狩り
今まで戦っていたのは母親を自分の目の前で殺した魔女。あの頃、魔女は母親が泣き叫ぶ姿を見て笑いながら剣を突き刺した。六歳だった白雪にはそれがどのぐらいショックで耐え切れなかったのかは言うまでもないだろう。そして自分も殺されかけて召喚者になったのだ。
武器を召喚し終わる魔女は笑顔を向けていたが、白雪も同じように狂気に満ちた笑顔をしていた。ただ、魔術蒼石を手に入れられるだけではなく、十年間思い続けていた復讐が出来ることに喜びを抱いている。ローもそのことを感じ取ったのか、静かに口にした。
『落ち着いて戦え。焦ったり憎しみに任せれば殺される』
「……わかっているわ」
まるで幼稚園児が遊園地に行くことを楽しみにしているような高揚感が混じった声で言った。ローとて理解しているのだ。母親が殺した張本人が目の前に居て冷静で居られる訳がないと。それに白雪は十年間復讐を考えて強くなってきたのだから余計に冷静ではいられない。
白雪の武器だからこそ主の感じる気持ちをロー自身も感じていたのだ。そしてこのままではまともに戦えずに自滅的な死をしてしまう可能性があるということも理解している。憎しみで自滅したりなどは人間だけではなく、召喚者にも共通する部分なのだから。
「あんただったのね……?私のお母さんを殺したのは……」
その言葉を発したと同時に笑みを浮べていた顔から表情が消える。暗く、憎しみに満ちた目はローが思っていた通り冷静などではなく、目の前に敵討ちが居る程度しか状況を把握していない。だが、表情がない顔とは違い、周囲に迸る雷鳴は先ほどまでの比ではないほどに出力が強く、心の中にある感情をそのまま魔力が表しているようだった。
「……何を言っているかよくわからないな」
魔女は白雪が本当に何について言っているのか理解出来ない様子だった。先ほどまで挑発的な笑みを浮べていたのに、その表情は完全に消えて怒りに狂っている様子が理解出来ていなかった。
魔女は十年前に白雪の母親を殺したことなど記憶の中に存在していなかった。これまで、およそ人間で言えば死刑など軽く超えるほどの召喚者を殺してきた魔女は、いちいち殺した相手のことなど覚えていない。そう、人が踏み殺した蟻の数を把握していないのと同じように。だが、殺した時の気持ちの良さなどは覚えている。
本気で覚えていないことを知った白雪は魔力を爆発させて魔女との距離を一気に詰める。先ほどまでに速度を意識にしている余裕などはまるでなく、雷鳴を放出させながら魔女に鎌を振るった。
だが、その鎌は魔女に当たる直前でレイピアのように細い剣で防がれ、強力な風が起こり白雪は吹き飛ばされるように距離をとった。しかし、そのまま炎が襲いかかり回避した瞬間、氷柱が襲いかかった。
鎌で氷柱を破壊しようとして振りかぶると、突然地面から土柱が出てきてバックステップをしたら、氷柱と土柱が爆発して白雪に襲いかかり、雷を放出し
て防いぐと再び土柱は襲いかかり回避した瞬間、土柱が爆発して破片が襲い掛かると同時に炎、雷、水、風を同時に操り、白雪に襲い掛かった。
冷静ではない頭で白雪は理解できることがあった。それは魔女は先ほどとは違い連続で攻撃できるようになったということだった。
雷を放出させることで完全ではなくとも威力を消したが、全身に消せなかった攻撃の後が残る。背後にあった森が燃えたり、凍ったりなどしている。
再び素早い速度で突撃したが、それも剣で防がれてしまう。魔女は遠距離でも接近でも戦えるようになっていた。氷柱が襲いかかり、回避すると風に乗って魔女が目の前に居た。冷静ではない頭では予想できなかった白雪は完全に反応できずに、魔女が突いた剣が腹に突き刺さる。だが、それだけではなく、突き刺さった剣から魔力の反応がした瞬間、爆発が起こり、吹き飛ばされた。
突き刺さった場所からは血が出ていて、爆発のせいで全身やけどだらけ。明らかに武器を召喚する前より強くなっており、今の白雪に接近と遠距離を同時にどうにかすることなど出来なかった。
「さっきまでの威勢はどうした?何をそんなに焦っている。そんなので俺に勝てるとでも思っているのか?」
そう、白雪はただ復讐出来る相手に出会えてうれしく、殺すことを焦っている。自分自身では冷静だと勘違いしているが、はたから見ると冷静になど全く見えない。
