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ジュピタル王国英雄奇譚  作者: ヤー子
最終章 ウラヌスタリア救国編

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出陣


アレクシスの通信が思ったより長かったのか、ジェイドは椅子に腰かけて、剣を抱いてスピスピと眠っていた。寝台がせっかくあるのに、とユズはアルベルトと顔を見合わせる。アルベルトは魔法でジェイドを寝台に移してくれた。ユズはその横に椅子を持ってくる。

「良く寝てるな」

「可愛い。アルも寝て。私が見張りをしてあげる。」

「俺の妖精たちもいるからさ、ユズも楽にな。」

ユズはジェイドの寝顔を見れば幸せな気持ちになれた。なるべく一緒に・・・アルベルトの言った言葉の意味は重い。息をしていて、朝になれば目が覚める、そんな普通のことが今は普通じゃない。戦に出れば誰しもがきっとそういう覚悟をもって来ているはずなのに、ふとしたことで怖くなるのだ。アレクシスも言っていたとおり、守るべきものがいれば、臆病になるのだろう。だけど守るべきものがいるからこそ強くなれることもまた事実だとユズは思うのだ。


「ユズ」

小声で呼ばれて、うとうとしていたユズはすぐに覚醒した。

「来てくれてたのか、ごめん、俺、寝てた」

「ちょっとでも寝ないと。疲れ取れないよ。」

「なんか俺が年寄りみたいだな、いや、お前は確かに若いけどさ」

ジェイドは身体を起こして、ユズに隣に来るように寝台をぽんぽんと叩いた。

「あ、アレクのとこにウィル殿下が応援に来てくれたんだって」

ユズは伝えなきゃと思っていたことをジェイドに話す。

「ああ、俺も兄貴からそう聞いたよ。みんなに助けてもらって、本当にありがたいことだ。」

ジェイドは感慨深く言いながら、いつものようにユズの左手を握った。ジェイドの手はいつも少しひんやりしている。心の温かい人は手が冷たいという迷信があるけれど、きっとそうなのだろう、とユズは思う。

「ユズと、たくさん話をしたいんだけど、なんかこういう時に限って言葉が出てこないもんだな」

ジェイドもアルベルトが気を利かせてこういう時間を作ってくれていることは理解している。

「じゃー、ジェイドとミネルバさんの初体験の話をしてよ」

「待て待て待て、お前それをどこから」

「エルドラド殿下」

「いやいや、兄貴が知ってるはずないわ。」

上の兄は知っていてもその当時、エルドラドは国にいなかったはずだ。

「ウラヌスタリアは小さな国だからジェイドの情報はすぐ伝わるって言ってたよ」

「やっぱり国を出ようかな。俺の痴情を全国民が知ってるってなかなか居づらいわ」

もうどういう顔をして歩けばいいのか分からない。あの生暖かい目線の数々はそうだったのかと思うと居たたまれなくなる。

「まあ、確かに」

ユズはくすくすと笑う。

「国を出たら、どこに行くの?」

「どこに・・・そうだな、世界一周して、回って結局帰って来る気もするな。あ、俺はジュピタル王国、好きだぞ、ユズの生まれた国だし。意外とユーピテルへの滞在期間は短かったから、今度案内してくれ」

「私、マリカと行った洋服屋さんと自分の領ぐらいしか知らないよ。王城に行ったのも数回だしさ。自分の生まれた国を、あなたと旅して初めて知ったようなものなんだから。」

話していると、だんだんユズは息をするのも苦しくなってきて、だけど彼には悟らせないようにゆっくり息を吐き出す。

「・・・ユズ、ごめんな」

近い未来に、先に逝くことを、どうか許してほしい・・・ジェイドは言葉を飲み込みながら、ユズに優しく声をかけた。

頬の涙に触れられて、ユズは自分が泣いていることに気づいた。ぐいっと袖で涙を拭く。

「ありがとね、ジェイド・・・私、あなたと出会えて、国を出て、たくさんいろんなことを知れた。こんな経験、あそこで一生暮らしてたらなかったことだ。」

そして、ジュピタルに来るまでの彼を思うと、ユズはやっぱり悲しくなるのだ。どんな気持ちで、一人で過ごしてきたのだろうと。ユズはジェイドを抱きしめてあげたいのに、自分が抱きしめられて、涙で濡れた頬に頬ずりをされて、ぽんぽんと頭を撫でられていた。


