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Heterodoxy outbound 3 アオくユレている

 

 日が暮れた湖岸。生温くて、ゆるい風が髪をなでる。


 気持ちいい訳じゃないんだが、実は嫌いじゃなかったりする。


 湖岸道路を走る自転車を眺めつつ、ふっと笑う。


 今、26だ。日本(こっち)で16年、欧州(あっち)で10年。


 滋賀での思い出は、まぁ、イロイロあるな。良い事も悪い事も。


 生まれた場所だから、感慨深いし、捨てられない。


 死んだ場所だから、きっと忘れられない。未練なんか山ほどある。


 これからの一生、掛かっても処理しきれないんだろうな。


 今も苦しんで悶えてる。なんとかなんねぇかな。


 一人、頭を掻き空を見上げる。


 もう少し暗くなれば、綺麗な星空を拝めるだろう。


 その後、望んだ訳ではないけれど、ドイツでの思い出がある。


 改めて思い返すと、10年だぞ。不思議と言うか、驚きだ。


 指折り数えても、10年だ。結構、続いているもんだ。


 中学じゃあ、英語の成績なんて壊滅的だったのに、


 今じゃあ、これがデフォルトだ。


 発音が少々ずれてるって言われるが、ドイツ語だってしゃべれる。


 驚きだよ。僕、意外にスペック高いぞ。


 日本で生まれ、日本で育った日本人が、


 欧州製の長老教会の術式に適性があるのも信じられん。


 なんか、訳分からないのに、なんか分かる。変な感じなんだよなぁ。


 母さん、僕の父さんは、本当にあの父さんですよね?間違いないよね。


 不倫したり、病院で取り違えたりしてないよね。


 あれ、なんの話?なに考えてたんだっけ……。


 そうだ。欧州に行っても、結局は黒連と同じ、こんな稼業に着いちまった。


 まぁ、”自分にはこれしかない”のかな。


 空になった缶コーヒーをゴミ箱に投げると、縁に当たってハズレちまった。


 ついてねぇ。


 『Mr.7!探しましたよ!』


 外れた空き缶を拾う為、歩き出すと、


 後ろから呼び声がしてスーツの白人が近づいてくる。


 あぁ、長老教会の……見つかった。お仕事の時間だ。


 一人の思い出語りは終わる。


 そう、僕は、”Mr.7”、”カリバーン・ミナトガワ”。


 長老教会に仇名す異端者を駆逐する剣。


 イロイロ引っかかって、進めそうで進めない。


 霧は依然として晴れないが、もう少しこの茶番を続けてみよう。


 道化師(ピエロ)にだって、役割、終点はあるはずだ。


 仏教では、”苦しむ為に生まれ、生きて死ぬ”という教えがあるそうな。


 言いえて妙だな。

 



 『”カリバーン・バートン”が大変お探しです。』


 『”カリバーン・バートン”が半狂乱で、手がつけられません!部下が……』


 『現地人との戦闘があり……』


 『現地人は、術者の可能性が……』


 『拠点が襲撃……移動の必要性が……』


 『術師、トーラスが捕縛されたとの未確認情報も……』


 『拠点Pも早急に移動させるべきでは……』


 部下達から矢継ぎ早に、情報を詰め込まれる。


 僕、聖徳太子じゃないんですけどね、


 助手席で辟易しながら、外の景色を眺める。


 優先すべきはなんだ?愚痴や不要な情報は流せ。冷静に、確実に天秤にかけろ!


 ……クレバーになれ。過去を後悔するのは、今じゃない。


 今、現在、できる事は?未来に正しき物を残すには?


 頭の中で、プランをいくつか立てて、優先順位をつける。


 いけるか?……いけるな。よし! 

 

 『分かった。拠点P防衛は、”カリバーン・バートン”に任せろ。


  トーラスを今、回収する必要はない!戦力をこれ以上分散させるな。

  

  他拠点の設備、技師の移動を最優先しろ、


  ”BL(クロバラ)”も一部破棄を許可する。


  僕が、拠点Pに向かう!』


 『了解しました!』




 部下と別れ、ピエリに向かう車中でスマホに襲撃報告が上がってくる。


 同日に2地点の襲撃か……なかなか行動が早い。


 目をつけられていたのか……拠点Pは設備規模からも全損は痛いな。


 コルネは、頭に血が上ると、むしろ自分で破壊しかねん。


 頭痛い。つーか、ヤバイ。


 しかし、陰陽師クラスをおしげもなく投入するか……黒連か?白鞘か?


 朝が黒連なのはほぼ確定として、今回はどちらだ?


 "BL(クロバラ)"も一部は奪われた可能性があるな。


 乱暴に車を駐車すると、煙が上っているのが見えた。


 鼓動と走るスピードが早まっていく。


 間に合うか!?

 

 従業員口をこじ開け、最短ルートで進もうとすると、


 『てめぇ、ナニモンだ。ここは……』


 『どけっ!』


 途中で立ちはだかるチンピラを蹴り飛ばし、プラントエリアを目指す。


 あれ、今の警備か?長老教会、質が悪いのを雇うなよ。


 こういう所で出し渋るから、襲撃の一つも防げないんだよっ!


 所々、炎上するフロアを越え、階段を昇った先に見えるは樹木の壁。


 コルネの”ヤンソン・フレステルセ”か!?


 術が生きてりゃ、本人も!

 

 『”排火(ルージュ)(セカンド) ブルホーン”!』  


 壁に穴をブチ開けると、見えた!


 いけぇっ!!


