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103.正義の味方アナザー 殺し屋はカローラフィールダーでやってくる #4


 『あなた、起きて!ちょっと!もうお昼だって!』


 やや苛立ちが滲む声とともに体を揺すぶられる。


 昨日の戦闘の名残だろうか、体がまだダルイ。筋肉痛も追って襲ってきそうだ。


 『連絡来たでしょ!?』


 自称、僕の妻があきらめることなく、ゆすり続ける。


 仕方がない、愛おしいお布団から出なくてはならない。


 後ろ髪をひかれながらゆっくりと足を出す。


 『おはよう』『もう、お昼です』


 呆れた彼女の顔を見ながら体を起こし、スマートフォンを確認すると、


 11:37と刻まれていた。ショートメールが2件来ている。これが烏丸からの連絡だろうか。


 『中見た?烏丸からだよね?』『今日の午後、仕事。移動こみでここを15:00出』


 『ん?演習とオリエンテーションって書いてあるね』


 頭を掻きながら、操作するスマートフォンのモニターには烏丸からの簡単な指示があった。


 『”B14”に集合とあるけど僕、場所わからんす』


 『私が分かるっから大丈夫よ』『えっ?同行するの?』


 『昨日話したでしょ?二人で行動だって』


 『あっ、そういう意味か。ただ夫婦ごっこをするだけかと思ってた、大丈夫?』


 『大丈夫って、昨日、お風呂で私にギブアップしたのは誰よ。


  朝ごはん食べて、もう、朝じゃないけど』『そーでしたね』


 スマートフォンをポケットに入れて、笑う彼女を後を追う。


 間取りのおかげでリビングには眩しいほどに陽の光が注いでいた。


 窓の奥、電車の線路の更に奥には雲一つない青空と、蒼い琵琶湖が広がっている。


 絶好の天気だ。昨日、予想した通り、のどかで素敵な景色だ。


 視線を落とすと、リビングのテーブルにおにぎり3個と焼き鮭、みそ汁が用意されていた。


 意外に家庭的じゃないですか、真咲さん、見直しましたよ。


 『いただきます』


 うまうま、人の手料理を食べるのはいつぶりだろうか。こういうのも悪くない。


 ほおばる僕の顔をまじまじと見つめる新妻。


 『いかがですか?』『くやしいが、おいしゅうございます』


 『それは良かった。でもね、私が本当は敵で毒が入っていたらどうするの?』


 新妻、朝一の素敵な口撃。


 『それはないでしょ』


 僕は即答し、2個目のおにぎりをほおばる。


 『その心は?烏丸の紹介だから?』


 『んーと、それよりも順序、タイミングかな。さっき君が言ったよね、


  昨日の時点で僕と君の実力は知っている訳。体術では圧倒的に君が有利。


  お風呂でやろうと思えばヤレた。更にその後、僕は無防備にもあなたの横で熟睡してた。


  先程、起こされるまでね。この絶好の機会を逃して、わざわざ、毒殺はおかしくない?


