Heterodoxy outbound
これは、少し過去の記憶の欠片。
ハッピーエンドにならなかった話。
一人は、希望を胸に組織から出る事を望んだ。
一人は、絶望を胸に組織から出る事を望んだ。
ガンメタリックのスカイラインGTRが東名高速道路を走る。
いや、かなりの速度が出ている。飛ばしているといった方が適切だろう。
法定速度をはるかに超過したこの車の中では…
運転席に強持ての短髪男、助手席に中性的な顔立ちの髪の長い少年、
後部座席には、目つきの悪い青年が座っている。
『光田さん、もう少し、距離寄せて。』
助手席の窓から、コルト・ガバメントを出し、標的に狙いを定めながら
ミナトは、叫ぶ。
『これ以上、寄せたら、俺のR32に傷がつくだろ!』
『中古で買ったくせに…いいじゃねぇか。』
運転する光田の文句を後部座席の門脇が制する。
今日の標的は、”ターボ・ばばあ”。
名前の通り、高速を”高速”で移動する妖怪だ。
このGTRの左前方を信じられない速度で”4足歩行”している。
『だから、言ったろ。会社のマークⅡで行くべきだって。』
『会社のマークⅡは、古いし、シートが臭せぇんだよ!
あのおっさんみたいなレースのシートカバー、気色悪いだろ!』
狭い車内で光田と門脇が喧嘩をしている。
よくも、まぁ、やるもんだ。
『ちょっと、後にして下さいよ。』
一向に止みそうにない口論をミナトが止める。
『光田さん、前見て、運転だけしてろって。
シフト、ミスんなよ!
シートに穴開けっぞ。』
『ミスるか、ボケッ!
門脇、てめぇ、俺のR32汚してみろ。
血が出るまでどつくぞ!』
『コァン!ゴォン!』
光田の操作に、GTRが答え、雄たけびを上げながら加速する。
『ミナト、威嚇射撃!』
『やってますけど…当たらないっす。』
『光田さん、窓全開!ミナト、伏せろ!』
『門脇、ちょっ、おまっ!』
光田の制止を無視して、
門脇は、足元からRPG-7を取り出す。
『一撃必殺(Fire)!』
門脇は、”ターボ・ばばあ”を狙い引き金を絞る。
大きな噴出音とともに弾頭が発射され、目標を爆砕した。
-黒連支部 一室-
『門脇、お前は何を考えてんだ!頭、おかしいだろっ!』
光田は、備え付けの机を叩き、怒鳴り散らす。
『目標は、倒しましたけど、何か?』
門脇は、腕を組んだまま、平然と質問に質問を返す。
『何か?あぁ、言ってやる。言ってやるとも!
たかが妖怪、一匹倒すのに、バズーカ使う馬鹿がどこにいる!
俺の成功報酬なんざ、報道規制、
高速道路の補修やらで火星まで飛んじまった!』
『高速道路の補修なんざ、国民の血税とやらでなんとかなるっしょ。』
門脇、反省の色なし。
『そういう問題じゃねぇ!俺、めっちゃ、上から怒られたんだぞ。』
『責任者は、責任を取る為にいる!』
門脇、渾身のドヤ顔。
『オラァッ!』
光田のボディブローが門脇の脇腹に突き刺さる。
『うごっ!』
門脇の体がくの字に曲がり、地面に崩れ落ちる。
『これは、俺の成功報酬の分!』
光田が倒れている門脇を蹴り上げる。
『ぐげっ!』
『これは、俺のR32の修理費じゃあ!!』
『あっばぁっ!』
光田のアッパーカットが門脇のアゴを的確に捕らえる。
門脇は、地べたで2、3度痙攣し、動かなくなった。
『返事がない。ただの屍のようだ。』
側で黙って見ていたミナトがつぶやく。
『ふぅ~、ふぅ~。オラァッ!ボケェッ!』
光田は、まだ怒りが治まらないのか倒れこんだ門脇を蹴り続ける。
『もうヤメテ、門脇さん死んじゃうw』
ミナトは、適当に光田を止める。
『ちぃっ、まだ、物足りんが、仕方ない。』
光田が額の汗を拭う。
『ミナト、お前には別指令がある。』
『何ですか?』
『白鞘、知ってるだろ?そっちに出向だ。』
『えぇ~、面倒ですよぅ。』
『仕方ねぇだろ、この馬鹿がワヤクチャしやがったから。
俺にも立場があんだよ!』
光田は、動かぬ門脇を指差す。
『それって、光田さんと門脇さんの事情じゃ…』
『お前も一本いっとくか?』
光田が、こぶしを握り、指を鳴らす。
『喜んで行ってきます。』