 『”シャッタード・スカイ”!!』


 


-柊達によるピエリ襲撃から数日後- 


 黒髪の女性と、金色が混じる茶髪の少女がケーキを食べながら談笑している。    

 『いやぁ、今回、結構ピンチだったよね。”柊”、噂より全然強いじゃん。

 

  プラントに合流してくんのも早かったしさ。めちゃ焦ったよ。


  ”トーラス”捕まっちゃったし、どーすんのさ、”レイブン”』


 ”レイブン”と呼ばれた黒髪の女は、枝毛を探しながら笑って答える。 


 『別に大した問題じゃないわ。核心の情報なんて知らないもの。


  拷問されようが、薬使われようが漏れるのは、既に分かっている事よ。


  あぁ、”ドライ”、あなたが裏切者だって事はバレルかも』


 『ちょっとぉ!


  私、どーなんのよ!結構、危ない橋渡って、助けてんのに酷くないっ!?』


 ”ドライ”と呼ばれたもう一人の少女は、


 レイブンの肩を力任せに揺すり大声を上げる。


 『ちょっ、ちょっ、冗談よ!冗談。


  やめて、声も大きい!”トーラス”はもう処理済み。


  あなたの事も漏れてないわよ』


 『本当に?』


 『今日の朝刊。えと、ネットで調べてみなさいよ。


  ”琵琶湖”、”白人”、”遺体”、”炎上”でヒットすると思うわ』


 『……うわ、マジだ。仕事早いわね』


 スマホをいじりながら、ドライが驚いた顔でレイブンを見る。


 『家柄ね。私ん家知ってるでしょ?


  捕縛者はまず情報が入るし、処理を任される事も多いのよ。


  ”いくらでも”、”どうとでも”なるのよ』


 レイブンは、フォークでケーキを摘みながら、悪戯っぽく笑う。


 『情報漏れはない?』


 『ないわ』


 レイブンは言い切って、コーヒーカップに口をつけた。


 『もっとも、私の”能力”で意図的に歪めて伝えた情報はあるけど』


 カップについたルージュの後を拭いながら、一言付け足した。


 『相変わらず大した自信だけど、そこまでできるの?』

 

 『お望みなら体感させてあげましょうか?


  あそこ。ゴミ箱漁っている浮浪者とあなたを交尾させて見せるわ。


  種族上、バックがお好みかしら?排卵日、近いわよね』


 感情の読めない瞳と歪んだ口元を前にして、ドライは口をつぐむ。

  

 『……』


 『冗談よ。そこまで万能じゃないわ。


  準備、手間だってかかるの。過信してないし、あなたもしないでね』


 沈黙は、レイブンが破り、そっとドライの手に触れる。


 『ジョークがきついわ。あんまり脅かさないで』


 『ごめんなさい。付き合いが長いと、軽口も出てしまうわ』


 『”軽く”ないんだけど』


 『お互い背中を預けられる数少ない仲間でしょ?』

  

 

  

 知り合いが近づいてきた事に気づき、ドライが大きく手を振った。


 『おっそぉーい!大遅刻!


  こっちはもう大変だったんだから。


  施設は、2個潰したし、コルネリアも危うく死ぬとこだったよ』


 『本人から聞いたよ』


 ミナトは、大げさに身振り手振りで説明するドライを見て笑う。


 『ホント、機転の利かない、有能な仲間のお蔭で


  ローストされるところでしたわ!』


 後ろにいたコルネリアが、ミナトの腕を組んだまま毒づく。


 『まぁ、コルネリアは一度、私を丸焦げにしたし、おあいこって事で』


 『うぐぐ、あれは作戦でしょ!?


  もう~!!腸煮えくり返りますわ!だから、日本人、嫌い!』


 『ざーんねん!うち、狐ですし、おすし』


 ドライは、両手を頭上で耳のようにピコピコ動かし、挑発する。


 『ミーナ、どいて。焼くわ』


 コルネリアが真顔で詠唱を始めると、


 『まぁ、なんとか間に合ってよかったよ』


 ミナトは、詠唱するその唇を指で塞ぎ、陽の光で輝く彼女の髪をなでる。


 『うん。私、ミーナが来てくれるって信じてたよ。


  最後までミーナを、ミーナだけを信じてたの』


 コルネリアの瞳が恋する乙女、盲目のそれになる。


 バカップルと言うか、女が”ヤンデレ”というヤツかしら。


 レイブンは、冷めた目で二人を見る。


 『ところでさぁ~、”BL(クロバラ)”焼けちゃったけどいいの?』


 ドライは、手でケーキをむんずと掴み、口に放り込む。


 そう、資金源たる物を簡単に手放していい訳がない。


 それとも、新しい金策があるのだろうか。


 『よくはないよ。でも、黒連や白鞘に渡す訳にはいかない。


  コルネやドライのお蔭で流出は防ぎ、拠点Pからも一部の種子を回収できた。


  設備も残っているし、今すぐとはいかずとも再開できるよ。


  プラントとしての再稼働はもうちょいかかるかな』


 『ふぅーん。じゃ、しばらくは有給休暇かしら?』


 レイブンは、コーヒーカップの縁を指でなぞりながらミナトに尋ねかける。

   

 『こいつが届いたから、休暇にはならないよ。』    


 ミナトは持っていた小振りのアタッシュケースを叩く。


 『何それ?』


 『"BL(クロバラ)"ではなく、こいつが本命。噂に聞いた事があるかな?


  ”金の白百合”さ。


  ”祭り”も準備中だとさ』


 

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