メジタリベの呪い
朝、公爵邸で目覚めたジェイドは朝食をもらいにダイニングへ行くと、
「ジェイド君、ユズちゃんが走って遺跡に行くって朝5時くらいに出掛けて行ったんだが・・・起こした方が良かっただろうか??」
ジョージがはらはらとしてジェイドに語り掛けた。
「へ?・・・はあ・・・ユズはどこまでもユズだ・・・いえ、ジョージさんありがとうございます。好きにさせてあげましょう!」
かくしてユズは走っていた。馬車で三十分の道だが、走って、1時間、遺跡神殿へ到着していた。そのまま山を登ったら、ユズの言いつけを律儀に守っていたブライアンと鉢合わせた。
「おはようブライアン!偉いじゃない!」
「・・・フェニックスの涙が少し光っていました!だから、昨日と同じことしてみようと・・・」
「?昨日と同じにしたら、光るの?」
「ええ、だって、普段と違うことと言えば、外に出たことと運動したこと、だと思います。日課にして記録をつけてみます。特効薬ができても、次にいつ疫病がはやるとも限らない。万病薬はやはり作れるようにならなくてはいけません。」
ブライアンは自分のしていることをフェニックスにもやってもらっているのだろうか、ときょとんとブライアンを見つめたが、ブライアンもきょとんと分厚い眼鏡の奥からユズを見つめ返した。どこかユズに変な説明をしてしまっただろうか、フェニックスの涙に変化が出たことが嬉しすぎて、ブライアンは興奮していた。
「まあ、いいか、行こう!私は今日は何をしたらよいかな!」
「そう、ですね・・・今日こそ夜は妖精草を探しに行かなければ。満月の夜が一番効果が高いものが取れます。昼は・・・またどこかへ出かけたいところです・・・昨日の再現がいいのだろうか、それとも違うことをしてみようか・・・」
「なら、遊園地に行きたいわ、せっかくあるなら行きたいでしょ。観覧車に乗るのはどうかしら!」
ユズはトントンと軽妙にリズムまでつけて階段を下りていく。その様子にすごいと見とれながらついて行くと、ブライアンは階段を踏み外してバランスを崩した。
「あ!」
階段から足を踏み外したブライアンをユズはとっさに支えようとした。転げ落ちないように、ブライアン側に倒れるように抱き着く。どさっと、ブライアンは尻もちをついた。
「はあ、良かった!怪我はない?」
ユズはふう、と額をぬぐって、近距離でブライアンをうかがい見た。
ドキドキしていた。走ったからなのか、転びそうになったからなのか、彼女が近くていい匂いがするからなのか、ブライアンはいつもよく考えているような学術的な説明が頭からすっぽり抜けてしまっていて、パチクリとユズを見つめ返した。
「怪我がないなら立って。怪我したなら、また負んぶだよ」
昨日は感じなかった。あんなに彼女と密着してたのに、別に何にも。走らされて、息切れがしても走れって言われて、なんてひどい所業をさせるのだ、と。引きこもりに外に出ようというだけでも恐ろしいのに。だけど、いったん外へ出てしまえば、どうして自分はあの場所から出ようと思わずに17年間いられたのだろうか、ブライアンはユズに手を引かれながら、思考を飛ばした。とにかく、不完全な自分は、外に出るべきではないと、そう考えた。万病薬がなくなってしまってからはさらに不完全な自分を恥ずかしく、そして憎らしく思っていた。フェニックス信仰もこのままじゃ廃れてしまう。そして万病薬がないせいで死んでしまう人がいる。人が死に、周りは嘆き悲しみ、それを目の当たりにするのは恐ろしかったのだ。
「ブライアン、やっぱどっか痛めた?負んぶする?」
「・・・いえ、大丈夫です」
彼女の手をそっと握ってみる。ギュッと強く握り返される。こちらを振り返り、ニコッと笑った彼女の顔にまた心臓がギュンと跳ねた。
「ジェイド来るかな、朝ごはんまだなんだ」
「・・・俺は何も作れない」
「そんなの私もよ。あー・・・でもなんでも自分で作れるようにならないとダメなんだった。やってみようよ!」
ユズはこれでどこかの令嬢なのだと、そういえば言っていた。だけど彼女は走ったり、鍛えたり、おおよそ令嬢らしからぬことを好むようだ。
