25.正義の味方 その十 リベンジマッチ
-商店街-
白鞘での訓練を終えて、お気に入りの本屋に寄る。
ふぅ~、落ち着くなぁ、この癒しの空間。
本の香りのせいか、この本屋の配置なのかはわからないけど。
金銭的にも余裕あるから、欲しくなったらすぐ買える。
この心の余裕。
いいねぇ~。
最近、訓練キツかったしな~。
御門野は、門脇を取り逃がした事が相当悔しいようで、
ちょい、ヒステリックになってる気がする。
美人なのに、怒ったらもったいないな。
つーか、怖い。御門野、怖い。
一人考えていると、不意に声をかけられた。
『オッス!』
『おお、熊野じゃん、おひさし。』
僕は、挨拶を返す。
珍しい場所で珍しいヤツに会うもんだ。こいつ。本なんか読むのか?
『あのさ~、なんで最近、宇梶といるの?』
熊野は、僕の顔をのぞきこんで聞いてくる。
『いきなりなんだよ。なんでそれを知っているんだ。』
『別に。何?あんたら付き合ってんの?』
『まさか、同じ学校だから、たまたまだよ。』
『最近、こっちに顔出さないね。抜けたの?』
『う~ん。まぁ、そんなところ。』
『そっか…。良かったじゃん!』
何故か熊野は喜んでいる。スパイの事は知らないようだ。
まぁ、知ってる人間の方が少ないわけだが。
『これ、あげる。』
熊野は、チケットを渡してきた。文化祭と書いてある。
『1-C。そばめし、おごったげる。じゃね。』
一方的に話し、一方的に渡し、一方的に去って行った。
相変わらず、自己中な女だ。
だけど、心なしか機嫌が良いように見えたのは気のせいだろうか。
文化祭の日は、祝日だ。顔ぐらいだしてみるか。
『ブブブ。』
ん?電話だ。
珍しい、宇梶からだ。訓練後なのに何だろう?
『はい、柊で…』
『すぐ来て!あの廃ビル!すぐっ!ブチッ!プー、プー、プー。』
切れた。
なんだ、これ?
電話越し、かなり切羽詰まっていたな。
折り返しこちらから電話をかけるが繋がらない。
あの廃ビル?
どこだよ……
まさか、あの場所の事か。
僕は、本屋を飛び出し、自転車にまたがった。
-始まりの廃ビル-
急いで来たが、廃ビル前には誰もいない。
ここじゃなかったのか。
もう一回、電話かけてみるかな…
『ドォォン!うぉぉぉ!!』
廃ビル内から大きな音と声が響く。
中に誰かいる!
まさか、戦闘?
手持ちの武器は、霊剣 ククリ、ワルサーは、弾なし。
踏み込むか?新堂や平田に連絡するか?
くそっ!
僕は、自転車を投げ出し、一気にビルに突入した。
一階は…誰もいない。
二階は……誰もいない。
一応、自分自身に”鋭針装”、”硬針装”を施す。
嫌な予感がする。
三階は………誰もいない。
四階へ移動しようとしたその時、けたたましい音と共に
何かが目の前に降ってきた。
ゲホッゲホッ!煙たい。天井?…違う!
人だ。女…宇梶だ。と…誰だ?
ガタイのいい男だ。スキンヘッド。
コートを羽織っている。
タイラントみてぇ。気持ちワル。
いや、見た事あるぞ…こいつ、遠藤か!
僕は、近づき叫ぶ。
『宇梶!どういう事だよ!』
『わかんない!急に襲ってきたの!』
宇梶が霊剣を構えるが、その剣は刃が途中で折れていた。
すでに相当な戦闘が行われたって事か。宇梶も所々怪我をしている。
『その場で止まれ!撃つぜ!』
弾は入っていないが、僕はワルサーを構え遠藤に警告する!
『おおおおおおおおおおおお!』
遠藤は絶叫し、僕に突進して来る。
見境なしかよ。すんでの所で遠藤をかわす。
かけてて良かった”鋭針装”。
『ゴゥンッ。』
遠藤はそのまま、壁に激突する。
しかし、ダメージはないのか、すぐにこちらに向き直る。
なぜか目が虚ろだ。こちらを向いているが、僕らを見ていない。
『新堂さんや平田さんに連絡を!』
『携帯、壊れちゃったの!』
『僕のを!』
ポケットからスマホを出し、宇梶に投げる。
『電波来てない!』
『んなバカな。くそっ、仕方ない。廃ビル出てマンションへ!
