第24話 結果で黙らせる
半年後。
雪解けが始まっていた。
長い冬を越えた
ノルディア辺境
は、
以前とは別の土地になっている。
朝の市場。
人の声が響く。
荷馬車が行き交う。
煙突から白煙が立ち上る。
以前の辺境にはなかった光景だった。
「南通りの倉庫もう満杯だぞ!」
「新しい商会、また来たらしい!」
活気がある。
それだけで、
昔を知る者たちは信じられなかった。
役所前の掲示板には、
新しい求人が並ぶ。
鉱山採掘補助
魔導整備員
鉄道建設員
商会事務員
仕事が増えている。
つまり、
金が回っている。
酒場では男たちが笑っていた。
「今年は飯が食える」
「冬越せるどころか貯金できたぞ」
誰かが呟く。
「半年前まで終わってたのにな」
皆、
理解していた。
この変化は偶然じゃない。
一人の女が全部変えた。
領主館。
会議室では役人たちが興奮気味に報告している。
「失業率、
過去最低を更新!」
「税収前年比二百七十%増!」
「南部から人口流入も確認!」
数字が異常だった。
普通、
辺境改革は数年単位。
だがエレノアは、
半年で経済構造そのものを変え始めている。
レオン・グレイハルト
レオン・グレイハルト
が苦笑する。
「笑えてくるな」
机へ積まれた資料を見る。
「人口増える辺境とか聞いたことねぇぞ」
エレノア・ヴァレンシュタイン
は書類を確認しながら答えた。
「雇用があれば人は集まります」
簡単そうに言う。
だが。
その“当たり前”を実現できる人間が、
この国にはほとんどいない。
さらに報告が続く。
「王都商会、
追加投資希望多数」
「技術学校卒業者の就職率ほぼ百%」
役人たちの顔には、
もはや恐怖すら混じっていた。
成長速度が異常すぎる。
エレノアは淡々とページをめくる。
「次は港湾拡張ですね」
もう次を見ていた。
その頃。
ルクスバリア
王都では、
別の意味で騒ぎになっていた。
貴族院。
机へ叩きつけられる報告書。
「辺境税収増加」
「物流黒字化」
「人口増加傾向」
沈黙。
やがて誰かが吐き捨てた。
「……あり得ん」
焦りが広がる。
止まると思っていた。
失敗すると思っていた。
なのに現実は逆。
辺境が、
王都以上に成長し始めている。
さらに最悪なのは。
商会がそちらへ流れていることだった。
王都貴族が利権争いしている間に、
金が辺境へ移動している。
その事実が、
彼らを苛立たせていた。
一方。
王宮の一室では、
ミリア
が一人、
報告書を読んでいた。
静かな部屋。
窓の外には王都の景色。
だが彼女の意識は、
紙の上へ向いている。
『飢餓率低下』
『雇用改善』
『鉄道建設進行』
ページをめくるたび、
彼女の表情が変わっていく。
「……凄い」
思わず漏れた声。
そこには、
誇張も虚飾もなかった。
ただ事実だけが並んでいる。
そしてその事実が、
どれほど異常かも分かってしまった。
ミリアは静かに窓の外を見る。
思い出す。
舞踏会の夜。
静かに去っていった、
あの銀髪の令嬢を。
王都は彼女を追い出した。
だが。
本当に失ったのは、
誰だったのだろう。




