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ジュピタル王国英雄記  作者: ヤー子
最終章 ウラヌスタリア救国編

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48/57

開戦

―――ウラヌスタリア王国―――


目の前でジェイドとユズが攫われ、ショックがまだ癒えないエルドラドであったが、アルベルトがウィザードランドへ行って一日経った深夜に『明朝戻る』と連絡を受けた。ひとまず安心したエルドラドであったが、夜が明けてすぐに、メビウスの国境に異変があった。二年半年前に国を襲った赤いバリケードが出現し、たくさんの目玉から光線を発した。見境なく見張り兵を撃ち殺し、避難所を狙い砲弾のようなものを撃ち込む。ウィザードランドから送り込まれた魔装兵が指揮官もなく、有象無象に対応したが、一般も含めて被害は小さくはなかった。怪我人の処置をすべきだが、まずは避難が優先である。無差別に撃ち込まれる魔砲弾を躱さなくてはならない。魔装兵は盾を巨大化して、その隙に地下都市へ避難できるものは動けない怪我人を協力して運びながら避難した。通路は避難する人数に合わせて広くなる。


「王女様はっ!?」

「一般民の避難を優先させてる!」


カサブランカは正直足がすくんでいた。あの赤いバリケードには見覚えがある。だけど己を鼓舞して立ち向かう。カザブランカの近衛兵は出来る限りの魔法の盾を彼女の回りに張る。


「遅くなった!」

「オニキス様!」

オニキスはラルフを伴ってリンファの転移魔法でメビウスまで来た。リンファはミネルバの家を見に行く。


「あ」

「ジーク、早くこっちへ!」

ミネルバとははぐれてしまったらしい我が子を抱き寄せて、また転移魔法を使った。


「いきなりやってくれるな。」

オニキスは国境の惨状を見て、静かに言う。

「クリストフの根城が二か所ほどやられたから、きっと怒ってるの!王女様、お怪我は?」

ウィザードランドから救護要員に立候補してきた聖女、シャーロットはカサブランカに駆け寄る。左腕から少し出血している。

一昨日の夜、ユズとジェイドが攫われて、アルベルトがアレクシスとウィザードランドに行ったことをオニキスが聞いたのは昨日の朝目覚めてからだった。どうやら彼らは敵の怒りに触れる何かをやってしまったらしい。こんな形の開戦はエルドラドの本意ではなかったろう。しかし、それが戦争というものだ。終始駆け引きである。有利な条件を引き寄せるために、オニキスに与えられた役割は、武功を挙げることのみだ。

「だ、大丈夫・・・」

カサブランカは蒼白だった。オニキスは一度はぶち壊したあの赤いバリケードに向かっていこうとしたが、攻撃が絶えず続いている状態だった。掻い潜っていくのも至難だろう。あれも格段にレベルアップしている。


「また会いましたねぇ、オニキス。名前は覚えましたよォ」

オニキスは覚えていない。

「目玉の悪魔」

「シヴァルーナと」

悪魔は恭しくお辞儀をする。三つ目の悪魔である。あの抜き取った三つ目は三日ほどで腐ってしまったとリンファが言っていた。この悪魔はどうやら量産型だが、記憶を継承しているという厄介な類らしい。悪魔由来なのか、はたまた魔法使いが生成したものなのかはオニキスには判断できない。ただ、この悪魔は魔獣を従えることができるはずだ。

バリケードを背に数多もの魔獣が出現する。キメラ級の高位魔獣だ。

「王女を地下都市へ避難させろ」

「オニキス、私はここで見届ける!」

「戦場はな、王女様が来るところじゃない。お前はこの国の民の指標だろう。」

父親が死んだとは、エルドラドもジェイドもはっきりとはカサブランカには言わないけれど、父が死んだなら、この国の王位継承は自分にある。侍従や侍女、近衛兵がカサブランカを地下都市へ誘導する。

「ラルフ、魔獣は頼む。俺はあの悪魔を始末して、バリケードを破壊する」

ラルフはオニキスと口は聞かないが、見守るような目線をくれて、頷いた。


「オニキス様、助太刀します!」

「アレク、戻ったのか。ユズ、お前はだめだ。」

「ち・・・」

ユズはオニキスに舌打ちをして、言われた通りに下がった。急襲の知らせを受け、アルベルトの転移で戻ってきたのだ。

「逃げ遅れた人がいないか、見に行こう。」

ジェイドが言い、ユズはついて行った。避難所はすっかり空で、集合住宅のほうまでは被害が届いていなかったようだ。地下都市に避難したのは大体五千人くらいだろうか。警報が鳴って、バリケードのようなもので仮設集合住宅は守られていた。