ミナトは、部屋を後にした。
白鞘…
ミナトが所属する黒連とは同じ職種ながら異なる派閥。
どちらもカタギでない事は変わらないが。
-黒連 訓練室-
『乱』、『流』
門脇は、”御堂乱流”を展開する。
ミナトが得意な術、癪に障るが、年下にならった術だ。
ゆっくりと丁寧に術を展開、保持する。
”水”という属性からだろうか、この術を使うと少し落ち着く。
家庭の事情で黒連に所属するハメになった。
たまに怒りで暴れたくなる。愚痴もこぼしたくなる。
やっても仕方ないし、なんともならない。
だから、ふと、この術を使う。
ほんの少し、落ち着く。
くそったれの世界がほんの少し、マシに思える。
-京都府 南禅寺-
白鞘でのパートナーは、黒連と違い女性だった。
ミナトよりいくつか年上、ミナトより背が高く、黒髪のポニーテール。
活発で気が強そうな女性だった。
立ち振る舞いからお金持ちなんだろうと勝手にミナトは決め付けた。
『君が、出向者の子?
はじめまして。
私の名前は、御門野 絵里香。』
『はじめまして。僕の名前は、湊川です。
下の名前は、その…あまり好きじゃないから。
ミナトって呼んで下さい。』
『じゃあ、わたしもエリカでいいよ。』
『ありがとう、エリカ。これからよろしく。』
『こちらこそ。ミナト。』
『牽制します。雹連華!』
ミナトは、術を構成、敵に向かって、散弾を放つ。
『ナイス!霊槍 コガラシ!フォローよろしく!』
エリカは、ポニーテールの黒髪をなびかせ、
槍を肩に担ぎ、敵へ一直線に突進する。
『エリカ、出すぎだって!』
『臨機応変!』
エリカは、振り向きもせず、ミナトの忠告に自分の意見をかぶせる。
『はいはい、お姫様!』
ミナトは、ガバメントで援護射撃をする。
『ねぇ、ミナトさぁ~?』
白鞘の任務後、夕暮れを二人で並んで歩きながら、
エリカはミナトに話しかける。
『ん?何?』
ガバメントのマガジンを交換しながら、ミナトが聞き返す。
『そろそろ、下の名前、教えてよ。』
『やだ。』
ミナトは、即刻、要望を拒絶する。
『なんで、教えてくれないのよっ!』
エリカは、ミナトの前に立ちはだかり、ほほを膨らます。
『前にも言ったろ、好きじゃないからさ。』
ミナトは、マガジン交換を終えた、
ガバメントを腰にしまい素っ気無く答える。
『いいじゃーん、コンビでしょ?』
エリカは、ミナトの肩を掴み、揺すりながら駄々をこねる。
『言ったら笑うから、嫌。』
『笑わない。』
『絶対、笑うから嫌。』
『ぜったい、笑わない。』
過去にも何度かやったやりとりだが、
珍しく今日は、エリカが退かなかった。
ミナトが折れる。
いつも主導権は、エリカだ。
『………誓う?』
『神に誓う。私の霊槍 コガラシに誓う。』
エリカは、真面目な顔をする。
『……湊川 七。数字の七でナナ。女みたいでしょ。
はい、終わり。』
『かわいいじゃん。』
エリカは微笑む。
『ほら、笑った!』
ミナトがエリカを指差し、非難する。
『今のは、違うって。本当にカワイイなって。』
エリカは、顔の前で手をパタパタと振りながら、否定する。
『馬鹿にされてる気がする。』
『そんな事ない。本気だって。』
『信じられない。』
ミナトは、下を向く。
やっぱ言うんじゃなかった。
『ホント。……大好きな人の名前が知れてよかった。』
『なぁっ!……』
ミナトが、驚き、次の言葉を発しようとした口をエリカの口が塞ぐ。
『ん………』
『…………』
『………ホンキだから。』
唇を離したエリカの真剣な顔にミナトは、
『……ありがと。』
顔を真っ赤にして一言だけお礼を言う。
『これから、二人っきりの時だけ、”ナナ”って呼ぶね。』
『ホント、二人きりの時だけにして下さい。』
これからの主導権も全部、持って行かれたが、
ナナはそれほど嫌な気分がしなかった。
久々に黒連から召集がかかり、ミナトは指定された場所に向かう。
部屋に入ると、既に門脇が先に着いていた。
門脇の前には、寝癖の中年男がいる。
『川島 芳雄のぉ~すぅわぁ~いいしぃ~んさぁ~く(最新作)!
