最後の希望
ショッピングモールに仕掛けられた札を起動させてから三十分経過した。
ビルの中に潜みながら周囲の様子を見れるように創造した〝幻獣〟で、街の様子を眺めていた。だが、小さい〝幻獣〟のため、東の外れと西の外れに居る〝幻獣〟までは見通すことは出来ない。
ただ、街の様子がどうなっているかを調べるためだけの〝幻獣〟なのだ。故に、召喚者には非常に見つけられ難い。注意して見なければ見つける事も困難な大きなの〝幻獣〟だからこそ、偵察用に最適なのだ。
他にも相手に見つけられ難くするために、〝幻獣〟のため、体に魔力は一切積んでいないのだ。ただ、〝幻獣創造〟が操るだけの存在……だから誰も気が付かない。海人や白雪……〝正義者〟も存在に気が付いていない。
「かなり人間が減ったな。建物の中に逃げ込んだ人間が多いのか……」
〝幻獣創造〟の目的は決して人間を無差別に殺すことなどではない。目的はただ一つ、白雪が持っている〝魔術蒼石〟のみだ。他に一切目的などありやしない。
人間を無差別に殺す理由は単純で、ただこの街に居たからという理由のみだ。大勢の人間を殺す事で精神的攻撃をしているもの理由の中に入るのだが、分かりやすく言えば〝ついで〟なのだ。
白雪が街に居たから大勢の人間が死んでいく……大部分の理由はそれだ。勿論、白雪自身もそんなこと理解しているのだが、ついでで大勢の人間を殺すなど正気ではないのは明らかだった。
殺す気が無いのであれば〝魔術閉鎖空間〟を展開すればいいだけの話だ……それをさせないという事は、敵対する召喚者には大きな攻撃になる。〝幻獣創造〟は、相手の性格などを理解しているからこそ、このようなことを行ったのだ。
「あまり効果はなさそうだがな……」
現状は〝魔術閉鎖空間〟は展開されていないが、それは時間の問題なことは充分理解している。いくら〝幻獣創造〟が本気で〝幻獣〟を創造したとしても〝第三次開放〟に至っている召喚者を殺す事は容易ではない。しかも、今回は相手が相手であるから余計に確率は低くなる。
いくら〝幻獣創造〟でも〝魔法狩り〟と〝雷光武具変生〟。それに〝正義者〟という〝第三次開放〟に至っている中でも特に強力な召喚者相手に〝幻獣〟が勝てるなど思っては居ない。足止め程度が精一杯だろう。
だから少しの間足止めが出来れば〝幻獣創造〟は次の作戦に移ることが出来るのだ。次は、〝第三次開放〟に至っている召喚者に匹敵する……いや、〝第三次開放〟に至っている召喚者にすら倒すことが出来ない強力な〝幻獣〟を創造するという作戦に……。
「私一人での力では限界があったが、今の状況では出来るはずだ……」
右手を胸の前に持ってきて、手のひらを開くと紫色の炎が浮びあがる。本来人間は一切の魔力を持つことが出来ない。見た目は召喚者も人間も大差ないが、体の中の作りが少し変化しているため、魔力を持つことは不可能なのだ。
だからこそ、〝幻獣創造〟は少し考えてしまった。人間は魔力も持つことは無いが、召喚者も人間も生きている内は生きるためにエネルギーが居るのではないか?という仮説に至ったのだ。
「ついでに殺すつもりだった人間から、まさか魔力を変化出来るとは思いもしなかった」
この街に来て、〝正義者〟が二人に合流してから〝幻獣創造〟の勝率は大幅に減少した。〝第三次開放〟という同じ舞台に居る召喚者が三人相手では、一人である自分には勝てる見込みは少ないと理解していたのだ。
唯一頼みである〝幻獣〟も三人の前では足止め程度しか出来ない。無限のように想像出来る〝幻獣〟が居るために、〝幻獣創造〟本体は大きな戦力を持っている訳でもない。勝てる見込みは限りなく少ない。
「だが、この人間から変換したエネルギーがあれば、勝てる可能性は飛躍的に上がる……変換出来る〝幻獣〟を創造して正解だった」
自分の願いを叶えるためにはどうしても〝魔術蒼石〟を集めてるしかないのだ。本来では叶うことが在り得ない世界を願うからこそ、石を集めて願いを叶えるしか方法はない。