「ジェイド!」

ミネルバがそこから出てきて、ジェイドに抱き着く。泣いているようだった。こっちが心配でついて来ていたリンファはジークとミナトを抱擁する。

「無事でよかった・・・ここから、出ちゃだめよ、」

「・・・ママ、パパみたいに・・・い、いなくならない?」

ジークは震えている。子どものトラウマも、あの赤いバリケードは思い起こさせたようだった。

「しっかりしろ、ミネルバ!」

「酷いこと言わないでっ、そばにいてよ、怖いの」

ジェイドは困ったな、と離れないミネルバを見た。母親がこれでは、子どもが心配だ。

「ジェイド様、リンファ様、ミナトちゃんもジークちゃんもあたしらに任せて!ついでにミネルバちゃんもね!」

「マージさん、感謝する。」

その女性筆頭に、コミュニティがあるようだ。近所のおばさんの頼もしさをこの女性から感じた。マージはジェイドからミネルバを引き離す。

ドガン!と近くで爆発がして、悲鳴が上がる。バリケードは作動したが、あの衛星鳥がいて、カメラのような目から魔砲弾を飛ばしたようだ。ユズは石を手に取って、大きく振りかぶって衛星鳥に命中させた。衛星鳥はその場で爆発し、黒い瘴気を放った。衛星鳥は百羽以上飛んできた。

「飛ぶよ、グリフォン!」

「まじかよ、え、えええ、俺も!?」

ユズはグリフォンを呼び出して、飛び乗る。グリフォンはジェイドも咥えて、放り投げて自分の背に乗せた。

『ユズが怪我したら、治すのはお前だ』

「怪我するみたいな予言はしないでくれ!」

グリフォンは衛星鳥の群れに突っ込んだ。ユズはグリフォンの背に立って、剣を抜く。ジェイドはグリフォンの背に掴まるだけで精いっぱいだった。百羽以上の気味の悪い鳥にユズ一人で対処するのはキリがない。しかも近づいてみれば予想より大きくて、一羽を屠るのも労力がいる。

『呼んで、ジェイド』

ウラヌスの剣のドラゴンの加護がそう言った気がした。

「ノルン?」

「ジェイド!!ユズ!!」

ブラックドラゴン、ブルードラゴン、レッドドラゴンが立て続けに飛んできて、聖なる光で衛星鳥を殲滅していく。瘴気でできているから、聖なる光は覿面のようだ。

「ニック!?」

「ランサー!」

ジェイドは驚いて、ニコラスを呼んだし、ユズは嬉しそうにランサーを呼んだ。

「ドラゴン使い10名とドラゴン10体、それとゴッドドラゴンがドラゴン辺境から参上いたしました。」

ドラゴンたちが衛星鳥の魔砲弾を飲み込んで、聖なる光で吐き出す。それでも狂暴化している衛星鳥との闘いは五分五分といったところだ。

『ジェイド、ユズ、久しぶり。そしてこの世界では初めまして、グリフォン。』

ノルンが輝く羽をはばたかせ、虹色の瞳で挨拶をした。記憶にあるノルンより、ずっと美人になっている。ジェイドは泣いて鼻が赤い。ノルンの鼻面に抱き着く。なんかそのまま食べられそうだ。

「大きくなったな!俺の娘っ」

『今紀のゴッドは社交的なようだな。』

『ジェイド、泣いている場合じゃないわ。あ、ユズ、ジェイドは私が乗せるから、あなたは好きに戦って。』

ノルンがジェイドを引き取って、ユズはグリフォンに一人跨り、衛星鳥に挑んでいく。ノルンは砲弾がメビウス方面に行かないように、薄青く輝くバリケードを張る。これで守るものはなく全面対決できる。


空中戦もやっているのをオニキスは確認した。ドラゴンが来た、ということは、メビウス国境のゲートが開通したようだ。

「オニキス様ー!!」

第三騎士団副団長、グリフォン分家の親戚でもあるジャスパーが軍を連れてきた。

「第三騎士団5万、連れてまいりました。」

「よくみんな来れたな」

「オニキス様に会いたくってー」

「キモイな」

「久しぶりなのに辛辣っ!トパーズ様の命ですし!アレク!アレク、久しぶり!」

「どうも、お元気そうっすね」

ジャスパーはオニキスに馬をやって、自分は降りた。

ノルンの出したバリケードで、一先ず抗戦状態を作れた。魔獣はバジリスクの大化身が睨んでいるせいで動けていない。その目からいつ死の石化光線が出るかに怯えている。

「あれ、グリフォンに乗ってるのってユズちゃん?すっげ、やっぱ血には抗えないなぁ」

「お前はその血に忠実すぎるのをなんとかしろ。・・・ユズ!勝手に戦ってんな!グリフォン、降りてこい!」


下でオニキスがギャーギャーうるさいので、ユズは衛星鳥を一羽捕まえて、オニキスに投げた。オニキスは受け取って、素手で、絞め殺す。

「頭来た、出るぞ。中央まで押し込む」

「はいはーい、先陣前。先駆けは、俺がもらう!オニキス様、指揮は任せた!アレク、一緒に来い!」

「はい!」

ジャスパーは突っ込んでいく。目玉の赤い光線は彼には当たらない。アレクシスも行ったことで二つに的が絞られたからかもしれない。オニキスは三つ目の悪魔に標準を合わせて馬を走らせた。


