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異世界焼肉  作者: 天坂 透真


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42/48

【第42話】「平穏な一日、異世界焼肉の賑わい」

第42話を更新しました。

今回は大きな事件もなく、久々の“日常回”。

激しい嵐や危機の後だからこそ、平凡な毎日がどれほど尊く、心を和ませるものなのかを描きたかった回です。


市場の人々の笑顔、お母さんとあーちゃんとルミの掛け合い、そしてポムの小さな活躍――。

小さな積み重ねが、何よりの幸せを形づくっていきます。


ぜひ肩の力を抜いて読んでみてください。


朝。

薄い光が差し込み、私はいつものように布団の中で目を覚ます。

体を小さく丸めてルミの布団に潜り込み、その顔をじっと見つめていた。


成人した女性であるルミに抱き寄せられると、胸の奥に懐かしいものが蘇る。

かつてフェンリルとして生きていた記憶があるからだろうか。

人の温もりを、私はずっと遠い昔から知っている気がした。


「ポム、もう朝だよ」

ルミが眠そうに笑いながら私を撫でる。

……ワン。

言葉では返せないが、それで十分だ。


隣の布団から伸びる手に移ると、あーちゃんが目をこすりながら「ふあぁ」と声を漏らした。

彼女に抱かれると、ふわっと優しい匂いがした。


そして、廊下のほうから聞こえてきた声。

「起きなさいよー」

お母さんだ。


以前のお母さんなら私を見て驚いたり怯えたりしたかもしれない。

けれど、もう違う。

あのコーチンの騒動を共に乗り越えた後から、お母さんは私を真正面から受け入れてくれるようになった。

「おはよう、ポム」

その声は自然で、柔らかい。


私は尻尾を振りながら、心の中で小さく誓った。

――必ず、この日常を守ってみせる。


⸻


◆ 市場の仕入れ


この日はルミが市場へ仕入れに行く日だった。

私は当然のように玄関で待機し、護衛として同行する。


最初に立ち寄ったのは八百屋のターザン。

「おうルミちゃん! 今日は“黄金山芋”が入っとるぞ!」

「えっ、山芋!? それならキムチにぴったりだね!」


ターザンは分厚い胸板を揺らして笑うと、私に力こぶを見せる。

「どうだポム、筋肉は裏切らんぞ!」

「ワンッ!」

吠えて飛び上がると、ターザンは大げさに転がって「ぐわー!」と叫ぶ。


通りの人々が笑い、ルミも楽しそうに笑っていた。

こんなふうに人と笑い合う光景は、私にとっても宝物だった。


次に訪れたのは肉屋のコージー。

「おぉ、ポム! 今日も来たか!」

彼は私に干し肉を差し出し、ついでにルミにサービスの肉を手渡した。

「尻尾、元気だなぁ。いい犬だ」

私は得意げに胸を張る。


……こうして、今日も仕入れは順調に進んだ。


⸻


◆ キムチと腸詰


店に戻ると、ルミは山芋のキムチの仕込みに取りかかる。

「今日は山芋キムチにしよう。シャキシャキして美味しいはず」

塩でもんだ山芋に唐辛子を絡め、丁寧に漬け込んでいく。


その横でお母さんは腸詰の仕込みをしていた。

挽いた肉に香辛料を混ぜ合わせ、細長い腸に詰めていく。

手際の良さに私は感心するばかりだった。

「お母さんって、本当にすごいな」

ルミが思わずつぶやくと、お母さんは笑って「まだまだ修行中だよ」と返した。


夕方にはあーちゃんも戻り、七輪に炭を入れて暖簾をかける。

「異世界焼肉、本日もオープンです!」


⸻


◆ 賑わう夜


最初にやってきたのは、やっぱりえーさんだった。

腸詰を見て目を輝かせる。

「おぉ、これは! 大好物なんだよ」

エールを片手に、嬉しそうに頬張るえーさん。


「なんか真剣な顔してるけど、なに考えてるんだい?」とあーちゃんが聞くと、

えーさんはふっと笑って首を振った。

「さぁね。ただ……いよいよ始まったかな」

誰にともなく呟いた声は、誰にも拾われなかった。


店はその後も大賑わい。

常連たちはドワーフ腹になるまで食べ飲み、笑い声が絶えなかった。


閉店後。

片付けが終わると、お母さんが自然に私へ干し肉を差し出した。

「今日もよく頑張ったね、ポム」

私は尻尾を振りながらそれを受け取り、静かに頬張った。


この平凡な一日こそ、守りたい日常。

私は心に固く誓いながら目を閉じた。


「異世界焼肉、本日もクローズです」


第42話「平穏な一日、異世界焼肉の賑わい」お読みいただきありがとうございました。


嵐のような出来事の後に訪れる、なんでもない一日。

実はその中にこそ、物語の核心へと繋がる伏線が隠されているかもしれません。


えーさんの呟いた一言、そしてポムの決意。

穏やかさの裏に漂う小さな緊張を、どうぞ感じ取っていただけたら嬉しいです。


次回もぜひ、お楽しみに!


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