過去 代償
久々の雨に村が歓喜に包まれる。まるで5年前にリーシャが生まれた時のように、あるいは大きな祭りが行われている時のような歓喜と賑わいに、村は包まれた。
枯渇していた池には水が溢れるように溜まり、枯れた大地に潤いを満たすかのように大粒の雨が降る。そして、村人を不安と苛立ちを洗い流すかのように雨は人々を濡らす。
二ヶ月ぶりの雨に人々は心の底から歓喜し、宴が始まったかのような気持ちの高ぶりだった。高齢者である老人なども雨が降ったことに歓喜し、まるで子供のような笑顔を浮かべていた。
それは勿論、マルクも同じだった。森から全力で駆けて来たマルクは本来雨で濡れることが嫌いだ。事実として良く雨が降るこの村では濡れることが好きな人は多くないが、今だけはこの瞬間だけは、雨の冷たさが心地よかった。
マルクが村に帰って来る頃には全身濡れていた。だが、全く気にならないマルクは初めに村の様子を見た。どこを見ても笑顔が溢れている事実から、今見ている光景が夢ではないことを実感した。
今まで何度も望んできて、何度も夢で見た光景が目の前で起こっている。今までは降るたびに憂鬱な気分になっていた雨……その雨が振っているという現状に、今だけは歓喜していた。この雨が降っているということに嬉しさを覚えていたのだ。
「家に帰らなくては!」
マルクは村の全力で駆け、自宅に居るであろうパリスとリーシャの様子を見に向かった。家庭を少ないお金でやりくりしていたパリスだから、雨が降っているという事実は嬉しい物だと思いながら村を駆ける。
空に手を掲げるようにしている村人達を避けながら自宅に向かう。村で今傘を差している者は誰一人として存在していない。村人がどれほど雨が降る日を望んでいたのか理解できる。
農業を生業にしている人が多く住んでいる村なのだから、雨が降らなければ……水が無ければどうすることも出来ない。今まで山の中ということもあり、頻繁に雨が降っていた村だったが、二ヶ月降らないと言う初めての自体に陥り、村人達は雨という存在の大切さを改めて理解することが出来た。
マルクもその中の一人で、しばらくは雨が降る度に感謝してしまうだろうと考えながら自宅に向かう。村は大きくないので、自宅まで直ぐにたどり着いてしまう。
だが、自宅に帰る間に村人に何度も何度も話しかけられ、中々帰ることが出来ない状態だった。それほどに村人たちが雨が降った事実に歓喜していることは理解できるのだが、走っている自分にもその喜びを伝えてくるのはどうにかして欲しいと、内心考えていた。
しかし、嬉しい気持ちはマルクとて全く変化はない。農業をしているマルクなのだから、していない人達よりさらに嬉しいのは言うまでも無い。明日からまた仕事が始められると考えれば、笑顔が零れそうになるほどだった。
「マルク!!!」
もうすぐ自宅に付くという所で名前を呼ばれ、振り向くとそこには感謝してもしきれないタケシが笑顔で近づいてきていた。早く家に帰りたいという気持ちが心に合ったのは事実だが、無視出来る存在ではないので、マルクも笑顔を向ける。
「タケシじゃないか!」
マルクもタケシに近づき、手を挙げる。タケシもマルクと村人同様に全身濡れており、外に居る時に雨が降って来たのだろう。村人の助けになっていたタケシは、雨が降らないこの二ヶ月間苦労したに違いない。一番頑張っていたのは間違いなくタケシだと自信を持ってマルクは言える。
そんなタケシに助けて貰ったのはマルクも同様で、この感謝の気持ちは一生抱えて、働いてお金と恩を返していくつもりだと心の中で決めている。タケシは否定するだろうが、それでも恩を返さなければマルク自身も、妻であるパリスも納得行かないことは言うまでもない。
「やっとこれで仕事が出来る!」
仕事が出来ることに喜びを感じるマルクだが、タケシは顔自体は笑顔だが、少しだけ不満を覚えているように見えた。他の人なら気づかないような変化だと思うが、小さい頃からずっと一緒に居るマルクだからこそ、タケシの変化には気が付く。
「どうしたんだ?少し不満そうに見えるけど……」
「そんなことないよ」
だが、マルクが指摘すると、タケシは直ぐにいつも通りの顔に戻った。少しだけ不満そうだったタケシはどこにも居なかった。