研究室に戻れば、やはり水がキラキラキラと輝いていた。運動が良いのだろうか、と興味深げにブライアンは記録をつけた。水をユズに飲んでみるように言えば、ユズは甘い・・・と言う。水以上のものにはなっている気がして、これで万病薬を調合してみよう、とブライアンは思い立ったが、ユズは目玉焼きを作ると意気込み、卵を一撃で粉々にしていた。これではいくつもの卵が犠牲になってしまう・・・ブライアンは自分の頭の引き出しから目玉焼きの情報を引っ張り出す。
「・・・ユズはバカ力なんだから、優しくを意識してみたらいいのでは」
生卵は繊細なのだ、丁重に扱うべきである。ブライアンも卵など割ったことはないが、コンコンと割れるか割れないかの力加減を試していく。データがあれば、あとは実践あるのみだ。パカリと卵はきれいに割れた。次に加熱時間だ。中火で2分から30秒刻みで5分までを試してみる。目玉焼きが十皿分も出来上がった。
「俺は3分30のものが好きですが、ユズの好みは?」
「これかな・・・」
ユズは4分の割と固くなったものが良いという。だけど味は卵の素材のものだけだ。ベーコンとか塩気のあるものを加えて、焼くのはどうかと提案され、また二皿新しくできた。
「俺は食べなくても平気ですが・・・」
「ちゃんと食べなよ、タンパク質はいい筋肉になるんだから!」
ブライアンのひょろひょろの身体はユズは片手でも持ち上げられると豪語していた。
主食も何もなく、目玉焼きだけの朝食である。
「包丁とかは使ったことはないんですか」
「ないよね、持たせてくれないっていうか・・・こないだは皿割っちゃって、片付けるのもダメって」
「お姫様みたいなんですね」
「それ言ったら、ジェイドは王弟殿下なんだよ、でもソロキャンが趣味なんだってさ」
「・・・ソロキャン」
その単語は初めて聞いた気がする。引きこもっているから流行語などには疎いブライアンである。一人でいろんなところに行って、サバイバルして暮らすこと、とユズは説明したが、ざっくばらんなので、的を射ていないような気もした。
「ねえ、今度はクッキー、作ってみたいな。」
「クッキーは小麦粉と卵とバターを分量通りに混ぜて、成型、所定の温度で焼く、の工程がありますね。比較的初心者には簡単な製菓です。・・・ユズは大雑把ですから、難しいと思いますが。」
「なら手伝って」
「俺は研究で忙しいです。」
しかし、彼女に一人でやらせていれば先ほどの卵のように犠牲が出るのは明白だ。
「ユズは、わがままですね」
一人でやれるようになりたいと言うくせに、すぐに手伝って、と見つめてくる。女という動物はそういうものなのだろうか。少し興味も出てきたが、ブライアンは首を振る。そんなことにかまけている場合ではない。あのキラキラした不死鳥の涙で万病治療薬を作るのだ。
「ユズ!妖精草と七色のアレキアが足りないです!あなたは採取係なんだから、アレキアを取ってきてください。荷車いっぱいです」
「でもでも、アレキアは分かるけど虹色になんかなるの?」
「ここら辺のアレキアは虹色ですよ。というか赤でも青でも七色取ってきてくれたら、七色になるので問題ありません。」
「あ、そういうこと?分かった、行ってくる。朝飯前ってやつだわ」
「朝飯は食べたので朝飯後になります」
「細かいこと言わないで。じゃあ、戻ってきたら遊園地ね!」
ユズは言いおいて、出かけて行った。今日は最初から動きやすい服を着ていたので、着替える必要はないようだった。ユズが出ていけば研究所はしんとした。そしてなぜか寂しくなった。ここ数日、ユズでもジェイドでも人のそばにいたからだろうか。以前はこれが普通で、なんなら加護を貰いに好き勝手わがままな願いを言いに神殿を訪れる人が煩わしくも感じていた。もし、ジェイドが難題をクリアして加護を貰ってしまったら、いなくなってしまう・・・。ポロっと涙が零れていた。こんなことは、初めてだった。
在庫でまた万病薬の実験をしていたら、ジェイドが来た。
「おはよ、ユズは?」
「アレキアを取りに。」
