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ジュピタル王国英雄記  作者: ヤー子
第三章 フェニックス辺境編

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オニキス外伝③


エルドラドの作り上げた地下都市は階下10階の大規模なものだ。十万人を収容できる大きさの空間魔法など、普通の魔法使いではまず無理である。エルドラドも一人では無理だ。この国の魔法騎士団の力や国民の魔力も借りて、なんとか作り上げ、作り上げたあとも少しでも暮らしやすいように整備をした。備蓄は2年持つように計算して、増やしたり、調達したりしなければならなかった。しかし一回外とのやり取り隔ててしまった後は調達は厳しい。魔術師協会に伝える間もなくカサブランカを避難させ、国民を避難させ、外からは絶対にこじ開けられない強固な保護魔法をかけ、避難生活は始まった。2年で、ジェイドが何らかの手掛かりを見つけてくれるはずである。自分は兄の代わりに今は残された国民の生活を守らねばならない。エルドラドは兄任せにしてきた治世の知識を総動員して、階ごとに自治体を設けた。

地下一階には魔法騎士団と平民騎士団をおいて、生活を脅かす脅威がもし迫ってきたときにいつでも対応できるようにした。正直、この一階がつぶれたら、もう終わりだということはエルドラドは理解していた。そうなったら国家心中である。嬲り殺しにされるくらいならば、自爆でもなんでもする覚悟だった。

魔術師協会では、2年エルドラドと連絡がとれない、ということはざらにあったので、コンタクトを取らないとアクションは起こすに起こせない状態だった。エルドラドは保護の魔法陣に尽力したかったので、無理に外部と連絡を取るのは避けたのだ。魔法の力が分散すれば、いつ悪魔が外からここへ侵入してくるかしれなかった。特に城の地下は恐ろしかった。物資を調達するためにそこに潜り込んだが、上部には禍々しい魔気が充満している。入口に封印魔法をかけてそれ以来出入りはしていない。


「なら、侵入するなら、その地下通路が手っ取り早いってことか」

地上を行くより地下通路があるなら、そこが突破口になるのだろう。オニキスはその地下通路が、この地下一階からつながっていると聞きだす。

「そうだね、ただ、封印はまだ解くつもりはない。私はもう少し情報を集めたいんだ」

「二年間鎖国状態だったもんな。俺も大して持ってきてはねえけど、魔術師協会とコンタクトは取れるようにはなったんだろ」

エルドラドは頷く。

「オニキス、言ったら驚くかもしれないが、悪魔の魔力がジュピタル王国のものである可能性が浮上してきた。」

聞いて、オニキスは絶句した。最初から、ジュピタル王国は無関係ではなかったということなのか。確かにグリフォンがそういうようなことを仄めかしてはいた。オニキスはこの国の惨状に自国が関わっているのなら、なんと詫びていいのかも分からない。オニキスごときの詫びなどもはや無力である。悪魔は王を殺して、国民3万人を犠牲にして、そしてジェイドを呪ったのだ。

「魔法大戦で封印が解けたのか、それを今調査してもらっている。あの封印術式は難解で、あれ以上強力なものは二度と作ることはできないだろう。」

オニキスはなんとかエルドラドの話を拾っていた。悪魔を封じるものなのだ、相当の力が必要である。それこそ同じものを作れと言われたら、今名を連ねる大魔法使いがすべての力を注ぎこんでも難しいと言えるほどである。

「・・・封印が、解ければ、どうなるんだ」

「まあ、解けているのだろうな、あれが出てきた、ジュピタルの魔素が消えた、外的要因から考えれば妥当な線だ。ただ、あれはこの国から動けていない、そして聖獣の加護を所望している。聖獣の加護を持って、最終的な封印を解く・・・のだろう」

