75.悪の手先 アナザー22 Non Non びより
-滋賀県 高島市 市街から少し離れた別荘地-
『はっ!』
『やぁっ!』
髪を短くまとめた二人の少女、
”春風”と”月”が左右から翁に襲い掛かる。
なにかの武術か、二人の体が淡く虹色に光って見える。
『遅い!』
翁は一喝、春風の突きと月の蹴りを同時に捌く。
『踏み込みをもっと早く、重く!』
白髪を揺らし、春風との距離をわざと開き、再度詰める。
『こう!』
春風と重なる程近づき、翁は、一瞬体を沈め、肘撃ちを放つ。
『うっ!』
びくんと体を弾ませ、くぐもった呻きと共に、春風はその場に崩れ落ちる。
『でいっ!』
翁の背後から月が飛び蹴りで強襲する。
『月も迂闊に飛ばん!』
翁は、月の足を事も無げに掴み、勢いそのままに地面に叩きつける。
『うえっ!』
月は、地面に突っ伏して沈黙する。
『ピピピピピ…』
アラームが1時間過ぎた事を告げた。
『よし、今日はここまで。シャワーを浴びてきなさい。お昼にしよう。』
パンパンと手を叩き、翁は、二人に笑顔で話しかける。
『翁、ひどいよ。お腹叩かれたら、ご飯食べれないよ。』
『うえっ、ぺっ、ぺっ、ぺっ。』
春風は泣き顔で腹を擦り、月は顔をしかめて、口に入った泥を吐き捨てる。
背中を落とし、家へと向かう二人と入れ違いに門脇が出てきた。
『お疲れさん、精が出るな。』
門脇はそう言って、翁にペットボトルを投げる。
『できる事なら、こういう事よりも、晩餐等のマナーを教えてやりたい。
しかし、事態が事態。
ワシが組織の幹部に戻れるまでは、身を守る術を磨かにゃならん。』
ペットボトルのお茶を口に含みながら、少し悲しそうに翁が愚痴る。
『複雑な親心か…』
門脇も少し顔を曇らせる。
『何を呆けておる。次はお前じゃ。
ほれっ、かかってこんか。』
ペットボトルを飲み干し、翁は、チョイチョイと門脇を手招きする。
『はぁっ?俺?俺はいいよ。
術を使って、波動を探知されてもマズイだろ?』
門脇は、手を振って苦笑する。
『じゃから、術禁止。体術のみで頼むぞ。
自慢の”プレパ・レイド”も禁止じゃ。』
翁は、首を鳴らしながら、屈伸を始める。
『それだと術者の俺、超不利じゃね?一方的にドつく気かよ。』
門脇は、眉間にしわを寄せて抗議する。
『かわいい娘にふさわしい雄になってもらわねば困る。
春風、そして、月も守れる”力”を身に付けろ。
お主なら、”力”に魅入られる事もないじゃろ?
あって困る物でなし。
来んのか?ならば、こちらから行くぞ。』
翁は、ゆっくりと門脇に歩を進める。
『ちっ、お手柔らかに頼むぜ。』
軽く舌打ちし、門脇も翁に向かって歩き出す。
『春ぅ、翁とカドが戦ってるよ。』
バスタオルで髪を拭きながら月は、春風に話しかける。
『ホントか?”プレパ”あれば、カド無敵。負けないよ。』
ジーンズに足を通しながら、春風は笑って月に答える。
『でも、カド、術使ってない。』
『ん?カド、”武”使えたか?』
月の実況に春風は、顔をしかめ、眉間に手を当てる。
『だから、ボコボコ。』
窓の外を指しながら、月が笑う。
『何してるかー!』
春風は、窓際に走り、叫んだ。
『強ぇぇぇ。』
切れた唇を拭いながら、門脇は感想を口にする。
何度か戦闘を見たから、”知って”はいた。
だが、拳を直に交えたのは初。
手が出ない。
春風や月、ましてや、術者の僕など文字通り赤子の手を捻るようなものか。
先程は、娘達が相手という事でかなり手を抜いていたのだろう。
今は、躊躇いなく、打ち抜いて、振りぬいてくる。
じじいの体術じゃねぇ。
『ここまでボコボコにされると術の一つでもぶっ放したくなるぜ。』
門脇は、歯を見せ、威嚇する。
『ここまで殴られても、約束を反故にせず、術を使わん事には敬意を。
じゃが、お主、絶対的な防御壁”プレパ・レイド”に頼りすぎとる節がある。
術者として、ワシが教えられる事はない。
不器用じゃが、この方法でお主を更なる高みへ導く。』
言い終わるが早いか、翁は、砂埃を舞い上げ、距離を詰めて来る。
ドン!