  さっき確認したけど、F/Oも普通に使えるし。ここまで何もしていない君があえて、


  あえて毒殺を選ぶ理由が思い当たらない。拷問する時間もスペースもあったでしょ?』


 『ふふっ、肝は据わっているようで安心したわ』


 『開示されたデータに書いてなかった?うつ病で休職中。無気力で殺す価値なしって』


 『あはは、そうだったわ』


 夢見た夫婦の朝一の会話ではないが、笑顔を絶えない家庭で何よりだ。




 朝食後になんの事もない日用品の買い物に付き合い、買ったものを自宅を運び込む頃には


 約束の時間が近づいてくる。僕がトイレットペーパーを補充する傍らで、


 真咲はスカートから動きやすい綿パンに履き替えて、ぶっといナイフと銃を装備し始めた。


 おい、新妻よ。どこへ行こうというのだ。なんだその刃物は?海賊かよ。


 ベッドの下、僕のパンツの横にそんな物騒なモノが保管されていたのか。


 今日から熟睡できんくなるじゃないか。


 『どうかした?』


 肝心の彼女はこちらの思いを汲み取れなかったようだ。


 『あのさ、今から熊でも狩りに行く気か?』『えっ?熊ならもう少し重装備にしますよ』


 『……』


 明らかに認識の差がある。なんであんたが不思議そうな顔をしているんだよ。


 そんな眼で見るなよ、びっくりしてるのはこっちだわ。


 『演習ってさ、そんなガチンコ系なの?知っていると思うが、僕、戦闘タイプじゃないの。


  あくまで補助だよ、補助』『大丈夫だって、行きますよ』


 『おい、おざなりな対応をするな、不安になる。なぁ、こっち向けって、こっち見て話せよ』


 『はいはい、行くよ』


 新妻に強引に手を引かれて僕は新居を後にする。




 真咲の運転でたどり着いた先は、田舎の古びた公民館のような場所だった。


 僕らの車もカローラフィールダー、駐車場に止めてあるほかの車も色違いの同じ車。


 なんだ、社有車なのか、法人のリース車両なのか。


 車を下りて、公民館の入口に向かおうとすると、


 『そっちじゃない、こっち!ついてきて』


 真咲が小さな倉庫がある方向を指差す。


 何?屋外での訓練ですか?田舎は虫多いし嫌なんだけど。


 昨日も下山マラソンで結構、擦り傷作ったのに。


 不承不承ついていくと、彼女は倉庫横の小さな扉に入っていく。


 何それ!?隠し扉?ワクワクするやん。子供の頃の秘密基地を彷彿とさせるな。


 扉の中は下り階段になっていて、僕が中に入ると真咲は扉を閉めて鍵をかけた。


 『あのさ、ちょっと暗くない?もう少し照明とか、ライトとかないの?』


 『いいから、さっさと下りる。見えなくはないでしょう?アサシンのくせに!


  LED全開で仕事なんてできないでしょ!?ほら、行って』


 『押すなって!危ないでしょ!?』『何?フリ?』


 『違うわ!いや、マジだよ、本当に押されたら普通にこけてケガするからね』


 『OKィ……』『勘違いするなよ!本当にダメだからな!』


 『分かったから!早く下りて!遅刻するでしょ!』


 狭い階段でくだらない会話がコダマする。


 


 『おはよう、真咲』『おはよ、カラス』『お疲れ様です』


 階段を抜けた先はずいぶんと開けた場所だった。


 照明も十分にあり、烏丸のほかに2人の少女が僕らを待っていた。

 

 『小西さん、昨日に引き続きごめんなさいね』


 『それは作戦の事か?結婚の事か?』『さて、本日の要件だけどね』


 こいつ、流しやがった。だんだん、粗くなっていくな指示も、仕事も。


 なんとか仕返しをしてやりたいところだが、どうしたものか。


 2人の少女は身長150cm前後、年頃としては女子高生のようにも思えるが、


 顔立ちよりも、キツめのメイクの性で判断しかねた。


 おっさん視点だと下品に見えるが、これが最近の子の流行りなのだろうか。


 テッカテカの金髪ポニーテールと、エクステンションなのか黒と銀?のショートカットの2人。


 金髪はテニス用のバッグを背負い、黒髪は手ぶらだった。 

 

 『ねぇ、カラス。もっさい男の方?キャバ嬢っぽい女の方?』

 

 金髪の子が烏丸に話かけながらこちらをにらんでいる。


 口が悪いなぁ。


 『成田んとこのクソガキが舐めた口聞くじゃない。親がカスなら、子もカスか。


  化粧もずいぶん安っぽいな!』


 失礼、うちの家内もなかなかでした。


 『ジュリ、あれ、たいらさんとこの人だよ』


 『マリ、マジで?やくざじゃん、隣の男は舎弟?』


 ジュリと呼ばれた金髪の娘、マリと呼ばれた黒髪の娘が烏丸の後ろに隠れて陰口をたたく。 


 陰口は聞こえないところでもう少し、ボリュームを下げて言え。


 『ちっ!』


 妻よ、そんな大きな舌打ちと震度6の貧乏ゆすりはやめてくれまいか。


 あなたの株がどんどん下がっていくよ。


 『で、何の任務なの?』


 真咲は苛立ちを隠そうともせずに、烏丸に話かける。


 『この子達の顔合わせと、訓練』『えっ、じゃあ、グループのメンバーってこいつら!?』


 『そっ、小西さん夫婦とあなたたち、私で5人ね』『かわいい子いないじゃん!』


 『あいつ、絶対私たちの事、やらしい目で見るじゃん!』


 『見るか!こっちの嫁の方がまだマシじゃ!』


 『まだマシ?聞き捨てなりませんね』


 『今のはたとえ話であってね、真咲さん、その目はやめろ』


 『!!!』


 『うーん、収集つかない。人選ミスったわ』


 クソのような会話で騒ぐ4人と頭を抱える烏丸。


 


