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ジュピタル王国英雄奇譚  作者: ヤー子
最終章 ウラヌスタリア救国編

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聖獣の会議


赤いバリケード内に本陣を移す。当面の攻撃は目玉の駆逐をオニキスとジャスパー、そして魔法騎士団が請け負い、こちらからのシールドも効いているようだ。魔獣がうじゃうじゃと湧いて襲い掛かってくるのを、フェニックスの騎士団が対応した。

「さて、ジェイド。王座の間に兄がいると思うのだ」

エルドラドが切り出す。

「・・・ああ、これでフェイトの兄貴を討たなきゃならないんだよな。」

ウラヌスの剣を掲げる。しかも加護を集めたものが、である。エルドラドの言わんとしていることは分かっている。

「悪魔の討伐だけなら、それでいい。問題はメリッサだ。この城のどこに潜んでいるか、退路は絶ったから、どこにも行けないはずだ。私は、あの女を見つける。ジェイド・・・兄のことは任せるぞ。ユズ、ジェイドについてやっていてほしい。私の兄は・・・少しだけ強いんだ、ジェイドに倒せるとは思えない」

「ちょっと、待ってくれないか!兄貴の中身は悪魔なんだろ!本来の兄貴じゃないなら勝ち目はあるわ!」

ジェイドはエルドラドに食って掛かる。エルドラドは柔和に笑って、ジェイドの頭を撫でた。エルドラドはオニキスと共に行くのだという。

「お前が動くのかよ、大丈夫か」

オニキスは心配そうにエルドラドを見る。

「ジュリアナがいないなら私が行くしかない。相手は発明の魔女、大魔法使いだ。それに城の内部を知ってる人間がいたほうがいいだろ。」

「自棄になってねえか、ジュリアナが・・・」

それは、少しだけあるかもしれない。オニキスのような武人はそういう場合も想定済みで訓練はされているだろうが、エルドラドはもう感情の面ではぐちゃぐちゃだ。だから理性を保って今は話している。

「過ぎたことだ。リンファもついて来てくれ。オニキスが怪我したら困る」

「しねえわ」

「・・・しないって言ってますー」

リンファは聖魔法を使えるので、強制連行らしい。


ジェイドは気を取り直して、兄たちについて行く。王城に入るまでは一緒に行こう、と銀色のマントをはためかせているエルドラドの後ろ姿を見た。

城の内部は、荒れ果てていて、ともすると幽霊か何か出てきそうなくらい陰鬱としている。太陽光があの赤いシールドのせいで入ってきていないらしい。薄暗い城内を照らすようにウラヌスの剣とエルドラドの杖が光った。

