第26話 新しい時代
変化は、
一瞬だった。
ノルディア辺境
魔導鉄道開通から一ヶ月。
たったそれだけで、
国家の物流地図は塗り替わっていた。
駅は止まらない。
朝から晩まで、
列車が走る。
鉱石。
保存食。
木材。
薬草。
加工品。
今まで荷馬車で数週間かかっていた輸送が、
数日で終わる。
しかも。
安い。
速い。
止まらない。
商人たちは即座に理解した。
「これ、
勝負にならねぇ」
王都南部商会。
倉庫責任者が頭を抱えていた。
「辺境鉄道のせいで、
旧街道物流が死んでます!」
別の商人も青ざめる。
「運送料、
比較にならん!」
「冬でも止まらないとか反則だろ!」
悲鳴みたいな声が飛び交う。
だが。
同時に。
誰も利用をやめられなかった。
利益が出すぎる。
王都商人たちは、
もはや辺境鉄道を使わない方が損だった。
結果。
商流が変わる。
金の流れが変わる。
国家経済そのものが変わり始める。
辺境駅では、
毎日のように商人が押し寄せていた。
「追加便出せ!」
「港湾直通契約したい!」
「倉庫もっと借りるぞ!」
以前まで、
誰も見向きもしなかった雪国。
今では、
国内最大級の物流拠点になりつつある。
その中心。
駅上階の執務室では、
エレノア・ヴァレンシュタイン
が静かに報告書を読んでいた。
「輸送量、
想定値を上回っています」
秘書官
シャルロッテ
が驚いた顔で言う。
「商会側が列車便を奪い合っています」
「追加路線を検討しましょう」
即答。
エレノアはもう次を見ていた。
レオン・グレイハルト
レオン・グレイハルト
が呆れ半分で笑う。
「お前、
本当に止まらねぇな」
「止まる理由がありません」
淡々としている。
だが。
辺境の人々はもう理解していた。
この女は、
本当に時代を変える。
その頃。
ルクスバリア
王都。
財務院。
そこでは、
異様な静けさが広がっていた。
大量の報告書。
物流統計。
税収推移。
輸送依存率。
机を囲む官僚たちの顔色は、
皆真っ青だった。
「……嘘だろ」
誰かが掠れた声を出す。
若い財務官僚が震える手で資料をめくる。
「王都流通量の四割が、
既に辺境鉄道経由です……」
沈黙。
別の官僚が顔を引きつらせた。
「増加速度が異常だ……」
「このままだと物流主導権を失う……!」
だが。
もっと致命的な数字があった。
老官僚が、
ゆっくり口を開く。
「王都食糧市場……」
全員が振り向く。
彼は青ざめた顔で続けた。
「辺境物流なしでは、
供給維持できません……」
空気が凍る。
理解してしまった。
もう遅い。
半年前。
王都は、
一人の令嬢を切り捨てた。
その結果。
今度は国家そのものが、
彼女へ依存し始めている。