”ジャイロ・ボーラー”と”魔弾 T.M.R.”だ!!』
白衣を着た寝癖の男がミナトと門脇に大声で話す。
『うるせぇよ。』
『なんすか。』
門脇とミナトの反応は冷めている。
『なんだとはなんだ。貴様らの為に、我が英知を結集したんだぞ。』
二人の前に、黒と銀のリボルバータイプのハンドガンが2丁、
青と赤の銃弾が6発づつ計12発置かれる。
『これ、コンバットマグナムじゃね?』
『何それ?』
『ルパン3世の次元が使ってた銃だよ。』
『あぁ、アレ!』
門脇が黒の銃を手に取り、ミナトに説明する。
『むっ!門脇、それは違うぞ。
正式には、S&W M19
川島スペシャル ツェッペリン ツヴァイ
マ-ヴェラス ヴォランテ エスパーダだ。』
『余計わかんないよ。』
『もっかい、言ってみろ、じじい。』
ミナトが笑って、銀の銃を手に取り、門脇が毒づく。
『結構、重いな。』
『ホント、ガバメントとは違うね。』
『当たり前だ!あんな量産品と一緒にされたら困る。』
『重い、でかいのは、携行しづらいし、疲れる。
現場の、使用する人間の事を考えてくれ。
開発者のマスターベーションじゃ困るぜ。』
門脇が、もっともな意見を言う。
『対人ではなく、対魔用の試作品じゃでの。
お主ら最近、任務多いじゃろ。是非、使ってみてくれ。
弾丸も特注じゃ。いいモン、つかっとる!』
『だ~か~ら~、高価な材質を使う必要なんてないんだよ。
手に入り易くて、安くて、信用できる物が一番なんだよ!
第一、なんでリボルバーなんだよ。
装填に時間かかるだろ!』
『6発のみしか撃てないのはねぇ~。』
ミナトは、リボルバーをいじりながら、
門脇の指摘に追従する。
『ワシ等は、開発部じゃぞ!量産なぞ知らん!戦争は火力じゃあ!!』
『どんな理論だよ!』
『まぁまぁ。』
すれ違う川島と門脇をミナトがなだめる。
『弾丸は?』
『よう気付いた、ミナト!』
川島が嬉しそうに弾丸を一つづつ掴む。
『こっちの青いのが、”ジャイロ・ボーラー”。
正式名称は、螺旋弾。
対魔用に特殊術式火薬増量、メインにタングステン弾を使っておる。
作るのに時間かかったわい。
ちっと、癖があるでな、門脇専用じゃ!
こっちの赤いのが、”魔弾 T.M.R.”
