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98.正義の味方 その三十一 いけないボーダーライン η


 -涼風組-

 

 『第一波は終わったのでしょうか?』


 宇梶は刀を仕舞い、施設の様子をうかがっている。


 『一応ね。気配は奥にあるから、もうちょいしてから第2幕ね』


 涼風は蹴り飛ばした男の血が気になるのか、


 器用にも入口付近の壁で足の裏を拭きながら答えた。


 『なら、柊にメールしとくで』


 スマートフォンを操作する平田の


 後ろには十数人の男が横たわって、すまきにされていた。


 彼らも自分達が持ってきた


 搬送用のバンドで縛られる事になるとは思っていなかっただろう。 


 『ちょいな!これ、見てみ!』


 メールを打ち終えた平田が搬送されていた物を荷ほどきをしながら叫ぶ。


 『この子が凛ちゃん?のりちゃん?』


 『凛ではないわ』


 涼風が一瞥した後、悔しそうに舌打ちする。


 『アレ?こっちにも狐いますよ。2匹?二人?この子は?』


 『凛じゃないわ、のりちゃんかどうかは分からないけど……


  おかしいわね。こっちも狐。全て狐?』


 涼風は苛立ちながら、片っ端からケージ、搬送コンテナを開けていく。


 『みんな衰弱しているけど生きてます。どういうことでしょう』


 『うちに聞かれても』


 宇梶の質問に平田は肩をすくめて答える。


 『当事者に聞くか!』


 涼風は言うが早いか、簀巻きの男を一人転がし、


 顔面を蹴り飛ばし乱暴に起こした。


 『なっ!何を』


 『こっちの事を知る必要はない。ここで何をしていたのかしら?』


 男は最初は戸惑っていたが、涼風達を順に見て笑い始めた。


 『白鞘か?黒連か?我らに手を出せば最後だぞ、我らはちょうろぎゃあ!』


 涼風は脅しを遮り、男の右手の親指を逆に捻じ曲げた。


 『私が質問しているんですけどー。ここで何していたの?』


 『そ、その程度のぉぉつ!!』


 男の親指に続いて、人差し指もおかしな方向を向いた。


 『面倒ね。ねぇ、その刀貸してちょうだい。一気にイクわ』


 涼風は宇梶を手招きし、斬り飛ばす手振りをすると男も流石に怯え始めた。


 『待て!俺は、俺も詳しくは知らん。待ってくれ』


 『知っている事は?』


 宇梶がワザとらしく刀を少し浮かし、刀身をチラつかせると


 月明かりでそれはギラリと光る。


 『その、ココで、儀式をする為にだ。その、狐を集めてい』


 『なんのっ!?』 


 男の言葉に食い気味に反応する涼風


 『詳しくは知らない!”アイズナー Project”、”フォックスハント”、


  ”GOZEN REBOOTやPRODUCTION”とか呼ばれていた』


 『ほかには?』


 『これ以上は知らない。外人の指示で搬送していただけだ。俺は知らない』


 『そう、ありがと』


 涼風のかかと落としで男は再び眠りに落ちた。


 『アイズナー計画?フォックスハントはそのままキツネ狩りでしょうか?』


 『聞いた事ない』


 涼風はかかとについた血を男の服で念入りに拭いながら吐き捨てた。


 『今、ググったけど、ヒットせんな』


 『あんた達、第2波が来るわ。そいつらならもう少し情報があるかも』


 『了解しました』


 『あいよ』


 アタッカー達は、それぞれ準備を始めた。


 


 我ら、狐”のみ”を集めている。


 GOZEN……御前ごぜん?アイズナー……?


 REBOOT……?、PRODUCTION……量産化。


 まさかな。できる訳がない。


 そんな真似がヒトにできるものか。


 涼風は頭によぎった妄想を掻き消して、苦笑する。


 

 

 長老教会の第2波は先程の雑兵とは違った。


 第1波の敗退を何らかの手段で知ったのだろう。


 武装しており、数名は術者だった。


 もっとも涼風の敵には成り得ず、


 長老教会のメンバーが視界に捉えたのは紅い霧、そして、黒い影。

 

 流れる涼風の髪を目で追うのが精一杯だった。 


 先手、速力で勝る彼女が術の詠唱を待つわけもなく、


 早々に簀巻きを量産した。

 