「おや、こんなところまでようこそ、オニキス」

「・・・三つ目。やっぱり不死身は伊達じゃねえな。」

「シヴァルーナです。」

シヴァルーナは今日はとてもきれいな女性に扮している。豊満な肉体、白い肌。匂い立つような妖艶さだ。

「今日は色仕掛けなんてどうですか?」

「・・・オニキス、誘惑されてるわよ」

無反応なオニキスに変わって、リンファが通訳してやる。

「悪魔とエッチしたらどうなるの?」

ユズは純粋に疑問に思った。

「さあ・・・インキュバスとかサキュバスが有名になるくらいだから、一定数そういう悪魔はいるんだろうな。」

ジェイドはさらっと流した。無駄にある知識はここでユズに披露するのは憚られた。

「インキュバスとするのってすっごく気持ちいいらしいわよ、廃人になるって」

リンファはジェイドの気も知らないで解説する。

「セックス廃人か・・・やだな」

「リンファ、ユズにそういうこと教えないでもらっていいか。ウラヌスタリアの気品が損なわれる」

ジェイドは顔をきりっとさせて講義した。

「・・・いまさらウラヌスタリアに気品なんてないわ。」

リンファはにこっと笑って断言した。エルドラドはため息を吐いた。オニキスはすんとしてシヴァルーナを見て、無言で斬りかかる。

「どわ!あなた本当に見境ないんですか!今の私は美女!」

「悪魔に欲情はしねえわ」

「わー、兄上かっこいー」

ユズは棒読みだった。さくっとシヴァルーナの周りの魔獣たちのせん滅に取り掛かる。オニキスはあっというまにシヴァルーナの首を胴体から切り離した。

「ジェイド、こいつのでこの目をその剣で突き刺してくれ」

「ぎゃああああお兄さん、ラグビーのごとくスクリューパスやめてぇええ」

きっとオニキスは、ジェイドが嫌いなのだ。ユズは首だけなのに、女がジェイドに向かっていくのを阻止したくて、宙に舞う長い髪をむんずとつかむ。悪魔の首はジェイドにぶつかる寸前で止まる。

「イタタタタタ、あら、あなたちょっとオニキスに」

ユズはジェイドからウラヌスの剣を奪って、額の目に剣を突き刺した。

「似てる・・・ぎゃああああああ!」

断末魔のような雄たけびが美女から上がって、黒く光を放つ玉のようなものがそこから飛び出てくる。剣からラルフが出てきて、それを手に取った。

「俺にくれるか」

ラルフが手に取ったそれは悪魔の核と呼ばれるものらしい。これが聖獣の大好物なのだという。聖なる力の源となり、癖になるくらい甘美な気持ちにさせてくれる。猫に木天蓼ではないが、モルヒネのような麻薬要素があるのかもしれない。恍惚とした表情でそれを眺めている。

「食わないのなら、妾にくれ」

「女狐は俺に話しかけるな」

玉藻の前も現れ、ユズに久しぶりじゃのと笑いかけてくれる。

「これが好きなの?これって何?」

ユズは話しかけるなと言われてもラルフに話しかけるが、答えてくれたのはタマモだった。

「これが悪魔そのもの、というのかの。これを食えば妾たちは千人力じゃ。ただ、悪魔のレベルによって大きさは違っての。これは十日分腹が膨れるくらいかの。」

なぜかそれを食べたがるのはラルフかタマモぐらいで、他の聖獣はあんまり乗り気じゃないのは不思議だ。

『うーん食べたらやみつきって聞くからね。私はあまり年も取ってないから食べなくても元気だわ』

ノルンは確かに生まれたてほやほやだった。

『我は自分で倒した悪魔のそれにしか興味がない。』

グリフォンはそうらしい。

『ちなみにフェニックスは自称神だからそんなものは食べないと見栄を張っている。』

グリフォンが暴露すると、剣の赤い宝石が燃えるように光って怒っているようだった。聖獣同士仲が良いというわけでもないので、この召喚はなかなか大変だ。たぶんセレスは物理で黙らせていた、聖獣までも。