だが、それとは別に相手が母親を殺したことを全く覚えてないことにイライラしているのだ。
「……あんたは私のお母さんを殺したわ。十年前、イギリスでね」
その言葉は一瞬理解出来ないようだったが、少し考える魔女は思い当たった節があるようで、白雪を見た。
「なるほど……召喚者になりたての時か。まさか、あの時の子供か?」
本当に思い出したようだった。だが、まだ記憶がおぼろげな感じがする。
「そうよ……あなたに殺されかけたあの時の子供よ!」
地面を強く蹴り、鎌を振るうが軽く剣に止められてしまう。白雪が冷静ではないことも問題だが、ただこの状態では力の差が開いているのが事実だ。そして、白雪の思いより魔女の思いの方は今は強い。なので、軽く剣に止められてしまうし、白雪は魔女に攻撃が当たらない。
「……そうか。確実に殺したと思っていたが、召喚者になったのか」
魔女の目は白雪のことを言っているのに白雪を見てなどいなかった。昔を思い出すかのように過去に目を向けていたのだ。
「そうよ。そして今、あなたを殺すために居る」
雷を放出させて鎌を振るう。だが、何度やってもどれだけ魔力を込めても軽く剣で防がれてしまう。召喚者は強い想いを抱くことで自身の限界以上の力を出せる時がある。凜奈が白雪と戦った時は海人を想う力で限界以上の力を出していた。白雪は今は母親の復讐をするという強い想いに駆られているが、冷静ではない白雪にはその想いの力をうまく表に出せない。
しかし、魔女は至って冷静で自身が想っている願いのために戦っているので想いが表に出ているので軽く剣で止められる。
「今のお前では絶対に無理だ」
「どういうことよ……?」
魔女はそのことに気が付いているが、白雪は全然気が付いていない。ただ、目の前の魔女に復讐をすることしか頭にないのだ。
「それに気付いてなければいい。だが、ますますお前を殺さなくてはならなくなった。俺は一度狙った命は絶対に奪うことにしているからな!」
白雪に逃げ場がないように様々な魔法が囲う。武器を召喚したことによって連続で使えるようになった魔女に死角などはほとんどなく、どこに居ても目に見えている範囲なら攻撃出来る。
魔女の攻撃が一斉に白雪に襲い掛かる。それを何とか防ごうと雷鳴を放出させて鎌を振るった。しかし、量が多すぎて半分ほどしか防げなく、もう半分が襲い掛かり全身から血が流れる。それでも魔女に突撃して鎌を振るうが、全身の傷と刺された腹に痛みが走り一瞬だけ動きが止まってしまった。一瞬とはいえ、魔女がその隙を見逃すはずがなく、氷で足首を凍らせて動きを止めた白雪に向かって剣を振るう。凍らされたことによって動くことが出来ない白雪は魔女が振るった剣をなんとか回避しうと上半身をずらして地面に倒れ掛かるようにして回避したが、完璧には回避できずに太ももあたりに突き刺さる。
「っ!」
激痛が走り動きを止めてしまえば命がないので魔力を送り込み、氷を破壊して距離をとった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
口を開けて息を乱している白雪に対して魔女はまだ息を乱していない。何度か白雪の攻撃が当たり、ダメージは追っているが白雪ほふど深い傷は負っていないので余裕がありそうだ。
「これで終わりか……三日月雷鎌はここで退場か……」
魔女が白雪を見る目は興味を失ったオモチャのようだった。
三日月雷鎌は一人の男と約束を結び、この召喚者の戦争で勝者として願いを叶えて貰ったことがある武器だ。その武器を持った者がこんなに早く退場することになるなど誰も思っていないだろう。
「私は、まだ、戦えるわよ……退場なんか絶対にしない。私には願いがあるんだから……」
「その願いというのは母親を生き返られることか?もしそうだとしたら心底くだらん。失望した」
「……何がいけないのよ。大切な人を生き返らせることが何がいけないのよ!」
傷だらけの体で魔女に向かう。今度は剣で止められるのではなくバリアで防がれ、そのまま左手に持っていた剣で白雪の体を突き刺し、魔力を送って爆発させて白雪は吹っ飛んだ。
白雪は大量に流れた血と、爆発の衝撃によってだんだん目の前が真っ暗になる。
『おい。白雪!しっかりしろ!』
