97.正義の味方 アナザー Small Garden
僕は、古くから続く旧家の陰陽術師だ。
まぁ、戦闘系ではないので代々続く弱小の一門ですけど。
更に都合がいいのか悪いのか、この”力”は家族の”長男”にしか発現しない。
親族でも、親父の兄にあたる現当主の”叔父”、その息子である”いとこ”。
そして、僕の3人しか使えない。僕の親父は次男の為、能力がない。
発現する時期はたいてい3~4歳。僕も物心つく頃には祖父や叔父に習っていた。
成長して、漫画やアニメで陰陽術を題材として物に触れてきたが、
あんなに派手じゃない。”刀”や”槍”で攻撃しません。
”お札”で悪霊を払いません。
所属する組織にはそのようなガチンコ系もいますけど。
僕の一番得意な物は、五行の”木”、次点で”土”、”水”。
植物の成長を促したり、土の養分を豊かにしたり、僅かな水分を与えたりします。
分かりやすく例えると、ガーデニング系術者です。
このような能力なんで実生活で役に立つかというとグレーです。
持ってて困るものでもないんですけど。
しいて言うならば、”木”属性の為、花粉症になりません。地味にメリットですね。
一門の中でも、叔父は”土”属性の為、逆に花粉症が酷いです。
反対に僕は金属アレルギーが酷いです。ピアス、ネックレス、ブレスレット、
全部ダメです。安い、不純物の多い物でも被れてしまいます。
そんな一門ですから所属する組織”白鞘”でも序列は下位になります。
僕は兎も角、当主たる叔父は頭が痛いようで、なにかと
『チャンスはないかな?』『タイムリーでないかな?』と嘆いています。
僕自身は、他人と競争するのも好きではありませんし、のんびりまったりと
生きていければいいなと思っています。
こういう所にも”木”たる所以が出ているのかもしれません。
そんな平凡?な毎日でしたが、今日は少し様子が違いました。
僕にとって、人生と分岐となった日です。
僕が通っている大学から家に帰ると、母から本家、叔父の家に行くように
言伝があった。詳しい説明はなく、来てほしいらしい。
『なんだろう。前の任務はまだ〆切前なんだけどな。まぁ、簡単な任務だと思う。
行ってきます。晩御飯は家で食べるよ』
母にそう告げて、少し年季の入った軽自動車で本家に向かった。
車を走らせながら、横目で景色を見ると、
山の雑木林、その奥にかすかに街、京都が見える。
そんな京都と滋賀の境の峠道。
そんな田舎に僕は住んでいる。個人的には京都がそれほどいいとは思えず、
テレビで見るような東京や都会にも興味はない。
呼ばれた理由が叔父の立身野望の愚痴だと面倒臭いな。
そんな事を思いながら人通りの少ない慣れた道を進んでいく。
僕は、本家の横にある更地に車を止めて、勝手口から中に入る。
田舎の古くて大きな家の癖に駐車場の入口が狭く入りにくい為だ。
過去、2回コスッたし!叔父には言ってないけど。
まぁ、親族だし、裏から入っちゃいます。
その庭には、五行を汲む家の習わしで、
木である”楠木”、金である”銅製の鳥居”、
水である”池”、火である”窯”、土である”山”が設置されている。
僕は二拝二拍手一拝し、楠木、小山、池、窯、鳥居の順に触れて、
最後にもう一度楠木をわしゃわしゃ触る。ちょっと無作法と分かっているが、
やっぱり楠木が一番落ち着く。ふぅー、いいわぁー。
『五樹!来たね、上がってきなさい』
後ろから叔父に呼ばれ、我に返る。
これは、性癖ではなく五行を汲む一門の儀式です。お間違えなく。
僕の名前は”赤羽 五樹”。
陰陽師集団 白鞘、赤羽一門の第3順列。
五行”木”の五樹。
叔父には、いつものようにリビングではなく、応接室に通された。
聞かされていなかったが先客がいるようだ。
『久しぶりだね、五樹君。5年ぶりぐらいかな』
ん?どこかで見た顔だ。白鞘の人間だと思うが……
ソファに座っていた男は、僕に話しかけてきた。
『新堂さん、僕の友人でね。五樹は高校生ぐらいに会ったはずだ。
覚えてないか?娘の”エミちゃん”も居たんだけど……』
叔父に補足されるが、なかなか出てこない。
”新堂家”?確か白鞘内ではウチと同じく順列は下だったような。
”エミちゃん”?あぁ、出てきそうで出てこない。もどかしい。
あのお転婆姫の”アミちゃん”なら思い出せるのに!