ジャスパーは目玉という目玉を切り刻んでいった。アレクシスも同様に光線の出る目玉に剣を突き刺していく。複数個所そうすると、だんだんと赤いバリケードは歪んでくる。そろそろ頃合いか、とジャスパーは飛び上がって、剣を振りかぶった。ドガンとバリケードに穴が開く。

「・・・グリフォンからの応援というわけですね。こっちもあなたたちに合わせて、研究を進めているのです。」

シヴァルーナはにやりと笑う。聖獣の加護持ちの血を取り入れることで、魔獣や悪魔は魔力の回復に成功したのだ。この魔素の使いにくさは本当に厄介だったが、それは克服した。黒い靄が大きな鳥のようなしかし四本足の生き物を象った。目が赤く、翼が黒い、まるでグリフォンのような生き物だ。

「名付けてブラックグリフォン。さあ、オニキス、倒せますか?」

その怪物は前足のカギ爪をオニキスに振り落とす。オニキスは剣で対抗するが、馬がもはや潰れた。バジリスクの化身が火を噴いた。黒いグリフォンは翼で風を起こして、火をかき消す。

「聖獣同士で争うのは、創世記以来じゃないか。」

ラルフは一応話しかけた。しかしブラックグリフォンは言葉を発しないようだ。

「まがい物か。」

バジリスクの睨みを外れた魔獣は、第三騎士団と交戦になっていた。バジリスクの化身は毒を吐き、その牙を振るい、尾でグリフォンを薙ぎ払う。グリフォンは空を飛んで、巨大蛇を上から捉えようとした。


オニキスは隙をついて、悪魔の隣まで来て、首を斬る。それだけじゃ死なないことは知っている。

「だけどお前の核はこの目玉だよな・・・ラルフ、食ってみるか」

首の額から目玉を抜き取りラルフに投げる。

「・・・まがいものだ、これは本当の悪魔じゃない。」

ラルフは受け取ってそのまま握りつぶした。シヴァルーナを殺しても、魔獣は消えない。しかし圧倒的武力で押し込む。まずはウラヌスタリアの中央、そして城までこの魔獣と生成されたグリフォンのようなものを押し込む、あるいは倒す必要がある。赤いバリケードは突破した。


空中の方も五分五分からの劣勢になったとおもったのか鳥が逃げ出していく。

「ユズ!深追いすんな、戻れ!」

ユズはグリフォンと顔を見合わせて、追おうとした。

『ユズ、上官の言うことは聞くものよ』

「そうだ、ユズ!一人で行くものじゃないぞ!」

ノルンとジェイドが説得に入る。ドラゴン使い達も同様だ。ユズは戦い慣れしてないないし、グリフォンは戦いたいしで、この組み合わせはかなり危うい状態である、とジェイドは思った。

「・・・兄上、自分なら、絶対追ってる!」

ユズの言い分にグリフォンは同意した。完膚なきまでに叩くのがオニキスだ。

「まあまあ、ユズ。まだ戦いは序盤だ。フェニックスのほうからはあと三日はかかるだろうし。」

一度地上に降りよう、とニックが行って、ユズは地上に降りていく。アレクシスはジャスパーと先駆け部隊を連れて、国の中のほうまで行っており、オニキスの騎士団と魔装兵、メビウス兵、ウラヌスタリア兵は魔獣討伐で交戦している。

ドラココからマルスは近いので割と早く来られたのだ、とニコラスは説明した。

「今のような空中戦になれば、任せても良いか。」

「はい。ドラゴン使いのニコラスと言います。アレクシスからよくお話は聞いておりました、オニキス殿」

「ドラココではアレクが世話になったな」

「ニック、エミリーの赤ちゃんは生まれたの!?」

「ああ、先月・・・って、ユズ、そういうのはあとで、あ・と・で!」

ニックは心なしか顔が赤かった。ユズには大事なことだったのだ。無事に生まれてくれて良かった。後でも先でもない、もう戦は始まってしまった。聞きたいことを聞かないと後悔しそうで、ユズはランサーを撫でた。

オニキスは目線を黒いグリフォンとバジリスクの化身に移す。

「加勢する?空飛ぶやつと飛べないやつは相性良くないよね」

ユズはラルフのそばまで行って聞いた。

「・・・あのまがいもの、大本がこの聖獣由来の魔素になるとすると、堂々巡りだな。グリフォンの弱点・・・雷か」

「ニック、雷だって!」

「ユフィ!雷だ!」

「了解!」

ホワイトドラゴンにのるユフィはユズと同じ年のドラゴン使いだ。暗雲を呼び、雷を轟かせ、稲妻をブラックグリフォンに落とした。ユズのグリフォンはミニグリフォンになってオニキスのローブに潜り込んでいた。グリフォンは雷が怖いらしいが、ユズもオニキスも別段雷は苦手ではない。ただ剣には致命的なので、避けるしか方法はないのは厄介だと感じたことはある。

