86.正義の味方 その二十五 その先へ
『今回 イチブ アナタノ 御力ヲ 開示シマス』
昔聞いたことがあるような、ごく最近にも聞いたことがあるような
女性の声が聞こえる。
『ぼさっと、してんじゃねぇ!! 劔!!』
ダイロクテンマの声と共に、白い光の欠片が僕を襲ってくる。
先程の技のカラクリはこれかっ!
右手を構える僕に更なる囁きが、
『触らず トモ ヨイのです。コチラへ』
声の導きに従い、体を委ねると思いのほか、移動した。
体ごと、あっと言う間にだ。
そんな僕以上に戸惑っているのが、ダイロクテンマだ。
一瞬、僕の姿を見失っていたのか、
僕を見るなり、顔を歪ませて敵意を向けてくる。
『フフフ これがアナタの イチブ です。
あの程度の者 デハ ねぇ?』
見えなかった技も分かった。余裕を持って回避できる事も知った。
思わず、図らずとも笑みもこぼれよう。
『てめぇ、一つ避けれたぐらいで……調子に乗ってんじゃねぇぞ!
”百華”』
ダイロクテンマが右手を大げさに振り、その周囲に無数の朱い点が浮いた。
それを見た瞬間、
『”百華”……対象術者から標的へ放出型の術式。
術者の練度によって、射出する弾丸の数が増える。
又、術者の意志により、射出中の爆撃が可能』
まるで、RPGの画面のように術の全容が頭に浮かぶ。
更には、その弾丸の軌道までもが視える。
『いけぇっ!!』
ヤツが術を放つ頃には、すでにこちらの準備は”完了シテイタ”。
赤い弾丸が一つ、二つ、三つと僕の左右をすり抜けていく。
そして、この四つ目が!
パチン!
僕は、ダイロクテンマが指を鳴らす寸前にバックステップを終える。
元、僕の居た位置で四つ目の弾丸が炸裂、周囲の弾丸を巻き込んで、
大きな爆発を披露した。
なるほど、”百華”と形容するふさわしい景色だな。
『てめぇ、その力はなんだ!』
僕を計りかねたのか、攻撃の手が止まる。
チャンス!
大きく駆け出して、右手を突き出す。
『”炎刃”!!』
不意打ちの火柱がヤツを包み込んだが、
『グッ、ボッハッ、ちっ!』
咳き込みながらも、ダイロクテンマは粉塵の中からその姿を見せる。
さほど、ダメージがないな。タフなのか?
詠唱を省略したから、火力が落ちたのか?
『アナタ 後方カラ2秒後ニ 火薬飛来シマス。
左側へ 今日は ココマデデス』
僕は我に返り、疑うことなく左へ飛ぶ。
『はしゃぎ過ぎだ。くそがきどもが!』
後方からの声と同時に何かが僕の横を通過した。
煙を残し、飛行するそれはダイロクテンマに衝突、派手な音を響かせた。
後ろを見ると、そこには”高橋”と黒く大きな人型が2体立っていた。
人型の腕から、わずかな煙が上っている。先程の攻撃はこいつからか。
黒い人型?……こいつが黒陽か!
『白鞘のガキ共がずいぶんとかわいげのない遊びをしてるじゃねぇか。
どういう教育受けてんだ!あぁ!?』
高橋は、普段と違った威圧的な態度で近づいて僕の胸ぐらをつかむ。
『ちょっ、イッテテ』
その手を振りほどこうとすると、
『(適当に演技しろ、これ以上、揉めたくないだろ?)
ここで雷を使うたぁ、白のエース様は天狗になってんのか?』
高橋は小声で囁き、大げさに僕を揺する。
『仲間に入れて欲しけりゃ。入れて下さいって頭下げるんですよ!
雷を浴びに来るってのは、かなりマゾだけどね。おっさんw』
僕も笑顔をつくり、大きな声を張り上げる。
『柊君、やめなさい!
申し訳ありません。私、白鞘の御門野 絵里香と申します。
この度は、ご迷惑をお掛けしました。
この子の教育はこちらで実施致します。
正式な謝罪は、また別途に、ここはお引き取り願います』
『おいおい、せっかく盛り上がってきたのによ』
砲の直撃にも関わらず、ダイロクテンマがへらへら笑って近づいてくるが、
その姿はすでに元の姿に戻っている。
僕の先程の力と同様に、こいつにも時間制限があるのだろうか?
『織田の、これ以上デカイ面をするのなら、白鞘でも面倒を見きれなくなる。
場をわきまえろ!』
御門野が一転、ドスの効いた声で牽制する。
『若、ここは引きましょう』
『御門野様、また、後日!』
『はぁ?お前ら!』
『若、戻りますよ!』
『おっおいっ!』
ダイロクテンマは、取り巻きに言いくるめられ、引きずられて退場していく。
『あんたが、御門野の次期当主……
この若いのにしっかり礼儀を教えるんだな。
今回は、あんたの顔に免じて泣いてやる。帰るぞ』
高橋が背を向けて歩き出すと、2体の黒陽と思しき人型も後に続いた。
全身、黒。車に使われる黒じゃなくて、光を反射しにくい黒。
ツヤのない、マット系と言うんだろうか。
肩には、コードナンバーなのか、13と27と数字がペイントされている。
南が相手をするにしても最低でも27体もいんのかよ、
結構、骨が折れるんじゃないのか?