「ただ、また長い間雨が振らない可能性もあるだろ?それが心配なだけさ」
「確かに……それはある」
もしかすると、今日は雨が降っているが、明日からまた数ヶ月雨が降らない可能性も充分に存在する。そうなれば今日降った雨の意味も全くなくなってくる。一日で二ヶ月分の雨を補うことなど出来ないからだ。
今は歓喜に包まれている村だが、明日からまた昨日と同じようになってしまう可能性だって考えられる。そうなれば、本格的にこの村は終りだと、マルクは思った。村を離れる人も多く出てくるだろう。
「まぁ、そんなことを考えていたらキリがないけどね」
苦笑いで言うタケシに確かにそうだなと内心納得した。とりあえず、今日だけは二ヶ月ぶりに降った雨に感謝するだけだ。きっと、そうしていれば、次も降ってくれるだろうと願う以外出来ない。
「あ!パパだぁぁ!!」
タケシと話しをしていたら、可愛く元気な声が響いた。間違える訳もなく、自分の子供であるリーシャの声だった。
声がした方向を振り向くと、傘を差しながら近づいてくるリーシャとパリスの姿が移った。どうやら、自宅から出て村を歩いていたようだ。
「どうかしたのか???」
全身雨で濡れているマルクを傘に入れるパリス。その左手にはもう一本傘があり、マルクは自分を探しにきたのだと理解した。
「その傘はタケシに貸してあげて。俺はもう全身濡れているから意味ないから」
「確かにそうね」
パリスは持ってきた傘を一本タケシ差し出す。
「ぼくはいいよ。もう帰るから大丈夫」
笑顔で傘を受け取ろうとしないタケシにパリスは笑顔を向けて、
「いつもお世話になってるんだから、これぐらさせて……」
「……かわったよ」
傘を受け取ると、それを差すタケシ。既に全身が濡れている状態だが、ないよりあるほうが良いに決まっている。
「ほら、マルク帰るわよ。全身濡れてるんだから風引くわ」
「そうだね……明日から仕事もあるだろうし、帰るか……」
元々家に帰る予定だったので、パリスの言葉に同意する。このまま外に居ても、パリスの言う通り風邪を引いてしまう可能性が出てくる。お金が無い今は休んでいる余裕など一切無いのだ。
「それじゃ、これからもよろしくな」
タケシに笑顔で別れを告げると、マルク一家は自宅に帰るために背を向けて歩き始める。そんな様子を見てタケシは二人が遠くに行くまでは、笑顔で見送り、姿が見えなくなったら口を開いた。
「僕もそっちが良かったよ……」
パリスとマルクが一緒の傘に入って歩く姿を思い浮かべて、自然と拳を握り締めていたことに、タケシ自身も気が付かなかった。
******************
二ヶ月ぶりに雨が降ってから一週間が経過した。リーシャは毎日、寝る前に明日の天気を言い当てるようになった。明日は晴れ、曇り、雨、雷……普通の場合、小さな子供が言っているだけだと気にもしないことだが、その的中率は偶然では済まされる物ではなかった。
「明日は朝は曇りで、そこから少しだけ雨はふるよ!けど、一時間程度で雨が降らなくなって、そこから太陽が出てくる!!」
「明日は朝から太陽が出てて、一日中晴れのように感じるかもしれないけど!夕方から雲が出てて来て、二時間後には大きな音と共に空が光るよ!!」
などという、一日の天気を予想して、次に何があるのかなど時間まで正確に出してくるようになった。しかも、それは一分の狂いも無く正確に当ててくるのだから偶然で済まされる話ではない。
たった一週間という短い期間だが、全て正確に当ててくるリーシャに流石のマルクとパリスも異常性に気がついた。何がどうなっているのかは気がつけないが、普通ではないという事だけは充分理解していた。
明日の天気が正確に分かる……という話はパリスとマルクが他言しないように意識していたにも関わらず、一瞬で村全土まで広がった。小さい村なので、仕方ないことだが、どこから漏れたかは想像も付かなかった。
「リーシャは天気が分かるんだろ!?」
村人達がマルクの家に押しかける日が毎日のように続く。別にマルク自身も村人に悪気が合った訳ではないということは充分に理解している。天気が正確に分かるという話を聞けば誰だって気になる物だ。