 『あぁっ!もう!!凛はどこにいるのよ!』


 空箱を蹴り飛ばし、涼風は絶叫した。


 『結構な数の箱を開けましたけど、見つかりませんね』


 宇梶も首を傾げて、周りの空箱の山と眠る狐たちを確認していく。


 『陽子!アミ!大丈夫だった?』


 そんな中、新堂と霧子が合流する。


 『おぉ、エミ。お疲れ。こっちは問題ないけど、問題や。


  凛見つからへん』


 『あっ、のりちゃん!のりちゃん!!霧子だよ!』


 霧子は新堂を追い抜き、一匹の狐に駆け寄ってその子の顔を丁寧に嘗め始めた。


 『大丈夫?大丈夫?』


 『その子がのりちゃん?みんな外傷はないから、大丈夫だと思うけど』


 メンバーが霧子の周りに集まり、二人の子狐を覗く。


 『霧子ちゃんと違って、のりちゃんはいわゆる普通の狐色なんですね』


 『エミもそう思った?ウチも緑色とか青とか目立つ色かと思っとったけど』


 『あんた達、私達の事なんだと思っているのよ。


  一応、白鞘なんでしょ?知識あるでしょ?』


 素朴な感想を述べた少女達に涼風がつっこむ。

 

 『OK。のりちゃんは見つかったわね。霧子、凛の匂いは?


  あの子はどこにいるの?』


 涼風は、霧子の頭を撫でながら、再探索を促すと、


 スンスンと霧子も鼻を鳴らすのだが、すぐに首を傾げた。


 『アレ?凛の匂いが途切れてる。ちょっとそこまでは一緒だったのに。


  こっちには来てたよ』


 フンスフンスと更に鼻息を荒くし、施設の入口まで移動していく。


 『あっ、途中でね、あのね、中で』


 『ストップ、敵が来る!おチビちゃん下がりなさい。


  あなた、新堂さんね、狐達を可能な限り後ろに下げて。


  平田、宇梶、行くわよ。戦線を押し上げて、入口で止める』


 『了解しました』


 『エミ、狐下げてから、援護頼むで』


 『分かった。アミ、陽子、無理しないで』


 『雷神は?』


 涼風は、施設入口を睨んだまま、誰に言うでもなく尋ねると、


 『まだ、連絡なし。”のりちゃん確保”と”凛を見失った事”は連絡しましたが』


 新堂がスマートフォンを確認し、答えた。


 『突入するとしても彼の力が必要になるわね』


 『否定はせんな。アタッカーのうちらのみでは詰んでしまう』


 平田は素直に涼風の意見に肯定した。


 匂いが途中で消えたという事は、施設内部でコースを変えたという事。


 私たちの迎撃タイミングが早すぎたのか、焦りすぎたわね。


 涼風は自分の行動を振り返り、今日何度目かの舌打ちをする。 




 先程の男の話、戯言で片付けられなくなってきたな。


 御前……凛を含めた何人かが候補、適応者であり、


 量産化する予定、目処がある。そして、のりちゃん達は不適格な訳だ。


 となると、今から相対する相手も雑魚、本命ではない可能性が高い。


 できれば、この場は白鞘の小娘に任せたいが、


 私一人では凛を追いきれなくなる、ロストする恐れもある。


 歯がゆい!早く来なさいよ、雷神!!




 -同時刻 柊サイド-


 坊主との戦闘離脱後、涼風達との合流に向かう僕の前に何かが飛んでくる。


 かなりデカイ!なんだこれは!


 『ちっ!!』


 身近な気の陰に隠れ、ワルサーを構える。


 『こんばんは、柊君』


 羽音がしないまま、大きな飛行物体は少し離れた木の枝に止まった。


 ん?あれか、フクロウか、ミミズクかな?


 それっぽい鳥類がこちらを、僕を見ていた。


 黄色の大きな瞳で僕を凝視している。


 さっきの声は……司か?


 『柊くん、状況を教えてもらえるかしら?』


 『……』


 このフクロウの中に司が入っているのか?でも、この感じ……


 『聞こえなかったの?状況は?