初めて聞いたローの焦った声。魔女がだんだん近づいてくるのを感じるが、白雪は目を閉じ意識を失った。その時に浮かんだのは約束を結んだ海人の顔だった。
**********
俺は眠たい中授業を受けていた。どうして日本人なのに英語を勉強などしなければならないのかと、先生の睡魔が襲いかかってくる魔法が掛けられた言葉によってとてつもなく眠たいのだが、何とか我慢して聞いていた。
ノートを取ることによって多少眠気を紛らわすことができるが、睡魔の方が遥かに強いため寝てしまうのは時間の問題だろう。時刻は午前の十時を回った辺りで英語の授業は始まったばかりだ。別に進学する気などない俺は英語など勉強しなくてもいいのだが、後ろの席に座っている奴が寝かしてくれないのが今起きている最大の理由でだ。
今日は席替えがり、運悪く後ろの席が凜奈になってしまい授業中に練れなくなってしまった。朝が弱い俺は苦痛でしかないのだが、凜奈は俺のためを思って起してくれているので悪くはいえない。
シャーペンを手にとって黒板に書かれた英文をノートに取っている時に異変を感じた。俺と白雪にしか見えない右の甲の魔法陣が少しだけ痛んだのだ。だが、ためにあることなので気にしないでいたら、今までに感じたことのない激痛が走った。
「っ!!!」
あまりの痛みに座っていた椅子から転げ落ち、机が倒れたことによってクラス中の視線が俺に向いた。しかし、そんなことなど気にしていられる余裕などまるにでなく、子供がするよう教室の床を転げ回った。
「どうしたの海人!」
後ろの席だった凜奈があわてて席から立ち上がり、傍に来た。それを見たクラスメイトた先生も慌てだして、一旦授業は中止になり先生が騒がしくなったクラスメイトを静かにさせ、近づいてきた。
「ぐっ!!!!何だこれ……」
「大丈夫ですか!?何があったんですか!」
感じたことのない痛みがする右の甲を押さえながら教室の床を転げ回る俺に凜奈は何があったのか気が付いたようだった。白雪と約束を結んでいることを知っている凜奈は俺が押さえている部分を凝視していた。
騒がしくなっていることに気が付いた他の先生達が教室の中に入ってきた。英語の先生は何があったの事情を説明しているようだった。
少しマシになったので周囲に目を向ける余裕が生まれ、凜奈の方を見ると難しい顔……というか、なにやら凜奈の中で議論しているように見えた。
このまま痛みが引くかと思ったが、先ほどまど比にならないほどの痛みが俺を襲うと同時に、目の前が真っ白になり一つの風景が浮かんだ。そこは、初めて召喚者の存在に気が付いた廃墟となった工場だった。だが、前は夜だったが今は太陽が照っていて昼のように感じる。そこで二人の人影が映り、戦っているように見えた。
一人は間違いなく白雪だった。身長に合わない大きな鎌を振り回して雷を放出していたからだ。もう一人は凜奈と出合ったあの黒いローブを被った召喚者だった。武器は召喚しないで白雪と互角に戦っていた黒いローブは炎やら風やらを自由自在に操って戦っていた。
そして俺は状況を瞬時に把握することが出来た。白雪が召喚者と魔術蒼石を奪い合う殺し合いをしているということと、俺を置いて一人で戦っていること、そして何よりこのまま一人で戦って居ては殺されてしまうこと。
それを理解すると先ほどの痛みはなかったかのように引いていく。周りに居る先生達は落ち着いた俺を見てホットした様子だったが、俺は物凄く焦っていた。
「霧沢、大丈夫か?」
心配そうな顔で見てくる先生には申し訳ないが、俺は立ち上がり教室から走り出した。
「ちょ、どこに行くんだ!!」
床で暴れまわった挙句、教室を後にした俺は心の中で謝りながら、校舎をでて校門から廃墟になった工場を目指した。町外れの森にある工場は普通に歩くと二十分近く掛かるが、召喚者である俺にはそれほど時間は掛からない。だが、確実に白雪が負けて死ぬとなぜか知っている俺は、周りの目など気にせずにあくまでも人間に走れる速度で走る。だが、それでも焦りは連なりもどかしい。
陸上の世界記録を塗り替えるか塗り替えないかの速度で走り、五分ほどで森が見えてきた。最近は忙しく散歩をしてなかったが、召喚者になるまで毎日のようにしていたので近道などは全部把握しているので普通の人より早く到着できる。