マルク自身も自分の子供でなければ気になって仕方なかったに決まっている。その事は充分に理解しているのだ。だからこそ、家に来る村人達に強く言うことは出来ない。それに、小さな村で一人退け者にされてしまうと、生きて行けないことを充分に理解しているからだ。
雨が降らなかった二ヶ月間でそれは嫌というほど理解させられてしまった。自分一人の力では家族を守ることは出来ない。家族に不自由がない生活を送らせることが出来ないと理解してしまった。
色々な人の助けの中で今の生活が出来ているということを改めて知ってしまったのだ。あの二ヶ月は村人の助けなしではきっと乗り切ることが出来なかったとマルク本人が理解しているからだ。
「困ったわね……追い払うことも出来ないし……」
パリスもマルクと同様で、強く出れないで居た。勿論理由は一つだけで、マルクと同じく村で退け者にされてしまうと、生きて行けないと理解しているからだ。マルク同様にあの二ヶ月間で実感させられてしまった。
「そうだな……全て話してしまうのも手だけどどうする??」
マルクとパリスが他言していないので、村人達もリーシャが天気が正確に分かると確信までは持つことが出来ないでいた。普通の人間であれば、噂程度で聞いた程度では信じられる話ではないだろう。だが、噂というのは誰かが言い始めなければ決して出てくる物ではない。
そういう思いで村人達もマルクの家に押しかけているのだ。ただ、純粋にどこから出たかも分からない噂の真相を確かめるためだけに、大勢の人間で押しかけているのだ。
小さな村だから許される行為だが、されている方は迷惑極まりない行為であるのは言うまでもない。
「それはやめておきましょう……もし、本当だとバレたらさらに厄介なことになるかもしれないわ……」
「それもそうか……」
小さな村という閉鎖された場所だからこそ、大きな秘密は隠しておくべきなのだ。パリスも助けてくれる村人を信用していない訳ではないが、雨が降らなかった二ヶ月で、人間の本性が出てしまった人も少なくはない。
普段優しい人が暴力を振るったりする光景は何度も見てきている。三ヶ月前ならまだしも、今は心から村人を信じることが出来なくなってしまったのだ。もし、何かあった時、再び人間の本性が出てしまう可能性は少なくないからだ。だからこそ、リーシャの特別な力は隠しておくべきだとパリスは考えている。
「嘘か本当かだけでいい!!それだけでいいから教えてくれ!!!」
流石に家の中にまで押しかけてくるということはないが、それでも扉の前には大勢の人が居る。最近昼間は毎日こんな状況が続いている。さすがに、マルクも仕事に行く訳にはいかず、家に居るようにしているのだ。
「タケシには悪いな……」
不思議だが、タケシは今の状況を知らないようだった。もし、知っているのであれば、何か言って来るはずだ。何も言って来ないということは、マルクも家に村人が押しかけているということを知らないことになる。
マルクと同様で農業をしているため、昼間はずっと仕事をしている。知らなくても仕方ないが、知っていないないという事実に少しだけ驚きを隠せない。
「おーい!!聞こえているの!?どっちなんだ!!」
外から叫び声が聞こえるが、正直に答える訳などなく、マルクとパリスは無言を貫く。無視していることは申し訳ないと思うが、方法も考えて欲しいと内心思うマルクだった。
それからしばらくすると、叫び声が聞こえなくなり、帰ったのかと少しだけ様子を見に行ったマルク。その集まりの中心部には親友のタケシの姿があり、村人を叱っていたのだ。
「気になるかもしれないが、こうやって家に押し寄せるのは良くない。マルクは僕の親友なんだ。次同じことをしたら許さないよ」
滅多に怒らないタケシが見せる本気の声色。威勢が良かった村人達はタケシの言葉に少し恐怖を浮けべ、解散していく。雨が降らなかった期間、食料などを分けてくれていたタケシに逆らえる者などこの村には居ない。
助けてくれた恩を仇で返すような愚行を行う物など村には多くない。互いが互いに大切さを理解しているからこそ、絶対にそのような真似をすることは出来ないのだ。
マルクの家の前から村人が全員退散すると、タケシはマルクに近づいた。どうやら、タケシはマルクが見ていることに気がついていたようだ。玄関からこっそり見ているので、目立たないと思っていたマルクだったが、そうではなかったようだ。
