第51話 国家構想
王都の崩壊跡は、
まだ完全には沈黙していなかった。
瓦礫の中に設置された臨時会議室。
そこにはかつての王城とは違う空気があった。
装飾も権威もない。
あるのは机と地図と人間だけ。
ルクスバリア
再建臨時評議場。
国家の“次”を決める場所。
議題は単純だが、
重すぎる。
「次の国家をどう作るか」
最初に立ったのは、
グランツ宰相
だった。
彼の声は枯れているが、
論理は鋭いままだった。
「私は三点を提案する」
指を一本立てる。
「第一。中央集権の維持」
地図の中心を叩く。
「国家機能は一点集中でなければ崩壊する」
次の指。
「第二。段階的改革」
「急激な制度変更は再び混乱を生む」
さらに続ける。
「第三。技術規制」
「魔導技術は制御不能に近い。
国家が管理すべきだ」
会議室が静まる。
それは“秩序”の提案だった。
崩壊を経験した者の、
現実的な結論。
だが。
対面に立つ者は違った。
エレノア・ヴァレンシュタイン
彼女は地図を見ている。
感情はない。
だが視点は異常に高い。
「反論します」
即答だった。
グランツが目を細める。
エレノアは続ける。
「中央集権は効率を生みません」
「遅延が必ず発生します」
指が地図をなぞる。
「地方分権により処理速度は向上します」
次。
「技術は規制ではなく解放すべきです」
「制御は発展速度を落とします」
さらに続ける。
「市場主導により資源配分は最適化されます」
その言葉は冷たく、
鋭く、
そして無慈悲だった。
グランツは微かに息を吐く。
「それは理論だ」
「現実ではない」
エレノアは即座に返す。
「現実です」
一歩も引かない。
会議室の空気が変わる。
これは議論ではない。
戦いだ。
だが剣ではない。
思想だった。
レオン・グレイハルト
レオン・グレイハルト
が腕を組む。
「……これ、戦争より厄介だな」
誰も笑わない。
グランツは続ける。
「自由は崩壊を招く」
「統制なき市場は暴走する」
エレノアは返す。
「統制は停滞を生みます」
「停滞は死です」
一言ごとに、
世界観がぶつかる。
秩序 vs 速度。
安定 vs 成長。
制御 vs 最適化。
どちらも間違っていない。
だからこそ厄介だった。
沈黙。
長い沈黙の後。
グランツが低く言う。
「……お前の世界では、人間はよく適応しすぎる」
エレノアは答えない。
その言葉の意味を理解しているからだ。
人間は変化に追いつける。
しかし、
破壊される個体も必ず出る。
その代償をどう扱うか。
それが核心だった。
レオンが一言だけ言う。
「結論は?」
誰も答えない。
まだ出ていない。
ただ一つ確かなのは、
この議論は、
国の形そのものを決めているということだった。