「俺が、ジュピタルに行ったのは、きっとお前と出会うためだったんだって今は思うよ。」

顔を上げれば、自然に唇が重なる。掌の体温と同じで、自分のより少し低くて、かさついていて、だけど柔らかくて、心地いいはずなのに心臓はきゅうっと痛むような苦しさを覚える。あと何回、こうやってキスができるのだろうなんて、そんなことを考えてしまえば、涙が止まらないのだ。ジェイドはいつかも言ったように、ユズが泣くのを咎めないで、「愛してるよ」「大好きだよ」と言って、優しく抱きしめていてくれた。


「ジェイド、少し良いだろうか」


表から声がかけられる。ジェイドは分かりやすくびくっとした。ユズも涙が引っ込んだ。レジナルドの声だ、今は深夜帯だし、何かあったのだろうか。ジェイドは天幕の入り口まで行った。

「どうした」

「ユズが天幕にいないんだ、誰も出たところを見てないというし」

「へ」

もしかしてユズがここにいるのがばれたらだめなやつか!ジェイドはすぐに察する。しかしユズは察してくれないのが常である。

「私、ここにいる」

ジェイドの右腕の隙間からユズは顔を出した。レジナルドはぱちぱちと碧眼を瞬かせた。

「・・・ユズ、いつからここに?」

「夜じゅう「さっき!さっき来た!な!ちょっといろいろ話があったから!」

「・・・泣いてるじゃないか、ジェイド、どういうことだ」

「いや、うん、いろいろ!いろいろあって!」

ジェイドはもう語彙力が破滅的である。ユズはぽかんと首をかしげている。おいで、とレジナルドはユズに手招きをする。

「レジー、私はジェイドと少しでも長く過ごしたいの」

彼と彼女はそういう関係なのだろうか。前にフェニックスに来たときは彼はほとんど加護をもらうための研究に勤しんでいて、ユズはそれを手伝っているくらいの認識だった。

「婚前の男女が夜を共にするのは良くない。それに、スタンシャインから求婚の件はグリフォン侯爵家へ通っていると思っていた。この件が落ち着いたら君はフェニックスへの輿入れが決まっている」

「決まっているはずない、どこでねじ曲がってそんなことになってるんだ?」

確かにエルヴィンから婚約者がいないならどうか、と話は聞いていたが、ユズは軽く流していた。フェニックスの緩い感覚から、分家筆頭のジョージはユズちゃんならぜひに、くらいの乗りなのかもしれない。ユズの父も母もユズの貰い手があるなら、しかもそれがスタンシャインなら万々歳みたいな感覚で、とくに母のほうがユズの気も知らないで、進めているのだろうか。それは腹が立つことだけど、ジュピタルの常識ではこういう貴族令嬢の婚姻に関しては、本人の意思のようなものはないに等しい。

「とにかく、自分の天幕に戻りなさい。話はあとで聞くから。」

そう厳しく言うレジナルドにユズは剣呑に食って掛かろうとしたのを、ジェイドが止めた。

「大丈夫。全部落ち着いたら、ちゃんと話そう。」

ユズと自分の関係に異を唱える人物はとりわけジュピタル側には多いだろうとジェイドは思う。半ば攫うようにして連れてきたから、アレクシスもオニキスもそうだが、彼女の父親だって親身になってくれてはいるが内心は分からない。母親にいたっては、ユズの成人パーティーの時に挨拶はしたが一言も言葉を交わしてはくれなかったのだ。ユズの家は格式を重んじる。ジェイドだってこんな一大事じゃなきゃちゃんと手順を踏んで交際、プロポーズ、結婚となるべきである。しかし、そういう時間は、往々にしてないことは、重々承知の上での今だった。