「ちなみにオニキス様は、雷に打たれても二、三分で回復する化け物です」

側近の一人が解説した。オニキスの騎士団は口さがない人がたくさんいるようだ。ラルフはそれを聞いて、セレスもそんな感じだった、と懐かしく思い出す。そう一言で、化け物なのだ。

「誰が化け物だ」

オニキスは側近を殴ろうとしたが、側近は慣れっこでひょいと避けて持ち場へ戻った。

ブラックグリフォンは倒れ、また黒い靄になって消える。


「進むぞ」

魔獣も出現した分は倒せたようだ。オニキスの指揮で、行軍した。

「ユズ、俺はこのまま東から西の王城を目指す。北の方にアレクシスをやる。お前は南から行ってくれ、三日後、王城手前で待機だ。三日後にフェニックスから援軍が来ればそっちにやる。お前にはジェイドと聖獣をつけるから、それで乗り切れ」

ドラゴンたちは北のほうに行かせるようだ。

「俺が一緒に行くよ!そしたら数はカバーできるだろ!」

アルベルトが登場した。ラルフは顔をしかめ、ノルンはため息を吐き、グリフォンはオニキスのローブから出てこない。アルベルトの周りの妖精たちは怒り狂っていて、今にもここで戦争がはじまりそうだった。

「聖獣と共同戦線なんて、妖精史上初じゃないか!わぁあああ、なんて神々しいんだ!」

アルベルトは聖獣を見て非常に感激を受け、嬉しそうに飛び跳ねている。

「それ以上近寄るな、取って食うぞ」

『てめええええええ、アルベルト様になんて口聞きやがる!』

ラルフは近寄ってきたアルベルトを追い払ったら、無数の妖精にバチバチとポルターガイスト系の攻撃をかけられていた。

「食っていいか」

一匹捕まえて、握りつぶしたくなる。

「やめろ、お前たち!喧嘩をするな!仲良くだ、仲良く!」

アルベルトが言うと、一回はおとなしくなるのだが、妖精と聖獣は常ににらみ合っている状況だった。

『私たちはいったん剣の中に戻るわ。行きましょう、ラルフ・・・・グリフォンはいつまで隠れているの。』

『我はしばらくオニキスに付く。』

妖精たちより、聖獣たちは大人な対応であった。グリフォン以外は。グリフォンは戦場にはいたいが、妖精王のそばにいるのはごめんである。

『ジェイド、必要な時はもう呼ばなくても、こっちで判断して出るからね。』

ノルンはジェイドに頬を寄せるキスをして、剣の中に行った。グリフォンはしばらくオニキスに叱られていたが、頑固なのでしょうがなくオニキスは連れて行くことにする。


「兄上、武運を祈ります。」

「お前もな。・・・ジェイド、」

オニキスはジェイドを見たけれど、言葉は出てこなかった。アルベルトは子どもの見た目だし、オニキスにはそのすごさはあまり分からない。

「・・・・ユズ、ジェイドを頼んだ」

「・・・そうですよね、俺にユズは頼めませんよね・・・分かってますとも」

ジェイドは落ち込んだが、オニキスの行軍を見送った。


ウラヌスタリアの国はどこも家屋が軒並み崩れて地面の方からは緑の蔦や葉が出てきている。この草木ももともとはこの国にない類のもので、少し気持ちが悪い、とジェイドは言う。南の国境は海に通じる大運河があり、それにそウラヌスタリアの名産のウラヌスの花と呼ばれる太陽のような花の生産地が広がっていたらしい。あとは少しだけ農業と漁業を営んでいる家々がのどかに暮らす地方が南である。ジュピタルとは違い、辺境というものはなく、三十分も歩けば都市に行けるし西の山の麓に城は聳え立っている。南に行きがてら、進軍する、そういう算段なのだろう。ラルフは剣には入らずについて来ていた。外の世界はちゃんと見なければ、セレスに悪いと思っているのだろうか。アルベルトが終始ちょっかいをかけていたが、無視している。ラルフはセレスの魂を持って生まれたというオニキスと、二回リスクーザに来たことがあるジェイドには優しいけれど、あとの人間はゴミカスかなんかだと思っているのだろうか。

「あ、衛星鳥」

『ジェイド、あれは危ない、私も初めて見るけれど、シミカドル爆弾よ!』

ノルンが剣から出てくる。大きさからみれば南地区すべては吹き飛ぶ。

「そんなっ、今投げ込まれたらっ」

『私が飲み込めば、』

「だめだ、お前を犠牲になんて、できない」

『聖獣が全部そろっていれば爆弾ごと封印できるんだけど』

「時を止める魔法が5分。ユズ、行けるか。」

アルベルトはどうだろう、とユズを見る。

「うーん・・・ノルン、あれを私が奪い取って、王城に投げ返してやるわ。」

ええ、危険が過ぎる・・・とノルンは反対のようだったが、メリッサが爆弾をどう対処するのかは知りたいところだ。ノルンはユズを乗せて飛んだ。ジェイドが離れないので、一緒に。衛星鳥はカメラのレンズのような目からまた魔砲弾を撃ち込んできた。それを躱しながら、ユズは衛星鳥に飛び移った。鳥は暴れてユズを振り落とそうとする。括りつけられている爆弾を奪取。案の定起爆装置は起動済みのようだ。あと三分ほどで爆発する。アルベルトが爆弾の起爆装置に魔法を発動した。時計は残り10秒という微妙なラインで止まる。

