85.正義の味方 その二十四 赤い月
前日の戦闘による影響で爆睡し、目を覚ましたのはお昼過ぎだった。
"慈恩"を施しているにも関わらず右手は、変色したまま。だ。
この色はマズイ。バイオハザードのタイ●ントじゃねーか。
部屋の隅にある鞄が視界に入り、意識が覚醒していく。
中のブツを早めに御門野に渡しておかないと。
布団を蹴り、スマホを手に取る。
電話を掛けると、ワンコールもしないうちに相手は出た。
『あの、御門……』
『柊君?ちょっと待ってね。
……いいわよ』
早いな。エスパーなの?僕の電話をどんだけ待ち焦がれてたの?
僕の事、好きすぎるでしょ。
『”あっち”での作戦が終了しました。
報告と渡したい物があるんですけど』
『無事ね?怪我はない?』
『まぁ、なんとか。無傷じゃないけど』
『ならいいわ。それが一番の報告よ。今動けるの?
私、これから上がるけど、落ち合いましょう』
『いいっすよ。今、家なんですけど』
『桜ヶ丘ね。えっと、本屋あるでしょ?SUNMUSICだったかな?
そこに15:00でどう?』
『問題ないっす』
『じゃあ、後ほど』
ずいぶんとここら辺に詳しいな。
まぁ、いいか。戦利品のショルダーバッグを担ぎ、家を出る。
目的地までは距離もないので、徒歩で行くことにした。
部活帰りの学生達とすれ違いながら、晴れたなだらかな道を歩く。
おだやかで気持ちのいい風、昨日とは正反対の、のんびりした空気。
-SUNMUSIC-
約束時間には少し早く、新刊を見つつフラフラしていると、
視線を感じた。御門野?いや、時間が違うな。
白鞘や黒連、知っているメンバーじゃない。
かと言って敵意を持っているようでもない。
勘違いのような気がするが、好意的な感じすら受ける。
少々、迷うところだが、シンプルに行こう。
僕は、手に取りかけた新刊を戻し、視線の感じる方向を見る。
その人物は、横目で僕を視界に捉えながら、
キャラクターグッズ、小物の棚をゆっくりと歩いていた。
棚との対比で身長170cm以上あるな。
リラックマの人形の隙間から覗かれると、ややシュールだが。
先程の直感通りで、目に力は感じるが、その視線に悪意や敵意はない。
棚の列から通路に出てきて、全身を確認する事ができた。
黒く、長い髪、場違いな着物姿。黒く染められたその着物には朱い斑点が躍る。
美人というのもあるが、オーラというか、
その立ち振る舞いに他の客も目を奪われている。
所作に無駄がない。戦闘うんぬんはさておき、”できる”人間のようだ。
美人だと言ったが、綺麗だと言い直したい。
優雅で、色気があると言うのだろうか。
端正な顔立ちだが、着物の性で青白く見えるその肌は、病弱にすら見える。
しかし、それがまた、儚さを連想させ魅力に華を添えている。
男としては、本能的に引き寄せられるのだろうが、
僕の第六感が警鐘を鳴らす。
『この女は危険だ。今すぐに攻撃するべき』だと。
左手に力がこもり、強く握る拳には、痛みが生まれる。
鼓動が耳の奥から聞こえてくる程の、興奮、緊張。
正直に言えば、ややボッキすらしていた。
敵意を見せぬ様に努めて、自然に視線を交わす。
女性は、僕とのすれ違い様にこう言った。
『お待ちしております。あなた』
大声ではないのに、耳にはっきりと残る声。
僕は振り返ったが、女性はこちらを再び見る事なく書店を後にした。
追いかけるべきだったのかもしれない。
でも、僕はその場から動けなかった、
去り際の朱く光った瞳を見てしまったからだ。
術か、何かの攻撃?現時点で体に違和感はない。
黒連の関係者だろうか?当然、見た事はないのだが。
喉に嫌な渇きが、呼吸が乱れる。
奇妙な遭遇者の性で、べとつくシャツをバタつかせながら、
外で涼んでいると、クラクションが鳴った。
白い外車がゆっくりと近づいてくる。
ベンツ?いや、あれだ、丸が4つの……アウディだ。
結構、お高そうな車だな。
『お待たせ、乗っちゃって!』
運転席の御門野がウィンクで誘う。
