競技
白雪とウィン・ローネが転校してきて初日。二人の席は俺の近くに決まった。白雪が隣でウィン・ローネが前。そして前から後ろにいた凜奈と四方を可愛い女の子に囲まれるという普通の高校生なら嬉恥ずかしの展開になったが、俺は嬉しくも恥ずかしくもなくただ、居心地の悪さだけが俺の中を支配していた。
実際は教室の男子から物凄い殺気を受けて囲居心地の悪さを感じているのだ。凜奈は学校中に仲の良さが伝わっているので今更だが、白雪とウィン・ローネはみんなからしたら初めての出会いのはずだ。実際、俺だってウィン・ローネは初対面だし、全く知らない人だ。白雪は約束を結んだ相手なので知り合いだが、みんなは二人とも初対面なのだ。
容姿だけならその辺には居ないであろう可愛さの三人に囲まれて居る俺は転校生を期待していたクラスメイトの男子からしたら全く面白いことではないだろう。
「それじゃ、席も決まったしHRを終わる」
先生はこの空気を感じているはずなのに何も触れないで教室を後にした。その瞬間、白雪とウィン・ローネが俺の目の前にやってきた。
「どう海人?似合う?」
なにやら上機嫌の白雪は制服のスカートをなびかせながらくるりっと一回転して、俺に感想を仰ぐような目で見つめてきた。その瞳は召喚者として接している白雪の時のように鋭い視線ではなく、どこにでも居そうな女の子の視線だった。素直に言えば可愛い。
「ああ。似合ってるよ」
お世辞でもなんでもなく可愛いし似合っていた。身長が低いため高校生には見えないが、それとこれとは関係なく可愛い。
「それにウィン・ローネもよく似合ってるよ」
先ほどから同じ台詞を言ってほしそうな顔をしていたので言った。この台詞にもお世辞は全く無く、白雪より少し大きいぐらいなので高校生には見えないが、それとこれとは関係なく似合っている。
「ありがとう♪」
「ありがとうございます。それと私のことはウィン・ローネではなく、ローネと読んでください。じゃないと拗ねますよ?」
少しだけ頬を膨らませたローネは可愛かった。それど同時に留学生なのに日本語が妙にうまいなぁーと口に出さずに思った。
「ねぇ!私は海人!?」
二人の転校生に割り込むように入ってきた凜奈は、スカートの裾を持ち上げて、くるりっと一回転した。一年半ほど見ていた凜奈の制服姿に今頃感想を言う必要は感じないが、言わなければローネと違って本気で拗ねそうなので言う。
「……凜奈も似合ってるよ」
「その間は一体何なの?まぁ、いいけど……ありがと」
にっこりと笑みを浮べる凜奈は可愛かった。今日の夜ご飯はたぶん豪華なものか、俺の好きなおかずになるだろう。それを狙ったわけではないが、そんな気がする。
「それよりも、今日のお昼は皆さんと一緒に食べてもいいですか?私はお弁当なので学食には行かないので……」
ローネが控えめな様子で口にした。転校初日なので仲の良い人が居ないのでこのままだとお昼に一人ぼっちなどという展開が待ち受けていそうだ。まぁ、容姿がいいから一人で食べていてもクラスメイトなどが声を掛けてくれると思うが、転校初日にローネがこうして声を掛けてくれているのだから断る理由などない。
「俺はいいけど」
俺が白雪と凜奈のほうに顔を向けた。
「私はいいよ。新しい友達が出来てうれしいし」
「二人がいいなら別にいいわよ」
「っと、言う訳だ。一緒に食べようか?」
「はい!ありがとうございます!」
こうして俺達は一緒にお昼ご飯を食べるや約束をした。それと同時に授業開始を告げるチャイムが鳴り響くと同時に先生が入ってきたので、各自自分の席に座ったが、前の席で何やらローネが慌てた様子だった。そして後ろを振り向いたローネは少しだけ涙目だった。そして俺は直ぐに察することが出来た。
転校初日なのでまだ教科書などが届いていないようだ。困った顔で俺を見ているが、隣なら席を近づけて見せることができるが、前の席なのでそういうことが出来ない。そんなことを考えていると、後ろから背中を軽く叩かれて、振り返ると凜奈が教科書を一冊俺に差し出した。
「私のをローネちゃんに貸して上げて」
