65.悪の手先 アナザー16 ARMS
『ピー、ピー、ピー。』
電子音が響く部屋で拘束された男が眠っている。
体中の至る所にコード、チューブが刺さっており、髪の毛も半分剃られている。
白衣を着た女性が男の側に座り、計器を確認している。
『サンプル、”L.A”の容態は?』
白髪の中年の男が部屋に入ってきた。
『依然、薬で眠らせています。』
白髪の男は、拘束された男を一通り眺め、空いている椅子に座る。
『異常はないね?』
『ありません。と、言うよりも通常かどうか分かりかねます。』
『と、言うと?』
『脈拍、血圧、電気抵抗、エトセトラ。上げだしたら切りがありません。
筋肉弛緩剤、睡眠薬を血管に直接投与していますが、
いつ眼を覚ますか、気が気でありません。』
女性は、数値を記載したメモをめくりながら報告する。
『はっはっは。』
手を叩き、男が笑う。
『笑い事じゃありません。先日も…。』
『聞いたよ。新人が”とちった”そうじゃないか。』
『えぇ、危うく、意識が戻るところでした。』
『それは、それで見てみたいものだが。』
『やめて下さい。人間を捕食するんですよ。
縁起でもない!』
女性が憤慨する。
『ところで、左腕の方の解析は進んでいるのですか?』
今度は、女性が男性に尋ねる。
『進まんね。どういうセオリー、プロセスかさっぱりだ。
今も若いのが頭を抱えているよ。』
白髪の男はまるで他人事のように笑う。
『キーワードを合成音声や電気信号で送っているがまるで反応しない。
ぴくりとも動かんよ。
皆、否定するがやはり左腕がコアユニットなのではなく、
こちらが、この体こそが本体なのではと思ってね。来た訳だよ。』
『あの、私、不思議だったんですけど。
なぜ、”左腕”がコアだと定義付けられたのでしょう?』
女性は、計器の数値をメモしながら尋ねる。
『以前もね。この”化物語り”は研究されてたのさ。
その際、暴走、脱走された事があった。
結局、殺害処分したがね。
本体の頭は狙撃、心停止したにも関わらず、最期まで左腕が稼動していた。
それで、”左腕”が本体、コアユニットだと考えられている訳だ。』
『そうだったんですか。』
-同ビル 別室-
『なぜだ?なぜ反応しない。電気信号も薬物にも反応しない。
どういうことだ?』
白衣を着た寝癖頭の男が髪を掻きむしる。
目の前には、肩から切断された左腕がある。
『電圧は?』
白衣の男は、自分と同じ白衣を着たメガネをかけた男に問いかける。
メガネのシルバーフレームが奇形で、いかにもインテリといった感じだ。
『もう限界まで上げている。これ以上は無理だ。
事実、皮膚に火傷が確認できる。
左腕そのものを損傷させては元も子もなくなる。』
『しかし、どうやったら反応するんだ?』
『違うアプローチが必要なのか…。
本体に反応を与えて見てはどうか?』
『!!!』
『それだ、やってみよう!』
『しかし、眼を覚ましたら…』
メガネの男の後ろにいた白衣の女性が怯える。
『拘束具はつけてある。問題ないさ。』
メガネの男は、笑う。
拘束具に包まれた男が運び込まれてくる。
『よし、始めよう。』
『危険すぎます!』
『大丈夫さ。ここは、黒連の施設。警備班、黒陽だって待機させている。』
『科学の発展にリスクはつき物だ。』
『電圧、上げます!』
びくん!っと拘束された男の体が動き、ゆっくりとその目が開かれる。
『目を開いたぞ。』
『よし、では、合成薬Ph…』
男は、ぐるりとまわりを見る。
その視線は、自らの左肩、そして、切断された自らの左腕に注がれる。
『俺の、俺の…左腕がぁああああ!』
絶叫が部屋に響く。
『うるさいな。筋肉弛緩剤と微量の麻酔…』
『百鬼夜行 赤マント!!』
男が吼えると同時に切断された左腕が変形する。
『!!!』
『なんだこれは!』
白衣を着た人間が驚き、とまどう。
左腕は、赤い布のような物で拘束された男を包み、拘束具をいとも簡単に破る。
『警報を…』
インテリメガネの男が叫ぶよりも速く、その男の顔が”赤腕”で砕かれる。
ゴリィ!ぶちゅり。
嫌な音と共に、白を基調とした無機質な部屋に鮮血が飛び散る。
『あ、あ、あ…』
仲間の血を浴び、まわりの人間は絶句し、その場に立ち尽くす。
『全員殺してやる。』
男の低い声が部屋に響いた。
そこからは、惨殺だった。
白衣の人間達は成す術もなく、虐殺される。
頭を砕かれ、眼球が飛び散る。腕を千切られ、筋繊維がばら撒かれる。
腹を抉られ、腸が男の左腕を更に赤く染める。
生きたまま、解体、捕食される。
一人、一人。
異常に気付いた、警護班、黒陽達が現場に着いた時、その場に男の姿はなく、
その場は、屠殺場同然と化していた。
『緊急警報!緊急警報!!サンプル”L.A”が脱走。ゲートは封鎖。
全員、武装解除!!』
『なぁ、ハン。これ、ヤバすぎるっしょ。強いってレベルじゃないって。』
監視カメラに映る人間を捕食する人間を見ながら、少年が顔をしかめる。
茶髪のオールバック、チンピラ風だが、顔は幼い。10代後半にも届いていないだろう。
右手には、なぜか単4の乾電池を数本、握っている。
『元々、ヤバイ組織だし、こういう事もあるだろ。』
ハンと呼ばれた黒髪のロンゲの男は、なかば達観した表情でスマホをイジっている。
顔ツキが日本人とは少し違う、韓国人のようだ。
そして、悪趣味な蛇革のズボンを穿いている。
『サンプル”L.A”。本名……なんて読むの?』
『濵口 浩志だ。勝屋、お前、日本人だろ?』
ハンがあきれて、少年に話す。
『濵って漢字だけ、読めなかったの!』
少年は、性もない抗議をする。
『つーか、私達でなんとかなんの?』
ハンの後ろで化粧を直しながら、前髪パッツンの気の強そうな女が尋ねる。
『勝屋の”V.V.V.”で狙撃しながら、俺と天井で迎撃。
捕獲の指示が出てるが、無視だ。てゆーか、無理だ。
あんなもん、極力関わりたくねぇ。最新型の黒陽でも破壊されてる。』
『了解。』
オールバックの少年は、ポケットからスマホを取り出す。
『アタシ、嫌なんですけど…』
女は、駄々をこねる。
『仕事だよ。仕方ないだろ。ガチでやる必要ねぇよ。無理ならすぐ撤退だ。』
『はいはい。』
ため息をつきながら、女は手鏡をしまい、スマホを取り出す。
『行くぜ!』
『『『剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)!』』』
ハン達、3人のスマホが光り輝く。