「ユズ・・・さすがにこの位置から王城まで、投げ飛ばすのは無理なんじゃないか。」

ジェイドはユズの怪力でもそれは厳しい。人間業ではない。だってここから王城まで五キロほど離れている。

『ラルフと私が力を貸すわ。本当はグリフォンも来てほしいところだけど。』

ノルンがため息を吐く。

「小娘、セレスなら五キロなど余裕で飛ばせるぞ」

爆弾はハンドボールくらいの大きさで持ちやすくはあった。

「妖精たちも援護する」

向こうに城が見える。ユズは助走をつけて爆弾を投げた。腕を振りぬくスピードはもうほとんど見えなかったし、ボールも本当にかなりのスピードで遠くまで飛んで肉眼では追えない。


しばらくたっても王城付近で、爆発が起こった様子はない。起爆の止め方、あるいは解除の仕方がどうやらあるらしい。


ユズは嬉々として先頭を歩いていた。ジェイドはウラヌスの剣を抜きっぱなしでこわごわと一番後ろを歩く。

『ジェイド』

ノルンの声が聞こえたときはもう遅かった。下から蔦が足に絡みついてきて、ジェイドとウラヌスの剣が引き離される。


「これって、聖獣を呼び出す鍵ってやつなの?」

黒髪に黒い目、真っ白な肌で、額にタマモのような花鈿をつけた絶世の美女がいた。その美女はウラヌスの剣を持ってふふっと不敵に笑う。

「あら、壊れないのね・・・さっすが」

壊そうとしていたのだろうか、恐ろしい美女だ。アルベルトも目が蔦でぐるぐる巻きだし、ユズだけがあの女と対峙していた。

「剣を返せ、お前、悪魔か?」

男なら見惚れるのだろうが、ユズ自身が女だということと、あいにく美しさには耐性がある。アレクシスに初めて感謝をした。

「やっと自由になれたー・・・私、この子の魂は手放しちゃったけど、この容姿は気に入ってるの。残念だわ、魂も最高のものだったのに。初めまして、グリフォンの姫。私、千年前にジュピタルを襲った悪魔、リリス。ここの悪魔ベリアルとは夫婦なの。」

余計な情報を与えられても、ユズは分からない。どうでも良いが殺すしかない。

「動けば、あなたの愛しい人を絞め殺すわ」

悪魔は植物を操れるらしい。ジェイドの首に蔦が巻き付いて行く。妖精たちはアルベルトの目がないとアルベルトを認識できないようで一生懸命探している。

ラルフがジェイドの蔦を切って彼を開放してやった。剣がジェイドのところにないとノルンが召喚できない。

「あなたは初めましての聖獣さんじゃない?私を封じるときには来てくれなかった子よね、なんて美しい容姿なの。」

女は舌なめずりをする。このレベルの悪魔は聖獣が天敵だとは言え、物怖じはしないようだ。


「これがセレスが封じた悪魔、ということか。」

「ほんっと、あのセレス・・・この容姿に見向きもしないでぼっこぼこにしやがって、この手で八つ裂きにしてくれたいわ」

女はセレスには恨みしかないようだった。セレスはこういう話とかどうでもよいのだ。目的の遂行のために目の前の敵を滅するのみだ。ユズもそういうところはあるのだが、セレスのような力技で持っていけないところが弱み、ということなのだろう。

「アル、大丈夫か」

ジェイドはアルベルトの目の蔦を小刀で外した。

悪魔の植物はアルベルトの魔法で今度は女に絡みついて行く。ユズは乗じて女の悪魔に切り込んだ。素手で剣を止められ、はじかれた。

「聖獣由来の剣げきなどもう攻略したのよ。グリフォンはとくにね!忌々しい!しかもお前は女だわ。」

女の悪魔は女は嫌いだとユズに瘴気を吹きかける。瘴気を目くらましにして、ユズは悪魔に飛びついた。剣げきが効かないのなら、何としてもウラヌスの剣を取り返さなければならない。

「あーら、自分から来てくれたの、女の子は大っ嫌いだからすぐに殺してあげる。」

剣は左手で持ち上げ、右手の爪が黒く伸びて、ユズの首を狙った。腕を腹に回して、体落としをかけるが、腕がとれただけだ。爪が一週回って身体に巻き付いていく。

「ユズ!」

悪魔の腕はすぐに生えた。化け物を相手にしているのだ。

ユズはまだ動く足で悪魔に飛び蹴りをした。それは予想外だったのかゆらっとよろめき、油断したのか剣を取り落とす。隙は見逃さない、ユズは剣をジェイドに向かって蹴り飛ばした。

