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ジュピタル王国英雄奇譚  作者: ヤー子
第六章 閑話ークリストフ四天王編

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ウィザードランド


「誘拐、された・・・・目の前から」

エルドラドはショックで震える。

「・・・試されてるのかしら。」

ジュリアナは冷静に足を組みなおす。

「開戦か、それとも様子見か」

アルベルトはにこにこ笑っていた。


「行先は!?」

エルドラドはジュリアナを振り返る。

「ウィザードランド。先を越されたのかしら。エル、落ち着きなさいよ。慌てたってどうにもならないわ。」

それは分かってはいるのだが、弟とユズが目の前から連れ攫われてしまった。しかも国の軍事の中枢を担う大魔法使いが三人もいるところからだ。

「あの鬼の仲間かな、命に係わる事態にはならないだろうな。」

アルベルトは根拠のない勘で話す。その勘は当たるのだが、エルドラドには理解はできない。鬼ということは、ユズの血を悪魔側に流した黒幕・・・という認識しかエルドラドにはない。敵か味方かで言ったら敵だろう。

「さあて、どうだろうね。アレクと俺が行くよ。エルとアンジェはここで待っててくれ。」

「・・・頼んだ。」


アルベルトは颯爽とパーティー会場まで行き、仏頂面で女性たちに食事やら飲み物を貢がれているアレクシスのところへ行った。

「あら、ぼく、ここは子どもは来ちゃダメなのよ」

アルベルトの容姿を知らない騎士の女性が声をかける。

「アレクシスお兄様に用事があって」

キラキラと容姿を最大限利用して、アルベルトは言った。アレクシスはその様子を見て鳥肌がたった。250歳にお兄様だなんて言われて、喜べるわけがない。アレクシスは一人っ子だ。

「どうした、アル。」

「ジェイドとユズが鬼に攫われた。すぐにウィザードランドに行く。着いたばかりなのに、忙しいな。あーあ、これじゃあ深夜の結婚式は中止じゃないか」

「深夜に誰が結婚するんだよ」

アレクシスは席から立ちあがって、アルベルトについて行く。

「おっとこれは秘密だった。忘れてくれ」

この大魔法使い、騙されやすいし、口も軽すぎるだろう。アレクシスはため息を吐く。


***


転移魔法のようで、これは霊力による転移の術、なのだろう。ジェイドは若干具合が悪くなりながら、どこかのダンスパーティーの会場のようなところに転移した。

「これをつけて。」

ナターシャはユズとジェイドに仮面を渡す。彼女も黒い蝶のような仮面をつけている。

「なんなんだ、説明を」

「ここは仮面舞踏会の会場。クリストフ五世の根城のようなところ。」

「いきなりか」

クリストフ五世はメリッサ側についた大魔法使いである、とユズは頭の中でおさらいをする。大魔法使いの中では唯一武力に長けている人だとも。

「なんでユズを?」

「セドのパートナーにしようと思ったの。」

「お前で良くない?」

「ちょっとあたしじゃ、胸が大きすぎるって言うから」

「ええ、その選ばれ方は解せないんだけど」

ユズは反抗した。寄せても上げてもナターシャの胸の大きさには敵わないけれど、胸の大きさでパートナーを決めるなんて酷いと思う。

「怒るところが違うくないか。」

「ユズちゃん久しぶり、元気そうだな、一曲踊ろう!」

普通にさわやかに仮面付きだがセドリックは登場した。タキシード姿が嫌味なくらい様になっている。

「ダンスは苦手だわ、セド、なんでそんなに普通に私に話しかけられるわけ?」

ユズは敵意のないセドリックを呆れたように見た。

「グリフォンの血は研究ごと回収しといた。それでちゃらってことで」

「・・・私は今日、ジェイドの国について、少しもゆっくりしてないのに、もう違うところに来ちゃったの」

ユズは事実に気づいて、呆然とした。

「あらそうなの、でも近々ウィザードランドを攻める予定って聞いてたわ、あたしたちの情報を流しましょうか?王弟殿下」

この鬼たちにまた交渉を持ちかけられている。信用はしない。利用するところだけを利用するだけだ。こっちからもいつでも切り捨てられるようなそんな関係性でなくてはならない。