 『もういい?説明を進めるよ』

 

 『どうぞ』

 

 まだ数名騒いでいるが、僕は烏丸を手で促した。


 『いくつかの作戦が計画中なんだけどね、基本的に私と小西さん。


  バックアップの真咲で実行予定。


  いくつかにジュリ、マリを投入したい。ステルス系の任務ならば、マリ。


  破壊、工作系ならジュリかな……』


 『僕と真咲さんなら、彼女の方が強いぞ。正直に言って』


 『面と向かって、取っ組み合いするならね。でも、小西さんには必殺のF/Oがある。


  暗殺、誘拐、工作、逃亡において、これほどに効果を発揮するものないでしょ?


  先の先は、必ず小西さんになる』『そんなに期待されてもね』


 『実際、先日も白鞘のエースと対等に戦って無傷。


  噂の雷神をおちょくって帰ってきたじゃない』

 

 ジュリ、マリの視線が信じられないといった物に変わる中、真咲は少しうれしそうだ。


 『物は言いようだね』


 完全な嘘ではないが、事実とは少し違う。僕は肩をすくめて笑しかなかった。


 『正直に言って期待していますよ。このメンバーでは心もとない。


  でも、ゼロ距離まで詰めることができる小西さんなら、


  確実に先手が取れるならば、多少のハンデは無視できますから』


 『本当にこいつ強いん?』


 マリは不審者を見る目、値踏みする目で僕を見ている。


 『まっ、そう言うだろうから今日のこの場を設定しました』


 『つまり?』『マリ、ジュリ vs 小西さんで訓練でしようかなと』


 『子供に手を挙げるのはちょっと…』『何?負けた時の言い訳?早くない?ウケる』


 金髪娘、ぶっ殺すぞ。


 『命を取るとか、眼とか顔はやめてね、これで』


 烏丸が僕とマリにゴム製のナイフを投げてきた。ぱっと見はよくできているが、


 刀身はぐにゃりと曲がる、殺傷力ゼロのものだった。よくできたオモチャだ。


 『私、2刀流だからさ、カラスもいっこ頂戴』『はいはい』


 左右のナイフを逆手に持ち、ステップを踏むマリ。


 見るからに接近戦タイプのイマドキ切り裂きガール。


 『小西さんも準備いい?』『一回だけだからな!』

 

 『はいはい』


 僕の回答を流し、左手に握ったナイフではなく、


 右手でスマートフォンを操作している僕を見て烏丸と真咲が笑っている。


 あんたらもいい性格しているよ。一見さんには早々にお帰り頂くとしよう。


 『じゃぁ、いくわよ、GO!』


 『先手必勝!』


 マリは僕への最短距離を突っ込んでくる。違和感がある加速だ、陰陽術かなにかか?

 

 悪くはないが、一手遅い。あえてゆっくりとバックステップし、F/Oを発動させる。


 『遅い!』


 彼女は僕を追従し、左右のナイフを振るうがそれは大きく空を切る。

 

 『!?』


 まぁ、当たっちゃいるよ、幻影にね。


 『こいつなんなん!』


 夢中でナイフを振り続ける彼女に後ろから近づき、ハリセンの要領で後頭部を叩く。


 ぺちっと、なんとも情けない音が鳴った。

 

 『えっ?』


 自分の前方にいる僕と後方にいる僕を交互に見て、マリは目を白黒させるばかり。


 まぁ、わからないと思うよ、仕方ないよ。だが、僕の勝ちだね。


 『はい、小西さんの勝ち』『ちょっ、今のなし!おかしいじゃん』


 マリは笑う烏丸に詰め寄り、抗議するが、


 『おかしいったって、アンタが術使って、突っ込んで、小西さんの術に引っかかって、


  真後ろから叩かれたのよ。ガチンコだったら即死よ』


 『なんか変な事するんじゃないかって思ったって!』

 

 『思ったなら距離取るとか、対策してよ。ひねりも、盛り上がりもなく普通に負けたじゃない。


  小西さんだって、そんなに早く動いてないのにダミーに向かって一目散、


  ナイフぶんぶん丸じゃない。ちょっとびっくりするわ。


  最初の私、2刀流だからのくだりいる?