「それじゃ、凜奈はどうするんだ?」
「私は見せて貰うから」
そう言うと隣の席に座っている女の子に事情を説明すると、机を近づけて教科書を見せて貰う凜奈。そして、説明してローネに教科書を渡し、受け取ったローネは小さな声で言った。
「ありがとうございます、凜奈さん」
「いいよ、気にしないで」
こういう時の凜奈の行動力は人一倍早い。それにクラスの中で人気のある凜奈が見せてと言ったら誰も断れない。本人はそれを自覚してやっていないのだから尊敬する。
それから何事も無く授業は始まったが、開始十分ほどで隣の席に居る白雪がノックダウンした。机に体を預けて可愛らしい吐息を吐きながら寝ている様子だ。そういう俺も既に眠たい。たぶん、もう十分ぐらい経つと白雪と同じく夢の住人になっているだろう。
だが、それにしても早すぎるだろう。授業が退屈なのは知っているけど、ノートも教科書も用意できないとしても、俺に見せろとか言えば普通に見せるのに、初めから授業を受けるつもりがなかったかのように寝てるし。
そんなことを考えながら英語のノートを取っていると、限界が来た。ローネは黒板に書かれている文字を一生懸命ノートに写しているのに俺はそんな様子を見ながら睡魔に勝てずに、白雪同様に机に体を預けて眠りに付いた。
その時、どうして留学生なのに英語を必死に勉強しているのかと疑問に思いながら。
*********
無事に授業を睡眠時間に当てた俺と白雪は空腹で目を覚ました。気が付いたら昼休みになっていおり、さすがに寝すぎたと思いながら弁当を取り出した。
凜奈は白雪のお弁当を作ってなかったのですぐに購買に行き、パンを買ってくるといって走りだした。もちろん人並みの速度で。
「あの子どうして購買の場所知ってるの?」
「さぁ?」
「私の同じく転校初日なのにすごいです!」
どうして購買の場所を知っているかとい話は白雪が帰ってきたらすぐに終わり、落ち着いて食べられる場所という訳で、屋上より比較的に人が少ない中庭に足を運んだ。
中庭にはベンチが多く置いてあるし、花壇などにたくさんの花が植えられていて綺麗なので女の子には人気の場所だ。後、カップルなどでよく来ることがある場所だ。なので一人きりで食べるには絶対に来ない場所としても有名で、屋上の次に人気がある場所だ。
隅のほうに空いているベンチが一つだけあったので、そこで食べることにした。そこは花壇から少しだけ距離があるので俺達以外は誰も居ない。なので、静かにゆっくり話しながら食べられそうだった。
俺達はベンチに座り、お弁当を食べることになった。周りがみんな可愛い子ばかりなので人が少ない場所を選んだのだが、妙に視線を感じて居心地が悪いが、他のメンバーはそんなこと気にしていない様子だった。
ローネは召喚者の気配がないので一般人だから視線などは気付きにくいかもしれないが、凜奈と白雪は普段隠していても召喚者として覚醒しているので周りの空気や視線などには鋭く敏感だ。それは俺も同じなので妙に気になるが、他の人などどうでもいいようにご飯を食べている。
女の子の二人が気にしていないのに俺だけそわそわしているのは変なので、ここは気にしないようにする。
しばらく無言で食べていたが、凜奈が空気に耐えられなくなったのか口を開いた。
「ローネちゃんって留学生なんでしょ?」
「はい!そういうことになっていますけど、ほとんど日本で生活していたので日本語は得意ですよ。海外に住んでいたのは三年ほどですから」
「海外で生まれて、日本で暮らしてまた海外に行って、日本に帰ってきたってこと?」
「そうです。親の仕事の関係でそういうことが多くて……」
親の仕事関係とか生で初めて聞いた。アニメなどでは良く聞くことばだけど、こうして現実でそんな話があるんだ、と思っていたら不意に白雪がこちらに視線を向けた。
初めは気のせいだと思っていたのだが、じーっと見つめられているので俺は白雪に視線を向けた。
すると驚いたように視線を外し、小さな口で可愛らしくパンをかじっている。
(一体どうしたんだ?)