「おやすみユズ。」

「・・・」

ユズはジェイドに親愛の抱擁をして、胸に顔をぐりぐりと押し付けて、やっと天幕を出て行った。レジナルドはユズを天幕まで送って、今後勝手はしないように、とユズに言い聞かせる。戦場において指揮官の命令は絶対である。分家とはいえ、レジナルドは家格が上の相手なので、ユズは大人しく聞くことにした。


***


翌朝、レジナルドの行軍の合図で軍がゆっくりと王城へ進んでいく。瓦礫が溢れる城下を馬がさらに踏みならして行く。王城付近に堀があり、その堀を囲むように、オニキスの軍がいた。

「フェニックス軍のものか。王国軍第三軍将のオニキス・グリフォンだ」

「お初お目にかかる。フェニックスより参上したレジナルド・スタンシャイン。フェニックス第三軍を率いている。グリフォンのご嫡男ですか。」

「ああ、ユズの兄だ。スタンシャイン大公には世話になっている。」

レジナルドはすぐにオニキスと挨拶をした。こういう軍事の場では家格よりも実績が評価されるので、王城の上級指揮官に任命されているオニキスの方が立場が上になる。

「妹君とジェイド殿下のことは聞いているか」

「あー・・・まあ。」

オニキスは言葉を濁した。やはり素直に喜べないことだった。ユズが不憫だからだ。よりによって、何もあの男でなくてもいいだろうに、だけどそういうめぐり合わせのようなものも少しは感じていた。

「兄上は、反対であるということだろうか。」

「俺はマリカとエルヴィン様の婚姻だって反対だわ。妹に近づく虫けらは、須らく排除したく思う。ジェイドとユズのことは、エルが可哀そうだから大目にみてるだけな。」

オニキスは、別段ジェイド本人に対して情はない。いいやつではあるとは思うが、どちらかといえばジェイドを思うエルドラドに感情移入する。自分も兄だからか下の妹や弟が自分より先に亡くなるだなんておよそ考えられないことなのだ。その心中を察するだけの情はいくらなんでもオニキスだって持ち合わせている。

ジェイドの呪いについてはレジナルドは知らないことだから、なぜオニキスはジェイドを大目に見るのかは分からなかった。エルドラドにも面識はまだないし、オニキスとも初対面なのでこれ以上の詮索は憚られた。


「アレク」

北からもアレクシスが到着して、オニキスに呼ばれてジャスティスで駆け寄って来る。

「オニキス様、ご無事で。」

「久しいな、アレクシス。護衛騎士から将に格上げか?」

「即席ですが。」

アレクシスはレジナルドとは面識はあるが、あまり会話はしていなかったのでどこか他人行儀だ。スタンシャイン分家は身分格差が顕著で、騎士職は騎士職の領分を弁えろという考え方だったと記憶している。本家のエルヴィンともアレクシスはあまり話をすることはなかったし、マリカも彼の婚約者になったらいきなり高飛車に接してくるようになった。

「アレクー!」

ジェイドがウィリアムに挨拶をして、ニコラスにつかまって、それからやっと自分のところへ来た。

「聞いてくれ!お前も無関係じゃない、」

「は?」

ジェイドはオニキスとレジナルドに目礼だけして、アレクシスを引っ張っていった。


「ユズの未来の話だ。」

当のユズはニコラスにメアリーと赤ん坊のことを根掘り葉掘り聞いているらしかった。

「俺がいなくなったら、あいつ一緒に死んでもいいとか言うから、止めてくれよ!」

「ん、ああ、わかってる。」

というか彼の死んだ後のことを自分が想像するのも結構しんどいのに、こいつはもはや開き直っているのか・・・とアレクシスは頭が痛くなりそうだった。

「で、やっぱりその・・・ユズのことはお前に頼みたいんだよ。」

「やめてくれ、お前が頼む話でもないだろ」

情は切り捨てているはずなのに、胸のあたりがぎりぎりと痛んで苦しくなる。戦前にするべき話ではあるのかもしれないけれど、遺言のように聞こえる。

「・・・ちゃんと、考えてる。」

「?」

彼がいなくなったら、ユズはきっと立ち直れないほど落ち込むだろうから、自分は立場も身分も全部擲って、彼女と世界を百周しなければならない、と思っている。百周譲れば自分と結婚できると妖狐の里でユズが言っていたからだ。アレクシスはジェイドがいなくなれば自分自身もかなり気持ちが落ち込むだろうことの想像はできていた。