  こんなんじゃ、怖くて実戦投入させられないわ』『うぐぐぐ』


 マリは2振りのナイフを持ったまま、顔を赤くして立ち尽くしている。


 ずいぶんとシュールな絵面だな。そんな小娘を横目に、真咲が上機嫌で近づいてくる。


 『面白いくらい決まったね』『昨日の誰かのようにかい?』『一言余計』


 新妻の軽いボディブローも、今は笑って流せる。


 『詠唱は聞こえなかったけど幻術?


  高速移動?マリより速いように見えなかったのに?内蔵兵装?』


 興味深そうにジュリが近づいてきて僕を見る。


 『まず、生身の人間だよ。前者か後者かではなく、混合技と言っておこうかな』


 真咲は息するように滑らかに出る僕の嘘に肩を震わせている。

  

 おい、芝居しろ、合わせてくれよ。バレるやんけ。


 『ふぅん、ただのおっさんじゃないんだ……』


 この空気、嫌な予感!


 体をそらすと、僕の真上をジュリの鞄が通っていく。


 距離を取って対峙すると、彼女は薙刀のようなモノを手にしていた。


 背負っていた鞄の中に隠していたのか。折り畳み式だろうか。


 華奢な体でよくその長物を振り回すものだ。


 『あっ、ジュリ。もういいか。小西さん引き続きでお願いしますね』


 投げやりな烏丸の合図。




 さて、ジュリはF/Oを一度見ている。且つ、見た目とは違い慎重な性格のようだ。


 僕との距離を迂闊に詰めてこない。


 薙刀のリーチを熟知し、深追い、連撃はせず単発の嫌らしい攻撃をしてくる。


 アウトレンジからチクチクと小賢しくこちらを削ってくる。


 この柔らかいナイフでは弾きにくく、大きく体ごとかわす必要があるのもこちらには不利だ。


 わざと僕に攻撃を誘い、引きながらの横薙ぎも厄介極まりない。


 くそ、届かねぇ。筋力があるようには思えないから強引に攻めて組み伏せてしまうか。


 うまく回らない。負ける気もしないがこのままでは勝てもしない、何かないか。


 彼女を観察すると、ふとその両目に違和感を持った。照明の加減か赤く光っているのだ。


 マリと同じく、この年でこんな稼業につくぐらいだ、


 トリックやギミックを持っていそうなんだよな。烏丸の言葉も気にかかる。

 

 1度飛ばして確認しておくか。


 左手をジュリの死角に隠して、F/Oを発現、彼女の最短ルートに幻影を飛ばすが、


 『かかった!灼天しゃくてん!』

 

 『!!』


 F/O Nighthawkが、僕の分身が一瞬で燃え上がる。


 あぶねえ。こいつの能力か!彼女の術と相殺したのかF/Oの幻影も消滅してしまった。


 僕本体だったら大惨事、ナイフどころの騒ぎではない。


 烏丸がこいつの能力知ってて言わなかった事が尚、笑えない。か、帰りてぇ。


 『ちっ、やっぱダミーか。無駄撃ちさせんな、腰抜けジジイっ!』


 口が悪いなぁ。おじさん萎えてしまいますよ。


 しかし、ビビリな性格で本当に良かった。


 タイマンは仕切り直し、彼女のあの能力がある以上、絶えず動き続けた方がよさそうだ。


 エルデンリ●グ対人戦のような差し合いで、妙齢の少女に近づこうとするおっさん。


 客観的に見て、完全に案件事例だな。


 発火能力が怖くて、どうやって距離を詰めていくか攻めあぐねて悩んでいるが、


 なぜか彼女からの攻撃も減って、やたら僕と距離を取りたがる。


 突きもそれほど踏み込んでこない、威嚇に近いな。ジュリ側にも不都合でもあるのか。


 よく見ると彼女は黒い涙を流していた。汗で化粧が崩れたのか、右目をつぶっている。


 僕が時計回りで移動しても、依然として右目を開かない。  

 

 なるほどねー。そういう事か!


 先程の発火現象は強力な術だが、1発で右目がダメになる。2発目で左目もかな。


 だから、無駄撃ちしたくなかったし、2発目がすぐに追撃として撃てない。


 だが、時間がたてば再使用ならびに視力回復できるから今は時間稼ぎに徹底している訳だ。


 了解、ほぼほぼ理解した。フィナーレと行こう!