エルドラドはそう見解を話す。

「聖獣は、悪魔の言うことなんて聞かないだろう」

「だからジェイドを呪ったんだろ、ジェイドに加護を集めさせ、最終的に兄だけではなく、ジェイドを乗っ取って聖獣を使役する」

「なら、お前の弟をここに来させるべきじゃない。弟が来る前に、悪魔を倒さなきゃならない!」

エルドラドは一度頷いた。悪魔が最愛の弟を殺す、そういう筋書きなんて、想像すらしたくはない。だけど冷静に考えなければいけない。

「加護で何ができるか・・・それは分からない。もしかしたら切り札になるのかもしれないし。それを信じたい、と言ったらバカみたいだな」

どこか泣き出しそうな王弟を、オニキスは見つめて、自分の無力さを痛感する。今、何ができるのか・・・彼の国のために自分は。


「エルドラド様、毒ガスについてですが!」

リンファがコツコツとブーツの音を響かせてやってくる。

「成分がこの地とは違う魔素でこの地の魔素が拒絶反応を起こしているようです。」

「・・・魔素が抵抗しているということか」

「そんなことありますか?」

リンファは目をぱちくりしている。

「魔素が帰りたがってるってことだ。それが悪魔を引き留めているのかもしれんな。」

魔法は奥が深く、オニキスにはエルドラドの言っていることは分からなかった。リンファはオニキスに握り飯を差し出した。夫を亡くしたという彼女はまだ22だと言っていた。ジュピタル王国の魔力があの悪魔を呼び出したのなら、自分は仇といっても過言ではないのだろうか。どうしてエルドラドも彼女も自分に態度も変えないで接するのだろうか。

「・・・憎く、ないのか・・・ジュピタル王国が」

「憎むべきは悪魔です。あなたの国も被害者でしょう。共同戦線、というところですね。」

リンファははっきり言った。

「悪魔を倒せば、毒も消える。」

「待つのか、ジェイドを」

「・・・いや、時間切れのようだ」

エルドラドは突如、空間魔法を展開した。三々五々に散っていた魔法騎士団が集結され、一同は地上、城の敷地、あのシールド内に転移した。シールドの中は空気が澄んでいる。

「オニキス、連れてきてしまったが、構わなかったか?」

「おう、俺はいつでも行けるぞ」

エルドラドはどこから出したのか長い棒で、太陽をモチーフにした飾りのついた杖を持っていた。エルドラドの前には魔法騎士団が数人彼を庇うようにあたりを警戒している。


『・・・お前がヘルメス四世か、質の良い魔力を持っている。他の魔法使いもなかなか美味そうじゃないか。』

「お前たち、あれはもはや王ではない。王の面をかぶっているが、惑わされてはいけない」

エルドラドは泣いていた。兄だったものと戦わなくてはいけない残酷さを味わうのは、自分だけで十分だとそれを拭う。魔法騎士団もフェイト王を偲びたかったが、時間はない。

『一人魔力なしがいるな、食ってもまずいだけだ、失せろ』

「お前がな、」

オニキスにためらいはなかった。悪魔に切りかかる。黒いシールドで斬撃を防ぐが、三回立て続けに切れば、そのシールドには皹が入って、四回目で壊れた。悪魔は驚いた、ただの魔力なしではない。この黒剣はただの剣ではない。振りかぶってからの一撃が早かった。スパンっと腕が切り落とされる。痛みを伴い、生え変わるまでに時間を要した。こいつの剣撃は受けてはいけない類のものだと解した。

『何者だ、お前』

「オニキス・グリフォンだ。ヘルメス四世を食いたかったら俺を倒せ」

グリフォンがもう来ている。殺したいほど憎い聖獣が。悪魔ベリアルは不気味に笑った。

『面白い、お前を贄にジュピタルの魔素を操ってくれるわ』

悪魔はフェイト王の体から黒い靄を出した。それはオニキスの手足にまとわりついて、動きを鈍くした。

(この靄は実体じゃないのか、)

『オニキス、来る』グリフォンの声が聞こえて、その靄が無数の槍になって飛んでくる。黒い剣を握る。行動を制限されても、その槍を剣で受け、往なすぐらいは動作もないことだ。フェイト王は消えていた。

「魔素を完ぺきには操れないようだな。」

エルドラドは一連を見て、そう言う。ドゴゴゴゴと地面が揺れた。呼び寄せて置いて、再びシールドから排除しようという動きを見せた。

「今、攻めるか」

悪魔が怯んで追い出そうとしているようにオニキスには見えた。今追撃すれば、少なからず勝機があるのではないか。

「深追いはしない、こちらも立て直そう」

エルドラドは首を振る。

この国は、今や彼を最高主導者として動かねばならないと、オニキスは理解していた。だけど慎重すぎやしないか。ジェイドが来て、彼を乗っ取られるシナリオを実際に再現なんてしたくもさせたくもない。兄を見て、あんなに辛そうなのに、一事が万事を考えれば、そのように慎重になるものだろうか。この規模の戦の経験がないオニキスは、何も力になれない歯がゆさに歯を食いしばる。