「わかった、じゃあ踊ろうか、ナターシャ。」

ジェイドがナターシャの手を取った。ユズはいいな、と羨まし気に二人を見た。二人が行ってしまって、セドリックはユズの肩を叩く。

「ユズちゃんは料理でも食べながらお話ししよう。ここでは踊るか話すか、じゃないとすぐ声を掛けられるよ、仮面舞踏会は情報戦。悪い男も女もいて、個室もたくさんある。・・・クリストフに接触してみる気はないか?」

どうやらそれが本題のようだ。

「・・・私が?」

「そう、顔の割れていない女の子を探してた。大魔法使い相手だとナターシャが人間じゃないってわかっちまうんだよなー」

「仮面してたら、顔がどうとか関係なくない?」

「まあ、そこらへんの人間、操って・・・みたいなのも考えたけどさ。お札、くれる?」

セドリックにもとから備わっていて、回復できるもともとの霊力の量もそこらへんの妖とはケタ違いなのだが、やはり札はあればあるほど良いということだ。この札が厄介で、セドリックが盗んでも効果は発揮されない。人間の手から手渡しであることが重要なのだ。

「でも、荷物は置いてきたし」

「持ってきた」

セドリックはユズの旅カバンを掲げる。ナターシャがユズたちを誘拐している間に彼はそっちに侵入していたようだ。

「やだわ、セド、勝手にお部屋に入るなんて」

「俺たち今、恋人みたいな会話してるね」

「気持ち悪いね」

セドリックは純粋に嬉しい。ユズと会話をしていると、そういう気持ちになれる。この高揚感は千年ぶりと言ってもいい。自分はまさか、本当に彼女に恋でもしているのだろうか。

「セドは今、どういう立ち位置なの?」

「下級悪魔と契約は切った。だから魔法比べでとらえた魔法使いも用済みだから国へ帰してやったよ。」

魔法使いは悪魔との契約の媒体で、だから姿を消されたようだ。妖と他の生物との契約は心臓やら魂やらを差し出さない方法となると、何通りも段階があるようだ。

「悪魔を動かしている大魔法使いってやつを始末しないと、ベリアルまで辿り着けない。それでお前たちと再び利害が一致したわけだろ?」

「・・・・あの、ごめん・・・私は来たばかりでね、あんまり方針を知らなくて」

ユズはしょげたように眉尻を下げる。

「可愛い、抱きしめてもいい」

「いや、だめだろ」

「そこは即答なんだな。まあ、そういうことだよ。」

「だけど、誘拐なんてしたら角が立たないか?」

「俺はユズちゃんたちしか知らんからな、たぶん敵だと思われているし、別にそれで困ることはない。」

同じようなことをナターシャがジェイドに話しているのだろう。四人で額を合わせていても怪しまるし、ここは男女で対になっていたほうが自然だからだ。そういうのをユズはやっと理解したが、瞬時に分かるジェイドは脱帽する。

「じゃ、散歩でもするか。ユズちゃん踊れないんだろ」

「はい、すみません。もはや靴擦れがひどい」

会場でパンプスを脱ぐのはさすがに行儀が悪いから、とりあえず外に出て、ベンチに座って靴を脱ぐ。適当に布を当てて、セドリックが持ってきたブーツに履き替えた。

「そういうの、ジェイドが気づかないのも、珍しいな。ま、あいつも余裕はない、か」

今日、久しぶりに会って、ジェイドはジェイドだなとユズは思ったが、何かと一緒にいることは出来なかった。国ではジェイドは忙しいのだから、とアレクシスに言われていたことを実感する。

「ジェイドの時間はジェイドのもの。」

「言い聞かせてるみたいだな。」

「私の時間も私のものだ」

人間とは不便なものだな、と思う。時間は有限だし、考えすぎてすれ違っている。満月なのか、月明かりが明るい夜だ。ユズははっとして、剣を持って立ち上がる。

「どうした」

「あっちに人がいる。」

セドリックが注意を向けようとしたけど、ユズはもう飛び出して行ってしまう。はねっかえりは相変わらずか・・・とセドリックはゆっくり後を追った。庭は広くて、生け垣の高い薔薇の花が多く、迷路みたいだった。複数の銃士と複数の剣士が一人の男に迫っている。対峙している貴族は素手で丸腰の男を殴っていた。ユズはまず銃士を伸ばして、銃を蹴飛ばして、次に近くの剣士を絞め上げ、ぼかすか男を殴っている貴族の手を掴み上げた。