正式名称は、Terror Material Rodo(呪われし遺物の円舞)
メインに劣化ウラン弾を使っておる。
こっちをミナトに。
もちろん、どちらも銀装コーティング済み!』
『あっぶねぇ~!戦車用じゃねぇか!』
門脇は、銃を投げ捨て、一歩身を引く。
『一般人だと体が持たんじゃろ?それでお前らに頼もうかと。』
『えっ、そんな威力?』
ミナトの顔が強張る。
『威力もそうだが、劣化ウラン弾はマズイだろ。
よく手に入ったな。』
門脇が驚きながら、”魔弾 T.M.R.”を手にする。
『出所は聞くなよ。ひひひ。』
川島が笑って釘を注す。
『お前らの身体能力、妖怪ぐらい的が大きくないと効果が分からんじゃろ。
使ってみてくれぃ。』
『トリガー弾いた途端、右手持ってかれるんじゃねぇの?』
あくまで門脇は否定的だ。
『事前解析で、反動による人体ダメージは計算しとるよ。』
『撃つこっちにダメージ与えてどーする!』
門脇の罵声が部屋に響く。
川島があまりにもしつこいので、
門脇とミナトはそれぞれ一丁づつ、銃を持ち帰る事になった。
だが、その銃が対妖怪に使われることはなく…
『ねぇ、ナナ。』
『なぁに?』
『その…さ。』
『何さ?』
ナナは、布団から起き上がり、エリカに向き直る。
『私と……結婚しない?』
『なんで疑問形なの?』
ナナは、笑う。
『その続きがあってね…』
『なに?それは僕の回答より先?』
ナナは、意地悪く聞き返す。
『ご、ごめん。その…返事を…』
『イエス。』
ナナは、エリカに口付けをする。
『ほ、ほんと?』
『えっ?信用してないの?』
『あっ、違う、違うの。その、一度目は、わざと断られるかもって…』
『あっ、すればよかった。』
ナナは、舌を出して笑う。
『ちょっと!あんたねぇ!!』
エリカは、ふさけるナナにまくらを投げる。
『ごめん、ごめん。その…続きは?』
『そのね…。もう止めにしない?
白鞘とか陰陽士とか。
もう、ナナがケガするの見たくないの。
二人で逃げちゃおうよ。どこか遠くに。
お金はあるし…さ。』
『二人きり?』
『当たり前じゃん。お父様とかに言えないよ。』
エリカは俯く。
『…うん、いいね。二人きりで静かな所に行こう。』
ナナは、もう一度エリカに口付けした。
『ずっと、一緒だよ。』
白鞘、黒連を去る前に挨拶したい人がいる。
定時連絡会とは別にミナトは光田と門脇の元を訪ねる。
『すみません。急に来ちゃって。』
ミナトは、二人に頭を下げる。
『構わんが、珍しいな。』
光田が少し、驚く。
『調子はどうよ。白鞘は、少し、退屈じゃないか?』
門脇は、ライフガードを飲みながら、ミナトを見て笑う。
ミナトは、一つ大きな深呼吸をして、話しだす。
『今日は、大切な話があって来ました!
黒連、抜けさせて下さい。僕、結婚します!』
『はぁあっ?』
『ブッ!』
光田は、すっとんきょうな声を上げ、門脇は、ライフガードを盛大に吹いた。
『お、お前、正気か?まだ、16だぞ!』
動揺した光田がミナトの肩を掴み、揺する。
『年齢は関係ありません。』
ミナトは、真っ直ぐと光田を見て即答する。
『すげえな、おい。マジか?』
口を拭いながら、門脇がミナトに問いかける。
『覚悟の上です。』
あくまでミナトの気持ちは揺るがない。
『お前、本気なんだな。』
光田が、急に真剣な顔になる。
『いいじゃねぇか。一度くらい結婚してみたって。』
門脇は、意外にミナトに対して肯定的だった。
『そっちじゃねぇよ。黒連を抜けるって方だ。
噂っつーか、事前調査通り、御門野 絵里香って女か?』
『はい。そうです。』
ミナトは、真っ直ぐ光田を見る。
しばらく、沈黙した後、光田が深刻な顔で話す。
『……残念だ。お前を白鞘から回収する。しばらく、黒連本部で待機だ。』
『な?なんで?』
ミナトが慌てて光田の腕を掴む。
『いいか?お前の本来の目的は、白鞘への出向、協力じゃねぇ。
内部の情報収集だ。こっちが篭絡されてどうする?
頭を冷やせ!
御門野は、俺達が処理する。』
ミナトの胸ぐらを掴み、光田を淡々と話す。
『エリカは関係ないだろ!手を出すな!』
ミナトが腰からガバメントを抜き、光田に向ける。
『おいおい、仲間を撃つのか?
