第27話 王都の危機感
重苦しい沈黙だった。
ルクスバリア
王城・中央会議室。
豪奢な円卓には、
王国中枢の人間たちが集まっている。
財務院。
軍部。
貴族院。
大商会代表。
だが。
そこに流れている空気は、
威厳ではなかった。
焦燥。
机の上には、
大量の報告書が積まれている。
『辺境物流依存率増加』
『王都市場価格変動』
『商会移転状況』
どれも最悪だった。
若い官僚が青ざめた顔で言う。
「……王都食糧供給の四割が、
既に辺境経由です」
別の役人も続ける。
「軍部補給も鉄道依存が進行しています」
「港湾物流も辺境側優勢です」
報告が進むたび、
貴族たちの顔色が悪くなる。
「何故こうなった!?」
老貴族が机を叩く。
「たかが辺境だぞ!」
だが誰も答えられない。
現実だからだ。
半年。
たった半年で。
ノルディア辺境
は、
国家経済の中心へ食い込み始めている。
そして。
その中心には一人の女がいた。
エレノア・ヴァレンシュタイン
。
かつて王都が切り捨てた令嬢。
今や、
王都側が彼女なしでは回らなくなっている。
軍部代表が苦々しく吐き捨てた。
「鉄道を止められれば……」
「止めた瞬間、
軍糧も止まります」
財務官僚が即座に返す。
「市場も崩壊します」
完全に詰んでいた。
辺境経済は、
既に国家機能へ組み込まれている。
切り離せない。
その時だった。
「静かに」
低い声。
一瞬で、
会議室が静まり返る。
円卓奥。
一人の男が座っていた。
銀混じりの黒髪。
鋭い眼光。
無駄のない軍服風正装。
王国宰相。
グランツ宰相
。
今まで沈黙していた男が、
ゆっくり口を開く。
「諸君らは勘違いしている」
誰も逆らわない。
この男だけは別格だった。
感情で動かない。
だからこそ恐れられている。
グランツは資料へ視線を落とす。
「エレノア個人が危険なのではない」
静かな声。
だが重い。
「“新しい秩序”が危険なのだ」
空気が張り詰める。
誰も言葉を挟めない。
グランツは続ける。
「実力主義」
「自由商業」
「技術投資」
「物流支配」
一つずつ並べる。
「彼女は、
既存の貴族秩序を壊している」
それが本質だった。
他の貴族は、
ただエレノアを嫌っている。
感情論だ。
だがグランツだけは違う。
彼は理解していた。
これは個人の問題ではない。
“時代”の問題だ。
今までの王国は、
血統と利権で支配されていた。
しかしエレノアは違う。
利益。
効率。
結果。
それだけで人を動かしている。
だから強い。
だから止まらない。
若い貴族が震える声で言う。
「で、ではどうすれば……」
グランツは沈黙した。
しばらく窓の外を見る。
王都の街並み。
だがその裏側では、
既に金も物流も辺境へ流れ始めている。
このままなら。
王国は変わる。
いや。
王都が不要になる。
それだけは絶対に許されない。
やがて。
グランツは静かに呟いた。
「……潰しますか」
その瞬間。
会議室の温度が、
一気に下がった。