僕が小走りで乗り込むと、車を書店を出て国道を走り始めた。
『お疲れ様です』
『お疲れなのは、柊君よ。ピエリででかい花火を上げたわね?』
『えぇ。もう、ご存じでした?』
報告よりも早く知られていた事に苦笑し、ほほを掻く。
流石に派手に暴れすぎたようだ。
『全部じゃなくて、漏れてきた一部の情報だけよ。
黒連と長老教会が衝突、ピエリの一画が炎上。
あと、報道規制とくれば、”ピン”と来るわw』
『そうですね。では、簡単にハイライトを……』
車が空いた湖岸道路を北上し始める。
・ 老人ホームでの戦闘
・ 黒バラの欠片
・ ピエリが黒バラの育成場所
・ ”カリバーン”との戦闘
『すごいわね!カリバーンを撃退したの!?』
『大苦戦ですよ。トドメは刺せてないですし、
炎上の性でどうなったか分かりません。
あっ、忘れない内にコレを。
バッグの中にピエリの長老教会からガメてきた物が入ってます。
USBやらCD-Rやら、あと、黒バラの一部です。
使えるかどうかまでは、確認できませんでしたけど』
『柊君!冴えてる!!でも、いいの?黒連の方には……』
『実は、結構な量を取ってきたんスよw
適当に半分に割り振りました。なんで問題ないかなと。
一応、あっちの監視役も目をつぶってくれそうですし』
『ムコウでも信頼されているんだ。あなたは、本当に架け橋だわ』
『あんま期待されすぎても困ります』
笑う僕の右手を御門野が柔らかく握る。
『柊君、あなたは、十分、いいえ、十二分に期待に応えてくれてる。
失う訳にはいかない。代わりの効かない”私の”。
この前も言ったでしょ。絶対に白鞘に帰ってきなさい。
私の元に』
『分かってます。ところで、どこに向かっているんですか?』
『白鞘の施設よ。延暦寺って知ってる?』
『えっと、あの……名前は少々、知ってます……』
『比叡山にある織田信長が一度、焼き払った場所よ。
授業で習ったでしょ?』
御門野が先程と違って、阿呆を見るような目になる。
『だから、名前は知ってますって!
正確な住所や!詳細な歴史を!!
知らないので、知らないと謙遜したんですよ!』
『はいはい。その一部を私たちが使っているのよ。元々、陰陽師の施設。
黒連と共同なんで、ちょっと厄介なんだけど』
『それは、ある意味、紛争地域では?』
『あはは、うまい事言うわ。小競り合いはあるんだけどね。
基本的にドンパチ禁止区域よ。大丈夫。
私の上司が柊君を一目見たい聞かなくってさー、
ちょっち顔出してくれない?』
『いいんすけど、綾さんの時みたく縁談とかは勘弁して下さいよ』
『……善処するわ』
そう言った御門野の眉間に、一瞬しわが寄った事を僕は見逃さなかった。
車は、琵琶湖大橋を渡り湖西エリアに進む。
しばらく走り、比叡山スカイラインに入ると観光客とは思えない、
更に言えば”カタギ”に見えない人間が乗った車がチラホラ。
『柊君、言わなくても分かると思うけど、
うちの、白鞘内にも結構、血の気が多いのがいるわ。
私がなんとかするから手を出さないでね』
『分かってますって。みうちと同士討ちなんて馬鹿らしいし。
でも護衛とかなら、宇梶とか連れてきても……』
『ここの入門の申請ハードルが高くて、そうそう許可が下りないのよ。』
『えっ、そんなすごい所なんですか?よく、僕の分は下りましたね。』
『最近の活躍で注目されてるし、あの、その、縁……とかイロイロあるし。
直接見たいそうよ』
嬉しいような、面倒くさいような複雑な感じ。
関係者オンリーのゲートをくぐり、御門野は、車を止めた。
『こっからはちょっと歩きよ。ないと思うけど、武器は車内に置いて』
『手ぶらですよ』
車を降りて、すぐに雰囲気が変わっている事に気づく。
寺社特有に加えて、ピリピリしたこの感覚。
結構、ヤバそうな奴らがいるようだ。
右手が完治してから来るべきだった気が……今更か。
御門野の後についていく。すれ違う僧侶姿の人間にジロジロと見られ、
多くの視線を感じる。居心地が悪ぃい。