「小癪な小娘だな、とどめだ」

「遅くなってごめんあそばせー、いやな容姿をしてるのね、悪魔さん」

「・・・女!?」

気配もなく出てきたピンクゴールドの髪の美女に悪魔は目をむいた。ナターシャはユズを仕留めようとしている悪魔の右手をひねり上げている。ひょい、とユズは回収され、身体を解放された。

「セド!」

「ユズちゃん、札を二三枚くれるか。タマモがくれば霊力使い放題なんだが・・・早く来いよ、あの女狐」

もうなんの駆け引きもなく、ユズは札を全部セドリックに渡した。セドリックは、悪魔の容姿を憎らしそうに、そして愛おしそうに見ている。ユズはもう一度良く悪魔を見た。巫女姫の恰好をしている清楚な美女だ。千年前と言っていた。あれはもしかして、ナターシャの前世の姿、ということなのだろうか。

「セレスの封印が解かれちゃったの?」

「いや、ジュピタル側の封印は完璧だ。夫婦、といっただろ。悪魔は夫婦なら召喚できる。ここの魔素がお前の血のせいで悪魔に順応したのが一番の要因だな。」

ラルフは感情なく答えてくれた。

「じゃあ、セドのせいだ、私のせいじゃない」

「俺は、この悪魔にはどうしても会いたかったんだ。それの要因になったなら、ユズちゃんの血を渡して正解だったということだ。」

「貴様は何者だ。」

ラルフは突如現れた、人間ではないセドリックとナターシャに警戒をしている。ユズを助けてくれたということは、敵ではないのだろうか。ナターシャは悪魔と互角に魔法攻撃を交わしていた。セドリックは札のおかげで一時的に霊力が使い放題で、美しい容姿なのだが、髪の毛の色が銀色に変わり、目の色も金色に変わり、さらには角も生えてきた。

「ジュピタル西辺境の妖怪筆頭。鬼、だよ。」

「ユズちゃん、こいつはあたしらがぶちのめすから、先に行きなさい!ジェイドが倒さなきゃいけないのは夫の方!夫が死ねば、こいつは一回死んでいるから道連れだわ!」

「ジェイド、このレベルの悪魔には、聖獣を全部そろえてから臨むべきだ。フェニックスが来るまで、なんとか持ちこたえてやる。」

「わ、わかった。」

「そうか・・・なら、俺、レジナルド・スタンシャインを迎えに行ってこようか。」

アルベルトは考えた。レジナルドの顔は分からないが、大声で呼べば反応してくれるだろう。ジュピタルの南から東辺境に行くため、彼らは山を越えずに王都経由の東へ向かう途中だと聞いている。ジェイドが頷けば、アルベルトはすぐに転移した。

「ジェイド、俺はとりあえずここで、セレスの倒した悪魔の力量を見ている。この妖怪どもをいまいち信じられん。」

「ああ、じゃあ・・・ユズとノルンと先に行く。」

「行かせないわ!」

行く先に悪魔の植物が立ちはだかった。

「ジェイド!私から、離れないで!」

「はいっ」

ユズはジェイドの背中に手をまわして、押すようにして走った。鞭のように、蔦は攻撃を繰り出してくる。表と避けると地面がえぐれるほどの威力だ。どう考えても殺しに来ている。ジェイドも剣を取って細いものなら薙ぎ払いながら進んだ。剣撃は植物には効くようだ。一時は切れてもまたすぐに再生して襲ってくるのだが。

悪魔、リリスは複数の中級悪魔を召喚した。ユズたちの方へ追いかけて来る者もいる。セドリックとラルフはそれらを軒並み排除した。

「さすが、バジリスクだな」

「鬼の若造分際が、話しかけるな。」

ラルフはどうやら鬼にも塩対応らしい。

「他のとこもそれなり妨害があるってことか。ナターシャ、愛しのアレクのところに行かなくてもいいか?」

「あら、あたしの愛しい人はあなただけだわ、セド。まあ、アレクも心配ではあるけど、あの子は強いから、大丈夫よ。武力面ではユズちゃんが一番心配。しかもジェイドもいるし。」

「二人で大丈夫だろ。」

二人にしてやりたい気持ちもある。もう、時間がきっとほとんどないのだ。


植物は20メートルほどあり、その植物の群れが、幾重にも行く先を阻んでいるようだった。縦横無尽に四方八方から蔦を振り下ろし、あるものはこちらを縛り上げようとしてくる。背中合わせになって、斬撃を繰り出しながら掻い潜っていくが、休む暇もない。目に汗が入って、ジェイドは片目をつぶれば、それが死角となって、足から一気につるし上げられた。すぐにユズが切って、対応する。