気になったが、ここでは言えない話かもしれないから聞かないで置く。召喚者のことならローネが居るから絶対に話すことは出来ないだろうし、俺の部屋に戻ったら聞くことにする。
「それでローネはどこから来たの?」
「私は小さな島から着ました……国の名前をたぶん言ってもわからないと思います……」
少し悲しげに話すローネからは何やら重い事情があるように感じられた。決して俺達には言えないような内容なのだろう。
凜奈もそれを察したのか、国の名前は気になっている様子だが深く聞かないようにしたようだった。どうして凜奈がクラスメイトだけではなく、他のクラスからも人気があるのか少しだけわかったような気がした。
「そうんなことより、早く食べないと昼休み?が終わよ?」
白雪のその言葉に時計に目を向けると昼休みの半分の時間が経過していた。白雪のパンを買いにいくのを待ったり、中庭に行くときの移動時間で時間を取られたようだった。
ちなみに白雪は大量に買ってきていたパンを既に食べ終わっていた。女の子が食べれる量ではないのに白雪は簡単に食べ終わってしまっていた。あんな小さな体のどこに入るのだろうか?
そんなことを気にしながら俺はみんなと話しをしながら凜奈が作ったお弁当を食べ終わる。食べ終わっても、ローネのことを中心にして話をしているといつの間にか昼休みの終わりが近づいてきていた。
周囲を見渡すとさっきまで人が居たのに今はほとんど人が居なくなっていた。
「俺達もそろそろ戻ろうか?」
今から歩いて帰れば予鈴が鳴ることには教室に着くだろう。
「えー!私はまだお話したいです!」
拗ねたように言うローネ。小学生や中学生が拗ねたような感じがして妙に可愛い。
「でも、もうすぐ予鈴が鳴りそうだからお開きだね」
凜奈も時計に目を向けて言う。優等生で通っている凜奈はこういう時間には厳しい。きっちり予鈴がなると椅子に座ったりするほどだ。
「そうね。私もお昼食べてそろそろ眠たいし……教室に戻りたいわ」
何やら理由がおかしいが教室に戻ったほうがいいのは事実なので何も言わない。それに俺も事情が始まったら夢の中に旅立ってしまう可能性が極めて高いからだ。
「そういうことだ。話なら放課後とか、これからたくさん出来るだろ?短くても卒業までは一緒の学園に通うんだから」
初めて会った日にこうしてお弁当を食べているのだから、時間が経てばきっと仲のいい友達として居なれるだろう。この時の俺は本当にそう思っていた。
「……そうですね。まだ、時間はいっぱいあります!残念ですが、教室に戻りましょうか……」
そうして俺達は持ってきていたお弁当などを片付けて教室に戻る。戻っている途中もローネと凜奈は仲良く話をしていた。白雪もそこまで会話に参加しないが、時々口を挟むような感じで会話に参加していた。
そんな様子を見ながら俺は平和だと感じた。この前、潜り抜けた死線がまるで嘘のように。
そして先に教室に入っていくローネと凜奈。俺も続いて教室に入ろうと思ったら、手を捕まれて止められた。
「おい……どうしたんだ?」
そういえばさっきおかしな様子をしていた白雪。何やら話があるようだ。
「まだ油断しないでね?もしかすると私達を狙う召喚者かもしれないから……」
深刻そうな顔で言う白雪。どうやら冗談などではなく本気で言っているようだ。
俺達は周囲に聞こえない程度の声で会話をする。
「でも、そんな気配はないぞ?召喚者だったら直ぐに気付くはずだ」
白雪や凜奈などは近くに居るだけで召喚者だとわかる。召喚者になったことで相手がそうであるかないかの見分けが付くようになったからだ。だが、ローネからはそんな気配はまるでない。どう考えても一般人だ。