「どうして何も言ってくれなかったんだい??まさかこんな事になってるだかなんて思いもしなかったよ……
「ごめん……」
「攻めてる訳じゃないよ?けど、親友なんだから言ってほしかったよ。迷惑だなんて考えないで……」
「ありがとな……本当にいつもいつも助かっている」
たくさん食料を分けてくれたり、働かしてくれたりと本当にいつもタケシに助けてもらってばっかりだと思うマルク。自分は一切、助けになっていないもの関わらず、タケシはずっとマルクを助けてくれる。
「当然のことじゃないか。気にすることないよ」
「本当にありがと……最高の親友を持って俺は幸せだよ」
「それは僕も同じさ」
笑顔で言うタケシにマルクも自然と笑顔になった。そして、お互いの手を握り、友情を再確認した所で、再びタケシが真剣な顔でマルクを見つめる。マルクも本題に入ると理解し、構える。
「たぶん、家に押しかけてくることはないと思うけど、村で聞かれることは避けれないよ?」
「ああ……それはわかってる」
タケシが脅したため、村人がマルクの家に押しかけることはないだろうが、リーシャのことについて聞かれることは避けられない。村に住んでいる間は決して避けられることではない。
タケシが仲裁に入ったことで、リーシャが天気を正確に分かるという噂は、村人の中では確信に近づいている。それほどまでにこの村でのタケシの家は存在が大きいのだ。
「僕は一層のこと、本当の事を言うのもありだと思うのだけど……言うつもりはないよね」
「今の所はないな……たぶんパリスも同じだと思う。何かあった時が怖いから……」
「確かに本当にリーシャがそんな力を持っているのであれば、何か悪いことを考える奴も現われるかもしれない。それは正しい判断だと僕も思う。けど、それを踏まえてでも言うべきだと思うよ」
「やっぱりそうだよね……」
小さな村では信頼しあって生きていく他ない。だからこそ、リーシャのことを言うべきなのだと、タケシは言う。
「言いたくない気持ちは充分に理解出来るけど、僕の意見も少しは頭の中に入れておいてくれよ。それで、万が一に何かあったら相談にきてくれ。絶対に助けになると誓うよ」
「ありがとな……一度、パリスと相談してみるよ……仕事は明日から復帰する」
「わかった。言っておく」
背を向けて歩き出すタケシにお礼を言い、マルクも家に戻る。
その後、パリスと相談し、マルクはリーシャの事を村人に話すことを決意した。
****************
村人にリーシャの事を話してから一ヶ月が経過した。
タケシに言われ、言うことを決めた二人だったが、何度も話し合って決めた結果だった。パリスは何度も反対をしたが、マルクと話しをしている中で、皆に言うことを決めたのだった。
噂としては出ていた話だったので、村人も驚きはしたが、二人の予想を超えた驚きはなかった。天気が分かるという特別な力を持った子供が村に居るという事実が出来たが、村人達は大きな反応も見せずに今まで通りだった。
追い出そうと言う者も居なければ、悪い考えを出す人も居なかった。ただ、純粋に噂が気になって居ただけだったらしく、家に押しかけてくることもなくなり、パリスやマルクに聞いてくることも無くなった。
ただ、リーシャに天気の事を聞いてくる者が増えたというだけだった。それも明日の天気を聞いて来るぐらいで、特に大きな変化はなかった。
雨が降らないということもなくなり、安定し始めた村。生活が大きく変った二ヶ月間だったが、乗り越えることができ、今の幸せな生活をかみ締めているマルクとパリスだったが、ふと、気になって居たことを口にした。
「リーシャの不思議な力は本当に天気が分かるだけなのかしら……」
マルクの家にタケシを呼んで食事をしている時に呟いた一言だった。はしゃいで寝ているリーシャの髪を手で梳きながら座っている二人に聞いた何気ない一言だった。
「どういう意味だい?」
タケシはパリスの言葉に真っ先に食いつく。今まで天気が分かる力だと思っていたタケシは、少しだけ気になったのだ。どうして、パリスがそう思ったのかどうかが。
「確かにリーシャは天気が分かるけど……本当にそれだけなのかしら?ってことよ。実は何かまだ隠されている物があるかもしれないし、私達が思っているリーシャの力は、もしかしたら別の物である可能性もあるわ」