  あなたのダメージ、味方の残存を報告してもらえる?』


 違うな。僕は確信し、無言でワルサーをフクロウに向ける。


 『怪我でパニックにならないで、落ちついて状況を把握しましょう。


  大丈夫、私よ』


 『声は似ているのか、似せているのか知らないが、


  司にこの場所、ここでの戦闘の事は教えていない。


  それにアイツが入るのはもっぱらカラスだ。


  何より、口調が今一。そんなしゃべり方はしないんだよ!』


 銃を向けているにも関わらず、フクロウは微動だにしない。


 もし、撃たれても本体の術者にはダメージがないのだろうか?


 フクロウは僕を馬鹿にしているのか、愛くるしく首をくりくりと回している。


 鳥類のその顔からは全く感情が読み取れなかった。


 時間が惜しい。少々リスクはあるが無視して先を急ぐべきか?


 かわいそうだがフクロウは殺しておくべきか?


 弾丸の残数も考えると……


 僕がワルサーを腰にしまい、走りだそうとするのを見て、


 フクロウはようやく口を開いた。


 『噂だと無鉄砲な所があると聞いていたんだけど、意外に鋭いのね』

  

 『なら、ご期待に応えてシンプルに行こう!


  あんた、何者だ?』


 ワルサーの撃鉄を起こし、フクロウに照準を再び合わせる。


 『せっかちな男はダメね。早いのは嫌われるわよ。チェリー君』


 『そういう人を小馬鹿にする所は似ているが、親族?兄弟?』


 司の話では確か、妹一人が居たはずだが……


 口調から女だと思うが、妹にしては大分大人びている気がする。

 

 母親か?


 『想像できていると思うけど、鳥谷……まぁ、司の親族よ。


  表向きは……、今は話せない』


  どういう意味だ?なにかカマをかけているのか?


 『馬鹿にしている訳じゃないの。少し、話を聞いてくれる?』

  

 『悪いが急ぎでね。また、時を改めてにしてもらえるか?』


 『白鞘のあなたの仲間にも援軍が向かっているし、


  私も長老教会の儀式を潰すつもりよ』


 『なおさら分からん。どういう事?


  僕はイレギュラーで来ない方が良かった訳か?』


 『正直に言うと来ると”思わなかった”が正しいね。


  ”来るはずがなかった”。


  少しネタバラシをすると私は白鞘でも黒連でも長老教会でもない。


  当然、チャイニーズでもない。あなたと似て非なるはぐれ者の集まり。


  当初はあなたをすぐに合流させようかと思ったんだけど、


  うまくやっているみたいだし、そのまま協力してくれたらありがたいなー』


  どこにも所属していない組織なのに、


  なんで白鞘の援軍が来ている事が分かるんだ?


  長老教会を潰すという点については目的が一致するけど、


  口調も母親にしては若い気がする、司と年齢が近い親族なのか。


  一番気になるのは”来るはずがなかった”と言いきった点だ。


  今回の件は、黒連には話せていない。状況を知っているのは、


  せいぜい”みつね”ぐらいか?いや、霧子は捕まらなかったと言っている。


  涼風は単独だから、僕に協力を要請していて来ている訳だし。


  白鞘側は、御門野、新堂、平田、宇梶、

 

  この中に”裏切者”がいるという訳……、いや、おばりよんからの派生任務だ。


  偶然なのか?もしかして、この場所もブラックレーベル絡みか?  


  くそぉ、まとまらない。ピースが足らなすぎるジグソーパズルみたいだ。


  『ボォン!』


  前方から炸裂音らしき者が聞こえた。涼風達が交戦しているのか?


  『悪いが、あんたの件は後だ!』


  『”後”にはならないわ。恐らく”同時に”終わるでしょうね』


  フクロウは、脇を通り過ぎようとすると僕の肩に器用に乗ってきた。


  『さっきは雷神の名に恥じぬ、綺麗な”雷光鞭”だったわ。


  これで補給しといて』


  そう続けて羽を広げて足にくっ付けていた袋を僕に見せた。


  中には黒連から支給される司や大阪から渡されるいつもの薬が入っていた。  

   

  『来ないと思ってた割には、準備がいいし、ずいぶんと前から見てたんだな!』


  『気を付けてね。あなたのファンは多いから。さぁ、急ぎましょう!』


  僕の嫌味に対して恐ろしい返事が。


  今は、あいつらと合流するのが先決なのだが、


  このフクロウの事はどうやって説明したものか。


  先程の音源に向かって走る僕の中には、いつもの疑問が沸いてくる。  

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