「まだ魔力を変換したいが……あまり長すぎるとこの場所が見つかってしまう可能性が高くなるな……不十分かもしれないが、これぐらいで創造するしかない」
魔力を最大限まで落として、気配を消して潜んでいるため、魔力を察知することにう長けている海人も今は場所を詳しく把握している訳ではない。今が絶好のタイミングだろうと考える。
「だが、少しだけ気がかりなことがある……」
そう、〝幻獣〟を創造した本人だからこそ感じる事が出来るが、西の外れと東の外れに居る龍型と人型の〝幻獣〟の様子が可笑しいのだ。意思を持たせているが、周囲の人間を殺さないのは予想外の出来事だ。
ただ、召喚者が来るのを待っているかのように、ずっと同じ場所で停止している〝幻獣〟など始めて見る〝幻獣創造〟は少しだけ困惑していた。予想外出来事など起こっては絶対に行けない局面で起こってしまったのだ。
「この局面で起こったという事は、創造している段階で他の召喚者に干渉された可能性が捨てきれない……」
今まで通りに想像出来ていれば、人型や龍型が居る一帯は人間の死体の山になっているはずだ。頭が無い者や足や腕が無い者……潰されたりして原型を留めていない者などで地面が埋まっていたはずだ。
凶暴な性格ではないにしろ、人間が居れば敵だと認識して今までなら殺していたのだ。それが、三人の〝第三次開放〟に至っている召喚者と戦う時に、予想外の出来事が起きている……まず、偶然というのは考えれないと〝幻獣創造〟は考えている。
「仮に偶然だとしても、注意しておく必要は充分にあるだろう……今まで起きたことが無いことが起きているだけでも注意すべきことだ。しかし、今回は他の召喚者が関わって居る可能性もある。それも〝第三次開放〟の使い手に本番まで気が付かなくさせることが出来るほどの召喚者だ」
〝幻獣〟を弱体化させたという事は、干渉してきている召喚者は〝幻獣創造〟の敵ということになる。味方であれば、〝幻獣〟を弱体化させることはまずないだろう。されているという事は、完全に敵になる。
「しかし、向こうの味方ではない可能性も充分存在する。いや、そちらの方が確率は高いだろう……これは戦争なのだから、戦いに乱入して全く問題ないはない」
弱体化された〝幻獣〟は〝第三次開放〟の使い手相手では足止め程度にしかならない……後、数分もしたら〝正義者〟と〝雷光武具変生〟は戻ってきてしまい、合流して私を探すことは間違いないと踏んでいる。
〝魔術閉鎖空間〟が展開されたなら、人間達が殺される心配は無くなる。完全に召喚者だけが関わる戦いに変化する……自分達の事だけ気にしていればいいという状態で、〝第三次開放〟の使い手三人を相手にするなど不可能といえる。
いくら大量の〝幻獣〟を創造しようとも、瞬く間に殺してしまう。三人が合流した時点で、〝幻獣創造〟の敗北が確定したと言えるのだ。
「それだけは阻止しなければ……この世界は私には住みにくい……この世界は私の存在を一切歓迎していない。生まれてきてからずっと、私は世界に呪われてきたのだ……こんな糞のような世界は変革しなければならない……」
眉に皺を寄せ、ドスを利かせた声でそう呟く。その呟きは〝幻獣創造〟の心の声そのものだ。人間として生まれ、全く歓迎されなかった生をひどく憎んでいた。
周りの人間や自分生んで死んだ親や、環境など自分の周りを全て壊したいと心の底から思っていた。環境を変えることが出来なかった自分自身も心の底から恨んで、憎んでいた……何よりも自分を憎んでいたのだ。
全てを壊せる力を欲しながらも、全く環境を変えようともせずに、虐待など様々な事をされる日々……世界にはさらにひどい虐待を受けて、人間として扱われていない人間が多く居ることを理解していながらも、なぜ自分だけが……と毎日と問いつつけた日々。