「で、本題はな」

ジェイドはアレクシスがシリアスにしっかりと考えているのにろくでもないこと言いそうな雰囲気を醸し出していた。

「俺、結構本気で夜這いしたんだよ、でもユズはな、俺が死ぬならセックスなんて一生しないで生きていくって言うんだ。なんか俺はお前に申し訳ないというか。」

「何してんだよ、絞め殺すぞ」

アレクシスはもう関節技を決めにかかっていた。ギブギブギブ!とジェイドは叫んで、周りがざわついていた。ばれなきゃいいと言った自分が暴露しているのだから、彼との関係はそういうものなのだな、とジェイドはやっぱり笑った。

「でもさ、アレクはなんだかんだユズにぞっこんだし、生殺しじゃかわいそうだと」

「人の心配は良いだろうが!いまさらだわ!」

別にアレクシスはユズと添い遂げられるなら、プラトニックでもなんでも受け入れられるし、きっと地球を百周する頃には、ユズも諦めて自分を受け入れてくれると思う。なんだかんだ言ってユズはアレクシスには甘いところがあることは知っている。自分は狡猾なのだ。弱みに付け込めるなら遠慮なく付けこむだろう。

「ユズ、レジーから見合い話があるらしいんだけど、」

「・・・それは、断れなくないか」

「いや、頑張れよ!オニキス殿とかトパーズ殿を味方につけてさ!無理ならあれやってくれ、結婚式で意義ありって花嫁攫うやつ」

「できるか!お家騒動まで発展する、俺は一人息子だぞ。ジュピタルでスタンシャインには逆らえない。」

「・・・うーん、ジュピタルから出れないのか・・・一人息子って不便だな。なら、既成事実を作るしかない」

「スタンシャインに処刑されて終わりだろ、俺はユズには手は出せないし、大体お前のこと引きずってるやつを抱けるわけがない。今の段階で一生しねえっつってんなら、なお抱けねえわ」

アレクシスはユズが大事すぎて、手が出せないくらい彼女に対しては純粋なのだ。

「・・・まあ、何とかする。なるべくお前の本意にそえるようには努力する。」

もうきっとユズを支えることだけが自分の生きがいなのだから。

「約束だぞ、俺の大切な奥さん、幸せにしてやってくれ。」

ジェイドはありがとう、と笑った。少し涙目だったのは見ないことにしようと思う。自分も少し目に砂が入ったようだ。

「誰がお前のだよ」



***


「エル、状況は?」

エルドラドも転移魔法で魔法騎士団と到着し、オニキスが近づいてきた。現状、敵側はこのバリケードを補強していて、一筋縄では壊れない造りのようだった。文字通り、籠城である。これを突破しなければ王城には入れない。

それを囲むように総勢10万の軍、騎士団・兵団が集まった。


軍議を開く、とエルドラドの周りに大魔法使いのパトリオットとジュリアナ、グリフォンからはオニキス、フェニックスからレジナルド、アルテミシアからウィリアムが集まった。