森の中に入ると何かに包まれたような感覚の後、森の景色が一変した。そこは木が燃え上がっていたり、凍ったりなどしており、地面は地震が起こった直後のようにずれていたり、隕石が落ちたような穴が空いていたりと明らかに召喚者の戦いの後だった。
魔術閉鎖空間の中に入ってしまえば人の目など気にすることはないので、全力で走り、工場がある場所まで来てみると、工場は積み木のように崩れ去っており、地面が凍りついたりとしている中、黒いローブが完全に破れている男が、意識を失って血だらけで倒れている白雪に近づいている所だった。
白雪が負けていることが信じられなかったが、大量の血を流しているのを見ると受け止めるしかないようだ。それにこのまま男を近づけると白雪が死んでしまうと感覚で理解出来た。勝てるか勝てないかなど関係なく、俺に選択肢は一つだった。
一人で戦うしかない。
男が白雪の前で止めると、細くレイピアのような剣を白雪の頭の上に構えて、「これでおしまいだ……」と小さく、だが俺に聞こえる声で呟いたのと同時に俺はこの静かな空間に響くように叫んだ。
「やめろ!」
叫びながら全力駆けながら足元に魔法陣を浮かびあがらせる。淡い輝きを放ちながら回転速度を上げていく魔法陣に合わせて詠唱静かに唱える。
「魔法召喚術式、魔法形成マテリアルコード)」
「我の思い答えし剣よ。力を貸したまえ」
走りながら掲げた手に白い剣のシルエットが浮かびあがる。そしてシルエットが消えそうになるのと同時に唱えた。
「召喚!」
錆びた剣を召喚して男に駆け寄る。俺の声に反応した男がゆっくりとこちらを振り返り、笑った。
だが既に剣が届く範囲に居たので何も迷わずに剣を振るった。男は避ける素振りも見せなかったので当たる……と思った瞬間、強烈な風が襲い、俺は吹き飛んだ。
突然何が起こったのか理解できなかったが、風自体には殺傷能力はなさそうなので、手を付くように着地をして男を睨んだ。見る限り手に持っている剣が男の武器に見える。どうやって風を起したのかは理解できないが、白雪が雷を自由に操れるのと同じで魔力を媒体にして起したということだけは俺でも理解できた。
召喚者としてのある程度の知識は白雪から教えて貰ったのでわかる。ただ、戦いというのは頭脳や知識でそうにかなるものではない。俺は白雪が手加減した状態でも勝てないような弱い召喚者だ。武器を召喚して白雪に勝つような相手に何か衝撃的な展開が起こらない限り勝てないだろう。
だが、それは俺一人の場合であって白雪と二人で戦えば勝てるかもしれない。全身から血が出ているのに無茶をさせて戦わせるのは気が引けるが、白雪だって、自分の命を掛けてまで叶えたい願いがあるのだ。覚悟を決めている白雪には無茶をして貰ってどうにかして倒すしかない。
しかし気を失っている白雪を起さなければ話にならない。その気になれば目の前に居る男は俺のことなど簡単に殺せるはずだ。チャンスは相手が俺を格下と見て手加減してくれる間だけだ。もし、俺が考えていることが作戦に気がつかれたらおしまいだ。
錆びた剣を正面に構えて、相手の動きをいち早く察知できるように目を放さないようにした。だが、男はそんな俺の様子に気が付いていながらも口を開いた。
「お前がこの娘の約束を結んだ相手だな。久しぶりといった方がいいか?」
屋上で接触したことを言っているのだろう。
「俺は会いたくなかったけどな」
凜奈があの時警戒していたが、まさか白雪を倒すほど強いなんて予想以上に強い。しかし、相手は白雪との戦いで消耗しているはずだ。男の体からも血が出ていたりする。
だが、それでどうにかなる実力差ではない。むやみに飛び込んでも先ほどの風で飛ばされるだろう。それに手に持っている剣も気になる。
俺から見るに持っている剣が唯一の武器で、風は白雪の雷と同じで、魔力を媒体にして呼び起こしている。殺傷能力がないとはいえ、他に別の使い方などが存在するかもしれない……いや、間違いするだろう。でなければ白雪が負けるはずなどありえないだろう。
「……そんなこというなよ。俺はお前が召喚者になると予想していたから接触したのに。覚醒に刺激を与えるためにな」