「な、何をするっ」

「こんな夜に暴力はよろしくなくってよ」

変なお嬢様言葉が出た。馬乗りになって殴られている男は珍しい青色の髪と青い目をしていて、殴られていなければ綺麗な顔なのだろう。貴族のほうは仮面をしている。ユズはぽいっと残っている剣士のほうに貴族の男を投げた。ええ・・・と助けられた男もその様子を茫然として眺めている。こんな華奢な女の子がどうして大の男を投げられるのか、理解しがたいことである。

「なんだ、貴様は!この方をどなたと心得る。ハインデリヒ卿お抱えの」

「暴漢が誰かだなんて興味ない。それに今日はそういう舞踏会でしょ?一曲、お手合わせ、いただけますか。」

兄に貰ったこの剣の切れ味も試したかった。美しいドレス姿でユズは剣を抜いた。剣士は一斉に切りかかってきた。大振りなので、峰で思い切り胴を討った。すごい悲鳴が聞こえて、たぶん折れた。死なないだけ良いだろう。顔を踏んで宙に飛び、上段から斬りかかる。剣も折れたし地面も割れる。

「まだ、やるか」

ユズが微笑めば、貴族とその他は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。雑魚だった。切れ味も何も試せていない。ユズは剣を月面に照らせば、刀身もキラキラと無数に白く輝いている。

「・・・っ」

「大丈夫か?酷い怪我だ」

ジェイドに来てもらわなきゃ、とユズは思った。

「良いものがある、万病治療薬」

セドリックが、金色に光る錠剤を掲げる。

「札と交換で、どうだ」

彼に人の心はない。ユズはカバンから札を一枚差し出し、薬と交換した。ボロボロの男に錠剤と水を差し出せば、男は警戒しているのか、首を振る。ユズはセドリックと顔を見合わせた。

「そういうこともある。ユズちゃんが飲めばどうだ、靴擦れが治るぞ」

「靴擦れごときで使う薬じゃない。取っておくわ。・・・大事なものだもの。」

これを開発するのに、人生を捧げた人間がいたのだ。改良がくわえられ、液体から錠剤になったらしい。

「・・・だ、誰なんだ、お前たち・・・俺を助ければ、ハインデリヒ卿に目を付けられるぞ。」

ハインデリヒが誰か知らないので、ユズはセドリックを見る。セドリックも首を振る。知らないらしい。ウィザードランドでは有名な人物、なのだろうか。

「クリストフ四天王の一角だ。」

クリストフは魔法武装兵団を従えていて、ハインデリヒ卿は将軍、のような位置づけ、なのだろうか。

「誰か存じませんが、あなたはどなたなんです?顔をさらしてるってことは名乗る意志があるんだろ?または外された、か。」

それも仮面舞踏会のルール、というやつなのだろうか。ユズにはよく分からないことだから、セドリックに任せる。

「俺を知らないってことは、このあたりの国のものじゃないのか。」

警戒心の強い男は、よそ者に名乗る気はない、とセドリックの手も跳ねのける。殴る蹴るをされて、体中痛そうだ。

「手当をしてやるから、脱げ」

「は?やめろ、触るな!大体女にっぬ、脱がされて、たまる・・・・か」

男の抵抗は空しく、てきぱきと服を剝かれていく。ワイシャツに血が滲んでいた。ユズは応急処置には慣れていた。グリフォンの騎士訓練所で習うからだ。今まで、ジェイドがいれば披露する機会がなかった。水で傷口を洗って、綺麗な布を当てて、包帯で巻く。それだけで、痛みは緩和される。