「確かに……可能性だけなら捨てきれないけど、何か根拠はあるのかい??何かリーシャが不思議な行動を取ったとかさ?」
その言葉に顎に手を添えて考えるパリス。仮に何かあるのだとしたら解明しなくてはならないとタケシは考えていた。
「そういったのはないけど……けど、リーシャの成長って少し速いじゃない??大きくなるのもそうだし、髪が伸びる速度だって私達より少し速いわ。子供だからっていう可能性も捨てきれないけど……まぁ、その辺は大丈夫でしょうけど」
「確かに気になるね……パリスの言う通り何か違う力が備わってるかもしれないし……またや思っている力とは全く異なる可能性も充分に考えられるね」
「でしょ??マルクはどう思う??」
話しに入らずにずっと横で聞いていたマルクに話を振るパリス。自分の考え過ぎだと思っているが、一緒に育ててきたマルクの意見も聞いておきたいとパリスは思ったのだ。
「仮に違う力がリーシャに備わっているとすれば……未来予知か??」
マルクからすれば何気ない言葉だった。在りえないと初めから否定しているからこそ、口から流れるように出た言葉だったのだが、パリスは全身から鳥肌が立つ感覚を覚えた。
「どうしたんだい??」
「いえ……偶然だと思っていた出来事が一つだけあったのを忘れてたは……」
「どんな出来事だ?」
流石に気になったマルクも会話に加わる。寝ているリーシャを起さないように小さな声で話していた三人だったが、次第に声の大きさが上がっていく。
「この前、台所の扉が壊れたじゃない??」
「ああ……それがどうした??」
「その前日にリーシャに言われたのよ……そこの扉、明日になったら倒れてくるよって。それも、お昼の時に倒れるってリーシャが言ってたのよ……」
「そしたら本当に倒れてきたってことか……」
考え込む三人。だが、自分達が持ち合わせていない力について考えても、理解できる訳もなく、何か分かる訳もない。数分だけ考えると、三人は直ぐに考えることを諦めてしまった。
「流石に気になる……リーシャに聞いてみよう。気持ち良さそうに寝ている所悪いけど」
リーシャを軽く揺すると、数秒で目を覚ました。話している時の声で、起き掛けていたのだ。
「リーシャ……五年後って、この村どうなってるか分かる??」
目を覚ましたリーシャにタケシが五年後の話を聞く。
今日、明日の事を聞くだけではリーシャの力が本当は何かに至ることが出来ないと思ったタケシは大胆に聞いたのだ。
「五年後の村……」
眠たそうに目を擦りながら欠伸をするリーシャ。流石に未来を見ることは出来ないか……と、諦めるぐらいの時間が経過した時にリーシャはぼそりと口を開いた。
「五年後にはこの村は黒い粉で覆われて、真っ黒になってるよ?」
「「「え!?」」」
リーシャの言葉は衝撃的な物だったが、それ以上に驚きを隠せない現象が起きた……いや、もはや三人からすれば発した言葉など忘れるほどの衝撃的な光景がおきたのだ。
「どうなってるんだ……」
辛うじて呟いたマルク……だが、その問いに答える者は存在しなかった。いや、厳密には答えることが出来なかった。
普通では在りえない現象に、普通の人間であるタケシとパリスが答える術など持っている訳がないのだ。完全に人間が用いる常識という枠から外れた現象がおきたのだから……。
「どうして大きくなってるの??」
言葉発したリーシャは、身長が小学生高学年ほどの高さに成長していた。手も足も伸び、髪の毛も伸びていた。まるで、5年月日が経過したかのような姿に変化していたのだ。
そう、この時パリスの考えは半分正解していた。リーシャの力は天気が分かるなどという小さなカテゴリーに属してなどいなかった。リーシャは全てのことが理解できるのだ……未来の視ることによって。
未来予知などという人間離れした力を、普通の人間が使えることなど決して無い。何もなく、何一つとしてデメリットがなく使える力ではないのだ。それほどに未来予知という力は強力で、人間が扱える物ではない。
だからこそ、この現象なのだ。リーシャは未来を視るという力を発動する度に……見た分の時間だけ自分自身が年を取るという代償を化せられたのだ。それが、未来予知が使える人間に課せられた代償だった。