「しかし、こう勢ぞろいするのは創世記以来じゃの。初めましてのメンツが二体。妾が妖狐。この中では一番年寄りになる。」

タマモはにこにこと嬉しそうだ。

「性悪年増女狐・・・」

ラルフはなぜかユズに隠れた。セレスと一発殴るとか約束していたが、やはり無理らしい。

「ときにラルフ、二千年は引きこもりおって、」

「俺は若干1000年だ、セレスのせいで巻き戻ったから、お前の知っているラルフではない。よって引きこもりに拍車がかかった。俺に近寄るな、年寄り女狐、殺すぞ」

ラルフはタマモに話しかけられて牙をむく。そしてけなされたタマモも尻尾が九本出て威嚇しあっている。

「やめ!やめろ!喧嘩するなら戻れっ!?」

ジェイドが言う。

「それの所有権を話し合ってから。」

「主にお前とラルフの戦いじゃねえかよ。じゃあ今回はラルフだ。次の悪魔はタマモかグリフォンにやる、な?ノルンとフェニックスは無理して食うことはない。」

ラルフは勝ち誇ったようにタマモを見て、ユズに自分のものになった悪魔を見せてくれた。

「食べるとどんな感じ?」

「どんな快感にもまさる高揚感が得られるぞ。悪魔は久しぶりだ。この国は悪魔の宝庫か、あと百体ほどいるし、とくに強いのが二体いるな。」

ラルフがいつになくキラキラと嬉しそうだ。結構子供っぽいところもあるのだな、と新たな一面を見た気分だ。

『ベリアルは我がやる』

グリフォンが言う。

「それなら、リリスは妾にくれ」

タマモはそれが食えるなら、そんな些末な悪魔はいらない、とシヴァルーナは一蹴された。

ラルフはそれを化身に与えて、飲み込ませる。バジリスクの宝石が一層輝きを増し、ラルフ自体も神々しく光った。

「どれも俺が取り込む。リスクーザ繁栄の源だ」

ラルフは悪魔の種類にこだわりはないらしく、質より量でも構わないようだ。

『リリスとベリアルならば、俺がもらっても構わないあの大悪魔は神である俺が倒すべきだ』

フェニックスが参戦した。タマモやグリフォンやフェニックスは量より質を重視するようだ。聖獣にも個性というか、好みというものはあるらしい。


これは、悪魔討伐と銘打った聖獣たちの戦いになるのか・・・ジェイドは察した。ノルンだけが、ジェイドと一緒にその様子を見守っている。


「なあノルン、千年前リリスはジュピタルに現れたんだろ。そのときは誰が悪魔の核を食ったんだ?」

『そのときは封印したのよ、今みたいに喧嘩になったのをセレスティン・グリフォンが全員殴って正座させて、おとなしくみんな従ったって話だわ。ラルフはそもそもそのときは名乗り出もしないで引きこもってたんだって。きっとセレスがリスクーザから出て行ったのがショックだったのね』

「セレスはすげえな」

『ジェイドにはジェイドのすごさはあると思うけど。』

ノルンは意味深に言う。

「というかなんでリリスはジュピタルに手を出そうと思ったんだ?聖獣の国、っていうのは知ってるんだろ。」

『聖獣を倒してしまえば、悪魔は好き放題できるって浅はかに考えたのよ。タマモの領土とユーピテルは結構な損害が出たけど・・・でも不思議よね、セレスはどうしてタイミングよく加護を集めてたのかしら。』

「踊らされてたんだ、あの女狐に。」

近くにラルフがいて、刺し殺しそうな勢いでタマモを見ていたが、やはり怖いらしく、話しかけようとはしない。ラルフは内心セドリックやナターシャも怖いのだろう。蛇は元来臆病な動物だ。自分の領土でだけは威張れるのだが、初めての外に、戦々恐々としているのが現実である。

「というと?」

「当時、グリフォンに招集がかかっていた。だけどセレスは行かなかったのだ。しかし後日、お前の持っている妖狐の本の簡略版、のようなものが送られてきた。加護を集めると何ができるのかを仄めかすものだ。セレスは魔の森の呪いを解けるのでは、と加護集めに向かった。悪魔退治ありきではなかったのだ。しかしあの招集がかかっていた時点でグリフォンの戦士を集めていることは明白だ。セレスの親が行って、セレスの存在が明らかになったら、あいつに白羽の矢が立つことは自明の理だろう。当時、いや歴史上であれほど武力に長けた男はいなかったと思うぞ。」

『我の先代がセレスには会ったと聞いているが、聖獣本体でさえ手が出なかったと。』

「それはもはや人間なのか」

グリフォンが話に加わり、ジェイドは恐ろし気に呟いた。

「セレスはだけどこの小娘のように単純で愚かだったのだ。グリフォンにはそういうのが多いのだが、幼いころからリスクーザでぬくぬく暮らしていたため、それが顕著でな!妖狐の本に惑わされ、そして妖狐にも謀られたのだ!」

ユズは突然ラルフに持ってこられて、けなされた。ユズだけでなくグリフォン全体が貶されたが、グリフォンもユズもぽかんとしている。ジェイドはそれが不憫でラルフからユズを引き離してやる。