「私も疑ってる程度だから……召喚者じゃなくても、戦争に参加している召喚者の味方かもしれない」
「……その可能性もあるけど、別にそこまでしないだろ」
そんなことをするぐらいなら直接正面から襲い掛かってくるはずだ。
「私達はもうかなり有名になっているのよ?先代が勝者になったから先代と武器以外繋がりがない私達も。そこのところは覚えていてほしいわ。それほど背負った武器は有名なんだから」
百年前に行われた戦争で勝者になったのだから有名になって当たり前だ。しかし、魔女以外にいなかった森で戦ったのにもう広まっていることにはさすがに驚いたが……。
「みんな私達に興味があるのよ……どんな奴なのかって……だから、普通に話してもいいし、仲良くなってもいいけど、油断だけはしないで」
「ああ。わかった」
そうして予鈴が鳴り出した所で俺達は教室に入った。
それは六時間目が始まった時に言われた。
「あ、今日は体育祭の競技を決める日だった……転校生のことで忘れてた……だから今から体育祭で出る競技を決めるぞ。初め立候補で決める。出なかったら……」
急に言われた体育祭。去年はもっと遅い時期に開催したのでこの時期に体育祭をやるなんて予想もしてなかった。まぁ、去年は開催が遅かったので異様に寒かった。今年は夏休み前に体育祭をやるので今度は暑いが、寒いより暑いほうが体育祭って感じがする。
「それじゃ、競技の方を書いていく」
先生は黒板に体育祭の競技を書いていく。特におかしなものはなく、百メートル走や綱引きなどメジャーものから、小学生がやりそうな玉入れや騎馬戦など他にも様々な競技が書かれていく。生徒数が多い学園ではかなり大規模な体育際が開かれる。日にちは一日だけだが、人数が多いのでなにぶん物凄く盛り上がる。中学校の時の体育祭など比ではないほどに盛り上がるのだ。初めは驚いたが、今思えば去年も楽しかった。
そんなことを考えていると、後ろから背中を軽く叩かれ、振り返った。
「海人は何に出るの?やっぱり去年と同じ玉入れとか?」
「ああ。まぁ、簡単で楽な競技を選ぶよ」
体育祭は楽しかったが、別に本気でやる訳ではない。みんなが盛り上がっている空気に当てられて楽しく感じたのだろう。
「ふーん。私は何にしようかな……」
人差し指を顎にあてて考える凜奈から視線を外し、隣の席に座っている白雪に目を向けた。どうせ、体育祭など興味がない白雪は寝ているだろうと考えていたが、大きな瞳をぱっちり開けて目を輝かせていた。新しいおもちゃを買ってもらった子供のようなまぶしい顔だった。
どうやら白雪は体育祭を物凄く楽しみにしている様子だった。
俺の前に座っているローネも後ろからなので顔の表情は見えないが、白雪と同様で黒板を凝視しているので楽しみにしているのだろう。
「それなら初めは立候補で決めていく」
黒板に競技を書き終わった先生はこちらを向いて言った。立候補と言っても、一つずつ競技を読んでいって、その競技に参加したい人数を見るのだ。体育祭は各競技によって参加人数が決まっているので、初めから人数漏れがない競技はそのまま直ぐに決まる。
俺は玉入れに手を上げたのだが、俺と同じく楽をしたいがために玉入れを選んだ男子が多く、結局じゃんけんで決めることになった。
「……どうしてだ」
結局、凜奈は騎馬戦で、白雪とローネは玉入れ。そして俺は男子で一番盛り上がる百メートル走に決まった。
俺はじゃんけんで一番初めに負けた。
読んでくださってありがとうございます!!何事もない平和な日常はいつまで続くのでしょうか?