屋上で男とであった時、すれ違い様に俺だけに聞こえる声で、覚醒の時は近いなどと言っていた。それは俺が召喚者として覚醒することがわかっていて、覚醒しやすくするためにわざと姿を見せて刺激したと男は言う。
「別に頼んでいない。だが、願いを叶えるチャンスをくれたことには感謝している」
絶対に叶えられなかった願いなのだから例え人間をやめて召喚者になったとしても後悔はしていない。むしろこの男と白雪には感謝をしているほどなのだから。
「この女といい、お前といい願いを叶えるとうるさい。勝てない敵が間の前に居るのに良くそんなことが言える。俺に買ってから言うのならばいいが、どうせ負ける」
「勝つさ。負ける訳にはいかない」
片手で剣を構え正面から行く。もし男が風を使うなら後ろに回ろうと正面からいこうと変らない。風などどこにでもあるし無い場所などないのだから。
正面から来る俺を不気味な笑みを浮かべながら待っている男は何もしようとしない。ただ、振るう剣が当たる範囲に入ってきてほしいように。男の懐に入
った俺は強く地面を蹴りバックステップをしたら俺が居た場所が爆発して、炎が燃え上がる。
直感のようなものだったが、珍しく的中した。そして俺は目の前に居る男が魔女であることを理解した。そして魔女だと理解出来た瞬間、胸近くにある魔力の集まりが強く高鳴った。
「魔女か……」
「さすがに魔女のことは知っているようだな」
白雪に最も厄介な敵で出会ったら逃げることを進められたのだから嫌でも覚えている。だが、今は白雪を死なせないために逃げるなどという選択肢は存在しなかった。仮に、白雪と二人で戦って魔女だと知ったとしても逃げることなどは絶対にしないが。
白雪が一人で戦ったのはきっと俺が弱くて、自分の足手まといになると踏んで一人で戦ったのだろう。別にそのことを攻めることは俺には出来ない。なぜなら事実だからだ。だが、それで白雪が殺されるなどという展開には絶対にしてはいけない。
「ああ、知っているさ。一番厄介で……そして臆病な召喚者だろ?」
魔女が怪訝そうな顔をした。俺が言っている意味が理解出来ていないのだろう。
「臆病なことに自覚はないのか。まぁいいけど!」
俺は全力で駆け出した。男が魔女であるならば何のモーションもなく炎や氷、雷を自由自在に操ることが出来るはずだ。それに警戒しながら戦えれば時間稼ぎぐらいは出来るだろう。
懐に入り剣を振るう。魔女が持っているレイピアのような剣に防がれるが、連続で何度も振るう。だが、それも全て止められた。そして前振りもなく、頭上から巨大な氷柱が落ちて来たので回避したら炎が蛇のように俺に向かってくる。それはまるで炎が踊っているとうに俺には見えた。
襲ってくる炎をうまく回避して再び正面からいく。作戦などは特にはない。なぜなら俺では魔女を倒すことなど到底出来ないからだ、そのことを知っているため気にせずに攻撃をする。唯一いえることは白雪が起きるまでの時間稼ぎだった。
それに召喚者の魔力は回復するけれど無限ではない。なので押さえながら魔力を使うのだが、魔女は魔力の消費量が一番多いのだ。なぜならそうでなけらばほとんど攻撃出来ないからだ。
だと、俺は思っていた。
剣を振るうとバリアのようなもので止められる。どうして剣を使わないのかと疑問に思っていたら首目掛けて剣が軌道を描いた。俺は強く地面を蹴って後ろに下がったが、もし少しでも反応が遅れていたら間違いなく死んでいた。いかなる召喚者でも首をはねられたら生きてはいけない。
「前よりは強くなったようだな。空気が違う……が、そこまでだな」
俺は何も出来ないまま、爆発に飲まれた。全身が焼けるように熱く、痛い。威力も先ほどなど比にならない威力で森が、焼け野原に変化し、火の海になっていた。
ただ、吹き飛ばされてボールのように地面に叩きつけられながら転がり、止まった。直接爆発に飲まれなかった白雪ですら数十メートルも飛ばされて転がっている。
「俺の魔力も有限なんだ。時間稼ぎなどさせずに殺す。女の方におきられても面倒だからな」
そういい終わると、紙が風に飛ばされるように軽く、空中に動き目の前に立った。先ほどの風を利用して移動したのだとわかった。
「お前から殺すぞ」
爆発に飲まれて全身激痛が走り、立ち上がることもままならない状態の俺は、首を動かして目の前に居る魔女を睨むことしか出来なかった。最大限のあがきとして睨んだのだが、それとは違い、みんなを守りたいなどとほざいていたのに一瞬でこのザマな自分に嫌気がさしていた。