 強く踏み込んでジュリを中心に高速で時計周りに動き、


 彼女が僕を左目で補足しているのを確認して急ブレーキ!


 同時にF/Oを発動させる。


 幻影を飛ばすのではなく、彼女たちには初めて見せるステルス型、姿を消すタイプだ。

 

 彼女は僕を見失ってしまい、顔色を変えてしきりに周囲を確認、薙刀を振り回す。


 僕、全然違うところにいるんだけどね。


 わざと音を立てると、ジュリは大げさに反対側にステップして距離を取る。


 なんかオモチャみたいでかわいいな。




 ジュリはしばらく薙刀を振り回していたが、疲れからか動きが鈍くなり始めた。


 肩で息をしているのも見て取れる。さて、後方からトドメを刺すか。


 じゃあな、ギャル子。僕が歩き始めようとすると、


 『ジュリ、大丈夫だよ!背中は私が行くよ!』 


 マリが乱入、ジュリの背中につきやがった。おい、2対1やんけ、酷くないか?


 抗議したいが声を上げて、高速で動けるマリに居場所を悟られるのは好ましくない。


 烏丸や真咲の方を見ると、あらぬ方向をみてどうぞどうぞとジェスチャーしている。


 まぁ、見えてないから仕方ないんだけど、こっちは連戦やぞ!


 続行。他人事だと思ってからに。


 『ジュリ、あと、何秒?』『もう開いた、でもまだ撃てない』


 『撃たなくていいからね。多分、あいつ攻撃系持ってないよ。


  ナイフ一つ。次は絶対に私の縮天しゅくてんで捕まえるから!


  捕まえたのを見てから撃って!』『ダミーの可能性もあるから気をつけて!』


 『オッケ!2人で倒すよ!』


 なんとも健気なことだ。涙を誘うじゃないか。


 イマドキの子供はもっとドライだと思っていたよ。


 さて、僕の次の一手は……




 『おい、貴様。何をしている』


 風呂上がりに、アイスをかじる僕を真咲が冷たい視線で睨む。ご機嫌斜めのようだ。


 『一仕事終えたので、リラックスタイム。アイス食べながら、ニュースでも…』


 『今の状況を聞いてんじゃねぇ。戦闘を放棄して一人で家に帰ったのはなぜかと聞いている』


 『健気な子供たちを殴るのは気が引けてさ』


 『気が引けたので!


  誰にも気づかれないようにステルス状態で!


  しれっと施設を出て!私の車を使い!私を置いて!一人で帰宅したと?』


 『概ねその通りだ』『死ね!どんだけ歩いたと思ってんのよ!』


 汗だくの新妻に胸倉をつかまれてゆすられる、アイスがこぼれちゃう。 


 『烏丸送ってくれなかったの!?薄情だなぁ』


 『誰が!どの口で言ってんのよ!何考えているの?アサシンでしょ!?』


 『なり立てというか、無理やりな』


 『私がどれだけ肩身が狭かったか理解できるか!?成田の餓鬼に同情されたわ!』


 『まぁ、結果は1勝1分。これからチームを組むなら僕の事を理解して頂いた方が


  なにかと捗るだろ?』


 『敵前逃亡が何の情報に?』


 『常に最善の策を検討できて、躊躇なく実行できる。


  仲間を置き去りにすることも厭わない』


 『言ってて恥ずかしくない?』


 真咲の怒りがトーンダウンし、憐みの目に変わってきた。やめろ、その視線は俺に効く。


 『いやさ、昨日の戦闘も結構苦しくてさ。それから間髪入れずに結婚して、今日だぜ?


  疲れちゃうよ、過労死する。資料に書いてあっただろ?民間の企業で心を病んだビビリが


  喜び勇んで子供を虐待できると思うか?』


 『マリは倒したじゃない』『一回って約束したし、降りかかる火の粉は咄嗟に払いますよ』


 『……』


 『なので、本当にな、あんまり期待しないでほしいんだ。F/Oを使えて調子に乗った。


  だけど元来こういう人間だ。今後の任務とやらで子供を暗殺とか、誘拐と言われても……』


 『私が敵につかまったらどうする?』『ケースバイケース』


 『即答じゃない、せめてもう少し考えてよ』


 『こういう所が独身である所以だ』『もう所帯持ちなんだけど』


 『いつでも離婚届にサインするよ』『お風呂に入ってくるわ』


 僕の高らかな宣言に新妻は呆れていた。

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