僕が記憶を辿り、脳内検索中、
『まぁ、ちょっとの顔合わせだったし仕方ないか。
でも、圭五のところはいいね。
赤羽は、男の子が二人も居て安泰じゃないか。うちは女の子しかいないし』
『あのね、圭太。うちもうちでイロイロあるんだって。
五樹はまだ継いでくれそうだけど、五火はさ。
あの子は辞めるって言いきってる。この間の縁談も……』
叔父である赤羽 圭五と来客の新堂 圭太は、
僕そっちのけで世間話で盛り上がり始めた。
下の名前で呼び合う仲だ相当付き合いが長いのだろう。
”五火”と言うのは、叔父の息子で、
赤羽では第2順列にあたる僕のいとこだ。
名前の通り、五行 ”火”の使い手だった。
だったという過去形なのは陰陽術に嫌気がさして、家を出た事があるから。
能力が発現した当初は戦闘タイプである”火”を使える事から、
大いに期待されていたのだが、何かの任務で失態を犯し、そのまま失速。
能力を使う事すらやめてしまった。
昔はスラッとしていたが、今はぽっちゃり系のヒッキーだ。
そんな事があり、叔父は、本人ではなくその”火”という属性の継承の為、
婚約を企んだようだが失敗に終わった模様。
そうそう、属性についてだけど、赤羽一門で出やすい順は、
”金”、”土”、”水”、”火”、そして、”木”になる。
なんでも、赤羽の始祖は武器製造、準暗殺任務をこなしていたかららしい。
つまり、僕はレアキャラです。ソシャゲでいうところの”SSR”です。
ちょっとした自慢なんだけど、一般人の友人には
『長男なのに、なんで”五樹”なん?』などと馬鹿にされるけどね。
”エミちゃん”からひきこもりと化した”いとこ”に思いをはせている間に、
叔父たちの会話も一区切りついたようだ。
『あぁ、五樹君、ごめんね。盛り上がってしまった。
実は折り入ってお願いがあるんだ』
新堂はそう切り出して、テーブルの上に透明なピルケースを置いた。
その中身は、大小さまざまな大きさの種が入っており、
一目であまり見ない物だと分かった。
『圭太、何コレ?』
叔父は、その一つを取り上げマジマジと観察する。
『ちょっとした任務で手に入れた逸品でね。
さて、五樹君。少々試させてもらおう!』
新堂は笑って、種を一つ僕に投げてきた。
右手でしっかりと掴み、目をつぶって一粒の種子に神経を集中させる。
陸上植物……、種……、種子植物……、被子植物……?、!!
そこまで認識し、違和感に気づいて目を開く。
『これ、ヤバイやつですね』
僕がゆっくりと答えると、新堂は満足そうにうなづいた。
『ん?あれか?大麻か?』
”木”にはとんと無知な叔父が茶々を入れてくるが、
『違いますよ。
まず、自然界にある植物じゃない。合成、キメラですね。
分類が固定できなくて、またがってる。
次に遺伝子改良に加え、術式が絡んでいる。精霊系はなし。
欧米……遺伝子改良と術式の割合から欧州の長老教会由来とみた。
最後、僅かに血の臭いがする事から、生贄、
サクリファイスなんたら……、正式名称はわかりませんが、
そっち系の呪いも含まれてますね』
『パーフェクト!赤羽一門 数世代ぶりの”木”は伊達ではないな!』
『大げさですよ』
僕は苦笑して、拍手している新堂に種子を返す。
『さて、こいつの名前、いや、コードネームは”BL”。
僕が調査に当たっていた任務で入手した物なんだけどね。
ちょっと困っているんだよ。こいつは発芽しないんだ』
『腐っているのか?』
叔父は、力任せに種子を砕こうとしながら、眉間にしわを寄せた。
『違うんだ、圭五。
五樹君の言った通り、長老教会の術式で生まれたキメラでさ。
普通には成長しないんだ。イロイロ試したけど、発芽、ピクリともしない!
