【第42話】「平穏な一日、異世界焼肉の賑わい」
第42話を更新しました。
今回は大きな事件もなく、久々の“日常回”。
激しい嵐や危機の後だからこそ、平凡な毎日がどれほど尊く、心を和ませるものなのかを描きたかった回です。
市場の人々の笑顔、お母さんとあーちゃんとルミの掛け合い、そしてポムの小さな活躍――。
小さな積み重ねが、何よりの幸せを形づくっていきます。
ぜひ肩の力を抜いて読んでみてください。
朝。
薄い光が差し込み、私はいつものように布団の中で目を覚ます。
体を小さく丸めてルミの布団に潜り込み、その顔をじっと見つめていた。
成人した女性であるルミに抱き寄せられると、胸の奥に懐かしいものが蘇る。
かつてフェンリルとして生きていた記憶があるからだろうか。
人の温もりを、私はずっと遠い昔から知っている気がした。
「ポム、もう朝だよ」
ルミが眠そうに笑いながら私を撫でる。
……ワン。
言葉では返せないが、それで十分だ。
隣の布団から伸びる手に移ると、あーちゃんが目をこすりながら「ふあぁ」と声を漏らした。
彼女に抱かれると、ふわっと優しい匂いがした。
そして、廊下のほうから聞こえてきた声。
「起きなさいよー」
お母さんだ。
以前のお母さんなら私を見て驚いたり怯えたりしたかもしれない。
けれど、もう違う。
あのコーチンの騒動を共に乗り越えた後から、お母さんは私を真正面から受け入れてくれるようになった。
「おはよう、ポム」
その声は自然で、柔らかい。
私は尻尾を振りながら、心の中で小さく誓った。
――必ず、この日常を守ってみせる。
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◆ 市場の仕入れ
この日はルミが市場へ仕入れに行く日だった。
私は当然のように玄関で待機し、護衛として同行する。
最初に立ち寄ったのは八百屋のターザン。
「おうルミちゃん! 今日は“黄金山芋”が入っとるぞ!」
「えっ、山芋!? それならキムチにぴったりだね!」
ターザンは分厚い胸板を揺らして笑うと、私に力こぶを見せる。
「どうだポム、筋肉は裏切らんぞ!」
「ワンッ!」
吠えて飛び上がると、ターザンは大げさに転がって「ぐわー!」と叫ぶ。
通りの人々が笑い、ルミも楽しそうに笑っていた。
こんなふうに人と笑い合う光景は、私にとっても宝物だった。
次に訪れたのは肉屋のコージー。
「おぉ、ポム! 今日も来たか!」
彼は私に干し肉を差し出し、ついでにルミにサービスの肉を手渡した。
「尻尾、元気だなぁ。いい犬だ」
私は得意げに胸を張る。
……こうして、今日も仕入れは順調に進んだ。
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◆ キムチと腸詰
店に戻ると、ルミは山芋のキムチの仕込みに取りかかる。
「今日は山芋キムチにしよう。シャキシャキして美味しいはず」
塩でもんだ山芋に唐辛子を絡め、丁寧に漬け込んでいく。
その横でお母さんは腸詰の仕込みをしていた。
挽いた肉に香辛料を混ぜ合わせ、細長い腸に詰めていく。
手際の良さに私は感心するばかりだった。
「お母さんって、本当にすごいな」
ルミが思わずつぶやくと、お母さんは笑って「まだまだ修行中だよ」と返した。
夕方にはあーちゃんも戻り、七輪に炭を入れて暖簾をかける。
「異世界焼肉、本日もオープンです!」
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◆ 賑わう夜
最初にやってきたのは、やっぱりえーさんだった。
腸詰を見て目を輝かせる。
「おぉ、これは! 大好物なんだよ」
エールを片手に、嬉しそうに頬張るえーさん。
「なんか真剣な顔してるけど、なに考えてるんだい?」とあーちゃんが聞くと、
えーさんはふっと笑って首を振った。
「さぁね。ただ……いよいよ始まったかな」
誰にともなく呟いた声は、誰にも拾われなかった。
店はその後も大賑わい。
常連たちはドワーフ腹になるまで食べ飲み、笑い声が絶えなかった。
閉店後。
片付けが終わると、お母さんが自然に私へ干し肉を差し出した。
「今日もよく頑張ったね、ポム」
私は尻尾を振りながらそれを受け取り、静かに頬張った。
この平凡な一日こそ、守りたい日常。
私は心に固く誓いながら目を閉じた。
「異世界焼肉、本日もクローズです」
第42話「平穏な一日、異世界焼肉の賑わい」お読みいただきありがとうございました。
嵐のような出来事の後に訪れる、なんでもない一日。
実はその中にこそ、物語の核心へと繋がる伏線が隠されているかもしれません。
えーさんの呟いた一言、そしてポムの決意。
穏やかさの裏に漂う小さな緊張を、どうぞ感じ取っていただけたら嬉しいです。
次回もぜひ、お楽しみに!




