第45話 クーデター
その夜。
王都は燃えた。
始まりは、
第三軍だった。
ルクスバリア
東部駐屯区。
深夜。
武装した兵士たちが、
突然司令部を占拠する。
「司令官を拘束!」
「抵抗するな!」
怒号。
剣戟。
銃声にも似た魔導爆発音。
寝静まっていた街が、
一瞬で戦場へ変わった。
改革派将校による軍事蜂起。
理由は単純。
「もう王都は限界だ」
彼らはそう判断した。
同時に。
保守貴族側も動く。
私兵を招集。
王城防衛線を構築。
街の各所で、
武装勢力同士が衝突し始める。
そして夜明け前。
ついに。
王城包囲が始まった。
巨大な王城を囲む兵士たち。
魔導砲。
barricade。
飛び交う怒声。
王都全体が震えている。
市民たちは混乱した。
「戦争だ!」
「逃げろ!!」
人々が荷物を抱え、
街から溢れ出す。
馬車は渋滞。
泣き叫ぶ子供。
転倒する老人。
兵士たちはもう、
市民保護どころではない。
国家機能が止まった。
中央議会閉鎖。
財務院機能停止。
警備隊壊滅。
王都は完全に制御不能。
街の各地で火の手が上がる。
商店街炎上。
倉庫爆発。
暴徒化した群衆が、
略奪を始める。
もう誰も、
何が正義か分からない。
ただ生き残るために動いている。
王城内部。
緊急会議室。
貴族たちが蒼白な顔で叫んでいた。
「裏切り者どもを討て!」
「軍を再編しろ!」
「王家を避難させろ!」
だが。
指揮系統は崩壊。
命令は届かない。
兵士たちも割れている。
そこで。
ただ一人。
まだ冷静な男がいた。
グランツ宰相
。
彼は静かに戦況図を見つめている。
炎上地点。
制圧区域。
軍分裂状況。
全部確認していた。
そして理解する。
――終わった。
この王国は、
もう元には戻らない。
側近が震える。
「宰相閣下……
どうすれば……」
グランツは沈黙した。
長い沈黙。
やがて彼は、
疲れ切った目を閉じる。
本当は分かっていた。
もっと早く変えるべきだった。
時代に合わせるべきだった。
だが。
王都は変われなかった。
その結果がこれだ。
窓の外では、
王都が燃えている。
赤い炎。
黒煙。
悲鳴。
かつて世界の中心だった都が、
崩壊していく。
グランツはゆっくり立ち上がる。
そして。
通信室へ向かった。
魔導通信機。
まだ試験段階の高級機器。
接続先は一つ。
ノルディア辺境
。
通信士が震える声を出す。
「……本当に、
送るのですか」
グランツは答える。
「他に、
国家を維持できる人間がいるか?」
誰も返事できない。
通信接続。
魔力光が点灯する。
数秒後。
画面へ、
エレノア・ヴァレンシュタイン
エレノア・ヴァレンシュタイン
の姿が映った。
静かな執務室。
対照的だった。
王都は炎。
辺境は静寂。
グランツは、
初めて深く頭を下げる。
王国最高権力者が。
かつて追放した相手へ。
そして。
絞り出すように言った。
「……助けてください」




