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間違いで求婚された令嬢は三人の夫(候補)とデートする  作者: 海のくらげ


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第四話 アリア様のお茶会

# 第四話 アリア様のお茶会


アリア・ヴェルナー伯爵夫人主催のお茶会に呼ばれたお客様の顔を覚えるのが今日の任務。

私はセシルとして侍女のふりをする。

ちなみにセシルとは間違いで求婚された時の手紙の宛先の女性の名だ。

大人の世界は綺麗事だけではなく汚い部分もあるのだというのをお見せしたいのだとか。


アリアさま専属の侍女のクリスタが事前に御婦人方の名前と家門を教えてくれたので覚えておいた。

ただの記号として覚えればいいのでさして苦労はない。

受け付けでお招きする役目を一緒にやらせてもらったので一応顔と名前の組み合わせはあやふやながらも出来た。


会場にお客様は総勢三十五名もいらっしゃり五人掛けのテーブルが七つもある。

このテーブルは御婦人同士の連帯や好き嫌いが反映されたもので、一つのテーブルに着くのはもちろん、隣のテーブルで椅子の背が近いだけでも厭なのだそう。

それならいっそ参加しなければいいのに、と思うけれどそういうわけにもいかないのでしょうね。


私はテーブルの一つを受け持つ事になったけれど、可能な限り全部のテーブルを回るようにとの指示だ。

名前と顔とを覚え、誰と誰が繋がりがあるか、仲の悪いのは誰かを知るのが目的だからだ。

それは領地運営の裏の顔。

歴史の半分は女性が作っているとアリアさまはおっしゃる。



合図もなくお茶会は始まり、早速扇子をパチンと鳴らされる。

ニコリと微笑んだままテーブルに向かうと素早さに驚いた顔をさっと隠してケーキを扇子で指される。

あー、このケーキおいしいのよね。

特に上に載ってる栗の砂糖漬けが堪らないの。

よだれが出るのを我慢しながら一つ取り分け差し出した。

じっと凝視していると「何よ、食べたいの?」と指摘されてしまった。

うんうん、と二度頷き慌てて首を振ってテーブルを去る。

危なかった。



ティーポットを持ち、カップの空いてそうなテーブルを回る。

ケーキを口に頬張ってお皿の上に置いたつもりのフォークがバランス悪くテーブルの下に落ちる。

咄嗟にしゃがみ床に落ちる前に掴む。

音は立たず、誰も気に留めていないようだ。

良かった。

近付いてきたクリスタに渡して新しいフォークをもらうとそっと御婦人のお皿の横に置いた。



口元を扇子で隠している御婦人がいるのでカップの様子を窺うフリをしながら近付く。

なるほど、そういう事でしたか。

侍女がお世話をしているのは単に給仕をしているわけではなく誰が誰の悪口を言っているかを確認していたのね。

大人って怖いわ。

二つ離れたテーブルの御婦人の悪口を喋っているけれど、目は笑っていて談笑しているように見える。

これは隣なら絶対に聞こえていたはずだし、離れているとちっとも分からない。

クリスタの配置に改めて関心した。

そして気付いたのは、それをアリアさまも知ってるという事。

後から報告は受けるのだろうけれど、お茶の席では視線や扇子で口元を隠す仕草などで察しているはず。



そのうち今日一番のケーキが届く。

移動式のケーキ台を何人かの給仕がうやうやしく運んでくる。

既に甘い香りが漂い始め皆の耳目が集まる。

本当は私も香りに誘われてケーキ台の前に陣取りたいのだけれど我慢してる。

銀のケーキドームが四つあり、そのいずれも焼き上がったばかりのケーキが隠れている。

そう、単にケーキを持って来たのではなくご婦人方の目の前で切り分けるものだ。


これからはひと時、少女に戻った気持ちになって調理台の前にお集まりください、と声を掛けて回る。

ご婦人の何人かは面倒くさそうに立ち上がるが、あの時のときめきを忘れたの!?と叫びたくなる。

私なら真っ先にケーキドームの前を陣取る。


