第25話 鉄道開通式
吹雪だった。
空は白く濁り、
視界すら悪い。
普通なら、
誰も外へ出たがらない天候。
だが今日だけは違った。
ノルディア辺境
中央鉄道駅予定地。
そこには、
信じられないほどの人が集まっていた。
領民。
商人。
労働者。
技術者。
子供までいる。
皆、
雪を被りながら、
同じ方向を見ていた。
線路。
白銀の大地を貫く、
巨大な鉄の道。
半年前まで、
誰も存在すら信じていなかったもの。
その先から。
低い振動音が響き始める。
ゴォン――
空気が震えた。
ざわめきが広がる。
「来るぞ……!」
蒸気が吹き上がる。
白い煙。
そして。
暗い吹雪の中で、
青白い魔力光が灯った。
巨大な魔導機関車。
重厚な黒鉄の車体。
側面に刻まれた紋章。
魔力炉の光が雪を照らす。
次の瞬間。
轟音。
魔導列車が、
吹雪を裂いて走り出した。
「おおおおおお!!」
歓声が爆発した。
誰かが帽子を投げる。
子供たちが叫ぶ。
老人が泣いていた。
雪原を走る列車。
蒸気。
魔力光。
鉄の振動。
それは、
辺境の人々にとって。
“未来”そのものだった。
「本当に走った……」
若い作業員が呆然と呟く。
「あの吹雪の中で……」
別の男は笑いながら涙を拭った。
「俺、
工事してたんだぜ……これ」
誇らしそうだった。
彼らは知っている。
この鉄道が、
どれだけ無茶だったか。
何度も事故が起きた。
吹雪で工期は止まった。
資材は足りなかった。
それでも。
諦めなかった。
その結果が、
今ここを走っている。
少し離れた高台。
レオン・グレイハルト
は腕を組みながら、
列車を見ていた。
しばらく無言。
やがて。
深く息を吐く。
「……本当にやりやがった」
呆れたような声だった。
だがその目は、
完全に笑っている。
隣には、
黒いコート姿。
エレノア・ヴァレンシュタイン
が立っていた。
彼女は静かに列車を見つめている。
歓声の中心にいるのに、
相変わらず表情は薄い。
レオンが横目で聞く。
「嬉しくないのか?」
少しだけ沈黙。
吹雪が二人の間を通り過ぎる。
やがてエレノアは答えた。
「予定通りですので」
レオンは吹き出した。
「お前さぁ……」
普通、
もっと感動するだろ。
そう言いたかった。
だが。
彼女の視線は、
列車ではなく、
その先を見ていた。
物流。
産業。
人流。
国家経済。
この鉄道が生み出す未来を、
既に計算している。
だからこそ。
ここまで来られた。
その時。
下から子供たちの声が聞こえた。
「すげぇぇぇ!!」
「速ぇ!!」
「光ってる!!」
無邪気な歓声。
エレノアはほんの少しだけ、
そちらを見る。
吹雪の中。
列車の光に照らされながら、
辺境の人々が笑っていた。
半年前。
この土地は終わっていた。
飢餓。
失業。
絶望。
だが今は違う。
人が前を向いている。
未来を見ている。
それを見ながら、
エレノアは静かに目を閉じた。
そして再び、
ゆっくり列車へ視線を向ける。
雪原を駆け抜ける魔導列車は、
まるで。
止まっていた時代そのものを、
前へ引っ張っていくみたいだった。