「下は脱がないなら、まくってもいい?折れてないかだけ確認させて」

上はもう着ていいよーとワイシャツを返した。複数打撲のあとは見られるが、折れてはなさそうだ。きっとさっきユズのあばらを折られた剣士のほうが重症である。カバンに入っていた包帯がなくなったので、髪を結んでいたリボンを取って代用した。アップにしていた髪がとれたくらいで、編み込みは生きているから、ハーフアップになっただけだ。

「打撲は冷やすしかない。」

ユズは手当が終わって立ち上がる。

「ドレス、汚れちゃったな、せっかく綺麗だったのに」

「綺麗なものは不相応ってことだ」

パンパンと汚れを払う。大雑把だな、とセドリックは笑った。妖術で何とかして、と強請ればいいのに。セドリックは妖の世界で揉まれているので、ユズのような欲のない人間は人間の中でも珍しいと肩をすくめる。


「ユズ、セド!?どこだ」

ジェイドが探しているようだ。セドリックが手を上げる。

「なんでこんなところに・・・あ、・・・あれ、ウィリアム・・・ウィル殿下?」

怪我だらけの男をジェイドは知っているようだった。ジェイドは仮面を外す。

「・・・ジェイド・・・?ウラヌスタリアの?」

「すごい怪我だ、今、治す!」

ジェイドはウラヌスの剣を翳して、治癒魔法を使う。ユズの応急処置は空しく、あっという間に怪我は治った。


セドリックはユズを伺うが、ユズは別段気にしていないようだった。できた人間である。

「ユズちゃんって、愛があれば結婚してくれるし、エッチもオッケーなんだっけ」

「その解釈は合っているようで、合っていないような気がするな」

ユズは眉間にしわを寄せて考えた。

「セド、ユズちゃんを口説かないでよね、あたしのユズちゃんだから!」

ナターシャがギュッとユズに抱き着いた。お胸が柔らかくて、幸せだ。


「ジェイド、なんでここにいる?」

「俺のほうこそ聞きたいよ・・・やはりアルテミシアは落ちた、ということなのか」

「話が見えない、お前が帰還したことも俺は知らなかった。俺は捕らえられていたんだ。このパーティーに乗じて逃げ出そうとして、このありさまだ。」

「ここに・・・捕らえられていた?クリストフ五世に?」

「ここはハインデリヒの館だ。クリストフにも繋がってはいるが・・・早く出た方が良い、さっきのは一部だ、今、大軍を率いて来るかもしれない」

ジェイドはハインデリヒが誰なのかは、さっきナターシャが教えてくれた。ナターシャはセドリックと違って真面目なので、ちゃんと情報収集をするのだ。

怪我が治って男、ウィリアム・アルテミシアは立ち上がる。

「なら、一旦掃けようか。」

パチン!とセドリックが指を鳴らせば、またどこかの古城の中なのか、知らない空間に移動した。

「ここ、今あたしたちの拠点にしてるの」

「愛の巣なの?」

「やだ、ユズちゃんったら!ユズちゃんは、あたしと同じ部屋ね!」

ナターシャは嬉しそうにはしゃいでいる。


「な・・・なんだ・・・て、転移したのか。転移魔術は一般魔法使いは使えない・・・だ、大魔法使いか?」

ウィリアムは、セドリックを怯えながら見た。

「魔法使いなんかと一緒にしてもらっても心外だけどな」

ウィリアムが名乗らないので、セドリックも名乗るつもりはないようだ。妖の基本はギブアンドテイクなのだ。セドリックは用心深いから、同じく用心深いウィリアムには親近感はある。

「いったん、整理させてくれないか。ウィル、紹介させてくれ。」

ジェイドはユズたちに向き合って、ウィリアムを紹介する。ウィリアムはアルテミシア王太子殿下だと言う。以前、アルテミシアから使者が来て、ジェイドは襲われた。そのあたりにはもう拉致されていた、ということだ。

「父もどこかへ捕らえられているはずだ。四天王の一角か、あるいはクリストフ本人か。」

「狙いはアルテミシアの弓兵団か?」

「おそらくな・・・ウラヌスタリアにつくつもりだったのだが・・・懐柔されてしまったのか。しかし俺や父が戻れば、アルテミスの心が兵団に戻るはずだ!ジェイド、幼い頃より友愛の誓いを反故にすることはないぞ!」