そんな僕の気持ちを察してくれたのか、御門野の歩くペースが上がる。
詰所のような建屋の前で待つよう言われ、御門野が中に消えていくのを見送る。
スマホをイジっていると、後ろから聞いた事のある声が。
『あっれぇ~、恭一君じゃん』
平田綾だ。スーツ姿ではなく、ジーンズ、ラフな格好だ。
観光客に紛れる為かな?などど邪推する。
『あの、その、御門野さんに……ついてきました』
先日の一件の性で、変にドモってしまう。
『あっ、お披露目だっけ』
『お披露目?』
僕が顔をしかめると、綾は意味深に笑う。
『お楽しみよ』
『嫌な予感しかしねぇー』
綾に問いただそうとすると、騒がしい声に阻まれた。
『本当にいつ来ても辛気臭ぇーな、ココ。
ご先祖様みたく、焼き払った方が盛り上がるんじゃね?』
『いけませんよ、若。ここ、アウェーですよ』
『しっかし、ヒデよぉー、マジ、つまらんだろ?』
『言葉を慎み下さい!若、木瓜の当主たる……』
『分かったから、説教は止めろ、ラン』
見ると、3人の男女がこちらに向かってくる。
先頭の男の姿は紛れもなく、”DQN”。
ボサボサの金髪に無精髭、ダメージジーンズにサンダル。
半袖のポロシャツの左手には、革やらなんやらの多重のブレスレット。
右手には、紋様のようなタトゥー。腰に日本刀。
左右のヒデ、ランと呼ばれた男女がスーツ姿という事もあり、猶更浮いて見える。
『気を付けて、関わらないのがベターよ』
綾が僕に耳打ちする。
『お久しぶりです。若様、ご機嫌うるわしゅう』
綾は、気持ちの悪い程うやうやしく頭を下げた。
この話し方を察するに、格好とは違い相当なVIPという事か。
空気を読んで、僕も頭を下げる。御門野にも言われたが、もめ事はごめんだ。
昨日の傷も癒えてねぇし。
『おぉ、久しいな。平の。
しっかし、会議毎にこんな所に呼ぶのは頂けないぜ。
どうせ、大した事しねぇのにな』
『全く、”魔王”を呼ぶという事を理解していないっ!
無礼にも程がある!』
『まぁ、スマホで召喚できる”魔王”もどうかと思いますけどw』
『ヒデっ!貴様、それが主人に対する言葉使いか!?』
ランと呼ばれたスーツ姿の女が高圧的に言い放つ。
魔王?どういう意味だ?そのキーワードがひどく引っかかる。
こちらが”黒連”ならば、”魔王”がいるのも分かる。
だが、白鞘が”魔王”をVIP扱いするのか?
”魔王”は何かの隠語なのか?納得いかない。
『まぁ、いいさ。会議はあれでも夜はお楽しみがあるからな。
俺の血をくれてやる。ありがたぁーく、頂戴するといい。
なんなら、平、お前にも分けてやろうか?がはは』
『お戯れを、若様』
僕の嫌いなタイプの王道を行く、DQN。
とっとと、建屋の中に消えてしまえ!
あぁー、こいつ、不幸になればいいのに。
内心そう思った。事実だ。だが、悪意という程の物ではなかったはずだ。
殺意なんざ、こもっちゃいねぇ。
しかし、その男が前を通る瞬間、”左手”が雄叫びを上げる。
『!!!』
ノコギリで金属を引っ掻いたような不愉快な音が響く。
綾が、男の取り巻きが耳を塞ぐ中、僕と男の目が合うと、
男の下品な顔が一転して、ガチの顔を見せる。
ヤバイ、これは、僕が喧嘩を売った事になるのか?
互いに視線を外さないままでいると、鳴動がやっと納まり始める。
『俺に真っ向から喧嘩売ってくるヤツは、久々だな』
男は、左手を日本刀に添えて、腰を落とした。やる気だ。
こうなった以上は手遅れだ。僕は、半歩だけ下がり、右手を突き出す。
『若様、おやめ下さい。この術者は若く作法を知りません』
綾は、僕と男の間に入り、ひたすら平謝りするが、
『平の、どけ、俺がやると言った以上はやるんだ。
お前も俺に喧嘩売ってんのか?』
男に睨まれ、下を向いてしまう。
『若、その少年、雷ですよ』
ヒデは、男に耳打ちする。
『ほぉ~、お前が噂の雷神かよ。
殺気や構えはやや危ういつーっか、甘いようだが、
資質はある……ようだな。いいぜ、益々、見とかないとな!