お前は、黒連の人間だ。
今までも…これからもだ!』
『エリカには、手を出させない。』
ミナトの握るガバメントが震える。
『やむを得んな。準備しているメンバーに…』
光田が携帯を取り出した瞬間、
『パァン!』
聞きなれた音が鳴る。
『ミナト…てめぇ…』
腹を押さえ、倒れこみながら光田がミナトを睨む。
『門脇さん、あんたも動かないで。』
ミナトは、続いて門脇に銃を向ける。
門脇は、ゆっくりと両手を上げた。
『あんたは、撃ちたくない。』
『それは、僕も一緒だ。
早く、その女連れて逃げろ。
すぐに追っ手が来るぞ。
黒連だけじゃなく、恐らく白鞘からも。』
『今までありがとう。ごめんなさい。』
『末永く、幸せにな。』
走り去るミナトに門脇は手を振った。
-京都駅-
『御門野 絵里香様、お父上がお呼びです。』
駅でミナトを待つエリカの周辺を黒服の男達が囲む。
『な、なんで?』
エリカは、動揺する。
誰にも話していない。
ナナと私だけの約束だったはず。
『さぁ、こちらへ。』
黒服のリーダー挌の男が、前に出て、車を指差す。
エリカは、一歩下がり、右手を構える。
『このような場所で戦闘されるおつもりですか?
我々は、あなたの回収だけが任務です。
一般人に”多少の被害”が出ても構わないのですよ。』
黒服の男が、冷たく言い放ち、胸に隠した銃を見せる。
エリカは、構えた右手を下げ、うつむく。
『その…、連絡したい人がいるの。』
『申し訳ありませんが…そのご要望には答えられません。
さぁ、車へ。お父上をお待たせしてはいけません。』
『……ごめんね。ナナ…』
エリカは、涙をこらえ呟いた。
『術者 湊川が離反、逃亡した。現場、周辺の術者は至急、対応に当たれ!
対象は、現在、国道…』
門脇の携帯に黒連の連絡メールがくる。
予想以上に対応が早いな。
門脇は、光田の治療をしながら、少し驚く。
『…お前、なんで、ミナトを逃がした?』
満身創痍の光田が門脇をなじる。
『カワイイ弟の門出だ。兄貴達は、手を振ってやるべきだろう?』
ガーゼと包帯を片手に門脇が答える。
『弟だから、裏切りは許されないんだろ。消されるぜ。俺達も。』
自嘲気味に光田が笑う。
『そんなオーバーな。』
門脇が苦笑する。
『お前は、まだ知らないだけだ。俺達だけならまだマシだ。
親族連中、みな殺されるぜ。
俺と出会った時の事を覚えているか?
言ったよな。天涯孤独だと。
前チームメンバー、知り合いもいないのは、不自然だと思わなかったか?』
『…マジかよ。』
門脇は、絶句する。
門脇の頭の中で、ミナトと知り合い、親族が天秤にかかる。
………
『…回避する方法は?』
数秒の沈黙後、門脇は、重い口を開き、光田に尋ねる。
『俺達の手で”ケジメ”つけるしかねぇだろ。
他に影響が出る前に。他が手を出す前に。』
カワイイ弟…
ついさっき言った自分の言葉を門脇は悔やんだ。
レガシイでミナトの運転するマークⅡを追走する。
所詮は、無免許。ATでも運転が下手だ。
門脇は、ナビで移動速度が遅いミナトを見つけ、苦笑する。
恐らく、京都に入る前、大津あたりで捕まえられる。
グローブボックス内にあるガバメントのマガジンを確認する。
そこには、川島に押し付けられた黒い”コンバット・マグナム”も入っていた。
ミナトの運転するマークⅡを見つけ、門脇は、パッシングで合図、
手で窓を開けるよう指示する。
『何?』
急いでいるミナトは素っ気なかった。
『道路は、封鎖されてる。マークⅡじゃあ、止められるぞ。
それは、そこらへんに捨てて、僕のレガシイに乗り換えろ。』
『ありがとう!』
ミナトの顔がパッと輝く。
2台は、琵琶湖の湖岸公園に入る。
マークⅡを乱暴に駐車し、ミナトがレガシイに駆け寄ってくる。
『悪い、ミナト。』
門脇は、そう言うと、車内からミナトに向けて発砲する。
『パァァン!パァァン!』
『ぐっ!』
弾丸は、ミナトの右腕と右足を貫く。
ミナトはその場に転び、右手のガバメントを落とす。
『なんで、なんでだよ!』
左手で右腕を押さえ、ミナトは叫ぶ。
『大人の事情だ。』
門脇は、一言だけ言い放ち、ゆっくりとレガシイから降りる。
『”雹連華”!』
ミナトは、門脇に向け、術を放つ。
『ちっ!』
門脇は、すんでの所でかわすが、雹の散弾にガバメントを弾かれてしまう。
レガシイを間に挟み、二人は、背中合わせになる。
『あんたは、もっといい人だと思ってたのに!