「アルテミシアって弓術がすごくてね。」

ナターシャがユズに説明してくれた。仮面をつけっぱなしのユズの仮面を外してくれる。

「へー、勝負したい。私も弓術はやったことがないから、やってみたい」

「ユズちゃんって、ほんと素敵だわ。あと、すっごく貞潔な国なのよ。結婚しても男女は肌を見せ合っちゃだめだし、夫も妻も配偶者以外とは絶対しちゃだめ。したら、死刑よ」

「え・・・レイプもアウト?」

「アウトね、その時点で自殺する価値観だから、暴漢もあまり出ないみたい。」

そんな国もあるのか・・・いろいろな価値観の国があるのだな、とユズはナターシャの話を聞いた。

「一途で重い国。それがアルテミシア」

「変な教え方をするんじゃない!」

ジェイドはナターシャを叱った。セドリックには縁の遠い国だ、と彼はそうそうに寝室のほうへ引き上げた。

妖たちは自分たちの知りたいことを知れればいいらしい。利益・不利益しか考えない。

「ウィル、この子はユズだ。俺の国を助けに来てくれた子でな、グリフォンの加護を持っている。」

「グリフォンの・・・ならば戦士ということだな、あの強さは頷ける。」

貞潔の騎士なのか、ユズとは目を合わせてくれない。目が合えば赤くなる。女慣れしていないのだろうか。忙しい男だ。

「で、こっちがナターシャ。詳しくは言えないが、情報には強い。」

ナターシャのほうはますます向かない。見てはいけないものだと思っているようだ。

「あの、男は?」

一番怪しい・・・とウィリアムは端正な青い目を細める。妖については、正体を勝手に言うことは出来ない。ナターシャについてもセドリックについてもだからふんわりとしか説明できない。

「セドリックは・・・まあ、魔法使いみたいなもんだ!あいつは俺も正直、敵か味方かは分からない、利益があればこっちにつく。」

単純に利益で動くのなら、彼を釣れる利益ならユズが持つ札が今のところは一番だろう。だからユズがいる限り、相当な裏切りをすることはないだろうとジェイドは踏んでいた。

「とりあえず、クリストフの根城を探して、転移ゲートを破壊する・・・それが俺たちの目的だ。」

ジェイドは簡潔に方針を述べた。セドリックの目的もそこにある。悪魔本体を叩くためにそれを囲う魔法使いを排除したいのだ。今のまま悪魔を責めたとて、再び復活するのは目に見えている。悪魔は魔力を糧にする。その糧を根こそぎ奪いつくす必要がある。その目的の遂行のためにナターシャはジェイドとユズを連れてきた。利害は一致している。

「なるほどな、ウラヌスタリアに閉じ込めて、捕縛するということだな。」

ウィリアムは頷いた。

「四天王の根城にはすべて転移できるはずだ。」

それは四つ、城を潰す必要があるということだろうか。

「本人の根城、はないのか」

「ない、四天王を渡り歩いている。ハインデリヒはあまり寵愛を受けてない。寵愛でいくと最下位だろう。一位がアナスタシア、二位がシャーロット、三位がサブリナ。三人が上の名前が通っているのに、ハインデリヒだけは姓だからな。」

「ちょーあいって何?」ユズは質問した。

「・・・俺も気になる。四天王って強いってことだろ、そのハインデリヒ含めて。」

「そういう意味じゃない。クリストフ五世は稀代の好色男だ。男も対象になる。番付で選ばれた上位四人が四天王。ハインデリヒは武力も相当な美男らしいが。」

実際には兜や鎧に覆われていて、ラインデリヒの素顔をウィリアムは見たことがない。

なんだ、そういう話題、行けるのかとユズはウィリアムを見た。目がばちっと合った。

「男も女もいけるってことなの?」

「な、ばっ!女がそういうことを明け透けに喋るんじゃない!!」

そして叱られる。なんだ、アレクシス系か。それともお国柄か。ユズは少し頬を膨らませて、口を閉じた。それが落ち込んだように見えたらしく、ウィリアムははっとしてジェイドを見た。

