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76.悪の手先 アナザー23 outgrow


 おいおい、マジかよ、真昼間からこれかよ。


 しばらく、肉食えねぇよ。


 『ごきぃっ、くきゅっ!』


 何か硬い物を噛み砕いた音が聞こえた。


 それが何かは大体想像が付く。


 できれば、こんな光景なんか直視したくない。


 でも、顔が、体が動かない。


 更に、喉まで上がってきた吐き気を押さえるので精一杯。


 『ちっ、ちっ、ちっ。』


 口元を赤く彩り、爪で歯間をイジリながら男が”ヤナ”に近付いてくる。


 『悪りぃ、待たせたな。行こうか。』


 『……はい。』

 

 若干、尿漏れを起こしたズボンを履いたまま、”ヤナ”は男に続く。




 『はははっ!爆釣、爆釣!!』


 男は、左手を振り回し、上機嫌に笑う。


 釣っているものは、魚ではなく、女なんだが。


 しかし、この男の左腕はどうなっているんだ?


 巨大化したり、ワイヤーを射出したり、


 左手が分かれ、両手になったり。


 何を言っているか理解できないかもしれない。

 

 だが、目の前には、左肩から”両腕”が右肩から”右腕”が生えている男がいるんだ。


 『”ヤナ”っ!もう一匹行くぜぇっ!』


 男は、女子中学生を無造作に”ヤナ”に投げてくる。


 学生服の少年は、地面に叩きつけられ、うめき声を上げる女を縛って行く。


 『慈悲や正義は、どこにあるんだろ。』


 誰に言う訳でもなく、一人呟く。

 

 


 鼻歌を口ずさみながら、濵口は、軽快にハンドルを握る。


 『なぁ、”ヤナ”。』


 『なんですか、濵口さん?』


 『う~ん、その濵口さんってのはなんかカタイな。


  もっとラフでいいぜ。』


 『じゃあ……、おハマさん。』


 『それも微妙だが、まぁ、いい。


  話は変わるけどさ。


  女って拉致、レイプされる時、大抵”お母さん!”って叫ぶだろ?』


 『……そのパターン多いですね。』


 突拍子もない話に驚きつつも、”ヤナ”は、適当に相槌を打つ。


 濵口は、身振り手振りを交え、熱弁を続ける。


 『すっげぇ、謎なんだよ!


  よしんば、その現場に母親が来たとしよう!


  母親一人で僕に勝てる、助かると思ってんのか?』


 『確かに…僕も含めた場合、男2人ですよね。


  女2人で…勝てる訳ないですよね。

 

  プロレスラーの北斗見たいなのが来たら、参りますけど。』


 『そうなんだ!なぜに”お母さん”なのか?


  ”お父さん!”なら、まだ分からなくもないのだが…』


 濵口は、真剣な顔で悩んでいる。


 こいつ…マジで頭おかしい。


 ”ヤナ”は、ドン引きしたが、決して口にはしない。


 この男、異常なのだ。


 スタバでの尋問の後、


 コンビニによると言い出し、付いて行くと、


 セブンイレブンの駐車場でイキナリ車上荒らししやがった。


 目的は、車。ハイエースが欲しかったようだ。


 車が欲しいのなら、鍵を入手。もしくは、運転手をボコって十分だろう。


 にも関わらず、『腹が減った』とのたまい、


 ”ヤナ”の目の前で食人して見せた。


 マジでブルッた。金玉が縮み上がった。


 前回の襲撃で、僕の命があったのは運が良かっただけ。


 こんな化物…、敵うはずが無い。




 そして今、入手したハイエースを駆り、JC、JKを拉致しまくっている。


 濵口が左腕で女を強襲、”ヤナ”がガムテープで簀巻きにしていく。


 そんなルーチンワークを繰り返し、今や車内は、男2人の女8人。


 満員御礼、過積載だ。


 『おハマさん、もう~そろそろ女はいいんじゃないんですか?


