66.悪の手先 アナザー17 君が悪夢を連れてきた
-白く無機質な廊下-
『ちっ、くそが。勝手に剃り込み入れやがって。
パンイチだしよ。寒みい。』
濵口は、右側頭部、髪の毛を失った場所を擦りながら廊下を歩く。
まだ、頭がボーっとする。薬でも盛られたのか。
この格好という事は、解剖でもする気だったのか。
黒連…エグイな。
柊と戦った後、黒い人型に囲まれた。
数体は、破壊したが、その後、記憶がない。拉致か。
まぁ、いい。幸い切断された左腕は何事もなく繋がった。
百鬼夜行サマサマだ。
先程、7人も食べた性か少々、胸焼けはするが、まぁ、大した事じゃない。
濵口は、右手で左肩を揉みながら、左手を回す。
ゴキゴキと派手に首を鳴らすと、
『ヒュィーン…ギュイン!!』
耳障りな音とともに何かが濵口の左側を通過する。
『ちっ、外した!』
振り返ると、来た道の奥に茶髪の少年がいた。
その少年の左肩には、小さな女?が乗っている。
何だありゃ?なんつーか、昔の船の艦首に着いてる女神というか…
その小さな女がこちらに腕を向ける。
『!!!』
濵口は、直感的に体を反らす。
『ギュイン!』
先程と同じ音とともに何かが飛来する。
一気に頭を戦闘モードに切り替える。
『百鬼夜行 赤マント!』
濵口は、左手を変形、盾にしながら、少年に向かって走る。
『ハン!天井!よろしく!』
少年は叫ぶと、回れ右をして、逃げる。
『このガキ!逃がすか!!』
『白蜥蜴!!』
少年と入れ違いの形で白い爬虫類が濵口に向かってくる。
イグアナ…なのか?デカすぎるだろ。
4m、下らないぞ。猛スピードで地を這いずり近付いてくる。
『カァアァァァッ!』
イグアナは、奇声と共に濵口に飛び掛ってくる。
”赤マント”で防ぐが、白いイグアナは、左手に噛み付いて離れない。
乱暴に左腕を振るが、重くて振り落とせない。
『くそっ、何だ、こいつ!』
共振がない。俺や柊のような百鬼夜行じゃない。
『Violence. Voltage. Valkyrie.行けぇ!』
また、茶髪のガキが何かを飛ばしてくる。
『重てぇ!』
濵口は、イグアナを引き摺りながら、廊下の柱に身を隠す。
『チュインッ!』
何かが柱に刺さる。
右手で引っかき、取り出してみると潰れた乾電池なのが分かった。
あいつ、電池を撃ち出してんのかよ。
差し詰め、電磁砲と言った所か。
濵口が、乾電池に気を取られていると白い鞭が首を襲う。
イグアナの尾が絡みついている。
『ぐっ!』
左手使用不能。右手で解こうとするも薬か、麻酔がまだ効いているのか握力が出ない。
『こいつらぁ…』
『ギュイン!』
少年の放つ乾電池が濵口をかすめる。
柱の陰から出ると狙撃される。かと言って、このままじゃ、らちがあかない。
やりづらい、どうする?
『百鬼夜行 口裂け女!』
濵口は、能力を切り替える。
赤マントに噛み付いていたイグアナは対象を失い、地面に落下する。
『オラァッ!』
濵口は、鋏でイグアナの頭を突き刺す。
硬度のある骨を貫通し、内臓物にダメージを与えた感触が左手に伝わる。
そのまま、前後左右に鋏を揺するとイグアナは、2,3度痙攣し、動かなくなった。
首に絡み付いていた尾も力を失い、だらしなく垂れる。
『ぺっ、まずは、一つ!』
濵口は、白い体を自らの体液で赤く染めたイグアナに唾を吐き、笑う。
次は、茶髪のガキだ。
距離を取って、こそこそと狙撃しやがって…不愉快極まりない!
『百鬼夜行 一本だたら!』
左手を再度変形させ、黒い大砲を少年が隠れた柱に向ける。
角度良し!風なし!直撃コース!!