僕を、僕を裏切ったな!』
腰に隠していたコンバット・マグナムを”左手”に構え、
ミナトは、涙目で怒りをぶちまける。
『…人を見る目がないぜ、ミナト。』
門脇もコンバット・マグナムを”右手”に構え、
冷たく言い捨てる。
『じゃあな、ミナト!』
『門脇ぃぃぃ!』
二人は振り向き、
門脇は、”ジャイロ・ボーラー”を、
ミナトは、”魔弾 T.M.R.”を装填した銃のトリガーを弾く。
『『パァァン!』』
重なった乾いた音とともに勝負は、一瞬で着いた。
”魔弾 T.M.R.”は、門脇の左耳をかすめ、
ミナトの左肩に”ジャイロ・ボーラー”が着弾する。
その威力は凄まじく、ミナトの左腕を肩から吹き飛ばす。
着弾の反動でミナトも後方、湖岸に叩きつけられた。
大量の血が左肩から吹き出るが、ミナトはピクリともしない。
『ふぅー、ふぅー。痛ってぇ~。腕もげるかと思ったぜ。
くそっ。川島の野郎…』
肩で息をしながら、門脇は、左手を右肩に当てる。
門脇は、周りを見て、落ちたガバメントを確認、
コンバットマグナムを捨てて持ち替える。
ミナトは、まだ動かない。
ガバメントで照準を合わせたまま、ゆっくりとミナトに近づき、
足でミナトを揺する。
動きなし。呼吸も…なし。
状況、終了。
波がゆっくりとミナトを飲みこんでいく。
少しづつ、ゆっくりと…
くそっ、時間的に…ギリギリか?
ジーンズのポケットから携帯を取り出す。
『俺だ。悪いが、至急の頼みがある……
………あぁ、………OKだ。
……あぁ、分かってる。分かってるさ…』
門脇は、レガシイの中で呼吸を整え、携帯をイジる。
『術者 門脇だ。
裏切り者の湊川を始末した。場所は、琵琶湖 湖岸公園………』
-滋賀県 草津市 湊川家-
小雨が降る中、ミナトの葬儀は行われた。
ミナトの棺の前で泣いている女性が二人いる。
見た目から察するに一人は母親だろう。
もう一人は、多分、”御門野 絵里香”なんだろうな。
その姿を見ながら、ふと、”もしも”の未来を想像した。
ハッピーエンドを。
葬儀の式から少し離れた場所に男が二人立っている。
一人は喪服の光田、もう一人は、ラフな格好の門脇だった。
ジーンズにパーカー、野球帽、場違いも甚だしい。
『……葬儀には、出ないのか?』
『自分を殺した奴に葬儀に来られても、アイツ、困るだろ?』
光田の質問に門脇は苦笑して答える。
『そうか……』
『しばらく、僕も休むよ。今回は…、本当に…疲れた。』
『…お前は、戻って来るよな?』
一拍置いた光田の問いに、
『当たり前だ。』
門脇は力強く、少し悲しげに答えた。
『じゃあな、ミナト。バイ。』
門脇は、もう一度、ミナトの棺に目をやる。
そして、レガシイのエンジンをかけた。
車内には、B’zのPleasureが流れる。
『~止まれない この世界で胸を張って生きるしかない~』




