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26.正義の味方 アナザー1 月を見る度、思い出せ!

 いつもと同じ部屋。


いつもと同じ家。


いつもと同じ通学路。


 いつもと同じ学校。


そして、また、いつもと同じ家。


 退屈な毎日の繰り返し。明日も多分、昨日と同じ。


 普通の家。貧乏でもないし、裕福でもない。


 僕自身、普通の高校生。


 背が低いわけでなし、高いわけでなし。


 ルックスが良いわけでなし、悪いわけでなし。


 成績だって中の上だ。得意な科目も不得意な科目もない。


 世間で不況だの騒いでいても僕にはなんの影響もない。


 普通に進学して、普通に就職して、両親みたいに


 セコセコ毎日働いていくものだと思っていた。


 だけど、その日は違ったんだ。その日から僕は、変わった。


 ”力”を手に入れたんだ。他人とは違う”力”を!




 高校からの帰り道、いつもの並木道を通る。


 左に曲がれば、自宅のマンションだ。


 今日は、風が強い。


 『今日は、何をして時間を潰すかな…』


 退屈だ。何をしても面白くない。


 ゲームも漫画も。


 勉強だってそこそこ普通に授業を受けていれば、


 そこそこの成績になる。


 今日だって、中間テストが返却されたが、全て平均より少し上。


 教室で”柊”が赤点だなんて騒いでたけど。


 どんだけサボッていたんだよ。


 この結果なら、両親も何も言わないだろう。


 時間だけが余っている。


 退屈な時間。


 『ガササッ!』


 不意に並木道の一角が大きく揺れた。


 なんだ?猫か、犬か?


 興味もないので素通りすると、


 『ビチャッ!』


 うっかり水溜りを踏んでしまった。


 おかしいな。ここしばらく雨なんて降ってないのに。


 靴を見ようと、下を向くと、地面が真っ赤だった。


 水じゃない!血…か?


 なんで?こんな場所に血が?


 交通事故なんか…並木道で!?


 ふと、先程の並木道の一角を覗くと、人が倒れている。


 血まみれだ。


 まさか、本当に交通事故なのか?


 男だ。顔も血まみれだ。30歳台ぐらいか、いや、もっといってるか。


 『あの、大丈夫ですか?』


 恐る恐る尋ねてみるが、返事はない。


 取り合えず、携帯で救急車を。


 僕が慌てて鞄を漁っていると…


 『手を…手を…』


 男が左手を伸ばしてくる。意識がある!


 僕もすぐ右手を伸ばし、男の手を取ると、


 『痛った!』


 右手に激痛が走り、僕は手を振りほどいてしまった。


 『すみま…えっ?』


 僕が謝りながら、もう一度手を伸ばそうとすると、


 目の前に男の腕が転がっている。


 男の肩からは大量に血が出ている。


 『うわっ、うわっ、うわぁっ!』


 僕は、あまりの光景に声を上げてしまった。


 『手が、て、て、て…』


 腰が抜け、へたり込んで騒いでいると人が集まってきた。


 『おい、マジか!』


 『死んでんの?』


 『うわぁっ!』


 『警察呼べって、警察!』


 『血まみれじゃん。』


 『きゃあぁぁぁぁ!』


 辺りは大騒ぎになり、警察、救急車もやってきた。


 僕は何もできず、その場に座ったまま。


 警察が男の周りをビニールシートで覆い、僕を含めた野次馬をどかしていった。


 誰かが見ていたのか、僕が第一発見者だと分かり、


 警察に身元と状況を聞かれた。


 と言っても、僕もパニックでうまく伝えられなかった。


 しかし、恐らく無関係だと分かったのか、連絡先だけ聞かれ

 

 その日は帰っていいと言われた。


 


 呆然としたまま、僕は、帰宅した。


 家の玄関に着くと、急に死体に触った事に恐怖を覚え、


 洗面所で必死に手を洗った。


 何度も何度も洗ったが、血の臭いが落ちない。


 最悪の日だ。


 ここ何年かで最悪だ。

 

 もう、今日は寝よう。


 自分の部屋のベッドに倒れこんだ。




 『…試作機、”月影”です。


  陰陽士なぞ時代遅れです。これからは…


  …まだ適合者が見つかりませんが、絞込みは…


  …衝動が高まり…副作用として…


  …改良の目処は付いております。


  是非、採用を!…』




 誰かの声で僕は目を覚ます。


 誰もいない薄暗い僕の部屋だ。


 時計を見ると、23:55。


 変な時間に起きちゃったな。


 さっきの声なんなんだ?