「せめて純粋で無垢っていってあげてくれ」

「そういう輩は総じて賢者の皮を被った狡猾な輩に利用される。」

「グリフォンの次は妾の悪口かの」

「性悪女狐め、セレスを誑かした大罪を償ってもらうときが今だ。」

「引きこもり蛇の分際で生意気な。あの男をつなぎとめる魅力がそちになかったということであろ?」

タマモが美しい顔でにっこり笑うと怖気がする。

「さすが嫉妬の化身、千年も前のことをねちねちと、ユズ、あまり蛇とは仲良くしないのよ。グリフォンは妾に懐いておるからの。」

『ユズ、タマモに誑かされないためには適度に傾倒しているふりは処世術の一環としてグリフォンに代々伝わっていることなのだ。』

なるほど、心の底では従っていないのだろうな、とユズはグリフォンとタマモを交互に見つめた。

『グリフォンはラルフの言う通り、純粋で無垢な聖獣だから、私たちが制御してあげないととんでもない方向に行くのよ。だから中央に置いているの。』

ノルンが優しく教えてくれた。前にタマモが教えてくれた理由もそんな理由だったような気がする。グリフォンは要注意な聖獣であることには違いない。

『ほおっておくとあちこちで戦争を起こす。俺とは相いれないので、関り合いたくない。』

フェニックスはユズ本人には特別な感情はあるのだが、グリフォンとは根本的に思想が合わないようだった。平和の象徴と武の象徴は確かに相いれない。

だんだん聖獣同士の関係図が読み取れてきた。ラルフとフェニックスは基本的に孤立。ラルフは引きこもり。フェニックスはとくにグリフォンとは合わずに今世では人嫌いである。タマモとグリフォンは利害関係で吊るんでいる。タマモがグリフォンを利用しているが、その代わり知恵の恩恵を授かる、というようなところだろう。ドラゴンは我関せずのようで、見守り調整といった役回りのようだ。

「・・・仲良くはしなくていいから、それぞれ悪魔をなんとかしてほしい。ラルフは質にこだわらないなら、下級・中級のやつらを頼むよ」

「ああ、分かった。任せておけ。全部集めたらベリアルもリリスも凌駕するくらいの量だしな」

ラルフは塵積って山となる型のようだ。意外に細かいことも臆せずやってくれるのだろう。たぶん案外グリフォンとの相性がいいのだと思う。だからセレスともなんだかんだ二十年一緒にいれたのだ。

「オニキス、お前の剣に俺の加護をやればそれも聖剣として使えるぞ、もっと早く気づけばよかった。ユズ、お前の剣の新しい剣にも加護をやろう。それには他の聖獣からも貰えばよい。さすれば悪魔を切り放題だな。」

オニキスの持っている剣はセレスが千年前にラルフ以外からは加護を集めていたので、ラルフが加護を与えれば、悪魔に通用する剣になる。ユズの剣にはグリフォンの加護はあるようだ。他の聖獣の加護を与えればかなり強度もあがるし、悪魔を倒すのにふさわしいものになるだろう。そうだね、とノルンが同意した。

「ユズやオニキスはもともとグリフォンの加護付きだから、他の聖獣からの加護を身体に取り込めないのが難点よの。」

『ユズ、俺の飾り羽はそういう点では加護の塊なのだよ。水につけておくと傷を癒す薬ができる。』

「へー」

ユズはあまり深く考えずにそれぞれ聖獣から加護をもらった。白い剣は若干神々しく光っているように見える。

「流すなユズ、飾り羽を水につけておけ!」

ジェイドが水筒を出して、その中にフェニックスの飾り羽を突っ込んだ。そういうことってあの時教えておいてもらえます!?とジェイドがフェニックスに詰め寄ったが、お前はしかし喧嘩腰だったし・・・とバツが悪そうにフェニックスはユズの方に飛んできた。彼はなかなか繊細なようだ。ジェイドに残酷な聖獣と言われたことを気にしているらしい。