『柊君、ごめん、あっちはさ』
『黒連サイド、ですよね』
『そう、もしかして知り合いだった?』
『(やべっ)見た事はないですけど、そんな感じかなって』
まだ、高橋を紹介する訳にはいかないよなぁ。
『ごめんね、私まで悪ノリしちゃって』
『万全でもなかったですし、御門野さんが来てくれて助かりました』
『あとは絵里香さん、処理お願~い』
僕の肩に手を置いて、綾も笑う。
『しかし、あれが”ダイロクテンマ”。噂以上ね』
『あり得ないっしょ、炎刃もバズーカも無傷よ?』
『確かにねぇ。何か秘密、トリックがありそうなんだけど』
綾の指摘に御門野が考え込む。
そうなんだ、フルパワーでないにしても炎刃の直撃でノーダメは考えにくい。
何かあるはずなんだ。
『でも、それを上回る、恭一君の”力”』
『そうよ、あれ、何?』
あ、こっちに火の粉が……二人の疑惑の目が……
『あの、その……まだ、よく分からない、お試し期間中の技で……』
言葉を考えるが、うまく出てこない。本当によく分からないし。
『絵里香様、理夜様がお待ちなのですが……』
僕たち3人の間に僧侶らしき人が割って入ってくる。
どうやら気を利かせて待ってくれていたようだ。
改めて周りを見ると、距離は置いているもののそこそこギャラリーがいた。
あれだけの戦闘ならば当然か。
『分かりました。柊君、ついてきて』
『あっ、はい』
『じゃあねぇ~』
僕は綾に見送られて、御門野の後、建物を進んでいく。
着いた先は、小さな和室で着物姿の女性が笑顔で迎えてくれた。
『いらっしゃい、柊恭一君。
いつも絵里香がお世話になっています。』
女性は、僕にむかって深々と頭を下げた。
『い、いえっ。そんな事ないです』
つられて僕も頭を下げる。白鞘の幹部かなにかかな?
御門野の方を伺うと、
『この人は、御門野 理夜。
私の母親』
複雑そうな顔をして着物の女性を紹介した。
『マジで?若すぎね?!あっ。すみません』
思わず出た心の声。
御門野を30歳だと仮定して、この人、30で結婚して、子供生んで……
30+30で60だとぉっ!!!
『ありがとう、でも、実の母親よ。
ちゃんと、私が絵里香を生んだの』
ほんと……なのか?絵里香と理夜を交互に見る。
これは、姉と言っても十分に通じるレベル。
いや、僕の目に狂いがなければ、絵里香の方が年う……え……あががが。
僕の頭に万力のような膂力のアイアンクローが決まる。
ギリギリと食い込み、頭に血がのぼ……いや、これは骨が軋む音……。
『ひ・い・ら・ぎ・くぅ~ん。今、すっげぇ、失礼な事考えなかった?』
『ちっ、ちがっ、違うくて!』
『絵里香やめなさい。なんでこの子はこんなに血の気が多いのかしら
お母さん、柊君と話がしたいの、手を放しなさい。』
『はいはい』
うぉぉぉ、頭痛が痛い。涙目で頭を抱える。
『いきなり呼び出してごめんなさいね。
今日は、柊君に直接話したい事があるの』
理夜はそう言って、僕の側に座った。
やばいすごい!すごいいい匂い。着物から見える首筋がきれい。
あっ、ちょっと、胸も……あっ、おっ、おぉー!
『柊君も大きくなってきたし、そろそろ、いい子を選んであげたいの』
『おムネが……は?』
理夜の手には辞書のような分厚いファイル。
一枚めくるとそこには女性の写真が見える。
『この子は、由井浜ちゃんって言ってね。
少しのんびりしてるんだけど……すごいいい子でね』
『ちょっとぉっ!御門野さん!これ、見合いじゃん!話が違う!』
『ソーリーw』
御門野 絵里香は苦笑し、合掌した。
『ダイロクテンマのデータは?』
『取れています』
『柊恭一君の方は?』
『もちろん、取っています』
『予想以上の棚からボタモチ。
当て馬にするつもりが、まさかの大化け、
ダイロクテンマと同格。
いや、それ以上の”役付き”が見つかるなんて。
年甲斐もなく疼いてしまうわ、はしたない。
今後は、能力を鑑みて、ダイロクテンマではなく、柊恭一君を優先します。
まぁ、織田家との付き合いも必要ですし、
バックアップ程度に考えておきましょう。
黒連には、ダイロクテンマを基幹としたダミー計画を報告しておいて頂戴。
うつけには、うつけの役割が必要ですもの』
『かしこまりました』
『これならば、
欧米、中国の”猿真似”を潰し、奪う必要もありません。
手間が省けるわぁ。
こちらも自前で高天ヶ原を目指しましょう。
件の女、”対となる者”も引き続き調査するように。下がってよい』
『了解しました。では』