そこで、彼の力を借りられないかと思って来たんだよ』
『五樹できそうか?』
”木”が目的と分かると、興味が失せたのか種子をケースに戻し、
叔父は横目で僕を見る。
『術式解読には時間がかかりそう……いや、解けないかも。
術式無視で、”五行”をゴリ押しすれば、
発芽はできても生育が不完全になるかも』
『発芽はできるのか?』
新堂は期待していなかったのか、信じれないのか声を上げた。
『さっきの触った感じでは、ですけど。”五行”にわずかに反応してるし。
ここでは難しいので、土や水、熱、環境が整った僕の部屋でやりたいです。
部屋では全力を出せるので、いくつか種を分けてもらえますか?
全部とは言わないけど、一週間もあれば6,7割はできそうです』
『いいね!ケースの中、半分ぐらい持って行って!
圭五、力、借りてもいいよね?』
『まぁ、立て込んだ任務ないしな。安くないぞ』
叔父が笑って、指さすと、
『心配ない。経費は出てる』
新堂はポケットから封筒を取り出し、それで叔父の胸を叩く。
一瞥して、かなりの厚みがあることが分かる。百万は下らないだろう。
結構、大盤振る舞いだな、白鞘とは”別口”の任務なのかな?
『よし!五樹。一週間だ、頼むぞ。
報酬は後払いだ。白鞘の任務じゃないので、口座ではなく手渡しだ。
親父に言う必要はないぞ』
『いつも聞かれませんし、言いませんよ』
能力を持たない僕の父は、僕の仕事に無関心だ。
昔から聞かれたことがない。
兄であるこの叔父に頭が上がらない事もあるのだろうけど。
『では、一週間後!圭五、電話くれ』
新堂は上機嫌で帰っていき、その日はお開きとなった。
僕は、家で夕飯を食べ終えた後、庭にある”僕専用の庭”である
小さなビニールハウスに向かった。
中は白熱灯のおかげで一年中、熱と光に満ちており、
特設のスプレーで湿度を高めに保っている場所だ。
普通の人間には、2列に並んだ菜園、畑のように見えるだろう。
僕は、植物の寝床となる畝の列で、
白鞘の任務で育てている植物から離した場所に簡単な枠を作る。
植物同士で相互干渉はしないと思うが、念には念を入れておく為だ。
小さな、深さ数cmの穴を開けて、一つづつ種を入れていき、
やさしく土を掛けて蓋をする。
水分が足りないという事はまずないと思うが、
最後に気持ちで軽く、霧吹きを吹いておく。
僕は、”五行”と言っても万能という訳ではなく、
こういった環境づくりがあってこその、賜物だと考えている。
”土”を落として、手を清めた後に埋めた場所の前で合掌、詠唱を始める。
『八百万の神々よ
赤羽一門、”木”が五樹
恵みを乞う
尊よ、御霊よ
赤羽一門、”木”が五樹
恵みを乞う
森羅、五行相生、五行相克
赤羽一門、”木”が五樹
恵みを乞う
ウカノミタマ 御倉を開け!』
僕を中心に五芒星がその軌跡を描き、五行 ”木”が発現するが、
先程埋めた場所からは発芽していなかった。
しかし、五行を拒まれた様子もない。愚直に続けていこう。
僕は、五行の作用でまわりに生えてしまった雑草を一通り抜いた後、
”新堂さん”と書いた小さなプレートを新しい菜園に刺してから部屋に戻る。
この数日後、”BL”発芽に成功するが、
これが赤羽一門始まって以来の不祥事となり、
白鞘内で”赤羽”、”新堂”の名前がイロイロな意味で広がることになる。
もちろん、今の五樹が知る訳もない。
そして、彼が自分の失態に気づくのは、
”赤い壁”を持つあの少年と出会ってからの事だ。