「メリッサとクリストフを引き摺り出す必要があるよな」

アルベルトが発言する。

「クリストフは俺が引き受ける。アレクをもらいたい。」

「了解。グリフォンからはアレクシスと俺の騎士団を出す。」

オニキスは頷いた。

「クリストフには因縁がある。アルテミシアも参加させてもらえないだろうか。」

ウィリアムが発言した。

「ウィル殿下、アルテミシアの助太刀、本当に感謝申し上げます。」

「エル殿下、ジェイドにも言ったが、俺が助けてもらったものだ。父も回復した。恩は返す。」

アルベルト率いる妖精兵団とアルテミシアの弓兵、総指揮官にアレクシスを置く、という配置が出来上がる。

「なら、これでクリストフをねじ伏せてもらいたい。あとは、メリッサか。」

エルドラドはなかなか表に出てこないこの魔女にたどり着くまでが至難であると踏んでいた。城に入り込んだところでこっちがアウェーであること変わりはない。

「出てくる悪魔を討伐しつつってことになるわよね、悪魔なら私、ジェイドくんの剣もとい、聖獣がいれば有利でしょ。」

「ジュリアナが城内部に、ということか。」

「このシールドはどうする?魔法でなんとかなるもんなのか。」

「ならないから、内部に転移をかける。オニキス、行ってもらってもいいか。」

オニキスは頷き、レジナルドを見た。

「フェニックスの騎士団は本部を固めてもらいたい。エルが総大将だ。」

「承った。」


ユズはアレクシスがジェイドに何やら技をかけていたので、ニコラスと一緒に様子を見に行った。

「アレク!ジェイドをいじめないで!」

「こいつ地味に抵抗してくるから、絞めがいがあるな」

「助けて、助けてユズ!」

ユズはニコラスと協力して彼らを引き離す。

「お前らはあの軍議に参加しないのか、当事者だろ?」

ニコラスは不思議そうに三人を見た。ジュピタル王国で、加護を集めたのは紛れもなくジェイドの功績である。彼はそういうのはひけらかさないけれど。

「あの中には入れねえわ、俺は身分が騎士職だし」

「私は、まあ、分かるでしょ、ポンコツだもの」

ユズは自分で言って少し悲しくなった。

「俺は、剣を持っているだけで、はい。足手まといです。」

ジェイドも悲しくなりながら進言する。

「・・・うん、わかった。俺が悪かったよ。」

ニコラスはフォローできなくてすぐに謝った。


「急報!」

伝令兵の声が響き渡る。

「後方より魔装兵団が出現。魔獣も相当数です。数は見積もって十万あまり!」

「ニック!空中戦は頼む!」

オニキスの声にニコラスは反応し、ドラゴン使い達を招集させる。

「アレク、お前はアルベルトと魔装兵団討伐に行ってくれ。詳しい話はアルベルトから」

アレクシスは頷いて、ジャスティスに跨ろうとしたが、ふとユズを振り返った。騒然と慌ただしくある人混みの中、ユズは緊張した面持ちでアレクシスを見つめた。手を伸ばそうとして、躊躇する。がしっとユズではなくジェイドが抱き着いてくる。胸の痛みがぎゅうぎゅうと止まってしまいそうなほど苦しい。

「武運を。アレク、また会おう」

「・・・ユズ」

呼ばれたからユズも近くに行く。頭を数度撫でられて、そして痛いくらいに抱擁される。

「ジェイドを頼んだ。」

耳元でアレクシスがささやいた。エメラルドの目が濡れている。ずるいと思った。ユズは声を出せずに頷いた。


赤いバリケードはたくさんの目玉をつけて、所かまわずに攻撃してくる。本陣はエルドラドの緑色のバリケードシールドで保護されていて、一般兵もそのシールドをうまく使って攻撃をしのいでいた。

「目玉を駆逐していくだけだな、オニキス様」

「ほどほどにな、ジャスパー」

副将はじめ腕利きの数名が残って、城攻略に望むらしい。バリケードを突破したら、フェニックス軍を内部に送ることになるだろう、とレジナルドと話す。ユズとジェイドは本部にいた。エルドラドはウラヌスタリアの魔法騎士団百名あまりとオニキス一行を城の前庭に転移させる。

外に向いていた攻撃は中に入った連中に集中した。

グリフォンが召喚されて、ジャスパーやオニキスはそれを足掛かりにして目玉を斬り伏せていく。

グリフォンが現れたところに黒い靄が出て、ブラックグリフォンが生成される。これは対聖獣の魔法らしい。


「ああいうのを、メリッサを倒せば、なんとかできるのだが」

「エル、私も城内部へ行くわ」

ジュリアナの申し出にエルドラドは難しい顔になる。もう少し、中の状況が落ち着いてから彼女を送りたい。ジュリアナは聖なる力を操れるけれど、戦闘に特化した大魔法使いではない。できれば負傷兵のために残しておきたいのが本音だった。そこへ衛星鳥が一匹出てきた。