剣を持ち、振り上げて下ろそうとした時、魔女が吹っ飛んだ。何が起こったのはわからずに視線だけ動かすと、そこには白雪が立っていた。様子から見るに雷で攻撃したのだろう。
起き上がったことにホットしたのだが、俺は痛みで起き上がることが出来ない。だが、ゆっくりと俺の方に歩いてくる白雪は血だれけで俺より遥かに傷を負っていた。その姿を見て痛みを我慢して立ち上がった。
「海人……ごめんなさい」
一体何に対して謝ったのか理解できなかった。謝らなければならないのは俺の方なのに。
「海人に死んでほしくなかったから、連れて行かなかったけど、結局同じだった。私一人では勝てずに、海人が、居なければ死んでいたわ……」
「俺のほうだって約束まで結んだパートナーなのに何もできずにこのザマだ。ただ来てやられただけだ」
「でも!」
『もういいじゃろ。そんなことを今更言っても意味はない。今はこの状況をどうすかを考えろ』
ローに言われて黙った俺達は吹っ飛んだ魔女の方に目を向けた。直撃したはずなのに普通に立ち上がり、俺達の方に殺気を向けている。
「……そうね。ローの言うとおりだわ。私達は願いを叶えるために死ぬ訳にはいかない。勝つしかないんだから」
「ああ。そうだな」
俺と白雪は武器を構え、魔女が来るのを待った。自分から仕掛けるには遠く、それに先ほどのから意味がないことを知っている。次は相手の出方を待つ。
ゆっくりと歩く魔女はこう言った。
「ここまでイライラしたのは久々だ。お前の母親を殺した時以来だ」
その言葉に肩が震える白雪。状況が飲めない俺は白雪の顔を見た。
「あの魔女は私のお母さんを殺した張本人なの」
いつもとは違い、弱々しい声で言う白雪。色々思うところがあるのだろうと思い、何も口にしない。
「さっきから願いを叶えるとはほざいていたが、まさか、母親を生き返らせるつもりか?ハハっ!そんなこと出来ると思っているのか?それにさせると思っているのか!?」
瞬間、俺は黒く丸い球体に閉じ込められた。剣で振るったりなどしてみたが何も変化はなく、出られないと悟った。
「そいつの前でお前を殺す。さっきからお前ばかりにイライラしているからな」
全身傷だらけの白雪に魔女の相手など出来る訳がない。二人掛りでも厳しいはずなのに一人で戦ったら死んでしまう。普段使わない頭をフル回転させてみたり、暴れてみたりなどしたが出られる気配はない。魔力を放出させようと試みたが、魔力は無効化されてしまい出られる方法が見当たらない。
魔女は風で白雪の目の前に行き、雷が襲った。ロクに動けない白雪は雷を直撃で食らい鈍い声を上げる。だが、魔女はそれだけでは終わらずに、炎や氷などで攻撃を繰り返し、白雪は何も出来ずに倒れてしまう。だが、前のように意識は失っておらず、なんとか持ちこたえているみたいだ。
そんな白雪に近づいた魔女は強い蹴りを腹に入れて、白雪が十メートルほど吹っ飛び、炎が直撃した。
「おい!やめろ!!」
見ているのがつらくなるような一方的にやられる白雪が見ていられなくなり大声で叫んだが、敵が敵の声を聞くなど本来ありえない。そのまま近づき、蹴りを入れて、雷が直撃。だが、まだ意識を保っているようだ。
「だからやめろって言ってるだろ!!」
何も出来ないことにイラつきながらも暴れるが、黒い球体から出ることが出来ない。魔女は俺に白雪が殺されるところを見ていろっと言っているようだった。
白雪を蹴り飛ばし、ゆっくりと白雪の元に向かう魔女が口にした。
「母親を生き返らせるなどと甘いことを言っているから弱いのだ。お前の思いは俺の願いより遥かに弱い!」
「……あんたの、願い…ってなに、なのよ?」
倒れているが、視線だけは強い想いを宿していた。白雪はまだ諦めてなどいなかった。
「俺の願い?俺の願いは俺以外の奴がみんな不幸になればいいっていう願いだ!!」
そう叫びながら白雪を蹴り飛ばす。
それを聞いていた俺は自分の中で何かが切れる音が聞こえた。何かはわからない、ただ無性に魔女を殺したくなった。
自分以外が不幸になればいい……?そんなくだらない想いが母親を大切に想う気持ちに勝っているだと?