ここは僕が!』
『一人じゃ…』
『宇梶は、剣折れてるだろ!新装備はどーした?』
『慣れてないから普段持ってないの!』
『肝心な時に…行けっ!早く!』
『無茶しないで!』
『分かってる!時間かせぎだけだ!はやく援軍呼んで来い!』
『分かった。』
宇梶は、走って二階に行った。
宇梶の走っていく足音が聞こえなくなったところで、
僕はワルサーを降ろし、話す。
『遠藤さん、柊です。どういう事です?黒連の計画ですか?
事前に連絡下さいよ。』
『………』
返事がない。聞こえていないのか?
『遠藤さん、柊です。これは…』
『おおおおおおおおおおおおぅ!』
再び、遠藤が絶叫する。
正気じゃない。よく見ると筋肉が異様に隆起している。
アスリート系やボディービルダー系とも違う。
異常だ。
遠藤が腰を落とす。また、突進してくる気か?
どうする?やるのか?
高橋に連絡…くそっ、スマホは宇梶が持っていっちまった。
遠藤が地面を蹴り、向かってくる。
仕方ない。悪いが、覚悟してもらう。
右手に円陣を記し、力を込める。
角度良し!距離……良し!
『”紅紡ぎ、貫け我が剣、炎刃!”』
紅い刃が遠藤を襲い、吹き飛ばす!
火だるまになった遠藤は流石に動かない。
身内に襲われるのも、身内を倒すのもいい気はしないな。
僕が気落ちしていると、嫌な音が当たりに響く。
『ヒュィィィィィィィィィン!』
なんだこの音、くそっ頭痛が…。
なにかの駆動音か。
僕が頭を押さえていると、目の前の遠藤が再び動き出した。
『嘘だろ…』
ゆっくりと立ち上がる。
”炎刃”でコートは崩れ落ち、生身が露出する。
遠藤の腹部で何かが光っていた。
この嫌な音もあれが原因か。
くそっ、頭痛が酷い。吐き気もする。
眩暈がし、僕は、その場に膝を着いてしまう。
『ヒュィィィィィィィィィン!』
遠藤は、僕が動けないのを確認するとゆっくりと近づいてくる。
一歩、一歩、ゆっくりと。
やばい。やられる。
必死の抵抗で霊剣 ククリを振るうが造作もなく弾かれてしまう。
遠藤の太い右手が僕の首を掴み、持ち上げる。
『ぐぅぅぅぅ。』
息が…
”硬針装”かけてるのに、この力…
足をバタつかせるが、遠藤には全く効かない。
遠藤は感情もなく僕を見ている。正気じゃない。
やばい、意識が…
何か手は…
『”紫音!”』
とっさの電撃でわずかに遠藤が怯み、僕は地面に落とされる。
距離を、少しでも距離を。
僕は、もがき、這って移動する。
『ヒュィィィィィィィィィン!』
くそっ、この音さえなければ。
醜く這いずり、逃げる僕の足を非情にも遠藤が捕らえる。
今度は逆さ吊りだ。
目の前に光る物体、装置が見える。
何だ?カメラのレンズのようにも見える。
こいつを!
残りの力を振り絞り、目の前の装置に右手を打ち込む!
『”紫音!”』
『バチッン、ヒュィィィ……ガッガガガンガンギャー、ギャガッ。』
『うっうううう。あがが。』
装置に異常を与えたせいか遠藤が怯み、痙攣し出した。
『おおおおおおおおおおおっ』
僕をその場に投げ捨て、遠藤は窓から屋外へ逃走した。
力なく僕はその場に横たわる。
なんだったんだ。あれは。
『生きとる!?』
『大丈夫ですか!?』
『大丈夫!?』
平田と新堂が来た。後ろには宇梶も見える。
遅いよ。ギリギリ。もう、ほんとヘトヘト。
僕は、精一杯の力で笑った。
『ふっ、楽勝。』
-近くのビルの屋上-
一人の男が双眼鏡で戦闘の一部始終を見ていた。
『う~ん、初稼動にしては上々かな。
ジャミング、怨恨波動も良し。
でもやっぱ、電撃に弱いのが難点、次回への課題だな。
それにしても柊、やるなぁ。』
そう言うと男は、早々にその場を後にした。




