40.悪の手先 アナザー7 名前のない怪物
-どこかの海岸-
バシャバシャと水音を立てて、男が浜辺を上陸してくる。
サイズの合っていない、Tシャツにジーンズ、そして、ゴムブーツ。
『くそっ、痛ぇ、傷に沁みる。どこだよ?ここ!』
香川県か?そもそも、四国か?
見たところ、日本語の看板があるから日本には違いないと思うが…
意識がまだはっきりしないくせに、痛みだけはしっかり脳が伝達しやがる。
あのグラサン野郎…自爆なんかしやがって。
嫌な予感がしたから、”注射男”を保険でかけておいてよかった。
しかし、船で2人とも食べるべきじゃなかったな。
一人残して、香川県に誘導させるべきだった。
船なんぞ運転したことねぇから、
結局、岩にぶつけて”タイタニック”にしちまったし。
『主の生命維持を考えると捕食を優先して正解かと。』
”赤マント”がフォローを入れる。
『あぁ、サンクス。”注射男”とあんたの吸収力がなければ死んでた。』
『時間。定刻通り。予定通り。』
”注射男”…襲撃される前に偶然、手に入れた力。
まだ、使いこなしていないからか、こうやって話しても意思疎通がうまくいかない。
効くかどうかも博打だったが、俺自身が追い詰められた性でなんとかうまくいった。
『死んでしまえば、私が切り裂いて、食べてやったものを…惜しい。』
”口裂け女”が呪詛の言葉を吐く。
『こんな、焦げすぎた人間食べると癌になるぜ。』
なんとか嫌味を言い返す。
幸い、民家がある。
田舎…なのか?車もごろごろしている。
いいぞ、食事にしよう。
とっとと、この不自由な体を戻さないとな。
人間、体が資本。
『ふぅ~、喰った。喰った。』
濵口は、自分のぽっこり出た腹を満足げにさする。
急激に体の再生が進んでる性か、体中がかゆい。
かさぶたなのだろうか、垢みたいなのもぼろぼろ出てくる。
『風呂に入りたいけど、今、入ると沁みそうだし。
今日一日は我慢するか。』
さてと。
冷蔵庫を勝手に漁り、缶ビールを開ける。
家をざっと見渡す。
まず、居場所確認だな。
テーブルの上には、先程、捕食した夫婦の物と思われるスマートフォンがある。
『ほいほいっと、現在地は?
ん………淡路島?結構、飛ばされたな。
もしかして、俺、方向音痴?
船で間違えて来ちまったか?』
まぁ、いい。
金も車も手に入った。
明日、香川県に戻るとしよう。
濵口は、居間に置かれているソファに座り、TVをつける。
適当にチャンネルを回す。
『……依然として、謎の交通事故です。
車の所有者である濵口さん、レンタカーを借りたと思われる遠藤さん
及び同乗者は行方不明のままです。
目撃者によると銃撃戦もあったとの事。
車とは別の爆発もある事から、反社会組織の抗争に
濵口さんが巻き込まれたものと思われます。
警察は、詳細を公表しておりませんが…』
『ん?…遠藤?どっかで聞いた名前だな。』
濵口は、ビールを飲むのを止め、目頭に手を当てる。
よくある名前に違いはないが、”どこか”で”誰か”が言っていた名前だ。
痛ててて。集中すると、頭痛する。
しゃーない、今日はここまで。
寝るとしよう。
空になったアルミ缶をテーブルに置き、2階に上がる。
ちょうど、布団も引いてある。
おやすみなさい。
次の日、怪我の性だろうか、起きたら12時を回っていた。
『いや~、よく寝た。』
伸びをしながら、首を鳴らす。
『うげっ、布団、血まみれやん。』
皮膚の再生によるものか、布団の至るところに血がついている。
『まぁ、他人の家やし、ええか。風呂入ろ。』
服を脱ぎ散らかし、素っ裸で1階に降りる。
『いい湯だな♪ははん♪』
『気分よし、体調よし、スマホよし、お金よし!出発~!』
濵口は、誰の物とも知らぬ車のエンジンをかけ民家を出る。
淡路島から香川までは、1~2時間で着くだろう。
幸い車にナビもついてるし。
-香川県 高松市 濵口宅周辺-
『やっべ。俺、行方不明者やった。報道陣おるやん。』
自宅の近辺、マンションの周辺にまで来て事態に気付く。
『どうすっかな~。警察にやっかいは参るけど…
ブライトリングの腕時計とか、せめて、ドカティは回収したいな~。』
取り合えず、報道陣に見つからぬよう、車を迂回させる。
仕方ない。夜中まで待とう。
それまでは、スーパーの駐車場で寝るべ。
夜更けになって、行動を開始する。
周辺に人気がない事を確認し、マンションへ。
なんかコールオブなんとか見てぇ。
コソコソと移動しながら、濵口は、一人笑う。
自室前に着き、”赤マント”でドアを強引にこじ開ける。
『いやぁ~。愛しい我が家。』
玄関で深呼吸をする。
『ん?』
違和感がする。
ドアは、鍵が掛かっていた。
なのに、人が侵入したような気配がする。
警察や不動産屋、家族とも考えられるが……いや、違うな。
微妙に家具や服の位置が変わっている。
片付けたんじゃない、”確認”して”戻して”いる。
家捜しされたな。
誰だ?
思い当たる節は…門脇さんの言ってた”黒連”、”白鞘”か?
今までの行為は、ちゃんと処理したつもりだったがバレているのか。
まぁ、済んだ事は仕方ない。
Don’t look back.
前向きにw。
借り物の服を脱ぎすて、自分の服に着替える。
最後にブライトリングの腕時計をはめ、ドカティの鍵を握る。
『当面は…どうすっかな~。行方不明の人間だしな。
何してもいいな。
何しても…。そうだ、琵琶湖、見に行こう!
決めた!』
濵口は、ドカティの鍵を回しながら部屋を出た。




