60.悪の手先 アナザー14 Raging waves
『ピピピ…』
携帯の着信でミスターセブンことミナトは、目を覚ます。
枕元の時計を確認すると午前4:00。なんて時間だよ。
ミナトは舌打ちする。
宿泊しているホテルの枕が合わず、睡眠不足だと言うのに。
しばらく、無視するも、携帯は鳴り続ける。
ミナトが先に折れて、仕方なく電話に出る。
『はい、もしもし?』
『ミスターセブン?シスター・マリアです。今、よろしいですか?』
いいか悪いかぐらい、時間を考えれば分かるだろうに。
まだ、薄暗い外の景色を一瞥し、ミナトは髪を掻きながら答える。
『どうぞ。』
『悪いニュースです。あの男が生きています。』
『あの男…?まさか…門脇ですか!?』
ベッドから飛び起き、急いで着替えながらミナトは確認する。
『はい、間違いありません。固有能力と思われる
”プレパ・レイド”の発動も確認しております。』
そんなバカな。確かに止めを刺した。
腹部…内臓は破壊。頭部…頭蓋も割ったのに。どういう事だ?
………やけに抵抗しない、無防備だと思ったが影武者だったのか。
汚い真似を…決着に泥を塗りやがって!!
『目撃場所は?』
語気を強め、ミナトは聞き返す。
『兵庫県 神戸市 南京街。
現在は、件のチャイニーズとともに行方をくらましています。』
『何かてがかりは?』
『現在、調査中。”東”に逃げた模様。』
『分かりました。すぐに追います。情報は、また展開して下さい。』
『了解です。それと長老教会からの指示は、
”南京街”の”元”長である翁及び門脇の殺害です。
次はしくじりませんよう、よろしくお願いします。』
『分かっています!』
ブチン!
電話は切れた。
何がしくじりませんよう!だ。
お前も間近で見てたのにトリックに気付かなかっただろうが!
ミナトは一人悪態をつく。
すぐさま、携帯をいじり、門脇の携帯に電話をかける。
『ピピピ…おかけになった電話番号は、現在、使われておりません。
こちらは、NT…』
くそっ!
どこに行く?あいつはどこに向かう?東…か。
件のチャイニーズとともに…外国人、足手まといを連れて、知らない土地に行くか?
NOだ。
東京都心、京都、大阪は、黒連の支部がいくつかある。これも避けるだろう。
十中八九、滋賀だ。
芸がないが、あいつの性格上、冒険はしないだろう。
くそっ、もう少し情報が欲しい。
あの嘘つき坊や(ライヤー)を使うか…再び、ミナトは携帯をイジる。
『ピピピ…』
『はい、もしもし?』
出た!
『やぁ、坊や。調子はどうだい?』
『お陰様で、上々ですよ。』
どういう事だ?以前と雰囲気が違う。
『えらく余裕だね。』
『そう言う、あんたは、余裕がないように聞こえるぜ。』
この野郎、なめた口をききやがる。
『取引と行かないか?
黒連や白鞘から逃げる手助けをしよう。
その代わり、一仕事、頼みたい。』
『それは助かります。』
『条件だが…』
『だが、断る!!』
なっ!ミナトの提案を電話口の相手が遮る。
『随分な扱いだな。死ぬのが怖くないのか?』
『死ぬ事よりも、身内を売って、情けなく生きる方が嫌だね。』
『今、殺してやろうか?』
ミナトの口に思わず、怒りが出る。
『やってみな。まぁ、僕の前任者なんだから、それくらい訳のない事なのかな?
でもね。僕は、あんたとは違う。
”黒”でも”白”でも”あんた”でもない僕の道を行く。
誰も信用しない、誰にも信用されないあんたでは理解できないか?』
『利用されてるだけだ。所詮、あやつり人形なんだよ!』
『それは、あんただろう?』
『!!!』
『黒連に振り回され、白鞘に振り回され。
結局、多分…今、どちらにも”いない”んだろうね。』
『ガキが知った風な口を!!』
『子供だからね。もうしばらく、夢を追わせてもらう。』
『後悔するぞ!』
『あはははは。バカなんで、昨日の事は、片っ端から忘れるんだ。
あっ、申し訳ないけど、”仲間”を待たせてる。じゃあ、また。』
ブチン。
電話は切られてしまった。
”あんたとは違う。”
自分の後継者の言葉にミナトは歯軋りする。
門脇といい、柊といい、僕をこけにしやがって…
一人づつ殺してやる。
ミナトは、ベッドに隠してあった2丁のマグナムを腰に挿し、ホテルの部屋を出る。
-京都府~滋賀県-
国道161号線をAudi A4で北上しながら、ミナトは一人推測する。
滋賀県南部に潜伏する可能性は低い。
恐らく、北部。琵琶湖の西か…京都とは、離れた東か?
長老教会からの追加情報はない。
本気で探す気があるのか?僕一人でやらせるつもりなのか?
門脇…流石に能力をバカスカ使わないだろうから、
目撃情報は見込みなし、力の波動感知も難しいだろう。
チャイニーズを連れているはずだから、そうフラフラと出歩かない…掴まえ難い。
ミナトが思案しながら、カップホルダーのコーヒーに手を伸ばした瞬間、
バックミラーで何かが光る!