「誰か乗ってる」

ユズの視力には見えるらしい。

「・・・ジョセフィーヌ?」

ジュリアナ三世、シスターアンジェリーナがつぶやく。彼女の姿を見たのはいつぶりだろうか。ローブをかぶっていて顔までは確認できないが、魔力の形はメリッサだ。ただその魔力もほとんどなくなっているのが気になる。その人物は空中から人を投げた。エルドラドは緩衝魔法で、人を受け止める。酷く傷だらけの男だった。ジェイドもユズも見覚えがある。

「キッド」

彼女の子どもだとアルベルトが言っていた。

「死んでる・・・?」

ぐったりと動かないし、顔は真っ白で、唇も青い。

「治す」

聖なる魔法をジュリアナは男に当てた。その瞬間、キッドの身体全体が白くなっていく。

「ジェイド!ウラヌスの剣を!」

エルドラドが叫び、言われるままジェイドは剣を発動させる。本部付近にいたフェニックスの騎士団ごと、ジェイドは剣に取り込んだ。いつもの部屋ではなく、草原のようなきらきらした空間だった。

「何が・・・」

「窓を出せるか」

外の様子を見るための小窓が出てくるが、外は全体白い靄に包まれている。

「・・・シミカドルの反応だった、ジュリアナは聖獣の世界に避難できただろうか。」

このウラヌスの剣の空間も聖なる力で作られている。この場にジュリアナだけがいないことが気がかりだった。

ウラヌスの剣から外に出れば、やはり王城だけがきれいに残っている。赤いシールド内部にいたものに危害はなかったようだ。あたりは焼け野原と化していた。アルベルトはアルベルトで妖精たちがシールドを張って、味方だけじゃなくて、敵もみんな無事だとすぐに連絡をくれた。

「・・・これが、シミカドル・・・」

レジナルドは歴史で聞いていただけの兵器が身近で使われたことに脅威を抱いた。

「・・・ジュリアナは」

「エルドラド様」

リンファが転移魔法で外へ出てきた。

「シールド内から見ていました。ジュリアナ様は、人を治療しようと聖なる魔法を使って、それで、その人が、ジュリアナ様の腕を掴んで・・・そのまま」

爆発したのだと言う。

「道連れになった、ということか」

大魔法使いが一人死んだ。エルドラドは深く息を吐き出した。ジェイドはとても言葉はかけられない。この国の一大事のために駆け付けてくれた人が、亡くなる。ジェイドには何の覚悟もできていない。ユズを失う覚悟だってできていなかったのだ。

「大丈夫だ。体勢を立て直そう。シミカドルへの対策のため、本陣をすべて、王城敷地内へ転移させる。レジナルド殿、交戦になります。」

「承知。」


***


アレクシスはアルベルトに総指揮官をやれと言われたが、先陣を切りたいのでやだ、と言い、文字通り魔装兵に突っ込んでいった。

「アレク、俺が指揮じゃお前のとこの騎士団が言うこと聞いてくれるかは・・・」

「おいお前ら、この子どもは250歳の妖精王だ!甘く見るな、すぐ妖精たちにぶん殴られる」

アレクシスは檄なのかなんなのか分からないことを言ったが、騎士団たちのテンションは高かった。そしてアルベルトを総指揮官として、対魔装兵戦に入ろうとした最中、王城付近で爆発が起こった。爆風と熱風がすごい勢いでこちらに向かってくるのをアルベルトは妖精を総動員して食い止めた。

「な、なんだ、あいつら無事なのか!?」

アレクシスはアルベルトに詰め寄る。

「わからない。シミカドルだったな、連絡待ちだ。」

アルベルトは神妙に言う。

「さ、魔装兵もかばっちまった。とりあえずやっつけてくれ。」

年の候なのか、アルベルトは切り替えが早かった。アレクシスは変な動悸を抑えつつ、目の前の相手に集中する。また会おう、と言って別れた。言葉を違えることはない。そう信じて。




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