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第41話 改革の痛み

発展は、

光だけを生まない。


影も生む。


ノルディア辺境

中央区。


夜の市場通り。


以前なら、

活気に満ちた笑い声が響いていた。


だが今夜は違う。


怒鳴り声。


悲鳴。


割れるガラス音。


「逃げろ!」


商人が叫ぶ。


数人の男たちが店へ押し入り、

商品を奪っていた。


警備隊が駆け込む。


乱闘。


混乱。


通りの空気が荒れている。


発展しすぎた。


人が集まりすぎた。


金が動きすぎた。


結果。


犯罪も増えた。


数日後。


領主館。


治安報告書が山積みになっている。


窃盗増加

闇商会発生

失業者流入

労働争議

違法融資


数字は悪化していた。


会議室の空気が重い。


役人が疲れた声を出す。


「工場拡大に旧職人がついていけません」


別の官僚。


「馬車輸送業も大量失業しています」


魔導鉄道。


工業化。


効率化。


それは同時に、

“古い仕事”を殺す。


ついていけない人間も出る。


さらに。


急激な人口流入で、

住宅不足まで発生していた。


レオン・グレイハルト

レオン・グレイハルト

が舌打ちする。


「成功しすぎたな……」


誰も否定できない。


辺境は急成長した。


だが。


速度が速すぎる。


社会が追いついていない。


会議室奥。


エレノア・ヴァレンシュタイン

は静かに報告書を読んでいた。


その表情は、

いつもより少し硬い。


やがて。


彼女は小さく呟く。


「……速すぎた」


部屋が静まる。


初めてだった。


彼女が明確に、

自分の判断へ迷いを見せたのは。


今までは、

全部結果を出してきた。


だが今回は違う。


改革が人を救う一方で。


置いていかれる人間もいる。


それが現実だった。


沈黙を破ったのは、

シャルロッテ

シャルロッテ

だった。


「ですが、

止めれば衰退します」


冷静な指摘。


エレノアは目を閉じる。


分かっている。


止まれない。


技術革新は、

一度始まれば止まらない。


問題は。


どう被害を減らすか。


エレノアは顔を上げた。


その目は、

もう迷っていない。


「治安対策会議を始めます」


空気が変わる。


ここからが、

彼女の本領だった。


黒板へ次々と対策を書き出す。


失業者再教育

夜間警備増員

公共住宅建設

労働紹介制度

犯罪組織摘発

孤児保護施設拡張


役人たちが息を呑む。


速い。


もう次の手を考えている。


エレノアは淡々と続ける。


「工業化で消える職業は出ます」


「ですが、

新産業も生まれる」


彼女は地図を指した。


「移行期間を支える」


それが重要だった。


切り捨てではない。


適応支援。


レオンが腕を組む。


「簡単に言うなよ」


「数万人規模だぞ」


エレノアは静かに返した。


「だから今やります」


「崩壊してからでは遅い」


会議室が静まり返る。


誰も反論できない。


彼女は、

痛みから逃げない。


そこが他の支配者と違った。


夜。


会議終了後。


窓の外では、

工場の灯りが揺れていた。


街はまだ成長している。


止まらない。


だがその下で、

苦しんでいる人間もいる。


エレノアは静かに街を見下ろした。


改革は万能じゃない。


世界を変えるということは。


誰かの人生を、

壊してしまうことでもある。

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