「忙しいやつだな・・・あいつ何か食った?」
お前も食え、とサンドイッチを渡される。
「兄貴から手紙が届いてな、メジタリベを疑えって」
ジェイドは図書館に寄ってきたのか、相応の資料を机に置く。
「・・・メジタリベは魔力がないと発症しません。ジュピタル国民は魔力がないので除外していました。しかも白く固まるのは心臓だけで、外面に変化があるような事例はないはずです」
「まあそうなんだけど・・・ここ数年で他国で流行ったとか聞いているか?」
ブライアンは頭の中の引き出しを整理した。
「・・・20年前にネプティーヌで流行しました。そのときは先代のフェニックスだったので、万病薬を融通して、完治。感謝された、と聞いています。」
ここフェニックス領はネプティーヌ、シティズンなどの途上国に面していて、難民の受け入れもその時々で行っている。
「最近は、万病薬がないので、怒っているようですが・・・」
ともすれば二国でドンパチやっているのを同盟を組んで攻めてきかねない状況にある。フェニックスで独占しているわけではなく、フェニックスでも死人が出ている。本当に万病薬が作れていないのだ。
「発症した女性たちの既往歴、手術の記録があれば知りたい。魔法治療があったかどうか」
魔法治療で、魔力が体内に残った、と言いたいのだろうか。その魔力にメジタリベが反応して、感染した。
「すぐに病院に行ってきます!」
病院には魔石がたくさんあって、医術に精通している魔法使いも働いている。ジュピタル内においても魔法治療は割と普通に行われている。研究所に併設されている大学病院はブライアンは自由に出入りができる場所である。研究所にこもっていなければ、病院に行ったり大学に行ったり。外には出ないが、別に苦労はしていなかった。カルテを見れば、発症した女性は無痛分娩のときに魔法治療を用いられているようだった。別の患者は前置胎盤で出血が多かったときに魔法治療されてる。
「・・・では、ジェーンは?」
ジェーンのカルテははたしてあった。マリエッタは妊娠29週で、ジェーンを早産、ジェーンは未熟児で誕生。その後魔法治療を行いながら保育器で育ったのだという。魔法治療が、共通点であるというのは間違いなさそうだった。ブライアンは発症したすべての女性のカルテを読んだ。ジェーンに当てはまるのなら、女性だけでなく、魔法治療を受けたすべての人間にそれは起こる可能性があった。
「ワクチンが必要・・・いや、メジタリベと決めるのは早計か?」
ブライアンはつぶやいた。メジタリベで全身白くなる理由を突き詰めなければ、先にすすむのは危険だ。人命がかかっているのだ。不安要素は消しておきたい。
「誰かいるの?」
カルテがブライアンの手から落ちた。息をひそめて、人がいなくなるのを待つ。ブライアンは引きこもって、なるべく人と話すのは避けて生きてきたので、今は必要があってジェイドやユズと接しているだけで、人は須らく苦手である。ユズはとくに特殊だ。あの子は普通の人間の枠を超えているような気がする。ブライアンを同じ人間の土俵に上げて接してくれるというか、そんな風にブライアンに接する人間はあまりいないのだ。
人をやり過ごして、ブライアンは研究室に戻った。
「すべての人に魔法治療が確認できました。」
「そうか・・・なら、メジタリベの治療薬を作ってみよう。ワクチンの取り寄せも可能なら
お願いしたい」
「・・・ジェイド、しかし「コントロール実験だよ。逆から攻めるのもありだろう。」
ジェイドの翡翠色の目に意志がこもっていた。ブライアンは一度頷いて、実験に必要なものをそろえていく。メジタリベ治療薬を作りには、材料がたりない。オオカミ草は満月の夜、今日取りに行くべきだし、薄荷オイルは町に調達に行って、タンザナイトの鉱石が必要だ。奥の洞窟にあっただろうか。材料がそろっても三日三晩寝ずに煮込んで、煙が青くなった瞬間にオイルを入れなければいけない難しい工程もある。
「ただいま!お出かけの準備はできた?」
ユズが虹色アレキアをこれでもかというくらい取ってきた。ちなみに泥だらけだ。その格好で出かけるべきではない、と言おうとして、ブライアンは別のことが口から出てきた。