『バシン!バシン!パァン!!』
Audiの後部ガラスが砕ける。
『ちっ!』
ミナトは慌ててハンドルを切る。何者かに襲撃されている。
後方からの狙撃、いや自動小銃での乱射か!?
後ろの車だ!
尚も、攻撃は続く。
『タタタタッ!べコン!ベコベコ!!』
タイヤを撃たれ、ハンドルを取られたAudiは、歩道を横断、そのまま田んぼに突っ込む。
『おおおおおおっ!』
ミナトは、間一髪、車を飛び出す。
ぐしゃぁと嫌な音を立てて、田んぼに突き刺さったAudiを追い越し、
シルバーのセダンが止まる。
『おやおや~、やっぱりお前か。しつこいぞ、と。』
笑いながら、一人の男が車から出てくる。
サンダルにジーンズ、舐めたピンクのポロシャツ。
てめぇ…門脇。向こうから現れやがった。
『汚い真似しやがって。』
顔についた泥を拭いながら、ミナトが毒づく。
『ん?それは、前回の事か?今回の事か?
それとも…”前々回”の事か?』
おどけた仕草で指を折りながら、聞き返す門脇。
『殺す!!』
ミナトは、門脇に向かって走る。
『拝火の二 ブルホーン!』
ミナトの力ある言の葉に応え、紅の一対の角が門脇を強襲する。
『あめぇよ。”プレパ・レイド”!!』
術の衝突で、光が発生、破砕音が響く。
紅の角の進行は、門脇まで届かない。
『ちっ!』
『ふん。』
ミナトは舌打ち、門脇は鼻で笑う。
事前情報より、発動速度、硬度が上がっている。薬か何かで体を強化しているのか?
ミナトは、Audiの陰に移動し、黒いマグナムの弾倉を確認する。
あんたの銃で頭を吹き飛ばしてやる。
Audiから体半分を出し、門脇に照準を定める。
『オラァッ!』
炸裂音と共に”ジャイロ”が門脇に向け、放たれる。
『剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ) 合金蜂』
風きり音と金属同士の接触音。
門脇の肩から何かが飛び出し、”ジャイロ”は、その軌道を変えた。
更にもう一つ、何かがミナトに向かって飛んでくる。
蜂!?
『なっ!』
ミナトは、横飛びし、銀色の蜂を避ける。
蜂は、空中でUターンし、再度、ミナトに向かってくる。
情報漏れだ。こんな能力の報告はなかった。
このままでは、ジリ貧。
後ろを確認すると、門脇が銃を取り出すのが見える。
ミナトは、とっさにマグナムを捨てると、両手を合わせ、開く。
『乱!』『流!!』
ミナトを中心に霧が大量発生、視界を白く染めていく。
これで時間が稼げる。蜂は無視し、本体の門脇を倒す。
ミナトは、身を低くし、門脇に向き直る。
『衝動!』
ゴゥン!という大きな音とともにミナトのすぐ側の地面が削られる。
同時に霧もかき消され、ミナトの姿が半分あらわになる。
『おしい、外したか。もういっちょ!衝動!!』
ミナトはバックステップでかわすが、更に地面ごと、霧が削られる。
霧の発生が追いつかん!
ミナトは、御堂乱流を解除し、詠唱を始める。
『衝動!』
眼前がえぐられ、ミナトは、門脇と再び、対峙する。
『”雹連華”!』
詠唱終了とともに雹の散弾が門脇に牙を剥く。
『小賢しい!”バニラ・ソード”!!』
襲い来る雹の散弾を蹴散らし、白いつららがミナトを飛来する。
2発はかわすが、残り3発が追尾してくる。
『くそっ!
拝火の三 シャッタード・スカイ!!』
赤い炎のシャッターがミナトを覆い、白いつららを相殺する。
『おやおや、”どこか”で見た事のあるような技だな。
あこがれの先輩を必死に真似たのかな?』
ジーンズのポケットに手を突っ込んだまま、門脇が笑う。
そんなバカな。
僕は強くなった。
門脇は、年老いて、弱くなったはずだ、あれから十年だぞ。
なんだこの差は?
あの頃…、ピーク時より、はるかに強い。
この様子だと、更に奥の手があるのか?
このままでは…
『いいぜ。昔のよしみだ、尻尾巻いて逃げな。』
門脇は、手を払う仕草をする。
『…このカリは必ず、砕!!』
ミナトは、札を投げ、”閃光蓮”を発動させる。
辺りは、まぶしい閃光に包まれるが、
予見していた門脇は手で目を隠し、周囲に気を配る。
ミナトは、門脇に背を向け走りだす。
『なめやがって!なめやがって!』
閃光が止んだ後、誰もいない田んぼで一人たたずみ門脇は笑う。
『昔より…逃げ足、速くなってら。』
服についた埃や泥を払い、門脇は、落ちている”黒いマグナム”を、
更にミナトのAudiを物色、いくつかの物を持ち出す。
『2勝1分け。僕の勝ち越しだ。』
ポケットから、スマホを取り出し、電話をかける。
『春風?僕だ。長老教会からの追っ手を見つけた。
一応、迎撃したが、注意を怠らないでくれ。
翁と月にも伝えて。』