「は、ユズっ、」

ジェイドを助けたせいで、ユズは後ろから鋭い棘が飛んできて、それをもろに受けた。

この蔦の群棲の中じゃ、ノルンを出したら、的になってしまう。上に飛ぶにも、檻のように囲われていた。

「俺を盾にしてくれ、死んでも構わないから」

「できるか、バカなこと言うな」

「お前を失うわけには行かない」

ジェイドはユズの傷に魔法を宛てながら、言う。ユズは悔しかった。これがアレクシスやオニキスなら、ジェイドを犠牲になんてしないで切り抜けるはずだ。自分に力がないと言われているみたいで、悔しい。こんな植物ごときで苦戦している自分に腹が立つ。こんなところで立ち止まっていたら、ベリアルなんて言う悪魔に太刀打ちすらできないんじゃないか。ベリアルどころか、メリッサもクリストフだってきっと倒せない。

「バカにしないでよ・・・私だって、やれる。」

「ユズ、自棄になるな、お前が強いのは俺が一番知ってる」

『分析出来た、この植物、水に弱いわ。』

ノルンが剣の中から言う。

「植物なのに?」

ジェイドは術式を書いていく。その間ユズはもう蔦に登って、切り刻めるだけ切り刻んでいた。舞うように剣技を繰り出す彼女は綺麗だ。

放射水の魔法を使えば、蔦は嫌がるようにうねり、水を浴びたところから枯れていく。ノルンが呼び寄せた黒雲から土砂降りの雨が降る。植物はすべて、枯れていた。


もうすっかり夜が更けていた。ユズは息切れをして、ぺたんと地面に座った。

『きっと火を使っていれば、増殖してたでしょうね。』

脅威が去って、雨はだけど降りやまない。

「とりあえず、剣の中に行こう。」

ウラヌスの剣が光って、この部屋に来たのは久しぶりだった。ジェイドも擦り傷や切り傷、たくさん怪我をしていたけれど、傷はノルンの加護の影響なのか治っていく。それなら良かった・・・とユズは安心した。

「お前、先に風呂に行け」

「ジェイドが先に。私は今は少しも動けない。」

少し休めば、きっと動ける。ユズは床に座りっぱなしで膝に顔を埋めた。服や髪が魔法で乾いて行く。膝裏からひょいっと抱えられて、ユズはびっくりして顔をあげた。

「休むなら、ベッドでどうぞ。」

ジェイドはいつもより大人びた顔をして、ユズを部屋のベッドまで運んでくれた。彼も疲れ切ってるはずなのに、自分だけがわがままを言ったみたいで、情けない。今日は自己嫌悪に陥りやすい気がする。こんなのではダメだ、アレクシスの言う通り、自分は本当に精神面が幼くて、甘ったれている。

「今、飯の用意をするな、一応声はかけるが、疲れてたら起きたら食えばいいから。すまない、本当に・・・ゆっくり、休んでくれ。」

今は一人にしてくれるジェイドの気遣いが、嬉しいのか悲しいのか、ユズには分からない。布団をかぶれば、すぐに眠ってしまったようだった。


六時間ほど眠って、空腹で目覚める。そっと居間へ続くドアを開ければ、ジェイドはやっぱりベッドじゃなくてソファで眠っていた。剣を抱きしめて、少し眉を顰めて、あまり夢見心地は良くなさそうに。

ダイニングテーブルにユズの分の食事が用意されてある。こんな非常時なのにハンバーグを作ったのだろうか。付け合わせもスープも。すっかり冷めてしまっているけど、おいしくて泣けてきた。もっとしっかりしなくちゃいけない。今はジェイドには私だけなのだから。ジェイドを無事に王城まで連れて行く。進むのが怖い気持ちもある。でも行かなければならないのだ。しんどくてやめたい気持ちと、ジェイドを助けたい気持ちとが戦って、心がズタズタだ。それを打ち明けられる人もそばにいなくて、ボタボタとユズはにじむ視界を拭いもしないで、涙がブレンドされたスープを飲み干す。鼻水も、入ったかもしれない。

すっと、タオルが差し出された。

「・・・・」

顔をあげればラルフがいる。

「・・・え」

およそ彼らしくない行動にユズは戸惑った。

「みっともない顔を俺に見せるな」

「・・・セドと、ナターシャ・・・あの悪魔は、どうなった」

タオルを受け取るが、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔をユズはラルフに向けっぱなしだった。

「悪魔は零時に消えた。シンデレラマジック、というやつだ。」

「なんだそれ。王子様が迎えに来たの」

「ただの魔力切れだ。」

良く分からないが、人間の魂を食うなどの補給が必要らしい。あの悪魔と戦っていたのが聖獣と鬼なら、補給対象にはならない。

「魔力は前借ができるが、その代償で、零時に消える」

ならば、彼らはだいぶあの女の魔力を削ったのだな、とユズは理解した。同時にあの女の魔力の根源となっているベリアルの魔力もだいぶ削ったようだ。魔力の前借はそこから、ということなのだろう。