右足を大きく大地に踏み込み、体を捻りながら掌底が飛んでくる。
門脇は、両手を交差して防御するが、
『ゴッ!』
防御しても、衝撃は、その腕を伝導し内蔵を穿つ。
『ぐはっ!』
門脇の口から、体内の空気が漏れる。
やっかい極まりない。
この速度では防御がやっと、防御しても衝撃は伝わってしまう。
氣功だかなんだか知らんが。
ドン!
更に左足を踏み込み、次弾を放とうとする翁。
『やばっ』
門脇は、体を捻り、苦し紛れに後方に飛ぶ。
『立ち直りが早いのは美点じゃな。』
翁は笑い、深呼吸を一つして、再度、構える。
どうやって攻略するかな。
僕は、元々、防御系の術者。攻撃手段のメインは、銃撃。
成長して、攻撃術は覚えたが、体術はどうしても”おざなり”になってしまう。
そういや、過去、光田にもボコられたな。
体術の模擬では、ミナトにも遅れを取って笑われた。
光田…アイツ言ってたな。
『いいか、門脇。喧嘩っつーのはビビったら負けなんだ。
前へ、前へ出て殴るんだよっ!
殴られたら、倍返しだ!!』
その時は、アホらしいと思った。
だから、”プレパ・レイド”を発案し、硬度、発動速度、展開領域の向上を進めてきた。
これで身を守ってきたんだ。
これを封じられると…まいったね、こりゃどーも。
翁が息を整えている。
再度、氣功の連撃が来るな。
『門脇さん、理論っつーか理屈っぽいんですよね。
なんつーか、読みやすい。良い意味でも悪い意味でも頭いいから。
負けそうになると逃げの一手。初手で決まりますよね~。』
ミナトの言葉が頭をよぎる。
なんでアイツが出てくるんだ!
”悪い意味で頭いい”ってなんだよ!矛盾しているだろ。
”清純派AV女優”並みに矛盾してるわっ!
いいよ、やってやる。
こんなバカな真似はこれっきりにしたいがね。
翁が突進してくる。
どちらかの足を起点に攻撃が来る…、”左”にかけた!
門脇は、左足に体重を乗せ、右手を振りかぶる。
『!!!』
予想外の行動に一瞬、翁の顔に驚きの表情が浮かぶ。
狙うは、翁の顎!
ガゴッ!
門脇の渾身の右フックは、翁の左手に遮られた。
『くっ、ぐぐぐぐぐ。』
力を込めるが、ビクともしない。
『くそぉぉぉ。
今日はちっと、ムキになるぜぇぇ。』
門脇は、全力で右手を押し出す。
『お主にしては、稀に見る気迫。じゃがっ!』
ふっと右手の抵抗が無くなり、門脇は、前のめりになる。
『ダンッ!』
門脇のみぞおちに翁の右手が刺さる。
『ぐへっ。ぐぐぐ。』
門脇は、うめき声を残し、その場に崩れ落ちた。
まっ、こんなもんですよ。実際は。
『一汗かいた後の飯は、うまいのぉ~。』
『『『おいしくないっ!』』』
笑顔の翁に対し、門脇、春風、月は、同時にツッコむ。