ご自慢の”雷”みせてくれよ』
男は、僕との距離を更に空けて、建屋ではなく開けたスペースを背にした。
『こっちの方が、気兼ねなく撃てるだろ?
右手は万全にゃ見えねえけど、それはお前の都合だ。来い!』
『(いちいち、頭に来る)上等じゃないっすかっ!!』
視界に映る男に右手を重ねて、呼吸を二つ。
フルパワーには程遠いが、撃てない訳じゃあない。
目を細め、男を睨む。
ボディビルタイプとは違う、アスリートタイプの体型。
腰を落とし、右手で抜刀の姿勢。
右利きの日本刀使い、銃等の飛び道具の装備は見られない。
”雷吼鞭”を誘ってきたという事は何らかの対抗策があるのか?
両手のアクセサリーやタトゥーにもなんらかの効果が?
いや、構うものか、一撃で沈めてやる。
じぐり、じぐりと左手が疼く、いや、痛むのか?
変色した”右手”ではなく、右手を支える左手が熱を持ち始める。
『流れる白光 なぎ払え 雷吼鞭!!』
ギャラリーが見守る中、白い光が男に襲う。
だが、
『劔!!』
雷吼鞭は、僕の意図に反して二又にその進路を変えて、
かたや灯篭をぶち抜き、もう一方は立て看板を破壊した。
ど、どういう事だ?目が点になる。
男は、依然として構えた”まま”だ。抜刀していない。
いや、抜刀を見逃したのか?
当然、男は無傷。
『どうした?自慢の技はこれで仕舞いか?』
『な、な、な』
言葉が出てこない。無意識に半歩、後ずさる。
『なら、俺の番だな』
男は砂利を蹴り飛ばし、突進してきた。
『”鋭針装”!』
加速して横に跳ぶが、その先に男は苦も無く到達する。
近いっ!マズイッ!!
『劔……』
『プレパ・レ……』
ガチィン!!
獲物の日本刀が弾かれて、男は体勢を崩した。
不可視の攻撃を防いだのは、僕の”プレパ・レイド”ではない。
一振りの槍だ。この槍は……
『若様、私の部下が大変失礼を致しました。
後ほど、私の方から処罰を下しますのでここはお引き取り願います』
視線を移すと、スーツ姿ではなく、巫女装束の御門野が頭を下げていた。
あそこから投擲したのか。
『御門野……、
あんたにゃ悪いが、いいトコなんだよ』
『それ以上は、我々にも面子がありますのでご勘弁を。
それでもやりたいのでしたら、綾っ!ヤルよ』
突然、呼ばれた綾は、男と御門野を交互に見て、遂に腹をくくる。
『いいのよね?本当にいいのよね?
ちゃんと、ケツ持ってよ!時雨!!』
ギャリギャリと砂利で薙刀を引きずりながら、綾が僕の横に並ぶ。
ほんの少し笑っているが、目はマジだ。
さっき下手に出ていたのが嘘のようだ。
『おっ、3対1なら燃えちまうぜ。
こんなチンケな場所まで出向いた甲斐があるってもんよ。
ヒデ、ラン。手出し無用だからな』
男は、仲間を手で制し、僕たちを手招きする。
『コガラシッ!』
御門野は、一声で槍を手元に戻し、2、3回転させて肩で担ぐ。
『柊君、奥の手は見せちゃダメよぉ。
それ以外なら、ブッ放しちゃってOK。
若様、覚悟願いますね』
御門野の口が歪むのに見とれたほんの隙に、綾は、すでに男に迫っていた。
速えぇ。先日の一戦とは、ダンチ。あの時は、手加減していたのか!
