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第42話 革命家ではない

最初は、

学生たちだった。


「能力で評価されるべきだ」


「技術こそ未来だ」


「身分だけで国は回らない」


そんな言葉が、

王都学院の廊下で囁かれ始める。


以前なら危険思想。


だが今は違う。


誰も完全には否定できない。


なぜなら。


ノルディア辺境

が、

実際に結果を出しているからだ。


次に広がったのは、

工場地帯。


若い技術者たちが、

酒場で熱く語る。


「辺境では平民でも研究できる」


「成果を出せば評価されるらしいぞ」


「王都の工房なんて、

家柄持ちしか昇進できねぇ」


彼らの目は輝いていた。


それは憧れ。


いや。


希望だった。


さらに地方。


農村部。


重税に苦しむ農民たちまで、

変わり始める。


「何故ノルディアでは飢えない?」


「何故あっちは働けば食える?」


比較が始まった。


人は一度、

“別の可能性”を知ると戻れない。


だから。


各地で新しい言葉が生まれる。


『エレノア思想』


新聞が騒ぎ立てた。


『新時代の統治理論』


『能力主義革命』


『辺境モデル拡大』


王都保守派は激怒。


若者たちは熱狂。


技術者たちは憧れ。


民衆は希望を見る。


そして。


当の本人だけが、

一番困惑していた。


「……何故こうなったんです?」


エレノア・ヴァレンシュタイン

は本気でそう言った。


領主館・執務室。


机には大量の新聞。


『エレノア主義』


『新秩序の象徴』


『革命の旗手』


どれも大袈裟すぎる。


シャルロッテ

シャルロッテ

が苦笑する。


「皆、

希望を見ているのでしょう」


「私は革命家のつもりでは……」


エレノアは眉を寄せる。


本心だった。


彼女は思想家じゃない。


演説家でもない。


やったことは一貫している。


効率化。


改善。


合理化。


必要だから実行した。


それだけ。


だが。


結果として世界が動いてしまった。


そこへ。


扉が開く。


レオン・グレイハルト

レオン・グレイハルト

が入ってくる。


新聞の山を見て、

呆れたように笑った。


「また増えてるな」


「笑い事ではありません」


エレノアは真顔だった。


「思想化されています」


「実際、

変わったからな」


レオンは窓際へ歩く。


外では、

夜の工業区が光っている。


列車が走る。


工場が動く。


市場が生きている。


全部。


彼女が来る前には存在しなかった景色。


レオンは静かに言った。


「お前は世界を変えた」


エレノアが黙る。


その言葉は、

今まで聞いたどんな賞賛より重かった。


レオンは振り返る。


真っ直ぐ彼女を見る。


「なら最後まで責任を取れ」


静寂。


暖炉の火だけが揺れる。


エレノアは、

初めて理解した。


これはもう、

一地方改革ではない。


王国規模ですらない。


農民。


商人。


技術者。


若手貴族。


女性労働者。


世界中の人間が、

彼女の作った“結果”を見て動き始めている。


変化は止まらない。


もう。


誰にも。


エレノアはゆっくり窓の外を見る。


雪原を走る魔導列車。


その光は、

まるで時代そのものみたいだった。


そして彼女は、

小さく息を吐く。


「……責任、ですか」


初めてだった。


彼女が。


“世界規模”で自分を認識したのは。

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