24.正義の味方 その九 戦い終えて
-911号室-
放課後、集合がかかる。
部屋に行くと、既に皆そろっていた。
ソファの右端、宇梶の横に僕も座る。
御門野が口を開く。
『そろったわね。まずは、前回の反省よ。
5対1で絶好の機会を逃したのは痛いわね。』
重い空気、沈黙が部屋を支配する。
特に、早々に戦線離脱した新堂の顔色がすぐれない。
僕は、してやったりだが、黒連の給料で懐もほっくほく。
ちょっと前の貧乏高校生だったのが嘘みたい。
いかんいかん、気を緩めると顔がにやけてしまう。
『相手の能力が初見で、予想外の防御力だったのもあるんだけど…
痛いわね。』
御門野が顔をしかめる。
『そこで、これから各自に特別メニューで訓練に励んでもらうわ。
新ちゃんは、機動力の向上。あんなトラップにひっかからない!
あみは、集中力。慎重に動いて!敵の術にむやみに触らない!
柊君がいたから、軽症で済んだけど。次はないわよ。
陽子は、攻撃力の向上。黒連にあのクラスの術者がゴロゴロしてるとは
思わないけど、あの壁はなんとか破らないとマズイわ。
柊君には、”雷吼鞭”を最低でも連発できる様になってほしいわ。
基本的にサポート術の練度向上がメインだけど、
ここぞの切り札を2枚、持っていてほしいわ。
”雷吼鞭”クラスの術をもうひとつ習得ヨロシク。』
『『『『はい。』』』』
アレ?僕だけ注文多くない?
簡単に言うけど、”雷吼鞭”めっちゃ大変なんですけど。
発動後の火傷も地味に痛いし。”慈恩”で傷を塞いでも痛みは残るし。
しかも、”慈恩”とか”鋭針装”と併用で連発とか言います?
この人、めっちゃSや。ドSやで…
『まず、新装備を渡して置くわね。
新ちゃんには、ワルサーに加えてにベレッタ92。
反動に気をつけて。
あみには、霊甲 蟹部。
一応、硬度は上げてあるけど過信しない事。
陽子には、小太刀 椿。
これはサブウェポン。すぐに二刀流とはいかないしね。』
『あの、僕は?』
期待していただけに僕は不満を口にする。
『柊君には、なし!』
御門野がキッパリと言い放つ。
『嘘ぉ~。』
イジメだ。
僕だけ的確に陰湿的に効果的にイジメだ。
『ごめんごめん。実は、今、手配しているけどまだ届いてないのよ。
届き次第、渡すわ。』
本当か?これで僕だけ新装備なしだったら、グレてやる。
『さぁ、訓練に行くわよ。』
御門野に促され、僕らは、いつも水道局に向かった。
-水道局-
御門野が僕らにグローブを渡す。
何これ?何用?
『じゃあ、陽子と私、柊君と新ちゃん、あみで組み手しましょう。』
御門野が指示する。
『ん?2対1?僕が?』
おい…僕、サポート役…
そんな僕を無視し、新堂は柔軟体操を、平田は指を鳴らしている。
『柊、覚悟しいや、ひひひ。』
『よろしくお願いします。柊君。』
2人ともヤル気だ。ボコられる。
雲行きがめっちゃ怪しい。
『そうそう、柊君、新ちゃんとあみに対する攻撃系の術、禁止ね。』
御門野が更に規制をかける。
『僕、なんもできんじゃないですか!』
『組み手だから体術の向上が目的なのよ。
仲間に”雷吼鞭”撃つ気だったの?死んじゃうわ。』
御門野が笑う。
僕は、死んでもいいんかい!
『じゃぁ、まず、30分で一区切りとしましょう。始め!』
御門野の合図を聞き、平田が僕との距離を詰めてくる。
くっ、速い!
『うりゃっ!』
いきなりの上段回し蹴り。
僕は、辛うじて腕でガードするが、左手にかなりの衝撃に伝わる。
痛ってぇ、女の蹴りじゃねぇ。
僕がうろたえてると、間髪入れず左のアッパーが来る。
『うおぃっ。』
なんとか後ろに反ってかわす。
右から新堂がくる。
ヤバイ、近接戦闘ではこちらが圧倒的に不利。
『”鋭針装”』
僕は、自身に術を施し、側転で2人との距離を開ける。
『あっ、汚っ!』
平田が不平を口にする。
汚いのはどっちだよ。多勢に無勢なんだ。これくらいいいだろ。
『”硬針装”』
更に術を重ねがけする。
よし、準備完了。
来い!
けんかをした事はないけど、それらしく構え、腰を落とす。
先程とは違い、平田も新堂も一気に攻めては来ない。
ゆっくりとじりじりと距離を詰めてくる。
右に新堂、左に平田。
どっちだ、どっちから来る?
”鋭針装”でブーストアップしてるから、初動さえ見れば反応できるはず。
二人の性格から考えて、恐らく、平田から…か?
動いた!予測通り!
平田の右回し蹴りをバックステップでかわす。
背中に渾身の右ばお見舞いしちゃる!
『てぇい!』
『ゴン!』
痛ってぇ、僕の右手は、新堂に蹴り上げられてしまった。
新堂も華奢に見えて結構強えぇ。
平田が向き直り、肘うちを放ってくる。
僕は左に体を傾けなんとかこれを避ける。
くそっ、また、微妙な距離で拮抗状態だ。
やばい、術切れたらジリ貧になる。
ならば、こちらから!
思いっきり踏み込み、前蹴りを平田に放つ。
『ガッ!』
『残念でした!』
しまった!読まれた。右足を平田に捕らえられる。
新堂が来る。
左足を踏み出し、平田を蹴り飛ばす。
げっ、ガードしやがった。
”鋭針装”切れてきたか!
空中で無防備な僕を新堂の右打ち下ろしが襲う。
『ぐっ!』
床に叩きつけられる。
なんとか距離を取って、術を再度かけんと…
『ガシッ』
新堂に足を捕られる。痛ててててて。
何これ。外れない。痛い。
『エミ、ナイス!』
平田が迫ってくる。
やばい、外れん。痛ててて、平田が来る。
どうする!!!
『”紫音”!』
僕は、自分自身に術を撃ち込む。
『痛ってぇ~!』
『きゃっ!』
しかし、新堂にも電撃が伝導し、足が外れた。
『”鋭針装”!』
走ってきて、蹴り上げる平田の足を紙一重で避ける。
危ねぇ。
今の蹴り、悪意があったぞ。殺す気か!
新堂は、まだ、立ち上がらない。
”鋭針装”分、アドバンテージが僕にある。
平田を一対一の間に倒す!
左を構え、フェイントで右を打ち込んでやる。
『オラァッ!』
『ドンッ!』
体重のせ、踏み込んだ僕の右手は平田に届く。
ことなく、新堂の右手が僕の脇腹に刺さっている。
『う、うううう。』
やばい、モロ入った。
僕は、腹を押さえ倒れこむ。
『ごめんね。ブラフです。』
新堂がにこやかに笑う。
その後は、言うまでもなく、
十数分間、僕は、2人に殴られ続けることになった。