「タマモ、ユズやオニキス殿は加護持ちだから身体になんちゃらって、俺は剣だけじゃなく身体にも複数もらえてるってことか?」

「おぬしの魂はグリフォン以外はもらえておるぞ。それこそ一つの魂につき一つずつね。」

「・・・旅の途中、何度かアレクに殺されそうになったけど、死ななくて良かったんだな。」

「ジェイド、だからおぬしはグリフォンのものに殺されれば魂の救済がおそらく可能だと思うの。この実例は妾も初になるなら、断言はできないけど、そこはこのようにあまり仲良くはない我らが総意でおぬしを天へ還したいと思っている。」

「あ、ありがとうございますね」

「なら」

黙って話を聞いていたオニキスは口を開いた。聖獣は基本、加護を与えたものと会話をするようだ。タマモあたりの化け狐となれば、そういうところも凌駕しているようだが。

「ユズじゃなく俺がそいつの最期を引き受けても良いわけだな。」

「理屈的には・・・ユズには酷なことだものね」

「え、無理。兄上と言えどジェイドは渡さない。」

ユズは背にジェイドを庇ってオニキスを睨みつける。ジェイド云々を差し置いて、そのときはユズをどうにかしなければ難しいのかもしれない。

タマモはだいぶ今回のことを調べていてくれているらしく、そこは有難いことだ。

「ベリアルはウラヌスの剣で倒すのがいいでしょう。母体がウラヌスタリアの国王なら所縁のあるもので屠ってやったほうが、彼も報われるはず。」

ジェイドはエルドラドと目線があった。エルドラドは頷く。

「わかった。兄貴はメリッサをオニキス殿と一緒に探してくれ。ついでにたぶんラルフがついていけばいいと思うんだ。」

「そうだな、メリッサが悪魔を生成しているなら、ラボごと破壊するのが良いだろうし。」

「俺をついででつけるんじゃない。俺は一人で行く。」

『俺も一人で行きたい。つくならユズに。』

聖獣は基本勝手である。きっとセレスなら殴っていた。ジェイドにそんな芸当は出来ないのだが、ラルフはお前がもう一度リスクーザに来ると言えば、ついて行ってやらないこともないと言う。

「言うだけでいいなら言えるけど。」

ジェイドは訝し気にラルフを見る。彼も彼でジェイドの事情は知っているはずである。

「もう一度来れば俺と結婚するか?」

「しねえわ」

ラルフはリスクーザに二度来た人間と結婚するとずっと昔から決めていたらしいのだ。だからあんなにジェイドに親切だったし、リスクーザに引き止めたがっていたようだ。

「ジェイド、聖獣に娶られればその呪いもどうにかなるかもしれんぞ?」

「俺が娶られる前提で話すんじゃない。好みはセレスなんだろ、全然、似ても似つかない、オニキス殿は?」

「オニキスは容姿が一緒でも、性格が違うし、あいつは一度もリスクーザに来たことはないだろ。」

ラルフの中ではオニキスとセレスティンは別物のようだ。

「オニキスよりはユズが好きだぞ。」

『それは我も同感だ』

グリフォンが同意する。「殴るぞ」オニキスはグリフォンには横暴だった。そういうところが嫌われるのだ、とユズとリンファは思った。

「小娘よりはお前が好きだ」

ラルフはキラキラとジェイドに言う。

「ラルフさん、今は告白しないで、変な目で見られるから」

ジェイドはさらりと告白を躱す。


そうと決まれば行くぞ、とオニキスはリンファと魔法騎士団を率いていく。ラルフはそれについて行った。オニキスが切った悪魔を全部集めればいいのだ。自分も狩り放題なんてすばらしいところだ、と嬉々としてついて行っていた。

「ジェイド・・・兄を頼んだぞ」

エルドラドはギュッとジェイドを抱擁する。

「任せてくれ。ベリアルから必ず国王を取り戻す。」

「どうか、無事で。」

当たり前の挨拶だ、だけどそれ以上の意味もきっと込められているような気がするけど、それ以上は考えてはいけない。愛してるもさようならも、どの言葉もきっとふさわしくない。