「ひとまず、休戦ってことか」

「お前は珍しく落ち込んでいるようだな」

「私が落ち込むと、お前は嬉しそうだな」

「女が泣いても俺は何一つ心は動かんが、お前が泣くのは少し気味が良い」

なんという悪趣味な聖獣だろう。ユズはラルフの性格の悪いのは知っていたが、だんだん腹が立ってきた。タオルを渡してくれたのが優しいななんて思ったのは撤回してくれる。

「割とよく泣くぞ、私は。」

「ジェイドには隠すのに?」

「ジェイドにも全然隠せてない。見て見ぬふりをしてくれているだけだろ」

「ふうん。」

「お前私なんかと口聞くと腐るって言ってたろ」

「言っただろう、セレスに似ているお前が泣くのが愉悦なのだ」

ユズはセレスのことは知らなかったが、その人は兄に生き写しというなら、オニキスを泣かせて愉悦に浸ってほしい。恥ずかしくなって、涙はひっこんだ。

「難しいことは考えるな、もともと回路が単細胞なのだから。」

「バカにしてんのか」

ラルフはやはりセレスと会話をしているような心地よさを感じた。これで男だったら完璧なのに、とユズに向かってため息をつく。ほとほと失礼な毒蛇の王である。

「・・・・もしかして、励ましてる?」

ひねくれた性格のラルフのことだから、ユズに余計なことを考えなくていいように、出てきてくれたのかもしれなかった。

「自惚れるな。とっととこの俺に茶を入れろ」

「いいけど、残すなよ」

ユズは青汁に近い色の茶を入れてやって、ラルフはだけど人間の味覚は関係ないのか、普通に飲んでいた。ユズは渋さを通り越して苦いので絶対に手を付けない。ユズもなかなか失礼を通り越して、無礼だった。


「ありがと、ラルフ。少し元気が出た」

「気持ち悪いことを言うな。さて、俺はジェイドの寝顔を一人で眺めたいから、お前は部屋に戻れ」

「お前が気持ち悪いわ、一人で眺めて何する気だよ」

「抜く」

ユズは普通に引いたが、すぐに興味がまさった。

「聖獣ってそういうのあるの?」

「バジリスクは女の聖獣なのだ。人間の男とはできる」

「あ、やっぱりBLだったのね、え、違う、ラルフは実は女ってこと?」

しかしラルフは女が嫌いなため男に扮して、もう二千年あまりだという。男の姿でも対象は男になるのだが、ラルフはあまり人自体に興味を持たなかったため、そういう行為ももう千年以上はしていないという。セカンドなんとかの次元が違いすぎてユズはぽかんと聞いていた。

「セレスのこと、好きだったんだ。ジェイドも好きなの?」

ラルフの性格上、どんな男もオッケーというわけではないことは、ユズは知っていた。

「セレスは俺のことは、弟ぐらいにしか思ってない。」

きっとそれ以上の感情には、お互いに蓋をしていたように思う。

「ラルフとガールズトークするとは思わんかった。きゅんきゅんする、あとジェイドは譲らない」

「・・・ジェイドはお前のものではない。俺は身体と魂が貰えればいいからな」

「魂だけだったろ、なんで身体もねらってんだよ」

「先が短いのに女も抱けないのは可哀そうだろ、だから俺が抱いてやろうと」

「・・・まあ、それなら百戦錬磨のプロの方にお任せしますわ」

ユズはあっさり土俵から降りた。ラルフが百戦錬磨とは言い難い気がするけれど。

「任せないでいただけますか!!お前ら朝っぱらからきわどい会話をしてるんじゃない!」

ジェイドがソファから体を起こして叫んだ。

「俺は女は嫌いだから女の身体になることはこの後も一生ない。ジェイドも後ろの方はまだ未「ラルフ!?その発言はアウト!!!」

ジェイドは飛んできてラルフの口を塞ぐ。ユズはきょとんとして、そしてなんだかドキドキしてきた。

「じゃあ、やっぱりBLじゃないか!ラルフが攻めで、ジェイドが受けってことでいい!?」

「良くねえわ!妄想を繰り広げるな!ラルフはユズの変なスイッチを入れるんじゃない!」

だけどユズはとっても元気になったような気がする。そういえばセレスもそういうネタが好きだった。

「冗談だ。俺は少し寝る」

ラルフは言いたいだけ言って、すっと消えた。なんというバジリスクだ、恐ろしすぎる。ジェイドは貞操の危機を本気で感じてバクバクと心臓が鳴る。


「ジェイドもお茶飲む?目が覚めるよ」

「もう覚めてる・・・ユズ、頼むから俺のすべてを守ってくれ」

ジェイドは若干顔が青い。ラルフの冗談が冗談に聞こえなかったらしい。

「仰せのままに、我が愛しの君」


騎士が姫に忠誠を尽くすように、ユズはジェイドの手の甲にキスを送った。




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