ケーキドームが開く。

フルーツの盛られたパウンドケーキに少女たちのため息が漏れる。

パウンドケーキの材料の小麦は友達のエミリー・メルヴィル子爵家から取り寄せた。

普段とは違う味にきっと満足されるはず。

パティシエがケーキの説明をしながら、最後の一手間にはちみつをかける。

「きゃーっ!」

そこかしこから悲鳴が上がる。

うん、少女だ。

このはちみつはアルノー子爵家から取り寄せた特別なはちみつ。

薔薇の花から取った超貴重なものをあんなにおしげもなく。

伯爵家、恐ろしい。

パティシエが切り分け始めると、フルーツの載り具合を確かめるように吟味する。

うん、少女だ。

そうしてじっくり堪能して席に戻る時に一人のご婦人にそっと声を掛ける。


「アリア様がお話があるとの事です」

「あらそう。それは光栄な事です。ではケーキを持って来てちょうだい」

「もちろんです!承りました!」

じっくり狙っていたのは知っている。

それをささっと確保した。

侍女特権。

それからアリア様の隣に座られていたご婦人にも声を掛け移動してもらう。

それ以外にも何人かにクリスタ主導で侍女数人が声を掛ける。

アリア様が話をしたい方達をこの機会を利用して移動出来るようにした自然な席替え。


ご婦人のためのキープしたケーキをテーブルに置いて座るのを手伝ってるうちにクリスタがアリア様のケーキも用意してくれる。

うわあ、大人の前にあってもきちんと映えるケーキだ!

涙を拭って他の席のお手伝いをして、ケーキ台を下げるのを手伝った。

かけらだけでも食べていいかな?


アリア様はケーキを一切れ口にされて驚かれた。

「薔薇の花のはちみつでございます」

このテーブルの方達だけに聞こえるように言う。

はちみつに薔薇の花びらを入れたものは多々あるが、アルノー子爵家から取り寄せたこのはちみつは開花時間の短い薔薇から取った正真正銘の薔薇のはちみつだ。

そこらの貴族じゃ一生に一度味わえるか分からないわよ!

もちろん私も味わった事がない。

それなのにアリア様は気づかれた。

やはり伯爵家、恐ろしい。


アリア様とお連れした御婦人ははちみつの話に始まり、どうやらずっとお知り合いだったらしく昔の事を懐かしむようなお話になったのでテーブルを離れた。

各テーブルにお茶の様子を窺いに行くと、そこかしこではちみつについての質問が来る。

ただの給仕にしていい質問ではないと思う。

けれどパティシエに聞きに行くと思ったらその場で回答され、そしてその貴重さに香りと味を思い出す、という光景が繰り返された。

全てのテーブルを回る頃には、誰も扇子を口に当てて話す人はいなくなっていた。



こうして大人のお茶会は滞りなく終わった。

お茶を楽しんでおられて話を盗み聞き出来なかったご婦人もいらっしゃるけれど、だいたいの勢力図は頭の中に描けたと思う。

伯爵に仕える身だからといって全員が同じ方向を向いているのではない事も分かった。

でもあのケーキとはちみつはそれを凌駕するくらいの力を持っている事も分かった。

何か特別な時にはあのはちみつを使おうっと。

後片付けは給仕達に任せ、特に今日の為に色々と教えてくれたクリスタには礼を言ってアリア様の元へ行った。


「シェリルちゃん、一人くらい名前は覚えられた?」

私は各テーブルのご婦人の名前と、席替えしてからの配置、それからご婦人たちを幾つかの派閥に分けてみた。

アリア様はびっくりしたようだ。

「では、ご褒美に残ったケーキ食べていいですか?」


#############################################

#四話 あとがき



シェリルの日記



フルーツの載ったパウンドケーキ。

しかもそこにはちみつを垂らす!

アリア様がお茶会を開くとおっしゃったので食べられると思ったのに

結局食べられなかった。悲しい。

あと、大人は怖いという事がわかった。

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