「ああ、兄貴もな。」

ジェイドは強く頷き、エルドラドの背を見送った。



「ジェイド、妖狐の里からはセドが来ているじゃろ。」

「あー・・・今は、出てこないですけど、お世話になってます。」

セドリックは自分のことをほとんど話さないからジェイドは事情は分からなかったが、その点はタマモは知っているようだった。

「リリスに執着しておるようだから、その点でもリリスは妾が屠りたい。」

「なら、それは頼みます。」

タマモは美姫の容姿から狐耳と尻尾を生やしたワイルドな姿に変わった。千年ぶりにあれを食えるのかと思えば彼女も相当やる気が出るようだ。

「じゃあ、ベリアルを食うのがグリフォンとフェニックスが一騎打ちになったぞ。」

ジェイドはどんどんさばいていく。それが彼の役割のようなのだ。

『ユズがグリフォンなのだから、ここは我が』

『ユズには俺も加護を与えておるし、彼女はグリフォンよりはフェニックス寄りの考え方だと思う。お前は表でアレクシスにでもついていろ』

『アレクのところには妖精王がいるだろ、絶対やだ』 

「なら、漁夫の利的にここはノルンの初めての獲物ってことでも俺は構わないし、喧嘩するくらいならやっぱり封印が一番いいのかな。」

ぐぬぬぬぬとグリフォンとフェニックスは睨み合っていたが、グリフォンがフェニックス領の戦を平定することを取り付けてフェニックスが今回は降りることになった。

『ジェイドはジェイドでこういうところができる男よね』

ノルンは褒めて、ユズはそうだね、と頷いた。それぞれの聖獣と忌憚なく話せるというのは結構な才能だと思う。物理で黙らせているだけのセレスとは違う。

フェニックスはそれなら外へ様子見に行くと羽ばたいていた。彼は攻撃要因よりもその治癒の力が求められることがあるから負傷者が多いところへ行くのは道理だ。


タマモは剣の中に戻り、退治はセドリックに一任すると言っている。自分たちはリリスとベリアルを同時で相手にしなければならないのだろうか。リリスを妖狐の霊力をまとったセドリックの力だけで倒せるなら良いが、ユズの剣やジェイドの剣が必要になるのなら、自分たちも分かれなければいけないのかもしれない。

「ユズ、リリスを退治してくれ」

「・・・ジェイドはその・・・お兄さんなんでしょ。」

「そうだ。俺がやらなければならない。」

その覚悟だけはもうずっと前からジェイドは出来ている。それこそ悪魔になった兄と交渉したときから。

「王の間へ行こう。」

一階、大広間を抜けて階段を上がり、二階の正面の部屋が王の間である。謁見の時に王座が鎮座し、そこに国王が座っているのだ。

歩を進める途中、空気は澄んでいて、物音ひとつしない。コツコツと自分たちの足音だけが響いている。魔獣一匹も出ない。幻術の類なのか、大広間は色づいて、人々が宮廷音楽のダンスに興じ、賑わいは最盛期のウラヌスタリア城の中だった。上質なメイド、侍従がそろい、国民が足繫く出入りしてお祝いを述べている。これは、兄の戴冠式の再現か・・・ジェイドは冷静に状況を把握した。王座には若き頃の兄と、若干五歳の自分がいる。

「・・・あれってジェイドの小さいころ?」

「お前にも見えるのか・・・どういう術なんだ。」

精神魔法はユズには効かないはずなのだ。

「おそらくはおぬしの兄の記憶じゃな。あの悪魔レベルならユズにも幻術はかけられる。」

剣の中からタマモが話した。

「やっほユズちゃん。提案があるの聞いてくれる?」

ナターシャが現れるのはいつもいきなりだ。ユズはだけど何かおかしく感じて、剣を彼女に向ける。それが正解だったようで、ものすごい勢いでナターシャが爆風で吹き飛ばされた。目の前にセドリックがいた。

「ナターシャがやられた。あれは偽物だ」

「・・・え」

王座の幻術が消える。そこに立っていたのは、あのマシロという女の姿をした悪魔リリスで、足元には、美しい吸血鬼が、どこを見ているでもない目を虚ろに開き、心臓をヒールの付いた足で突き刺されて死んでいた。


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