召喚者として覚醒したのも、虐待をされて死に掛けた時だった。食事も与えられずに何度も何度も殴られて、体全身に打撲を負いながら召喚者として覚醒した。そして、召喚者になった〝幻獣創造〟は一日で全てを壊した。
何十年も苦しめられてきた全てをたった一日で全て壊してしまったのだ。環境も周りの人間も全て壊した……だが、心は全く満たされない。穴が空いていた心にはさらに大きな穴が空き、どうしようもない無気力感に襲われた。
結局、憎くて憎くて仕方が無かった人間を全て殺しても、〝幻獣創造〟の心は満たされなかった……この世界に人間というひどくつまらなく、退屈な生物が居る限り、〝幻獣創造〟は救われないのだ。
「私は絶対に叶える……全ての人間や召喚者が消え、私一人と〝幻獣〟だけが存在出来る世界を創造するのだ……誰も居ない世界で〝幻獣〟だけ存在する世界でで暮らすのだ……」
その願いは常識的に考えれば絶対に叶うことはない。いや、叶えようとしている時点で正気の沙汰ではないのは明らかだ。〝人間を全て〝幻獣〟にする〟など、常人が考える発想ではない。
だが、しかし〝幻獣創造〟はそれを心から願っている。だからこそ、〝第三次開放〟という高みに至っているのだ。世界を根本的な所から変革しようとしているのだ。
「だからこそ、願いを叶えるのだ。何者が干渉してこようとも、全て倒せばいいだけの話だ」
手のひらに揺れている紫色の炎を握りしめ、口を開く。世界を自分の住み易い世界に変化させるために、詠唱を唱える。
「我は全てを創り出す者……何者にも例外はない」
唱えるのは最後の希望……この〝幻獣〟に全てが掛かっているのだ。この〝幻獣〟が敗北してしまうと、全ての決着が付いてしまう。戦いの決着と、自分の願いにも決着が……。
「息する生物の創造者。闊歩する者の創造者」
迸る魔力は人間を殺した時に得たエネルギーだ。それに咥えて、〝幻獣創造〟本体の魔力も最大限まで加える事で、今まで創造もしたことがない強力な〝幻獣〟が生まれる。
「創造者の名の下に、再び古代の生物を創造する」
街中で巨大な魔法陣が回転しながら光輝いている。〝幻獣〟達も嗅覚で何が起きるか察し、魔法陣から離れていく。その周辺に居る人間は間違いなく死んでしまうだろう。何もされずとも、空気に当てられて死んでしまう。
「幻獣を創造する」
その言葉で街中にはさらに強力な魔力が吹き荒れる。周囲に居る人間も異常を感じ、全力で走って逃げていくが、既に遅い。〝幻獣創造〟が詠唱を唱え終わった時点で死は確定している。
回転する魔法陣は光輝き、停止する。そして、一度強い魔力が流れ出ると同時に、巨大なシルエットが浮びあがる。それは、なんと表現したらいいのか分からないようシルエットだった。
人型には見えない、龍型にも見えない、鳥型にも見えない……今まで創造してきた〝幻獣〟とは大きく変った姿だ。その姿は〝幻獣創造〟も表現することは出来ない。
ただ一つだけ言えることは……化け物だった。巨大な魔力を体内に溜め込んだ正真正銘の化け物としか言えない。シルエットの時点で既に化け物とだけは表現できた。
「これながら〝第三次開放〟の召喚者を複数相手にしても勝てる!!」
創造した〝幻獣〟が想像を遥かに超える化け物だったのは言うまでもない。未だに白い光を放ちながらシルエットを浮かべているが、〝幻獣創造〟は歓喜に震えていた。
追い続けた願いを叶える事が出来るかも知れないのだ、歓喜して当然と言えば当然だ……しかし、〝幻獣創造〟の顔が一瞬で驚きと困惑の混じった顔に変化する。
「な、何が起こったんだ!!」
〝幻獣創造〟は一体何が起こったか理解も出来ないまま、今の状況を眺めている……頭の中が真っ白になりながら……見ている事しか出来なかった。
創造に成功したはずの、〝幻獣〟が、光を放ちながら突然消えたのだ……それと同時に今まで感じたことがない莫大な魔力の渦を感じた。それは、戦って居る三人以外の魔力だった。




