第44話 革命前夜
王都は、
もう限界だった。
ルクスバリア
中央広場。
数万人規模の群衆が埋め尽くしている。
「増税反対!」
「仕事を返せ!」
「貴族政治を終わらせろ!」
怒号。
悲鳴。
投石。
兵士たちが盾を構える。
緊張は極限。
誰か一人が間違えれば、
即座に流血へ変わる。
広場周辺では、
店舗が閉まり始めていた。
商人たちは知っている。
もう安全じゃない。
夜になれば、
別の場所で暴動が起きる。
貴族街では、
屋敷への襲撃を恐れて私兵を増員。
下層区では、
民衆側が武器を集め始める。
街角では、
闇商人が剣を売っていた。
「今なら安いぞ」
笑えない冗談だった。
中央議会も崩壊寸前。
議員同士が怒鳴り合い、
もはや法案審議どころではない。
「軍を投入しろ!」
「馬鹿か!
さらに燃える!」
「改革派を拘束しろ!」
「今さら何を!」
混乱。
混乱。
混乱。
もう誰にも、
全体が見えていない。
そして最悪なのは。
各勢力が、
武装を始めたことだった。
王家派。
保守貴族派。
改革派。
軍強硬派。
地方自治派。
全部が互いを警戒し、
兵を集めている。
空気が完全に戦前だった。
その頃。
ノルディア辺境
領主館。
こちらは異様なほど静かだった。
暖炉の火。
机へ並ぶ報告書。
雪の音。
王都とは別世界。
だが。
空気は重い。
エレノア・ヴァレンシュタイン
エレノア・ヴァレンシュタイン
は、
各地から届いた情報を読んでいた。
王都デモ激化
軍部命令系統混乱
武器流通量増加
地方私兵集結
全部、
危険信号。
レオン・グレイハルト
レオン・グレイハルト
が低く言う。
「……酷ぇな」
エレノアは答えない。
静かに地図を見る。
王都。
地方。
軍配置。
物流。
全部を確認する。
その横顔は、
冷静すぎるほど冷静だった。
だが。
シャルロッテ
シャルロッテ
は気づく。
彼女が今、
最悪の未来を計算していることに。
沈黙の後。
エレノアが口を開いた。
「王都警備兵力では、
鎮圧不能です」
レオンが眉を寄せる。
「軍は?」
「分裂寸前」
即答だった。
部屋の空気が冷える。
エレノアはさらに続ける。
「貴族側は私兵を増強」
「民衆側も武装開始」
「双方、
既に引き返せない段階へ入っています」
誰も喋らない。
聞きたくない結論が、
近づいている。
エレノアは静かに言った。
「内戦になります」
その瞬間。
空気が凍った。
暖炉の火だけが揺れる。
レオンですら、
すぐには言葉が出ない。
内戦。
つまり。
王国そのものが壊れる。
シャルロッテがかすれた声を出す。
「……止められませんか」
エレノアは少しだけ目を伏せる。
「難しいでしょう」
感情ではなく、
現実として答えていた。
もう民衆は限界。
貴族も引けない。
軍も割れ始めている。
そして。
各勢力が、
“相手を敵”として認識し始めた。
そこまで行けば、
流血は止まらない。
窓の外。
雪原を魔導列車が走っていく。
静かな光。
だが。
王都では今、
時代そのものが燃え始めていた。




