まぁ、それぐらい普通に考えればわかるけど」


 そう言いながらローネは矢を白雪に放った。ゆっくりと動く矢は白雪に当たる直前で何事もなかったかのように綺麗に消える。可能性を見せているローネは見せている相手に物理的攻撃を仕掛けることが出来ないのだ。


「でも、他の召喚者なら出来るわよ?」


 そう、ローネが出来ないだけで、他の召喚者なら可能性を直接見せていないので殺すことは簡単だ。もし、ローネ以外に召喚者が居ればの話だが。


「けど、今はここに居る召喚者以外はいない。魔力を敏感に感じる俺だから確証を持って言える」


 魔女狩りは魔力という概念を切り裂くための剣だ。その魔女狩りを使う本人も剣に影響されて魔力反応にかなり敏感になる。その俺の感覚が、ここに居る召喚者以外の魔力を察知していない。なので、この魔術閉鎖空間イージスには四人しか居ない。


「そうね。だって私一人しかいないもん」


 どちらかというと不利なのはローネの方なのに余裕を隠せない話かた。もしかしたら何か奥の手でもあるのではないかと警戒を強めた。そしてローネは俺の気持ちを汲んだかのようにゆっくりと矢を構えて、放とうとした瞬間、俺は駆け出した。


 戦闘向きではないローネより確実に俺の方が早い。あの矢は不思議な感じがするが、先ほどの速度であれば白雪の攻撃に比べると止まっているに等しいので簡単に避けることが出来る。


 ローネのと距離が残り半分になった瞬間、俺は誤解をしていたとこに気が付く。先ほどまでゆっくりだった矢は先ほどの比ではない速度で迫り、完全に油断していた俺には完全に避けきることが出来なかった。


 体を捻ることで何とか回避したが、回避されたというのにローネは楽しそうな笑みを浮べていた。


「何がそんなに面白いんだ?」


「面白いに決まってるじゃない?何とか回避できたって安心してる海人を見るのは、楽しいわよ」


 瞬間、俺の体が急に軽くなる感覚と共に、目の前に眩い光が放たれていた。これは、可能性を見せられた時と同じ現象。


「どうして……」


 矢かん完全に回避したし、魔力の反応もなかった。


「海人は勘違いをしているのよ?」


「勘違いだと……?」


「ええ、そうよ。私の矢に当たらなければ可能性を見せなれないっていう勘違いをしている。直接あたったほうが、強い威力を出せるのは違いないけど、海人の周囲にあった空気に当たるだけで、〝風読み〟の能力は発揮されるわ。私は、周囲にある風を読んで、可能性を見せることが出来るんだもの」


 目の前は先ほどの比ではないほどに光輝く。


「お休み海人。楽しい可能性を……」


 再び世界は変る。

 





















 



 

読んでくださってありがとうございます!今日からまきちゃんのイベントが始まりました!頑張ります!!

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