男の顔が引きつるが既に手遅れ。
綾は、薙刀で刀を弾き、殴る殴る。
男の顔から赤い火花が散るのも構わず、ゼロ距離で殴り続ける。
怒涛の乱舞。男が幾度か回避を試みているが、薙刀がその度に動きを阻む。
しまいには、男の髪を鷲掴みにして、顔面に膝蹴りまでお見舞いする。
『嘗めた真似をっ!』
『残~念w』
深めに跳んだバックステップですら薙刀から逃げられず、蹂躙が続く。
リーチに勝る薙刀と、速さとゼロ距離のラッシュ。
速さで綾に軍配が上がる以上、先手は取られる。
男が1つ躱しても、薙刀で反撃や移動を封じられ、
再度、薙刀と拳、極め技の3択を迫られてしまう。
格闘ゲームのハメ技に近い。
そして、立ち合いを見るに、綾の方が膂力も勝っているようで、
”強引”に力で弾き返し、ねじ伏せ続ける。
そして、悲惨なのが、綾の後ろにもう”2人”、無傷の相手が待機している事だ。
目の前の敵に集中したいが、その”後ろ”を無視する事ができない。
僕では、正直に言って、御門野と綾を避けつつ、遠距離援護はできない。
が、それでも、無視はできない。
嫌がおうにも視界に入り、気を払わなければならない。
そして、その集中力が散漫している事を見逃す綾ではない。
上段からの裏拳を2連撃加え、捻りつつ回し蹴りで腹部を襲い、
男の反撃を薙刀の回し受けでいなし、手刀で頸部を刈り取る。
悲惨なコンボが続く。
一方的な連打が続き、綾の呼吸が上がり始める頃、
『綾っ!』
『あい!』
御門野の声で前後の立ち位置が変わる。
満身創痍の男へ、御門野の飛び膝蹴りが追従する。
鈍い音と共に崩れ落ちる男に更なる追撃が!
『落ちろっ!』
『ちっ!!』
男は初めて抜刀し、コガラシの突きをなんとか弾くが、
砂利の上に膝を着く。
『ふぅー、はぁー、ごほっ!
イキ遅れの産業廃棄物にしちゃあ……、
やっ、ヤッテ、ヤルじゃねぇか』
『あぁっ!!死にてぇーのかっ!?
田舎もんがぁ!!』
『キタねぇ、首晒してやろうかっ!?
一族ごと、焼却すっぞッ!カスが!!』』
男の挑発に過敏に反応する妙齢の女たち。
……
怖い、怖いよ。戦闘レベルもさる事ながら、この空気が怖い。
宇梶や亜美がビビる訳だよ。
相手の男、VIPじゃなかったの?扱いがヒドすぎるじゃん。
鼻、折れてるんじゃないの?仲間の2人も顔が引きつってますよ。
正直、僕、もう関わりたくない。
『いいぜ、見せてやる!俺の力を!』
男は、地面に刀を突きさし、両手を広げる。
『若っ、いけません!!』
『うるせぇっ!!
黙ってろっ!ラン。
百鬼夜行 ダイロクテンマ!!』
『!!!』
左手が痺れる。こいつ、同類だったのか!
でも、今までより反応が……魔王だからか?
濵口の時とも反応が違う。
痺れじゃなくて、痛みまで!
男の髪が伸び、両の目が爛々と輝き始める。
御門野と綾も固唾をのんで見ている。
彼女たちも初めて見る、この男の力。
眉間の髪、および揉み上げが逆立ち、まるで”角”のように、
顔の浮いた血管は、歌舞伎の隈取を思わせ、凶悪な顔面を形作る。
筋肉が隆起し、肌が赤黒く染まっていく。
その姿は、魔王というよりも、”鬼”を連想させた。
男は、地面に突き刺した刀を抜いて、一振りして笑う。
『仕切り直しと行こうぜ。
木瓜紋、第26代当主 織田 信陸が ダイロクテンマ!!
天下布武の続きを見せてやろうっ!』
とくん……、とくん……、とくん……、
とくん……、ドクン!……、とくん……、
とくん……、とくん……、ドクン!……
ドクン!……、とくん……、ドクン!……、
ドンッ!ドッドドドド!!
耳の中から音が聞こえる。なんだこの音は?
音は次第に大きく、間隔が狭くなっていく。
息苦しい、鼻が詰まったのか?息が……
『アナタ を 差し置いて
キサマ の ヨウナ 下郎 が ”王” を ナノリ
”天”ヲ オサメルナドド……』
声が聞こえる。
胸が痛い、息苦しい。なんだ、これ?
鼻水が……垂れて、えっ、赤い?これは……
御門野と綾が僕を見ている。
その顔はまるで……
”口”の中で声が聞こえた。
おかしな表現かもしれないけど、口から声が聞こえたんだ。
『我こそ、”朱”く染まりし、”天”を統べるモノ』