濵口は、左手を右手で支え、体を廊下に固定し、吼える。
『吹き飛べ!』
『赤口紅!』
『ガン!!』
濵口の大砲が何者かに弾かれる。
砲身がブレ、放った砲弾は、少年の直上の天井に着弾する。
施設内のスプリンクラーが作動して、辺りはさながらスコールになる。
濵口の前に、女が立ちはだかった。
身長150~160。グレーのスーツを着ている。
この雨の性で前髪が額に張り付き、ルックス、スタイルは悪くないが不気味だった。
女の両手の爪が異様に長く、赤く輝いている。
『3人目かよ、人気者はツライ。』
大砲を杖代わりに立て、濵口は笑う。
『勝屋、ハンが能力代価で負傷してる。一緒に下がりなさい。』
女は、濵口から視線は外さず、少年に告げる。
場慣れ…しているな。濡れた髪をかき上げ、濵口も女を睨む。
『でも…』
少年が何か言いかけたが、
『いいから!早く!!』
女が有無を言わせぬ剣幕で怒鳴る。
勝屋と呼ばれた少年は、柱の影から姿を消した。
『仲間をかばうのか…シビアな組織かと思っていたんだが…
なかなか、泣かせるじゃないか。』
『お前には、関係ない。』
『冷たいな~。こっちは、下着一つだぜ。
暖めてくれないかね~。そのおっぱいでw。』
濵口は、右手で揉む仕草をして、軽口を続ける。
『下衆め。』
女は、言い捨てると水飛沫を上げながら、濵口に突進してくる。
『百鬼夜行 赤マント!』
濵口もすぐさま、左手を変形、迎撃体勢に移り、女の初撃を”赤マント”の盾で防ぐ。
爪による貫通はしない。やられはしないのだが…
濵口は、軽く舌打ちをする。
速い。攻撃もだが、爪攻撃後の戻しと体裁きが速い。
左右に体を振って、大振りではない攻撃を繰り返しやがる。
うっとうしい。
革靴を履いているのか、カツカツ、鳴る音もムカつく。
格闘ゲームの”弱パンチ”でチマチマ削られてる気分だ。
精神衛生上、好ましくない。
『邪魔くせぇ!』
”赤マント”を強引に振り払うも、女は、バックステップでかわし、
低い体勢からの踏み込みで濵口の太ももの肉を軽くえぐり、また、距離を取る。
『いってぇっ!』
濵口は、右手で太ももの傷を押さえ、女を睨む。
『大した事ないのね。口だけ?』
女は、爪に付いた血を払い、軽蔑した眼差しを濵口にむける。
こ、このアマァ…
薬か麻酔か、イロイロ盛られてなけりゃあよぉ。
愚痴っても仕方ないが、このままでは、嬲られる。
援軍が来たら…、あの黒い人型がわんさか出てきたらマズイ。
狭い廊下…、時間もねぇ、パワーもねぇ。
スプリンクラーの水ではなく、冷や汗が濵口の額を滴り落ちる。
『次は、どこをえぐりましょうか?足?腕?リクエストは?』
女が目が細め、猛禽類のそれを思わせるその目が妖しく光る。
舐めやがって…
『お前の乳から毟ってくれるわ!』
濵口は、自ら女との距離を詰め、左手を突き出す。
『遅い!』
女は”赤マント”を右爪で払い、左爪を濵口に向け突き刺そうとする。
『そうするだろうな。』
濵口は笑い、”右手”で女の爪を受ける。
手のひらに爪が深く食い込み、廊下に血が飛び散る。
『なっ!』
濵口の行動が予想外だったのだろう、女の顔に恐怖に似た感情が映し出される。
『!!!』
女は、すぐに我に返り、身を引こうとするが爪が抜けない。
『百鬼夜行 手長!』
濵口の左手は、2つに割れ、片方は、女の右手首を、もう一方は首を絞める。
『おっ、おっごっ!』
女は、苦痛に顔を歪める。
『もう一丁っ!』
濵口は、女のみぞおちを蹴る。
『うげぇっ!』
女は、胃の中の物を吐き出し、その場に崩れ落ちる。
『おかわりは、どうだ?』
濵口は、頭を垂れる女の顔面に膝蹴りで追撃する。
『ぐっ!』
赤い花火が散り、女の整った顔に無残な痕が残る。
『逝っちまいな!』
濵口が左手に力を込める。
『うっ、うっ……』
もはや、抵抗らしい抵抗もできず、女は、白目を剥き、その場で失禁、失神した。
女が意識を失った為か、赤い爪はその姿を消した。
『お~、痛て。女は、黙ってんのが一番だぜ。』
濵口は、動かぬ女を見て、右手を振りながら呟く。
-施設内 駐車場-
先程の少年、勝屋が青のRX-7の運転席に座っている。
『”ハン”!エンジンかかったけど、僕、無免だし、ぶつけても知らないよ!』
『パァァン!』
『!!!』
破裂音に振り返り、運転席を出ると同時に、
色白の腕が勝屋の首と左腕を締める。
『かっ、かっ!』
勝屋は、自分の足がゆっくりと、地を離れていくのが見えた。
自らの首を絞める腕の先にいるのは、…濵口だ。
右手には銃を持っている。
『な、なんで…』
濵口の足元には、赤い水溜りに沈む”ハン”の姿が見えた。
『なんで?説明いるか?お前の仲間を倒してココにいる。』
濵口は、笑いながら動かぬ”ハン”の頭を足蹴にする。
『Vi…』
勝屋は、左手を動かし、何かしようとするが…
『人の話は、黙って聞く物だ。』
みしぃっと嫌な音の後、勝屋の左腕は、人体の構造上、有り得ない方向を向いた。
『うぅぅぅぅぅぅ~!』
首を絞められている為、声にならぬ声が洩れる。
『本当は、お前らのその”超能力”?とやらに興味があるんだが…、
スケジュールが詰まっててね。
今日の所はこれでお暇するよ。
じゃあな、ラッキーボーイw。』
濵口は、そう言って、勝屋を駐車場の端に放り投げる。
勝屋は受身も取れず、止めてある車のフロントガラスに叩きつけられた。
濵口は、手早くRX-7に乗り込み、シートベルトを締める。
『レカロ、ターボタイマーも付いてる。悪くねぇ!』
勝屋の様子を気にするでもなく、
濵口は、わざとエンジンを吹かし、RX-7で駐車場を出た。
『被害者多数!サンプル”L.A”は逃走!極力、京都内で捕捉しろ!』
黒いスーツ姿の男達が慌しく、駐車場を走る。
そんな喧騒を他所に、勝屋は、よろよろと力なく”ハン”の元に歩く。
『ハン…嘘だよね…大丈夫だよね。天井もすぐ…来るよね…』
眼に涙を浮かべ、跪き、ハンの顔を見る。
返事はない。
『”ハン”の遺体を確認した。回収を頼む。』
黒いスーツの男が携帯で話しているのが聞こえた。
『嘘だ…そんな…だって…ハンは、賢くて、お金持ってて、
RX-7も僕にくれるって…一緒にドライブ行こうって…
ドリフトも教えてくれるって…天井と3人で…
うっ、うっ、うっ、うえぇぇー!』
勝屋の嗚咽は、後処理に追われる黒連の人間の声に掻き消された。
『…濵口…殺してやる。僕が必ず…この手で…殺してやる!』
ハンが握っていたスマホを手に取り、勝屋はその場を後にした。