「あ、大丈夫だ、慣れてるから」

「な、慣れてる!?女はもっと貞淑であるべきだろ!?」

「まあまあ、東の方から来てるしさ・・・その国にはその国の良き風土があって」

「お前の国もたいがいだけどな!?」

「それ最近よく言われるけど、心外だわー」

ジェイドは緩く場の空気を濁す。

「じゃあ、今日はもう休みましょ、こっちにお部屋があるわ」

ナターシャが部屋を案内する。

「お前はもう少し布をまとえないのか!」

「良いじゃない、本当堅物殿下ね!普段見れないんでしょ、ほらほら見放題!」

「ナターシャ!やめてあげて!本当に!」

ジェイドはウィリアムを守るように間に入ってやった。


ナターシャはユズにも一人部屋を用意してくれる。ドレスを脱いで、ドレッサーに収納する。風呂をもらって、バスローブを着て、ベッドに寝転ぶ。踵の靴擦れがズキズキ痛むから、薬を塗って、カーゼを当てた。救急箱はなぜかユズの部屋にあった。セドリックが気を遣ってくれたのかもしれない。ユズは性格上、ジェイドに甘えることはない、と見破られているのだろう。そう思えば、可愛くない女ではあるよな、と少し胸が痛む。踵の外傷、そしてこの胸の痛み・・・痛みは生きている証だと父や兄が言っていたっけ。そんなことを考えて眠りにつく。


翌朝、髪を一つに結び、帷子を着てから、白いシャツを着た。緑のローブマントを羽織る。剣帯もつけられるし、この格好がユズは動きやすいし楽だった。戦わないならドレスでおしゃれしてお出かけも好きだ。マリカやヴィアンカと町へ買い物に行ったことがずいぶん遠い昔のように感じた。

まだ朝は早いこともあり、古城のリビングのようなところにはウィリアムしかいなかった。ウィリアムはユズを認めても、少し頬を染めて睨むだけで挨拶をしない。ユズも多少警戒心というものはあるので、会釈に留める。

コーヒーでも淹れてみようか・・・ユズは思いついて、道具の前に立った。

粉がある。これをそのままお湯に溶かすのだろうか、お湯とは、どうやって沸かすのだろうか・・・きょろきょろとあたりを見回して、コンロと薬缶がある。薬缶に水を入れて、コンロをポチポチいじれば火が付いた。

「わ、火だ」

「な、なにをやっているんだ、さっきから挙動不審に」

ウィリアムは見かねて声をかけた。

「あ・・・お湯を沸かそうと」

「湯も沸かせないのか。今時王族だって沸かせるぞ」

こっちの国の王族は、意外にも身の回りのことができるようだ。いざこういう事態があっても備えられるように教育されるらしい。

「へえ、こっちの王族って大変だね」

「お前は温い国で育ったようだな」

「こっちのほうが暖かいよ、うちの国は今は冬で、寒い」

ユズとは会話のキャッチボールが、うまくできない。嫌味を言ったのに。なぜかこっちが恥ずかしくなって、ウィリアムはごまかすことにした。

「湯を沸かして何をしたいのだ」

「コーヒーを飲みたいの。これにお湯を入れたらできるよね!」

ユズはマグカップにコーヒーの粉を入れている。これに湯を入れればできるのは出がらしが浮いた湯であって、コーヒーとは言わない。

「これは、インスタントじゃない、フィルターで漉すんだよ」

「ええ・・・」

ユズは首を傾げた。難しそうに眉根を寄せる。フィルターとは、この紙のことだろうか。どうりで置いてあるはずだ。これに粉を入れて、湯で漉すと言っても、手で持てないし、そのままマグカップに置いても重さで沈む。やれるだけやればいいのか。

「これにフィルターをセットして、粉を入れて、ここに湯を注いで、しばらく待てばここにたまる。これが、コーヒーメイカーだ。」

「え、すご」

「ジュピタルから来たと言ったな、お前の国の発明だろ」

「え、知らない」

「フェニックスから匿名の発案だったと記憶しているが。」

「・・・じゃあ、ブライアンだな!」

「知り合いか」

「うん、そうだよ、友達なの」

ユズは出来上がったコーヒーを崇めた。そして口を付ければ、香ばしい、いい香りがする。ブライアンを思い出せばちょっと泣きそうになった。一緒に作った三分半の奇跡の目玉焼きがまた食べたい。