「ユズ!大変です。薄荷オイルとタンザナイトを荷車いっぱいお願いします。あとは、今日の夜はオオカミ草も必要になりました!」
「うーん・・・?今日はお出かけしないのね。」
なんだか忙しいようだ。ジェイドはユズのほっぺを温かいタオルで拭いて、腕のかすり傷を治そうとした。
「待ってジェイド。ユズ、これを飲んでみて」
キラキラ光る水で作った万病薬をブライアンがユズに渡す。のどが渇いていたから一気飲みする。やはりこの間飲んだものよりまろやかな甘味を感じる。
「腕の傷に変化はないですね」
ブライアンの眉根が下がった。これは失敗のようだ。
「あー・・・でも痛みはなくなったようだよ」
「・・・甘くなり、痛みの軽減あり」
一応実験記録はつけて保管用の試験官に保存した。
***
アレクシスは、機会をうかがっていた。エリザベスのことである。女を袖にすることはあっても、そうされたことがないアレクシスは生まれて初めて、自分から相手を惚れさせに行く、という七面倒な賭けに出た。エリザベスはよく出かける。公爵邸から出ればアレクシスは彼女に声をかけることが可能だ。公爵邸においては彼女は公爵令嬢、自分は護衛騎士、身分上は声をかけることができないのだ。
「エリー、出かけるのか。今日はどこへ?」
「今日はフェニックスの神殿よ。誰も信仰しなくなっては可哀そうだからね。ユズとジェイド様もいるんでしょ、差し入れを持っていくの。あなたも来る?」
エリザベスはそう言って、馬車へ乗り込んだ。アレクシスは、ちらりとしか目も合わなかった彼女に頷いただけだった。おかしい、顔が通用しない。普通の子女はアレクシスから声をかけられれば頬を染めて、うつむいて、微笑んでくれる(※ユズには当てはまらない)。アレクシスは不思議に思いながら、自分はジャスティスに跨って馬車についていく。
神殿につけば、エリザベスは馬車を降りて、ドレスのままで舗装されている山道を上っていく。アレクシスはそういえば遺跡神殿へ行くのははじめてだった。馬は下につないで、エリザベスの後ろをついていった。エリザベスは振り向くでもなく、アレクシスに話しかけるでもなく、背をしゃんと伸ばして、慣れたように歩いて行く。
山頂にたどり着いて、石造りの見事が神殿があった。上に鳥の止まり木のようなものがある。
「あそこにフェニックスが止まって、このフェニックス領を眺めるそうよ、私は見たことがないけどね」
フェニックスが代替わりしてからは一度もないのだそうだ。それで、エリザベスぐらいの少年少女はフェニックスがいるだなんて迷信だとまで言い出すものもいる。
「なんで、おま・・・エリーは信じるんだ」
公爵令嬢にお前はだめだ、と直線で踏みとどまり、アレクシスは言い直した。
「さあ、信じてなんてないのかも。加護も効いてないし、しかもステラには変な能力だけあげちゃって。」
ステラには魅了の加護が渡ったらしい。そして彼女の性格が最悪なので、結局フェニックス家とはエリザベスとの婚約だけが破棄になって、ステラはもう違う恋をしているのだ。
「私は一度、見てみたいだけなの、せっかくフェニックス領にいるんだから。」
本や伝承でしか、見たことがない、深紅の不死鳥。万病を治すとされる涙、愛と平和の象徴。このままフェニックスが現れず、この地は聖獣の加護を外れ、廃れてしまうのだろうか。エリザベスはそこにいるべきフェニックスがいないのをじっと睨みつけ、神殿へ入っていった。フェニックスには、ジェーンの病気を治してください、とお決まりの願い事をする。ジェーンは小さいころから面倒を見てきたステラなんかよりよほど妹のような位置にいた。
「あなたも願えばいいわ。恋が叶うと言われているの。」
「・・・」
アレクシスは一番にユズを思い浮かべた。願うだけで恋が叶ったら、みんな願うだろう、とアレクシスは自分がグリフォンに何年も苦節を強いられてきたことを思い出した。願ってもらえるならこんなに苦労してない。
「エリーは叶わなかったんだろう」