その時俺は、母親のことを話し、泣いていた白雪の姿を思い出していた。俺はあの時に思ったはずだ。白雪を守りたいと。
刹那、声が聞こえた。そのこえは何度もきいたことがある声で、俺が覚醒する時や、凜奈を助ける時に聞こえたことと同じだった。
----そうだ。お前はあの少女を守るんだ。その想いがお前を高みへと導いてくれるはずだ。さぁ、完全に人間をやめる覚悟は出来たか?その少女と共に歩く覚悟は出来たか?
実に簡単な問いだった。そんな覚悟はとっくに出来ている。
ーーーーーならばわかるだろ?お前がすることは何だ?
俺のすること、それは白雪を守ることだ!!!
黒い球体は俺の足元で浮かぶ魔法陣の光に照らされていた。そして淡く光る剣を振ると、先ほどまで全く効果がなかったはずなのに、まるで初めからなか
ったかのように球体が無効化された。
異変に気が付いた魔女がこちらに目を向けた。その一瞬の隙で白雪は無理あり体を動かして魔女と距離をとる。
だが、そのことにも気が付かないほど魔女はこちらを凝視していた。
「まさか、お前程度では絶対に破られないはずなのに……」
あの黒い球体は魔女の魔力を圧縮して一つの空間を作る魔法だ。それは魔力の中に居るのと同じで、そう簡単に……いや並の召喚者では抜け出すことは不可能に近い。そのことを知っている魔女は驚いているのだろう。
だが、俺にはわかる。俺にはそれが当たり前に出来る。俺の武器はそういうためのものなのだと。
そして、俺はそっと詠唱を唱える。武器を召喚する時とは別の一つ高みに向かう詠唱を。
「我は魔女を狩る者。万物の魔力を総じて切り裂き、道を創る」
その言葉に白雪は口を開け、魔女は眉間に皺を寄せた。二人とも何をしようとしているのか訳がわからないようだった。
だが、第二の鍵はゆっくりと開く。
「第二次開放、開放!」
さらに眩い光を放つと同時に情報が俺の頭に流れ出す。この剣が一体どういうもので俺が何をしたのかが一瞬にして……初めからそうなると知っているかのように情報が流れだす。
そう、俺の剣はあの時見た剣に変る。遺跡のような場所で見た剣に変化する。
剣から放たれていた光はだんだん弱くなっていく。だが、剣から感じる魔力は錆びていた頃など比較にならないほどの強力な魔力を秘めている。
光が消えると俺が手に持っていたのは錆びた剣などではなく、召喚者として覚醒する時に抜いたRPGに出てくるような聖剣のように白銀で均等のとれた形だ。
「嘘……第二次開放……そんなのありえない」
白雪は驚きの声を上げた。それもそのはず。第二次開放とは本来召喚者として覚醒したばかりの海人には使えるものではない。召喚者として一人前になったその先にたどり着く高み。白雪は第二次開放を使えるようになるまで八年の月日が掛かった。これでもかなり早いのに海人は一ヶ月そこらで使ったのだから驚くもの無理はない。
「それにその剣……」
『うむ。召喚するたびに強い力を感じていたが……予想よりも遥かにすごいのが召喚された……』
白雪とローは海人が持っている剣のこと知っていたようだった。それはもちろん魔女も同じで、ゆっくりと名前を口にした。
「魔女狩り……だと?」
魔女狩りとは海人が持っている剣の名称だ。三日月雷鎌が初めて戦争の勝者となった時に約束を結んだ相手が魔女狩りと呼ばれる剣を使っていた。
初めて開催された戦争で優勝した二人は願いを叶えることが出来た。そしてこの二つの武器は伝説クラスの武器として召喚者の中では通っている。初代優勝者が使っていた武器が第二回……百年弱の時をえて復活した。
魔女狩りとはその名の通り魔女にとても有効な武器だ。もっとも厄介と言われていた魔女を先代の二人が倒せたのはこの武器のおかげで、魔力を全て切り裂く効果を持つ剣だ。
故、魔女は魔力を一番有効に使う召喚者なので魔女狩りとは相性は最高なのだ。
そのことを俺は流れてきた情報で全て理解した。そしてこの剣があれば魔女にも勝てるという事実も。
「白雪!最後にもう一度だけ、戦えるか?」
俺が白雪の元に近づいて言うと魔女はさっと風に乗り距離をとった。
そしてボロボロになって倒れている白雪に手を差し伸べた。