 試作とかなんとか。


 『痛っ。』


 右手に違和感が。見ると、右手首の内側にデキモノが。


 部屋の電気をつけて確認すると、緑色の魚の目が出来ていた。


 『何だコレ?いつ出来たんだ?』


 左手でさすると、魚の目が光り始めた。


 『何コレ?どういう…』


 右手が銀色に変色していく。


 『えぇっ?ちょっ、ちょっ。』


 右手だけじゃない、左手も変色していく。


 鏡で自分を見る、全身が銀色に覆われていく。


 そして、中世の騎士の鎧を思わせる姿に変わっていく。


 まだ、寝ているのか?夢の中なのか?


 僕は、フルメタルプレート、各部に緑色のラインが入った騎士になった。


 少なくとも鏡には、そう映っている。

 

 僕が、右手を動かすと鏡の中の騎士も同じように動かす。


 見た目とは裏腹に、意外と動きやすいぞ。コレ。


 いやいや、そうじゃないだろ…


 やっぱり、これ、夢じゃないのか…。


 どうすれば戻るのか…


 よく見ると、右手首に小さなアナログ時計が付いている。


 ゆっくりと反時計周りに動いている。 


 なるほど…変身時間ね。


 おそらく、12時から回転し始め、12時に戻ると解除されるんだな。


 ふむふむ。だんだん、分かってきたぞ。


 さて、この鎧の硬度は、どのくらいなのだろう。


 たしか、押入れに小学校の頃に使った木製のバットがあるはず…


 押入れのどこだったかな…


 探す途中で、鏡の中の騎士を見る。


 随分、間抜けな姿だ。  


 あぁ、あった、あった。


 なぜか、小さく見えるな。

 

 さてと…


 『ベキィ!!』


 いとも簡単にバットは砕けた。


 ふふふ。これは、相当な強化服だな。


 誰が作ったのか知らんが、良いものを手に入れた。


 いいぞ、盛り上がって来た。


 万能感のようなものが沸いてきた。


 今ならなんでもできそうな気がする。


 残り時間、40分間。


 窓を開け、ベランダに出る。


 月が綺麗だ。 


 月明かりで、ボディが光る。


 緑色のラインが微かに発光している。


 窓に映った自分の姿に少し酔ってしまう。


 腕力が強化されているんだから、脚力だって…


 ベランダの手すりに足をかける。


 隣の民家の屋根まで5m…か。


 いける!


 『ハッ!』


 僕は、ジャンプした。


 が、予想以上に飛んでしまう。


 やべ、民家、越えてまった!


 地面に激突する。


 アスファルトが音を立て、えぐれる。


 僕に、痛みは…ない。


 鎧に傷もない。これは…相当…強いぞ。


 残り、30分。


 この力をもっと試したい。


 てっとり早く。


 僕は、全速力で繁華街へ向かう。


 走る。両足に力を込め、地面を蹴り出す。


 速い、速い。


 車すら遅く感じる。


 相当な速度が出てるぞ。


 『はぁーっはっはっは。遅い、遅いぞ、貴様ら!』


 体力に陰りもなし。


 最高だ。最高にハイ!てやつだ。


 ん?


 調度いい。ガラの悪い車が止まっている。


 車の横側に両手をかけ、


 『オラァッ!路上駐車禁止ぃ!』


 車をひっくり返す。


 フン!軽い、軽い!


 『何しとんじゃ、ボケッ!』


 近くでタバコを吸っていたパンチパーマが近づいてくる。


 『なんじゃ、お前、どうするんじゃあ!コレ!』


 『こうする。』


 パンチパーマの首に手をかけ、僕は軽々と持ち上げる。


 『お前、おまっ!』


 パンチパーマが足をバタつかせて、怯えている。


 ふん、雑魚めが。


 僕は、振りかぶり、パンチパーマを近くのゴミ捨て場に放り投げる。


 コントロールもばっちし。


 燃えるゴミへ投入完了!  


 おしい、もう残り時間がない。


 今日は、ここまでだ。

  

 『月を見る度、思い出せ!俺の名は…、”月影”だ!』




 僕の名前は、南 光太郎。


 いや、それは、昨日までの話だ。


 俺の名は、月影!


 悪を憎む、正義の味方だ。


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