  車、一杯ですよ。』


 『ん?そーだな。じゃあ、どっか、田舎の方、外れに行くか!♪~』


 濵口の鼻歌は止まらない。


 昔流行ったアニソンのような気もしたが、

 

 ”ヤナ”は題名が思い出せなかった。


 車内の女達は、恨めしそうな目で僕を見ている。 


 せいぜい、今のうちに僕を恨むがいいさ。


 あと数時間もしないうちに、お前らは化け物の胃袋に収まるのだから。




 田舎道、峠道を通っていくと、潰れたレストランが見えた。


 濵口は、駐車場の隅にハイエースを止める。


 『よーし。では、”ヤナ”君の~ちょっとイイとこ見てみたい!


  こいつから逝くか!』


 手近なギャルっぽい女の頭を鷲づかみ、引き摺り下ろす。


 『ん~!!!』


 女は、何か話そうとしているが、ガムテープで口を塞がれている為、


 全く聞き取れない。


 『じゃあ、行ってみよう!』


 濵口が満面の笑みで”ヤナ”に振り返る。


 『ギャルって処女じゃない気がするんですけど。初花(ガブリエル)!』


 ”ヤナ”は、愚痴りながらも、女の上着をめくり、右手を女の下腹部にかざす。


 『ぶちぃっ!』


 千切れる様な音とともに、赤黒い”カブトガニ”が女の腹に吸い込まれた。


 『じゅるぅっ!』


 痛みからだろうか女は、目を見開き、体を痙攣させる。


 『おぉっ!』


 ”ヤナ”は、自身初の能力発動に声を上げる。 


 『うぉいおいおい!!なんかグロかったな、今の!


  で、これからどーなる?』


 濵口も、やや興奮しながら”ヤナ”の肩を叩く。


 『いや、その初めてなんで…これからどーなるのか。』


 ”ヤナ”は、戸惑いながら肩をすくめる。


 カチン!チッチッチッ…


 金属音、時計の針の音が鳴る。


 『おい、”ヤナ”。右手、光ってるぞ。』


 指摘され、”ヤナ”が右手を確認すると、手首に光の帯が付いていた。


 帯の中に数字が見える。今、”00:09:57”。


 56…55…54…下二桁が減っていく。


 『タイマー!』


 思わず”ヤナ”は叫ぶ。


 『つーことは?』


 濵口が口の端を歪め笑う。


 『”0”になった時点で発動!』


 ”ヤナ”も釣られて、邪悪な笑みを浮かべる。


 『あと、10分ちょいだな。』


 『初めてなんすけど!すっげえ、ドキドキする。


  初めてなんすけど…』


 濵口は、はしゃぐ少年の頭を軽くポンポンと叩き、ハイエースを見る。


 『1人当たり、約10分。


  全てが処女の可能性は低いが、半分当たりで40分か。


  これはなかなか楽しくなってきたぞ。』




 登山客のような外国人達が集まって、話している。


 言語はすこしなまった英語のようだ。


 『調査中、おかしな能力者を発見。』


 『黒連か?』 


 『いえ、黒連ではないと思います。恐らく白鞘でもないと推測します。』 


 『どういう事だ。』 

 

 『陰陽術とは明らかに傾向が違います。


  言葉から日本人2名と推定。黒髪、学生服の少年、茶髪ロングヘアーの青年。


  能力を発現させたのは、少年の方です。』


 『完全なる別物と言う訳か。』


 『肯定です。』


 『相手に気付かれていないな。』


 『肯定です。』


 『よし、追加ミッションだ。少年は、生かしたまま確保するぞ。


  青年は、可能ならば確保、無理をする必要はない。


  抵抗するようならば削除しろ。』


 『了解。』


 『マリーン、ケリーが少年。マイク、メリダで青年を当たれ。


  Go!』


 登山客達は、それぞれのリュックからナイフ、銃を取り出し、斜面を駆け出す。


 視線の先にあるのは、白いハイエース。

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