「大丈夫ですか、怪我はない?」

リンファがオニキスの頬に治癒魔法を当てた。

「切り込みたいのは分かるわ。でもエルドラド様にもお考えがあるはずよ。一番、被害の少ない道を模索しているんだわ」

彼女も剣を震わせて、王城を睨みつけていた。

「一番上に立つ者が一番考えなきゃいけないことなの」

オニキスとて、エルドラドの立場を理解していた。しているからこそ、勝手なことはできない。

「でも私は別よ。行きたいのなら行きましょう。あなたを援護します」

「は?」

「は?じゃないわよ、あの魔法陣に一回入って、私がいうタイミングで飛ぶのよ」

「え、ちょ、待て、お前、正気か?」

「ええ、エルドラド様を欺くのは得意なの。任せて頂戴」

リンファはウィンクする。

「やばくなったら帰れるわ。私が、一緒ならね」

彼女を危険に晒してしまう、その考えももちろんあった。でも目の前に王城がある。自分は戦える。これは、行けと、言うことか。

『オニキス、そのために来たんだろう』

グリフォンも言っている。リンファの声に魔法陣から飛び降りる。そして二人は城へ突入した。


空間魔法で地下都市に戻ってきた。

「エルドラド様、リンファが行きました。」

「行くだろうとは思ったが・・・」

リンファは死にたがっている。夫を追って死にたいのだ。自分が死んでもオニキスをここまで戻す魔法契約を残して。



王城の中は、荒れ果てていて、人の手入れなどまるで入っていない廃城である。ビリビリとした殺気に近い魔力の中に踏み込んでいるようだった。リンファは自身に防御魔法をかけているが、隣の男は素でこれに耐えているのだから恐ろしい。

ギョロリと目があって、それに認知されたら、あの血の雨が降り注ぐ。オニキスは目を目掛けて剣を投げれば直撃して、目が消えた。

「・・・あんた何者」

「悪魔と同じことを聞くな」

剣を拾って、階段を上っていく。どこに悪魔がいるのかもわからないが、王がいるというのはやっぱり王座なのだろうか。二階の広間の扉を開けると、見計らったように砲弾が飛んできて、オニキスはリンファの頭を抑えて屈んだ。

「私は大丈夫よ!庇ったりしないで!」

「死にてえのか!?」

砲弾を一刀にねじ伏せて、はじき返す。この男に魔法云々は通用しないと思った方が良いらしいことをリンファは理解した。リンファも大きな魔砲弾を繰り出して投げつけた。

魔獣が湧き出て、魔砲弾の魔力に飛びついて食い漁る。魔力切れ寸前なのだろうか。

「魔法使いは不利のようだな」


「・・・え、噓でしょ・・・」

リンファには何かが見えているらしい。オニキスは魔獣が群れをなしてこちらへやってくる光景が眼前にある。

「・・・ロンウェンがいる・・・」

その人物にオニキスは心当たりがない。しかし、彼女は幻覚をみているのか、ロンウェンと呟いた。怪我をしているわ、治さないと・・・と魔獣に駆けよろうとするのを、首根っこを捕まえて、みぞおちに一撃を加えて、気絶させた。女にする処置として適当ではないだろうと考える余裕はない。魔獣を剣で薙ぎ払い、仕留め、屠る。オニキスはグリフォンと舞うように広間の魔獣を殲滅した。リンファは痛む腹を抑えて、まだ幻覚を見ていた。オニキスが、夫を殺すところを見ていた。分かっている、夫はもう死んだのだ。彼はただ戦っているだけ。あれは敵であって夫ではない。頭では、分かっているのだ。リンファの背後に魔獣の手が伸びる。ズシャっとそれは切り伏せられていた。