「あたり前じゃない。私達は強い約束で結ばれているんだから、過去も今も。海人が戦えるのに私だけ黙って寝ているなんて考えられない」
俺の手を掴んで立ち上がる白雪。ふらふらになりながらも自分の足でしっかりと立つ。
「ああ。俺達は過去に優勝したコンビだからな」
同時に魔女を睨む。互いに背中を合わせ、一気に駆け出した。
魔女狩舞踊というものが存在する。それは先代の二人が考え出した魔女を撃退するために考え出した対魔女専用戦術だ。それは先代がなんども練習して出来るようになったものだが、海人と白雪は無意識にそれをやる。それがどういうことかなど考えなくても理解出来るだろう。
白雪は迷うことなく俺の後に続く。白雪の方が俺より早いが、なぜだか知らないがこれが魔女と戦う時には一番いいという確信があった。
魔女に向かって走る二人に炎と雷が襲う。今までなら避けなければならなかった攻撃だが、今は大したことはない。
同時に襲ってくる炎と雷が俺に直撃する瞬間、剣を振るった。すると、まるで何もなかったかのように炎と雷はかき消された。魔女狩りの前では魔力を媒体にする攻撃など無いに等しい。よっぽどのことが無い限り当たらない。
魔女の五メートルほど近くまで来ると白雪は一瞬で背後に回った。だが、その動きに気が付いている魔女は風を操り飛ばそうとした……が。
「無駄だ!」
第二次開放を開放したことによって魔力の反応がわかるようになった俺は、剣を振るう。その瞬間、魔力の反応がかき消されて何も起こらなかった。
「くそが……!」
振るった鎌をバリアのようなもので防いだ魔女。しかし、今戦っているのは一人ではない。俺は背後から剣を振るった。
バリアがかき消されて風に乗って逃ようとする魔女。しかし、それを切り裂いて、白雪の振るった鎌が魔女に直撃した。
「ぐぅ…っ!」
血が飛び散り激痛が走った魔女は声を上げた。しかし、攻撃は止まらない。再び鎌を振るう白雪に爆発が起こったが、起こる瞬間が瞬時にわかるのですぐにそれも切り裂く。
正面から魔女の魔力を無効化して背後から鎌が襲う。だが、それは簡単そうに見えてタイミングなどが合わなければ出来ない戦術。もし白雪の雷に剣が触れると雷も消えてしまうためだ。
だが、コンビで練習などしていな二人だが、それが嘘のように連携できる。
白雪が鎌を振るったが、魔女は魔力を使わずに体を地面に転がしながら避けて、風で距離をとった。
「俺はこんな所で死ぬ訳にはいかない!俺は自分が幸せな奴が許せない!みんな不幸にする!!」
魔女の足元に魔法陣が浮かぶ。だが。それよりも早く魔力の流れを察知出来た俺は走り出した。
「そんなことは絶対にさせない!」
俺の願いがみんなが笑顔で幸せになってほしいという願いに対して、魔女がみんなが不幸になってほしいという願いだ。魔女の過去にどのようなことがあ
ったかは理解出来ないし、しようなどと思っていないが、ヒーローのような願いを持っている俺が悪を倒さないのはおかしいだろ?
魔女が第二次開放を使おうとしているのは理解出来ている。しかし使わせない。変身するまで待って貰うのは敵役ではなく、俺なのだから。
「お前は確かに強い。ただ、俺達に勝てなかった理由は一つだけだ」
白雪が立ち止まった俺の方を見ている。俺も顔を少しだけ白雪のほうに見せて笑った。そう、俺には守るべき奴が居る。
魔女は間に合わないと思ったのか、剣を振るう俺にバリアを使った。
「そんなもの俺には関係ない!」
だが、魔女狩りの目の前に魔女など無いに等しい。すぐに切り裂き、そして俺は言った。
「お前の敗因はパートナーが居なかったことだ!」
互いに信じて約束を結んだ俺達。もし俺か白雪が一人だったら魔女には絶対に勝てなかったと理解しているから出た言葉だった。互いに助け合って願いを叶える。初代優勝した魔女狩りと三日月雷鎌のように。
俺は手加減などしないで魔女を切り裂いた。
読んでくださってありがとうございます!
やっと海人の剣について出すことが出来ました。初めから海人の剣は魔女狩りにしようと思っていたので出せてよかったです。ただ、ここで終わりではなく、魔女以外でもっと強敵が出てきます!
まぁ、ここで一応ひと段落です。魔女編?わかんないや!