「あのね、この薬、その子が発明したの!だから、怪しくはないんだよ!」

ユズは昨日セドリックがくれた錠剤が入った瓶を見せる。

「万病治療薬は噂には聞いたことはあるが・・・」

彼は立場上、口にできないものが多いのだろう。ユズとも昨日今日あったばかりで信用なんて程遠い。無理強いは良くない。ユズは言いたいことは飲み込んで、ドリップされていくコーヒーに目を移す。

「こっちを向かないで、そのまま聞いてくれないか。」

徐にそう声を掛けられて、ユズは振り返ろうとして止まった。そのまま、コーヒーを見つめる。

「昨日は、助かった。礼を言ってなかったと思って。」

それだけ言いたかったのだろうか。女性に耐性がなく過ごせば、緊張するのかな・・・ユズはあれこれ考える。

「ときに、16になったばかりだと聞いた。俺も今年で21になるのだ。」

「・・・ジェイドと同じ年?」

今年成人を迎えるということだろうか。ジェイドとは幼い頃より隣国の王族としての付き合いがあったという話をウィリアムはした。目を合わせなければ彼は饒舌に話した。

「婚約者は決まっているのか、成人になれば選ばなければならない。」

「王族はってこと?」

「ああ、そこは国によって違うのか」

ウィリアムは西の国の慣習しか理解していないようだ。

「私の国の王族は、成人とか待たないで決めてて、成人になったら結婚、みたいな感じ。たしかうちのロバート王太子殿下は10歳から婚約者がいた・・・」

その相手ミシェル公女はエルヴィンのお姉さんだ。

「私の姉も、14から婚約してるの、婚約者があと二年で成人だから、それを待って結婚するって」

「お前は?」

「うちの国は女は戦わない国でね、でも私はこんななりでしょ、母や姉は貴族と結婚させたかったみたいだけど、それにね、私は別に結婚ってあんまり考えてなくて・・・」

コーヒーができて、ユズはそれをマグカップに注いだ。ウィリアムにも差し出す。

「・・・どうやって生きていくんだろう・・・最近よく思う」

彼が死んだ後のことを、ユズは漠然と考える。ジェイドと離れて、アルベルトが冥界の話をしたあとからは本当に、それを考えない日はない。

「あんまり暗くなるとだめだね、気合入れなきゃ。ちょっと走って来るわ」

「は?」

コーヒーを飲み干して、頬を叩いた。

「殿下も行く?」

「行かん」

「殿下って意外と鍛えてるよね!腕がいい感じ」

昨日手当てしたとき、そう思ったので、ユズはそっと腕に触ってみれば、ビクゥ!っと大げさにウィリアムの身体が跳ねて、ユズから距離を取る。

「ささささ、触るな!破廉恥だぞ」

「私のも触るか?」

「あほか、女子がみだりに肌を見せるな!」

「はあい、じゃあ森に行ってきまーす」

聞き分けよくユズは部屋から出ていく。バクバクバクと心臓が飛び出て来るんじゃないかという心拍数で暴れていた。


「・・・も、森?」


少し落ち着いて、窓から外を見れば、うっそうとした森が広がっている。・・・こんなところに女一人で行っても良いものなのか、とウィリアムは目を見張る。あれを女とカテゴリするべきではないのかもしれない。

「ウィル、おはよう」

「ジェイド、あのグリフォンの娘、外へ行ったが」

「いつものことだ、心配ない」

「ほ、本当か?」

まだ付き合いが浅いと心配にはなるだろうが、彼女は自由にしてやることが良いことをジェイドは知っている。セドリックは怪しいが、ナターシャはユズを見守ってくれるはずだ。


朝食には帰ってきて、イノシシ型の魔獣を一頭、狩ってきていた。ウィリアムは頭の中の女の概念が変わっていくような、変な感覚を味わっていた。






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