「気をしっかり持て、心を食われるぞ!」

「死にたいのよ」

「・・・」

それは彼女の本音なのだろう。

「別に止めねえが、足手まといではある」

オニキスは泣いている彼女を慰める気は毛頭なかった。はっきりと言われ、リンファは自分を恥じた。彼は戦いにこの場に来ているのだ。死にに、来ているわけではない。

「ひっどい男。だから独身なのね」

「まあ、気楽な身ではあるな。立てねえなら置いて行くぞ」

「・・・戻るわよ」

「はあ!?これからだろうが、俺はまだ行ける」

「魔法が効かないの、これはエルドラド様に報告しないといけないことだわ!!」


リンファはオニキスの手を掴み、空間魔法を展開した。そして地下都市に戻った。


「おお戻ったか、無事でよかった」

エルドラドは単独行動を大して咎めるでもなく、寛容だった。良いのか?とオニキスは思ったが、リンファの単独行動はもはや許容されているようだった。城の中は魔獣の巣窟であること、魔獣自体も魔力切れなのか、魔力を欲していること、魔法は魔力ととらえられ、食われることを報告する。

「魔法使いは餌食になる可能性が高いです」

「ならば戦力が足りない。物理が欲しいな、オニキス」

「・・・現状、ジェイドと行動を共にしているアレクシスと、グリフォン家からはユズが来る。うちの兵士たちを呼び寄せたとしてもここまで・・・いや、転移が使えるなら俺の第三騎士団を動かしてもいい。」

「・・・転移は使える。ここの魔法使い総動員しても、消費が激しく、ジュピタルの騎士団単位の転移は往路だけの一回限りだが。来るべき時に備えて、使いたいところだ。今戦力としてお前だけに頼ることになる。」

「襲撃に備えよう。お前や魔法騎士団は食われないようにしてくれ」

エルドラドはすまない、と頭を下げた。そしてありがとうという。オニキスは何に対しての礼なのかは分からなかった。

「物理は得意なんだ。なんなら剣なしでも結構いけるぞ」

「頼もしいな。・・・」


地下都市を本部として、魔法騎士団は情報収集、オニキスは襲撃に備える日々を過ごしていた。そんな折にジェイドから手紙が届く。彼らは南の辺境に入ったらしい。


『エルドラド王弟殿下   ジェイド

 前略、ドラゴンから無事加護を貰い、フェニックス領に到着。フェニックスの加護をもらうために難題を授かりました。難題は、固死の病の特効薬を作ることです。固死の病は女性に発症し、四肢から固まり、心臓まで止めてしまう魔法病の一種と見受けられます。患者を見たところ石のように固く、固まった場所は白くなります。前に兄貴の髪が白くなる理由を聞いた時と同じように思いました。そのような魔法病はあるのか知りたく、お手紙差し上げました。寒くなってきたのでお身体にお気を付けください。お返事お待ちしております。』


「ユズのことは?」

「今回は書いてないな」

「気の利かないやつだな。」

オニキスは不貞腐れた。妹からの手紙がほしいようだ、とエルドラドは察した。その病は女性に発症し、色素を奪い、石のように硬直させるものだ。魔法図書に呪いを集めたものがあり、その呪いの中でこれが適当だろうと思う1ページをコピーした。



『ジェイド  エルドラドより

 手紙をありがとう。ジェイドは元気だろうか。私の命は無事です。オニキスもとても頑張ってくれています。城へ行く機会があり、どうやら魔法は食い物にされてしまい、私は無力。今は戦力の強化を図るため、各国に協力を仰いでいます。

固死の病はメジタリベの呪いを患っているのかもしれない。私の知っている事例では全身白く固まる事例はなかったが、色が白くなり、固まるという要素はメジタリベを疑ってしかるべきと考える。メジタリベは魔法病で空気感染する。感染するとメジタリベ由来の毒素が注がれその耐性のない人は心臓が白くなり固まって死に至る。魔法を使う国ではワクチン接種を推奨する病気で、お前も小さいころに接種済みである。罹る人の特徴もまた、生まれつき魔力を持っているか、あるいは魔力を有したかに限定される。ジュピタルは魔素を奪われ、今はもうほとんど枯渇しているから、ほとんどの人は罹らない病気だ。魔力を有する条件とすれば、出産などの際に魔法を使った治療を行ったということが考えられる。解決法としての魔法薬の作り方を同封します。参考の一助となれば幸いです。

PSオニキスに、ユズさんから手紙を送ってほしい。きっと元気が出るだろうから』


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