第46話 崩壊した王都
朝になっても。
ルクスバリア
の空は黒かった。
街のあちこちから、
煙が上がっている。
燃えた商店街。
崩れた建物。
割れた窓。
路上には荷物を抱えた人々が溢れていた。
難民。
王都の住民たちは、
自分たちの国が崩壊する瞬間を見ていた。
「水だ!
水をくれ!」
「食料はまだか!」
「子供が熱を……!」
怒号。
泣き声。
悲鳴。
もう誰も、
秩序を信じていない。
中央市場は閉鎖。
物流停止。
食糧価格は数十倍。
兵士たちですら、
満足に配給を受けられていなかった。
その結果。
略奪が始まる。
空腹の群衆が店を襲い、
倉庫を壊し、
奪い合う。
街角では死体すら出始めていた。
行政機能は完全停止。
財務院閉鎖。
警備隊壊滅。
中央議会は逃亡。
王族も統制不能。
王城内部ですら混乱している。
「殿下はどちらに!?」
「避難経路を確保しろ!」
「もう南門が突破されます!」
使用人たちが叫びながら走り回る。
貴族たちは、
我先に逃亡準備。
財産を積み込み、
護衛を集め、
王都から脱出し始めていた。
誰も国家を守ろうとしない。
その中で。
ただ一人。
まだ立っている男がいた。
グランツ宰相
。
王城臨時司令室。
疲労で顔色は悪い。
だが。
彼は休まない。
「北区避難民を西部教会へ誘導」
「残存食糧を下層区優先配給」
「火災区域封鎖!」
次々と指示を飛ばす。
速い。
正確。
極限状態でも、
彼だけはまだ国家機能を維持しようとしていた。
側近が震える声を出す。
「宰相閣下……
もう避難を」
「後回しだ」
即答だった。
「民衆が先だ」
その言葉に、
部屋が静まる。
彼は最後まで、
国家の人間だった。
だからこそ苦しい。
彼ほど有能な男ですら、
この崩壊を止められない。
時代そのものが、
王都を押し潰している。
窓の外。
炎が広がる。
かつて栄華を誇った王都は、
今や巨大な避難所だった。
一方その頃。
ノルディア辺境
領主館。
こちらは異様なほど静かだった。
緊急会議室。
巨大な地図。
王都情勢報告。
軍配置。
食糧在庫。
空気は重い。
レオン・グレイハルト
レオン・グレイハルト
が腕を組む。
「酷ぇ状況だな」
軍務官が報告する。
「既に難民流出開始」
「このままなら北部へも到達します」
別の幹部が低く言う。
「……放置すべきでは?」
空気が張る。
「今の王都へ関わるのは危険すぎる」
「こちらまで巻き込まれる」
「独立を優先すべきです」
現実的な意見だった。
王都は崩壊寸前。
今介入すれば、
辺境まで不安定化する可能性がある。
会議室が沈黙する。
その中心で。
エレノア・ヴァレンシュタイン
エレノア・ヴァレンシュタイン
は、
静かに報告書を読んでいた。
感情は見えない。
だが。
彼女は数字を見ている。
人口。
食糧。
避難速度。
死亡予測。
やがて。
ゆっくり顔を上げた。
「王都人口は約百二十万」
誰も喋らない。
「現在の物流停止状態では、
二週間以内に飢餓が始まります」
静かな声。
だからこそ重い。
「疫病も発生するでしょう」
空気が冷える。
エレノアは続けた。
「放置すれば――」
一瞬、
言葉を切る。
そして。
「数十万人死にます」
会議室が凍りついた。