「でもステラは叶った。勝負事は必ず白黒つくものだわ。」
勝者の裏には敗者がいるように。アレクシスは信仰はなかった。信じられるのは自分の強さだけだ。だからユズのことだって、そのうち自分で何とか決着を付けなければいけない。今はその時ではないと思う。エリザベスは神殿の中のエレベータのボタンを押す。上るくらいなら最初からこれで来ればいいのに、とアレクシスは拍子抜けした。ただ、エリザベスの中では行きは上り、帰りはエレベータというルーティーンがあるのだ。
エレベータは大学の施設の一階について、右側に行けば、出口。左側は研究所になっていて、ジェイドとユズはここにいるはず、と研究所のドアを開ける。
「はあい、ジェイド様。」
「ああ、エリーとアレク。一緒に来たのか?」
「ユズは?」
「ブライアンと、タンザナイト探しに行った。」
「誰ですの?」
「あれ?こないだジェーンのとこにも一緒に行っただろ、俺の助手」
「あの白衣のひょろいやつだろ?」
そう言っても、エリザベスは分からないらしい。そんな人いたかしら、と首をかしげる。ジェイドに差し入れだとクッキーを渡して、お茶を入れましょうね、とにこやかにそして手慣れたように茶を作り出した。
「お前、ユズをどこの馬の骨とも知らねえ男と二人にすんなよ」
「ユズは自由だ・・・俺には止められない。たぶんユズの好みなんじゃないかな、あの子あれでいて世話好きだろう?」
アレクシスは、ジェイドの言うことはちっとも分からない。ユズが世話好きだなんて初めて知った。どちらかと言えばジェイドが世話しているし、アレクシスだってそうだ。ユズはオパールが生まれるまで末っ子だったし、甘えることには慣れている。
「ブライアンは振り回されてるけど、見ていて微笑ましい」
ジェイドはそう言うが、ちょっと複雑そうな表情もしている。
「ジェイド様はユズのことが好きですの?」
「エリー、爆弾投下はやめてくれ」
アレクシスの目線が鋭くなるのはジェイドの心臓には悪い。
「あらいいじゃない、フェニックス領ではみんな恋をするものなのよ」
「・・・平和ですね、ほんと。」
ジェイドはメジタリベの呪いに関する書物を二、三冊広げ、エルドラドからの資料も基にレポートを作っている。最近ユズと過ごしていない、そろそろジェイドだってユズ不足になりそうだ。なんとかしたい、切実に。こっちの気も知らないで、他の男と遊び歩いて、いい感じになっているユズに文句も出そうになるが、ジェイドに彼女の行動を制限する権利はないのだ。今は加護をもらうことを達成する。それだけだ。昼を過ぎてもユズたちは戻ってこず、エリザベスは馬車で帰るというので、アレクシスは外まで送っていく。そしてアレクシスは当初の目的を思い出した。
「エリー、暇なら俺と出かけないか」
「・・・暇じゃないわ。じゃあね、護衛騎士さん」
エリザベスは、アレクシスの名前を呼ばない。そして本日もアレクシスは彼女に振られたのである。研究所に戻って、むっつりとジェイドの迎えの椅子に腰かけた。
「エリーはもしかしたら、女じゃないのかもしれない」
「・・・アレクはとうとう壊れたのか?」
「俺が誘っても乗らねえ女はユズぐらいだ」
「・・・ユズだって、お前がちゃんと目を見て手を握って、真心から誘えば来てくれるぞ、きっと。」
「気色悪いこと言うな」
それを気色悪いと言っているうちはまだまだ無理だ。エリザベスを誘って成功するのも難しいだろう。
「アレクにも難題ってあるんだな。一般的にはだぞ、普通文通からだよ。花を毎日送って、一週間ぐらい文通が続いたら、デートに誘う」
「まだるっこしいな」
「好きな子ができたら、労力をかけて取りに行くんだっての」
世間一般の男の常識である。こいつは一般的じゃなかったのだ。女に苦労なんてしなかったのだという羨ましい容貌を持っているのだ。歩くだけでファンクラブができるほどである。
「花ってタンポポとかシロツメクサでいいのか」
「良いわけあるか!」
しかも今は秋だ。タンポポもシロツメクサも咲いていない。ジェイドはやっぱり頭を押さえるのだった。




